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お母さんは女子高生  作者: たらふく
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親と子

        第二十五章



緒呂納の母親は、高峰の話に聞く耳を持たず、ただ「佐介がかわいそう」を繰り返す始末だった。


「では、はっきり申し上げますが、佐介くんは虐めをやってた側なんですよ、お母さん」


森比呂先生が、そう話した。


「なんですって!まさか・・」

「まさかと思いたいお気持ちはわかりますが、これは事実なんです」

「先生方は、佐介の何をご存知なのかしら?うちの佐介は素直で明るくて、とても優しい子ですのよ」

「はい」

「私はこの子が小さい頃から、なに不自由なく育ててきました。この子の望むことは何でも叶えてきました。だからこんないい子に育ったと自負しておりますのよ」

「では、佐介くんが学校のことをお母さんに話したことはありますか?」

「当然ですわ。いつも話してくれますわ」

「それは佐介くん自身が積極的に話しますか?」


そう指摘されて、母親は少し考え込んだ。


「それは・・わたしくの方から色々と聞くことが多いですが、それは親として当然でしょう?」

「その際、佐介くんはどのように話しますか?」


母親は、また考え込んだ。

そして黙ってしまった。


「お母さん、こんなこと申し上げてはなんですが、佐介くんはお母さんの問いに、答えると言うより「返事」をするだけじゃないですか?」

「そ・・それは・・」


母親は、どうやら思い当たるふしがあるようだ。


「それでは「話を聞く」ということにはなりません」

「ですが・・」

「佐介くんは虐めを否定してますが、ここにいるこの子たちは佐介くんと一緒に虐めをしたことを認め、虐めた子供たちや、その親御さんたちに謝罪もしています」

「えっ・・」


麗華たちはずっと下を向いたまま黙っていた。


「多々たたら、そうだな」

「は・・はい・・」


麗華は蚊の鳴くような声で、そう返事した。


「あ・・あなたたちが・・佐介をそそのかしたのではないの!?」

「お母さん・・そそのかされたのは、多々良たちの方なんですよ」

「ま・・まさかっ!」


母親は緒呂納の方を見た。


「さっちゃん、どうなの?本当のことを言ってちょうだい・・」


緒呂納は下を向いたまま、何も言わない。


「さっちゃん!ママには本当のことを言って。ママ、怒らないから・・」

「・・・」

「さっちゃん!」


「緒呂納さん」


私は母親にそう言った。


「なんですの・・」


母親は、私をまだ睨みつけている。


「私は緒呂納に、人間のクズ、地獄へ落ちろ、ぶっ殺すと言いました」

「そうでしょう!!ほらやっぱりそうじゃないの!」

「でも、あなたの息子は、その何倍も酷いことを他の生徒たちや私にしたんですよ」

「えっ・・」

「はっきり言って、こいつは人間のクズ以下ですよ」

「な・・なんてことを!」


「おい、クソ野郎、言ってやれよ、ママに」


私は緒呂納にそう言った。


「く・・クソ野郎・・ですって・・」


母親は体が震えていた。


「麗華、言ってやれよ」


私は麗華にもそう言ったが、麗華は下を向いたままだった。


「緒呂納さん、こいつらがやった虐めの内容を知ると、アンタ卒倒するぜ」

「なっ・・」

「息子かわいさも大概にしないと、アンタ、息子を「殺す」ことになるよ」

「な・・なんてことを!」

「私はこのクソ野郎は死ぬほど嫌いだが、そんな人間にしちまったのは、アンタだよ」

「えっ・・」

「子供はな、親の所有物でも操り人形でもねぇんだよ。親の言いなりになるってことが子供にとっちゃ一番不幸なことなんだよ。アンタはこいつを甘やかしながら「殺してる」んだよ」

「なっ・・」

「この年頃の男子ってのはな、「クソババア」と言うことはあっても「ママ」なんて言わねぇんだよ!」

「・・・」

「とっとと子離れしねぇと、マジでこいつは廃人になっちまうぜ。それでもいいのか?」

「そっ・・そんなっ・・」

「こいつは虐めをやることで、なんとか自分を保ってたんだよ。そう言う意味では、まだこいつにも「可能性」が残ってるってこった」

「可能性・・?」

「ああ。人間として立ち直れる可能性だよ。その芽を育てるのも摘むのもアンタ次第ってこった」


母親は、かなり混乱している様子だった。


「お母さん・・」


森比呂先生がそう言った。


「虐めの内容ですが、聞きたくないかも知れませんが、これはやはり事実として知っていただかないといけませんので申します」


そう言って森比呂先生は、具体的な内容を話した。

すると母親は、本当に卒倒しそうな様子だった。


「ううう・・」


母親は、信じられない様子で大泣きし出した。


「お母さん、ショックでしょうが、これは事実なんです。どうかよくお考え下さい」

「さっちゃん・・あなた・・本当に・・」


緒呂納は黙ったままだった。


「おい、クソガキ!」


私は緒呂納にそう言った。


「てめぇ、いつまでも黙ってんじゃねぇよ!いい加減、話したらどうなんだ!」

「・・・」

「ママを傷つけたくねぇか?まだ「いい子」でいたいのか?俺はこんな酷いことをしましたと、本当のお前を教えてやれよ!」

「うう・・」

「泣いてんじゃねぇ!!てめぇ、今、言わないと一生ママのおもちゃだぞ。それでもいいのか!」

「お・・俺は・・」


緒呂納は静かに口を開いた。


「俺は・・マ・・お・・お母さんが・・かわいそうで・・」

「さっちゃん・・」

「いい子でいないと・・お・・お母さんは・・一人に・・」


なに言ってんだ・・


「親父は・・海外赴任で家にいなくて・・隠し子もいて・・」

「やめてーー!!さっちゃん!」


母親は狂ったように叫んだ。


「それで・・お・・お母さんには・・俺しかいなくて・・」


そうだったのか・・


「緒呂納、もういい」


森比呂先生が、そう制した。

母親は、もはや放心状態だった。


「お母さん、これで事情はご理解いただけましたでしょうか」


森比呂先生がそう言った。


「・・・」


「では、今日は、これでお帰り下さい」

「は・・はい・・」


母親は下を向いたまま、立つのもままならない様子だった。


「緒呂納、お母さんを支えてあげなさい」

「はい・・」


そう言って緒呂納は、母親に手を差し伸べた。


「さっちゃん・・」


母親は悲しそうに、緒呂納の顔を見た。


「帰ろう・・」


緒呂納がそう言って二人は出て行った。

部屋に残った私たちは、みんな黙ったままだった。


「さ、秋川も多々良たちも帰りなさい」


森比呂先生が、そう言い、麗華たちは、部屋を出て行った。


「秋川、色々とすまんな」


高峰がそう言ってきた。


「いや・・高峰先生、私、驚きました」

「なにがだ」

「いや、なんというか・・以前と別人というか・・」

「あはは、なんだそれ」

「はっきり仰ってくださって、ありがとうございました」


私は高峰に頭を下げた。


「いや、秋川こそ、大したもんだ」

「そんなことないですよ」

「しかしだ・・やはり言葉遣いには気を付けないとな」

「あ・・はい」

「それと、お前、テストボロボロじゃないか」

「あっ・・そ・・それは・・」

「後半、頑張らないとダメだぞ」

「はいぃ~~・・」


そして高峰先生と、森比呂先生は、笑った。

私はなにより、あの高峰が変わってくれたことが嬉しかった。

そして学校の体質が変わったことも。


こうやって先生たちが正しい方向で動いてくれることが、なにより生徒のためだ。

それは学校のためであり、社会全体のためにも繋がる。


「じゃ、私はこれで失礼します」

「ああ、気を付けて帰れよ」


高峰先生と森比呂先生は、口を揃えてそう言った。


それにしても、緒呂納も気の毒な境遇なんだな。

隠し子って・・緒呂納もそうだけど、そりゃ母親にしたら、耐えられないだろうな。

だからといって、自分の息子をはけ口に使うなっての。

結局、息子がかわいいんじゃなくて、てめぇがかわいいだけなんだ。


それから数日後、テストも終わり、終業式を迎えた。


「秋川さん」


私は廊下で森比呂先生に声をかけられた。


「はい、なんですか」

「実は・・緒呂納が転校することになったんだ・・」

「えっっ!」

「母親から電話があってな。今学期限りで転校すると」

「どうしてですか?」

「まあ、理由は適当に仰ってたが、やはり先日のことが原因だと思う」

「また・・逃げるんだ・・」

「逃げるって、どういうことだ」

「緒呂納は小学生の時も虐めをやってて、それが原因で引っ越したそうですよ」

「ほんとか・・」

「だから今回も、また同じことを・・」

「なるほど・・」

「先生、このままでいいんですか」

「いいはずがないよな・・」

「そうですよね・・」

「先生が今日にでも緒呂納の家へ行ってみるよ」


そう言って森比呂先生は、歩いて行った。

緒呂納・・お前、また母親の言いなりかよ。

それともお前自身が決めたことなのか。

いずれにしたって、そんなことで何の解決にもならねぇぞ。

一生、逃げ続けるつもりか。


私は校門の前で緒呂納を待った。

すると、ほどなくして緒呂納が歩いてきた。


「緒呂納」


私を見た緒呂納は逃げようとした。


「待てよ!」

「な・・なんだ・・」

「ちょっと話がある。来い」


私はそう言って、校門から離れたところに緒呂納を引っ張って行った。


「なにすんだよ・・」

「なにじゃねぇ。お前、転校するって本当か」

「その話か・・」

「本当なのか」

「ああ」

「なんで転校するんだ」

「お前には関係ないよ」

「また母親の言いなりか」

「ああ、そうだよ!悪いか!」

「お前、それでいいのか」

「・・・」

「お前、ほんとにそれでいいのか」

「お前に・・なにがわかるんだ・・」

「あのな・・母親がかわいそうなのはわかるが、それと母親の言いなりになるってことは別だぞ」

「・・・」

「お前がずっと母親の操り人形でいるってことは、それはいずれ母親に跳ね返るってことなんだぞ」

「なんだよ・・それ・・」

「お前はこの先、大人になるけど、それは体が大人になるだけで、心はガキのままだ。母親無しでは生きていけなくなるんだぞ。お前は一人前の大人になれねぇってことだぞ」

「・・・」

「なあ、緒呂納・・」

「なんだよ・・」

「お前が大人になって母親を支えて行くには、ガキのままじゃダメなんだよ。お前自身が大人にならねぇと、それは無理なんだよ」

「・・・」

「母親に文句の一つも言ってこそ、本当の親子なんだよ。わかるか?」

「・・・」

「お前は、お前の本当の気持ちを母親に言えよ。それを怖がるな。衝突を恐れるな」

「そんなこと言ったって・・」

「きっとわかってくれるさ。お前を愛してることに変わりはねぇんだからさ」

「・・・」

「お前の母親は、その方向が今は間違ってるだけなんだよ」

「うう・・」

「泣くなよ。男だろうが」


緒呂納はガキのように、涙をポロポロと流した。


「秋川ってさ・・」

「なんだよ」

「俺を恨んでないのか・・」

「けっ。恨んでるさ」

「そうだよな・・」

「てめぇなんか、大っ嫌いだ」

「・・・」

「でもな、だからと言って、お前や母親がこの先、不幸になれなんて思わねぇよ」

「え・・」

「それはお前のためじゃねぇ。お前はこの先、必ず誰かと関わって生きていく。その関わった人が嫌な思いをしないためだ」

「・・・」

「それは、お前と母親のためでもあるんだぞ」

「そうなのか・・」

「ま、今はわからねぇだろうけどな」

「・・・」

「だから、もう一度考え直せ」

「・・・」

「あ、それから、今日、森比呂先生が、お前んち行くって言ってたぞ」

「え・・そうなのか・・」

「だからその時、お前の気持ちを言えよ。先生がいたら話しやすいだろ」

「うん・・」

「そういうこった。じゃあな」


そう言って私は、その場を立ち去った。


第二十五章END

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