目撃
第四章
千菜美のパート勤めは、予想外に上手くいってるようだ。
元々頭がいいので、レジ打ちなどもすぐに覚えたらしい。
「でも、なんか困ってることない?」
私は千菜美にそう尋ねた。
「うーん、特にないけど・・三原さんがちょっとうるさくて・・」
「ああ~~三原のババアか」
「うん」
「あのババアはいつもああなんだよ。適当にあしらって「はいはい」言ってればいいよ」
「うん・・」
「でも、あまりうるさかったら、「うるせえよ、ババア」って言ってやればいいよ。あはは」
「ええーー、そんなこと言えないよ」
「いいってば。そう言えば黙るからさ」
「ええ~~・・」
千菜美は言えないだろうな・・
「それより、お母さん。学校はどうなの?」
「ああ、それな。今んとこ、うまくやってるよ」
「でも、まだ虐められてるんでしょ・・」
「まあね。でもそれは、わざとそうしてるだけだから」
「そっか・・」
「それよりさ、今度は麻紀が虐められそうになってるんだよ」
「ええっ!」
私は、事の経緯を千菜美に話した。
「お母さん・・そんなことして。。もし元に戻った時、私、どうすればいいの?」
「うーん。それは・・」
「私のために色々やってくれるのはいいけど、後のことも考えてね・・」
「それはそうだけどさぁ。でも、千菜美・・いつかは自分で何とかしないといけない時が来るんだよ」
「そりゃそうだけど・・」
「大学行っても、社会人になっても、煩わしいことは着いて回るんだよ」
「うん・・」
「少しずつでいいから、自分の気持ちをはっきり言うべき時は言えるようにしようね」
「・・・・」
まあなんと、頼りないこと。
でも、これからだ。
しっかり頑張れ、千菜美。
次の日、教室でのこと。
やはり予想通り、麻紀は一人で居た。
クソだな、あいつら。
「ねえ・・麻紀ちゃん一人でいるけど・・」
菜々絵がそう声をかけて来た。
「だね」
「今度は麻紀ちゃんが虐められるのかな・・」
「多分ね」
「でも、これで千菜美ちゃんが虐められなくなるかも知れないね・・」
「こら。菜々絵ちゃん」
「え・・」
「自分が虐められなくなったからって、それでいいわけないじゃん」
「う・・うん・・そうだね・・」
「ちょっと待ってて」
私は菜々絵にそう言って、麻紀のところへ行った。
「よう、麻紀ちゃん」
「ひっ・・・」
驚いた麻紀は、私を避けて横を向いた。
「別に脅かしに来たんじゃないよ」
「え・・・」
「あんたさ、ハブられてるだろ」
「・・・・」
「落ち込むなよ。私たちと一緒にいればいいよ」
「でも・・そんなことをしたら・・」
「なんだよ」
「私・・ずっと虐められる・・」
「大丈夫だって。気にすることないよ」
「え・・でも・・」
かなり落ち込んでるな。麻紀は。
そりゃそうだな。
元々、気の小さいやつだから、ハブられたりしたら、どうしていいかわかんねぇよな。
「いいから。私たちと一緒に居な」
「で・・・でも・・いいの?」
「なにが」
「私・・千菜美にあんな酷いことしたのに・・」
「いいって。気にしてねぇよ」
「そうなんだ・・・ごめん・・」
私は麻紀を引っ張って、菜々絵のところへ連れて行った。
「菜々絵ちゃん、今日から麻紀も友達だからね」
「えっ・・・」
「なんだよ。いいじゃんか」
「うん・・」
以前、虐められていた相手だからなのか、菜々絵は少し引いていた。
「もう過去のことは忘れようぜ、菜々絵」
「う・・うん・・」
「菜々絵ちゃん・・ごめんね・・」
麻紀は菜々絵に頭を下げて詫びた。
「うん・・いいよ、麻紀ちゃん」
「ごめん・・ありがとう・・」
「よしっ!これでいいな。二人とも」
私たちが話しているところに、あの三人が入って来た。
三人は私たちを睨みつけていた。
「に・・・睨んでる・・」
麻紀は怯えながらそう言った。
「はははっ。睨みたいやつは勝手に睨ませときゃいいよ」
「それにしても・・千菜美はいつからそんなに強くなったの・・?」
「うーん。私もさ、いつまでも縮こまってちゃダメだと思ってね」
「そうなんだ・・」
麻紀だけじゃなく、菜々絵も、改めて驚いた表情で私を見ていた。
昼休みになり、麻紀は美冴たちに呼び出され、どこかへ連れて行かれた。
おそらく体育倉庫だろう。
私は急いで職員室へ行った。
「高峰先生!」
「なんだ、どうした秋川」
「ちょっと来てください」
私は高峰を連れて、体育倉庫へ向かった。
「先生、この中で虐めが行われています」
「ええっ!まさか、そんな・・」
「その目で確かめて下さい」
私は倉庫を開けた。
するとそこには麻紀を囲んで三人が、蹴りを入れていた。
「お前たち、何をやってるんだ!」
驚いた高峰は、そう怒鳴った。
よし、虐めの現場を見たんだ。これで表面化する。
「先生・・」
そう言って美冴たちは固まっていた。
「何をやってるんだ」
「別に・・・」
少しの間、沈黙が流れた。
「いいか・・・このことは誰にも言うな」
えっ。。。今、なんて言った・・・??
おい、高峰、マジかよ。
「先生!誰にも言うなって、どういうことですか!」
私は、あまりのことに、そう叫んだ。
「このことは、先生がちゃんと対処するから、誰にも言うな」
「はあ??先生、マジで言ってるんですか!」
「黙れ、秋川」
高峰がそう言ったことで、美冴たちはほくそ笑んでいた。
「ちょっと待てよ!てめぇそれでも先公かよ!」
「なんだ!その口の利き方は!」
「うるせえ!このクソがっ!!」
私はブチ切れてしまった。
その姿を見た美冴たちは、唖然としていた。
「おい、美冴。てめぇらもふっざけんなよ!!」
「なっ・・・なんだよ!」
美冴がそう答えた。
「ああっ??てめぇら、何が気に入らないのか知らねぇが、虐めなんてやってんじゃねぇーよ!」
「うるせーー!」
「クソガキがっ!一人では何もできねぇ卑怯もんがっ!」
「やめろ!」
高峰が割って入った。
「うるせぇ、高峰!てめぇなんか先公でもなんでもねぇ!とっとと辞めちまえ!」
「なんだとっ!!」
「くそっ・・おい、麻紀、こっち来い」
「う・・うん・・」
私は麻紀を連れて教室へ戻った。
なっんだよ、あの先公。
それにしても、なんで黙ってろなんて言うんだろう。
表面化すると、マズいことがあるとしか思えないな。
「大丈夫かな・・・」
麻紀が不安そうにそう言った。
「なにがだ」
「千菜美、高峰に目をつけられちゃったんじゃない・・?」
「ふんっ。そんなのどうってことねぇ」
「どうなったの・・?」
菜々絵が戸惑いながら、そう言ってきた。
「虐めの現場を見たってのに、高峰の野郎、誰にも言うなって言ったんだよ」
「ええ・・・そんな・・」
「許せねぇ・・私は絶対にこのままにしておかないぞ」
「大丈夫・・?」
「お前らもさ、もっと怒れよ」
「でも・・・」
「でもも、くそもねぇ!!」
そう叫んだ私を、クラス中のやつらが見た。
なに他人事みたいに見てんだよ。お前らだって同罪なんだからな。
しかし・・この学校は腐ってる。
先生たちに問題ありなのは間違いない。
第四章END




