佐介の母親
第二十三章
次の日、私は2年3組へ行き、緒呂納を探した。
しかし、見当たらない。
「遊野木さん、ちょっと」
私は廊下からそう声をかけた。
「どうしたの?」
遊野木はそう言って、廊下に出て来た。
「緒呂納はどこですか」
「それが、今日は休んでるのよ」
「ほう。そうなんですか。理由は?」
「体調が悪いってことらしいけど、ほんとのところは、わからないわね」
「そうですか、ありがとうございました」
私はそう言って教室へ向かった。
緒呂納・・虐めがばれて逃げやがったか・・
ふざけんじゃねぇぞ。絶対に逃がさねぇからな。
階段を降りて行くと、麗華たちとすれ違った。
「よう、クソガキども」
私はそう言って麗華を睨みつけた。
「なっ・・なんでしょうね・・まったく、はしたないお言葉・・」
「お前らの虐めは、ばれたからな・・覚悟しとけ」
「えっ・・」
麗華の表情は、明きからに引きつっていた。
他のやつらも同様だった。
「因果応報・・てめぇらも、たっぷりと味わえ」
「・・・」
「それと麗華・・」
「な・・なんですか・・」
「てめぇのやったことは、犯罪だからな。それと緒呂納もな。このまま済むと思うなよ」
「ひっ・・」
「年少送りってとこか・・」
私は、あさっての方向を見ながら、そう呟いて見せた。
「ね・・ねんしょう・・?」
「けっ。年少も知らねぇで、よくあんなことしたな」
「なっ・・」
「知りたかったらてめぇで調べて、せいぜいビビりな。「ございますわよ」なんて悠長なこと言ってらんねぇぜ」
私は後ろ手を振りながら、そう言って階段を下りた。
なんだ、あのビビりようは。
ま、実際、警察が動かないと年少送りにはならねぇけどな。
それもこれも、私次第だ。
あいつらが今後、どう出るかで決まる。
そして次の日も緒呂納は休んでいた。
私は森比呂先生に、訊いてみることにした。
「先生」
私は廊下ですれ違った森比呂先生に、声をかけた。
「おお、秋川さん」
「緒呂納は今日も休んでるらしいですね」
「ああ」
「理由はなんですか?」
「お母さんからは、風邪だと聞いたんだが・・」
「へぇ、風邪ねぇ・・」
「うん」
「そういえば、この間どうでした?家族の人と話できたんですか?」
「いや、あの日は結局、門前払いでね・・」
「そうですか・・」
「緒呂納はどうも、母親の影響があるな・・」
「影響?」
「門前払いされたのは、母親になんだが、どうも過保護というか、過干渉というか」
「へぇー」
「虐めのことも少しは話したんだが、まるで聞く耳を持たなくてな」
「そうなんですか・・」
「ま、このことは先生方とも話をしているところだから、君は心配しなくていいよ」
「はい・・」
過保護・・過干渉か・・
あれか、息子をロボット化してるってことか?
母親の言いなり・・操り人形ってことか・・
父親は、なにやってんだ?
私は明日の日曜を利用して、緒呂納の家へ行ってみることにした。
せっかくの休みなのに、千菜美には申し訳ないな。
「お母さん。用事って、どこへ行くの?」
朝になって千菜美がそう言ってきた。
「ああ、えっとな・・美冴んちで勉強することになって・・」
「そうなんだ」
「私一人だと・・ほら、すぐにケツを割るだろう?」
「ケツって・・お母さん・・」
「あはは。でさ、みんな集まってね・・」
「そっか。わかった。ちゃんとやってよ」
「うん!わかってる」
そう言って私は家を出た。
ごめんよ~~千菜美。。
そして私は緒呂納の家へ向かった。
家の近所まで来た時、緒呂納が一人で歩いていた。
あの野郎・・風邪なんて嘘じゃねぇか!
私が声をかけようとしたら、清楚で上品そうな一人の女性が走って来た。
「さっちゃ~ん。待って~」
その女性はそう言って、緒呂納の腕に手を回した。
なんだあの女は・・綺麗な人だけど、ババアだぞ。
緒呂納・・・ストライクゾーン広すぎねぇか・・
「ママ、遅いよ~」
緒呂納がそう言った。
ま・・・ママ??あれは緒呂納の母親なのか!!
げぇーー吐きそうだ。。
「だって~さっちゃん、走るんだもの~」
「ごめんごめん」
「その服、ママが選んであげて正解ね!」
「うん。ありがとう、ママ」
「さっちゃん、ほんとに何でも似合うのよね~」
「ママのセンスがいいんだって」
「あはっ。そうかな~」
「そうだよ、ママ」
私はその会話に絶句した。
なんだあれ・・ほんとに親子なのか??
歩いて行く二人の後を、私は追いかけた。
し・・信じらんねぇ・・気持ち悪い・・・
電車に乗り、とある駅に着いて降りて行った。
暫く歩くと、二人は美術館へ入って行った。
美術館か・・高尚な趣味だな・・
中へ入ると、二人は一人の男性と話をしていた。
私は気がつかれないように、画を見ながら聞き耳を立てた。
「息子さんは、相変わらず素敵ですね」
「そうなんですの~とても優しくていい子なんですの~」
「佐介君、君はいいお母さんを持って、幸せだね」
「はい。自慢の母です」
「では、ごゆっくり観てってください」
あの男性は、ここの関係者か・・
それにしても、ずっと腕を組んだままだな・・信じらんねぇ・・
「さっちゃん、この画、素敵ね」
「そうだね・・」
「どうしたの~?つまらない?」
「ううん。そんなことないよ、ママ」
「そう?よかった。さっちゃんがつまらなかったら、ママ、悲しいもの・・」
「ごめん、ママ」
「ううん、いいの。さっ、あっち行きましょうね」
先生の言ってたことがわかる。
過保護、過干渉・・そのままだ。
そりゃあの母親なら、聞く耳持たないわな。
ってか、自分の息子が学校でなにやってたかなんて知ったら、生きていけないんじゃないか?
緒呂納が小学生の時、虐めをやってたってことも、無かったことにしたくて引っ越したんじゃないか?
やがて美術館を出て、二人はレストランへ入って行った。
私は緒呂納たちに背を向ける位置に座った。
「さっちゃん、なにがいい?」
「そうだな・・ハンバークにしようかな」
「ええ~~、ハンバークはこの間、ママが作ってあげたじゃない~」
「ああ、そうだったね・・」
「じゃ、それ以外でなににする?」
「えっと・・」
「あっ!これがいいわ~ステーキランチ。ママ、これにするからさっちゃんもそうなさい」
「あ・・うん。ママと同じでいいよ」
うわ・・マジでこんな親子いるんだな・・
聞いてる方が恥ずかしくなるぜ・・
私はコーヒーを飲み干して、店を出た。
あのクソ野郎は、絶対に許せねぇが、あれじゃ・・自分ってもんが無くなるよな・・
ましてや高校生の男子だぜ?
ほんとなら「クソババア」って言う年頃だろ。
それが「ママ」たぜ。なんだかなぁ~~・・・
次の日、麗華が私に声をかけて来た。
「なんだよ」
「あの・・その・・」
はあ??なんだ、この変わりようは。
麗華は、明らかに私にビビっていた。
「だからなんだよ」
「年少って調べましたら・・少年院のことだったのですね・・」
「そうだよ、だからなんだ」
「その・・そこへ送られるには・・逮捕されないと・・」
「ああ」
「で・・私は逮捕されてませんし・・送るのは無理ではないかと・・」
「バカか!私が被害届け出したらどうすんだよ」
「えっ!」
「麗華・・あのな、そんなこともわかんねぇのか?」
「でも・・」
「いつでも被害届出してやるぜ?そうなったら警察が動いてお前は逮捕だ。そして家裁に送られてだな・・」
「あのっ!」
私の話を遮って、麗華がそう言った。
「なんだよ」
「もう・・二度とあんな酷いことは致しませんので・・どうか許して頂けませんか・・」
「はあ??」
「お願いします・・」
「ざけんじゃねぇ!!」
「えっ・・」
「てめぇ、それで済む問題だと思ってんのか!」
「・・・」
「てめぇがやることは、これまで虐めてたやつら全員に土下座をして詫びろ。親衛隊も一緒にだ。それとてめぇの担任と親にも報告して、虐めてた子の親たちにも詫びろ」
「・・・」
「それをやらないなら、私は被害届を出すからな」
「わ・・わかりました・・」
「それと、今後、同じことをやったら、その時点で被害届を出すからな。覚えとけ!」
「はい・・」
そう言って麗華は逃げるように走って行った。
ざまーねーな。
あれが「おほほ」と高飛車に笑ってやがったやつの姿かよ。
それから数日後、麗華たちは私の言った通り、虐めてたやつ全員に謝罪をし、その親たちにも謝罪した。
残るは緒呂納だけか・・
あれはちょっと厄介だな。
第二十三章END




