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お母さんは女子高生  作者: たらふく
17/26

2年の男子

         第十七章



祥雲の件があってから、徐々に学校も平穏を取り戻し、私もそろそろ勉強に身を入れないといけない時期に来ていた。

そうなのだ。期末試験が待っているのだ!

まあ・・国語は出来るとしてもだな・・・数学、英語、理科、日本史、世界史、公民・・・うわぁ・・・

っんなもん知らねぇっつーーの!

千菜美・・・許せ・・・この期末は諦めてくれ・・・


「どうしたの?千菜美ちゃん」


机に突っ伏していた私を心配して、菜々絵が声をかけて来た。


「菜々絵ちゃん・・うう・・」

「やだ、千菜美ちゃんが泣くなんて!どうしたの!」

「いや・・泣いてないんだけど・・」

「なにかあったの?」

「期末試験が・・・」

「あ・・ああ・・」


菜々絵は察しがいいな。


「もう諦めた!二学期に乞うご期待!」

「いや・・あの・・そうじゃなくて・・」

「ははっ。もう今更やっても遅いしな・・」

「でも・・千菜美ちゃん、すごく成績よかったのに、全然ダメだよね・・」

「グサッとくること、はっきり言うねぇ~~菜々絵ちゃん」

「ごめん、ごめん・・」


「このクラスに秋川って子、いると思うんだけど、どの子?」


いきなり上級生らしき男子が、教室に入って来てそう尋ねた。


「私だけど」

「ああ、君が秋川さんか」

「なんですか」

「ちょっといい?」


そう言って男子は廊下へ出た。


「千菜美ちゃん・・大丈夫・・?」

「ん?別に。平気だよ」


そう言って私も廊下に出た。


「なんか用ですか」


私はぶっきらぼうにそう言った。


「まあ、そう警戒すんなって」

「別に警戒なんてしてませんよ」

「あ、俺、緒呂納おろな佐介さすけって言うんだけど。2年な」

「おろな・・」


変な名前・・ぷぷっ。


「俺さ、お前の噂を聞いて、ちょっと興味が沸いたっつーか」

「噂?」

「お前の武勇伝だよ」

「ああ・・なるほど。それで?」

「俺、お前のこと好きなんだよ」

「はあ??」


なんだよ、こいつ。あり得ねぇーーっつーーの!

私は千菜美じゃないんだよ。40歳のババアなんだよ。


「俺と付き合ってくれ」


っなっんだよ、こいつ。はっきり言うにもほどがあるっつーの。


「いや、無理だから」

「え?なんで?彼氏いるの?」

「いないけど・・」


ん・・?千菜美って彼氏、いないよな・・


「いないならいいじゃん」

「いや、ダメだ」

「あはは、噂通り、はっきりもの言うね」

「そうだ。何事もはっきり言わないとな。ってか、アンタだってはっきり言うじゃねぇか」

「そっかー。ま、いいや。とりあえずは振られたってことで一旦は引き下がるけど、また来るから」

「ええー、もういいって」

「じゃ、またなー」


緒呂納はそう言って、手を振りながら去って行った。

悪い奴じゃなさそうだけど、私は千菜美じゃないんだ。


「なんだったの?さっきの男子」


菜々絵が心配そうにそう言ってきた。


「別に。何でもないから心配することないよ」

「そうなんだ・・」


「千菜美~~」


美冴が声をかけて来た。


「なに?」

「さっきの人~~、2年の緒呂納くんじゃなかった?」

「そうだけど、美冴、知ってるの?」

「あの人さ、めちゃくちゃモテる人だよ」

「へぇーそうなのか」

「だってさー、背も高くてイケメンでしょ。すごく人気があるんだよ」

「ふーん」

「で、なんだったの?」

「別に。何でもないよ」

「ええー、あっやしーー」

「怪しくなんかねぇって」

「もしかして・・告られたとか・・?」

「ち・・違うって・・」

「ああーーその慌てぶりは、図星だね」

「違うっつーーの!」


ったくーーなに言ってんだ。

イケメンかなにか知らねぇが、あんなガキ、興味ねぇんだよ。


私は晩御飯を食べながら、そのことを千菜美に話した。


「え・・・緒呂納くんが・・・」

「へ?千菜美、知ってんの?」

「え・・・うん・・まあ・・」

「へぇーそうなのか」

「で・・・お母さん、振っちゃったんだよね・・」

「そだけど」

「そっか・・」

「なんだよ」

「えっ・・」


なんだ・・千菜美。なんか含みのある言い方だな。


「もしかして千菜美、好きなのか?緒呂納のこと」

「ええっっ!そっ・・そんなっっ」

「ははあ~~・・そうなんだな」

「いやいや、違うって・・違いますって!」

「嘘言え。好きって顔に書いてあるぞ」

「ひぃ~~」


問いただすと、どうやら中学の時から好きだったようだ。


「まいったなー」

「なんでよ・・」

「だってさー、私は千菜美じゃないんだぜ?」

「そうだけど・・」

「例え、付き合うにしたって、お前、それでいいはずないだろ」

「うん・・・」

「元に戻ったら、告ればいいじゃん」

「そっ・・そんな・・できないよ・・」

「とにかく、お母さんは無理。また告ってきても、振るからな」

「・・・」


千菜美さぁ~~私にどうせぇっちゅうねん。

あきまへんがなぁ~~あきまへんがなぁ~~

それにしても、千菜美はもう恋愛する年なんだよなあ。

恋愛かあ・・そんなもんとっくに忘れてしまったよ。

スーパーで働いてたら、出遭いなんてあるわけねぇーし。

私は40だけど、まだ40なんだよなぁ・・

いやいや、恋愛なんてもうこりごりだ。

あのクソ旦那のことで、どれだけ辛い思いをしたか。


次の日、登校していたら、緒呂納が声をかけて来た。


「おはよう!」


早速か・・・


「おはよ」

「なんだよーつれないなあ」

「あのさ、私はアンタと付き合う気なんて無いから」

「わかってるよ。でも話すくらいいいじゃん」

「まあ、話すだけなら・・」

「お前って、すごいよな」

「なにが」

「たった一人で虐めに立ち向かって、先生たちにも文句言ったんだろ?」

「まあな」

「俺さ・・実は小学生の時、虐められてたんだよ」

「え・・そうなんだ・・」

「その時、勇気がなくてさ。もう死のうかと思ったこともあったんだよ」

「そっか・・」


緒呂納・・こんなに明るいのに、辛い過去があったんだな・・


「でもその時ね、同じクラスの女子が俺を助けてくれてさ」

「そっか」

「助けてくれた・・というより、支えてくれたっていうのかな」

「へぇ」

「いつも、みんながいないところで話しかけてくれてさ。「きっといいことがあるよ」って」

「そっか。いい子だね」

「俺は、たった一人のその子の、何気ない言葉に救われてさ。で、何とか死なずに済んだわけ」

「そっか・・」

「それで心配した親が引っ越してね。中学は何もなかったんだよ」

「そっか・・」

「なんか、お前の噂を聞いて、その子がいるのかと思ったくらいで。それでずっと気になってたんだよ」

「なるほどな」

「でも、お前の方が何百倍もすごいけどな。あっはは」

「なに笑ってんだよ」

「いや、マジでお前、すごいって。尊敬しちゃうよ」

「そんな大したもんでもねぇーよ」

「いやー実際、見たかったな。どんな風に虐める奴らに立ち向かっていったのか」

「見せるもんでもねぇよ」

「まあ、そうつれなくするなって」

「別に・・私は・・」

「じゃ、またなー」


そう言って緒呂納は走って行った。

そっか。緒呂納はその子に今でも感謝してるんだな。

でも私への気持ちは、恋じゃねぇぞ。憧れみたいなもんだろ。

ま、私には関係ねぇことだ。


授業中、何気に外を見ていると、緒呂納がサッカーをしていた。

体育か。ふーん。

あいつ、運動神経もいいんだな。


「千菜美」


休み時間になり、美冴が声をかけて来た。


「なに」

「今日さ、学校の帰り、どっか遊びに行かない?」

「どっかって?」

「うーん、まあ、カラオケとかさ」

「カラオケかあ~まあ、ひさびさにいいかな」


「なになに~」


そう言って菜々絵が声をかけて来た。


「帰りにどっか行くかって話してたんだけど、菜々絵ちゃんも行く?」

「わあー行く行く!」

「じゃあ、涼介も誘ってみるか」

「うん、いいね!」


丸美と麻紀と伊都香は、あのこと以来、私たちとは別行動をするようになっていた。

特に仲が悪いわけではないけど、やっぱり美冴に対してのこだわりが抜けないようだった。

まあ、これも仕方がないことだ。まだガキだしな。


昼休みになって私は2組へ行ってみた。


「涼介!」

「あ、秋川さん!どうしたの」

「今日さ、帰りにどっか遊びに行かねぇか」

「ええーどこへ?」

「カラオケとか」

「そうなんだ。行く!」


「秋川、久しぶり」


そう言って祥雲が話しかけて来た。


「よう、祥雲。その後はどうだ?」

「うん。わりといい感じかな」

「そっか。よかったな」

「で、何の話?」

「そうだ、お前も一緒に行かねぇか」

「行くって・・どこへ?」

「帰りに遊びに」

「そうなんだ。僕も行っていいの?」

「いいに決まってるじゃん。な?涼介」

「うん、いいよ!」

「よーしっ、じゃあ決まりな」


ということで、私たち5人はカラオケへ行くことになった。

それにしても久しぶりだな~カラオケ。

みんな、上手いのかな。


私たち5人は割と広めの部屋に通され、みなそれぞれに飲み物を注文していた。


「千菜美はなにがいい?」


美冴がそう訊いてきた。

アルコールはダメだしな・・・


「えっと、コーラで」

「OK!」


それからみな、選曲していた。

へぇー今はタッチパネルになってるのか・・・

昔は、分厚い本だったぜ。


「千菜美ちゃん、なに歌う?」


菜々絵がそう訊いてきた。


「そうだな・・『止まらないHa~Ha』で」

「止まらないHa~Ha??誰の歌?」


あっ・・・そっか。世代が全く違うんだ・・

でも、今の流行なんて知らねぇしな。


「えっと・・矢沢永吉」

「矢沢永吉・・・」

「菜々絵ちゃん、知らないの?」

「ああ・・うん・・」


他のみんなは『打上花火』だとか『前前前世』だとか『高嶺の花子さん』だとか、全く知らない歌を選曲していた。

まあ、前前・・ってやつは、かろうじて知ってるかな。


「さっ!千菜美の番だよ!」


美冴にそう言われ、私はマイクを持った。

永ちゃん、好きなんだよな~~私。


イントロが流れてくると、みんなはポカーンとした顔をしていた。


「へい!行くぜ、お前ら!」


私はノリノリで、タオルを振り回しながら歌った。


「かっこいいーー!千菜美!」


そう言って美冴は立って踊っていた。

ノリがいいな~~美冴は。

他の3人は・・ただ唖然としているだけだった。


でも私は、その光景を見ながら、かつては虐めていた側と、虐められていた側だったんだと、改めて思った。

今ではこうやって、一緒にカラオケを楽しんでる。こんな幸せなことはないよな・・

涼介と祥雲も、すっかり打ち解けている様子だし、私は嬉しいよ。


「ちょっとトイレ行ってくるね」


私はそう言って、部屋を出た。

あいつら、私が歌う歌、全部ポッカーンとして口開けてやがんの。あはは。おもしれ~~


「おっ!秋川じゃん!」


振り向くと、緒呂納が立っていた。


「緒呂納・・」

「へぇーここに来てたんだ」

「うん、まあな」

「友達と?」

「うん。緒呂納は?」

「俺も友達と」

「そっか」


そう言ってトイレへ行こうとしたら、手を引っ張られた。


「なにすんだよ」

「秋川・・俺、マジでお前のこと好きなんだよ」

「だから、無理だって言ってんだろ」

「なんで無理なんだよ」

「無理なものは無理なんだよ」

「俺のこと、嫌いなのか?」

「嫌いとか、そういうんじゃなくて・・」

「じゃ、なんでだよ」


しつけーーな。こいつ。


「あっ!そうそう。私には好きな人がいるのよ」

「ええっ!そうなの?」

「うん」

「誰?クラスの子?」

「そんなのお前に関係ねぇだろ」

「そうだけどさ・・」

「悪いな。じゃ、そういうことで」


私は無理やり手を離して、トイレへ行った。

なっんだよ、あいつ。

それにしても、マジ顔だったな。


第十七話END

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