自宅謹慎
第十一章
「ただいまぁ」
「おかえりー」
千菜美は相変わらず元気のいい声で、返事をした。
「はぁ~~・・疲れた・・」
「どうしたの?お母さん」
「それがさ・・」
私は千菜美に今日、学校であったことを全部話した。
「ごめんよ、千菜美・・」
「そっか・・」
「お母さん、ちょっとやり過ぎちゃったかな・・」
「なに言ってるの?」
「だって・・千菜美に迷惑かけちゃって・・」
「お母さん、間違ってないよ!」
「え・・」
「お母さん、なに一つ間違ってない。間違ってるのは先生の方だよ」
「ありがとう。そう言ってもらえると救われるよ」
「私だったら、自分が虐められてることさえ、何一つ解決できなかったよ」
「うーん・・そうは言ってもなぁ・・」
「いいじゃん。自宅謹慎、上等!!」
そう言って千菜美は笑っていた。
千菜美の気持ちは嬉しいけど、これって進学の時なんかに影響するんじゃないかな・・
暴力事件を起こして自宅謹慎なんてさ・・就職とかも・・
千菜美に申し訳ない気持ちと、なにより学校の体質に、とことん失望させられたことに、私は疲れきっていた。
というか、これって社会問題だよな。
他の学校はどうしてるんだろう。
こんな状態じゃ、虐めなんて絶対になくならない。
「お母さん、元気出して!」
「うん・・」
「なによ~~いつものお母さんらしくないよ!私がいいって言ってるんだから、いいんだってば」
「そっか。うん、わかった」
「さっ、ご飯食べようね」
「うん」
「今日は~~カレーだよ!」
「おお、そっか」
私は次の日の朝から、家事に専念した。
日頃は千菜美がやってくれているから、あまりすることはないけど、少しでも千菜美に負担をかけないように、念入りに掃除をした。
「じゃ、行ってきまーす」
「いってらっしゃい」
千菜美はパートに出掛けた。
はぁ・・・それにしてもなぁ。
これからどうすればいいんだ。
あの学校を変えるには、相当しんどいぞ。
唯一の頼りは、浦佐加先生だけか・・
私はもう少し、やり方を変えた方がいいのかな。
意気込みや、脅しが効くのは子供たちだけだ。
先公たちには無理だ。
そうだ。久しぶりにパート先へ行ってみよう。
千菜美がどんな風に働いてるのかも、見てみたいし。
私は買い物ついでに、勤め先のスーパーへ行くことにした。
この時間は、やっぱり混んでるな。
おおっ、千菜美、いたぞ。
ああ~桜井さんも元気そうだ。悦ちゃんもいる。
三原のババアは相変わらず厚化粧満開だな。ははっ。
私は適当に食材をかごに入れ、千菜美のレジに並んだ。
「いらっしゃいませー」
「千菜美・・」
私が小さな声でそう言うと、千菜美は驚いていた。
「お・・おかあ・・いや・・千菜美!」
「はは~来ちゃった」
「そうなのね・・」
「あら?秋川さん、お嬢さんですか?」
桜井さんが声をかけて来た。
「はい、娘の千菜美です」
「そうですかー!初めまして、いつもお母さんにはお世話になってるんですよー」
「ど・・どうも・・初めましてぇ・・」
なんか変な気分だな。
「お母さん・・もうすぐ終わるんでしょ?」
「ああ・・えっと・・うん、そうね」
「じゃ、外で待ってるから一緒に帰ろうよ」
「うん、わかった」
「今後も母をよろしくお願いします」
私は桜井さんにそう言って外へ出た。
すると15分くらい経った時・・
「あなた、秋川さんの娘さん?」
三原のババアが声をかけて来た。
「はい、そうですけど」
「あなた、高校生なのに、なんでこんな時間に買い物してるの?」
「え・・」
うるせぇんだよっ、ババア。
「ちょっと・・早引けしまして・・」
「ふーん。そうなんだ」
「はい・・」
「具合でも悪いの?」
「まあ・・そうですかね・・」
「じゃ、こんなところに居たらダメじゃない」
「あ・・はい・・」
ったくーーうるせぇな。早く仕事に戻れよ、ババア。
「まったく近頃の高校生ときたら、すぐにサボったりするんだから」
「・・・」
「千菜美、お待たせ」
「あ、お母さん」
「三原さん、うちの娘の千菜美です」
「秋川さん、娘さん具合悪いみたいよ」
「そうなんですよ。ちょっと風邪気味で」
「それなのに買い物なんて、ダメじゃない」
「はい。すぐに連れて帰りますので」
「近頃の子は、親がしっかりしないと、すぐに親の目を盗んでサボったりするんだから」
「お気遣いありがとうございます」
「早く帰って寝かせてあげなさい」
「はい、わかりました。ではお先に失礼します」
千菜美・・・おっとなぁ~~~
なんでそんなに余裕があるんだ・・・
「千菜美・・あんたすごいね」
「そうかな」
「だってあのババアに、よくあれだけ余裕こけるよな」
「私も最初は腹が立ったりして「うるせぇ」とか言っちゃったけど、三原さんの言うこと、結構、間違ってないのよね」
「そうかー」
「あの人、余計な一言があるから、勘違いされてるだけだと思うんだ」
「そんなもんかねぇ」
「そうだよ。悪い人ではないと思うよ、私は」
「あんた、ほんとに「お母さん」みたいだな」
「あはは」
いや、すげーよ、千菜美は。
私より遥かに大人だ。
「これから一週間は、お母さんが食事作るからね」
「そうなの!やったー」
私たちの会話を聞いた通りすがりの人が、変な顔をして歩いて行った。
ははっ。そうなるよな。
それから二日後・・
ピンポーン
「はいはい、どなたですかぁ~」
私はそう呟きながら、玄関を開けた。
するとそこには、菜々絵と美冴と涼介が立っていた。
「あらーー!」
「来ちゃった~~」
美冴がそう言った。
「来てくれたんだ~どうぞ、上がってー」
私は三人を部屋の中へ入れた。
「そこらへん、適当に座って」
三人はそれぞれソファに腰掛けた。
「よく来てくれたな。嬉しいよ」
「どうしてるかと思って・・」
菜々絵がそう言った。
「ありがとう。学校はどう?」
「うん、あまり変わりはないけど、なんか私たち、納得できなくてね・・」
美冴がそう言った。
「そだよな」
「ぼ・・僕・・秋川さんが謹慎になったと聞いて、泣いてしまいました・・」
「なんで泣くんだよ」
「だって・・元はといえば、僕のせいでこんなことに・・」
「涼介のせいじゃないよ。あいつらと先公が悪いんだ」
「ごめんなさい・・」
「なんで涼介が謝るんだよ。お前は何も悪くない」
「僕・・ちょっと考えたんです」
「なにを?」
「虐めを隠す学校の体質を、マスコミに言おうかと思ってるんです」
「ええっ!」
「だって、先生たちは何もしてくれないし・・」
「マスコミなぁ・・どうなんだろ」
「それって・・一旦火がついちゃうと、大変なことになるんじゃないかな・・」
菜々絵がそう言った。
「うん、私もそう思う。それより他の方法ってねぇのかな」
「他の方法かぁ・・」
「ただいまー」
千菜美が帰って来た。
「おかえりー」
部屋に入って来た千菜美は驚いていた。
「あ・・・お・・お友達・・?」
「うん、菜々絵と美冴と涼介。みんな心配して来てくれたんだ」
「そ・・そうなんだ・・いらっしゃい・・」
そりゃ戸惑うわな・・
「こんにちは、お邪魔してます」
三人はそう挨拶した。
「ゆっくりしてってね・・」
千菜美はそう言って、キッチンの方へ行った。
「さて、どうすっかな」
「うーん・・」
「とりあえず、浦佐加先生に相談してみるか」
「浦佐加って・・僕の担任の・・」
「うん、あの先生は、もしかしたら力になってくれるかも」
「そ・・そうなんですか・・」
「みなさん、よかったらこっちに来てケーキ食べてね」
千菜美がそう言った。
「ありがと、お母さん」
私たちはテーブルに移動してケーキを食べることにした。
「どうぞ、お気遣いなく・・」
美冴が千菜美にそう言った。
「い・・いえ・・」
「おばさん・・私、千菜美に色々と助けられたんです」
「そうなんですか・・」
「私・・千菜美を虐めてたのに、千菜美は私を友達だって言ってくれて・・本当にすみませんでした」
「いえ・・そんな・・」
「ぼ・・僕も・・秋川さんにすごく助けられて・・虐めからも救ってくれて・・」
「そうなんですか・・」
「千菜美ちゃんは・・すごく勇気があって、先生よりも頼りになる人です」
「そうですか・・」
「お前ら、もういいって。それより食べようぜ」
千菜美は私たちに背を向けて、肩を震わせていた。
第十一章END




