私が娘で娘が私?
第一章
「ただいま・・・」
今日も、元気のない声で娘が帰宅した。
また、学校で虐められたのか・・・
娘の千菜美は、私が何を訊いても一切答えることはない。
中肉中背で、特にブスでもない普通の女子高生なのに、何が原因で虐められているのか、全く知る由もなかった。
「おかえり!」
私の返事に何も答えることなく、千菜美は自分の部屋へ入って行った。
コンコン・・・
「ねぇ千菜美、学校で何かあったら、お母さんに言いなさいよ」
私はドア越しにそう呟いた。
「何もないから、放っといて」
「入るよ」
私はドアを開けて中へ入った。
「勝手に入らないで!」
「千菜美、今日こそ言ってもらうよ。学校で虐められてるんじゃないの?」
「虐めなんてない!」
「じゃあ、どうしていつも制服が汚れてるの!」
「転んだだけだよ・・」
「転んだだけで、そんなに汚れるなんてあり得ないよ」
「転んだだけなの!もう放っといて!」
そう言って千菜美は、私を強引に部屋から追い出した。
違う・・転んだなんて嘘だ。
あれは絶対に虐められている。
比較的、気の弱い千菜美は、きっと格好の標的になっているのかも知れない。
元ヤンの私の気持ちは、イライラがつのるばかりだった。
くっそ・・・私だったらイチコロでのしてやるのに・・
ああーーー、千菜美と変わってやりたい。
私は三年前に旦那と離婚して、今は千菜美と二人暮らしだ。
旦那は浮気性で、愛人を囲って勝手に出て行った。
それが虐めの原因となっているのかも知れないという、一抹の不安もあった。
元旦那が学費は出してくれているものの、私はパート勤めをしながら、ギリギリの生活に追われる日々で、虐めに気がついたのも、ごく最近のことだった。
明日は学校へ行って、抗議するつもりだ。
千菜美は嫌がるだろうが、私はもう我慢の限界に達していた。
「高峰先生はいらっしゃいますか」
職員室のドアを開けて、私は担任の先生を探した。
「どちら様ですか?」
若い男性教師が尋ねて来た。
「私は、秋川千菜美の母ですが、高峰先生はいらっしゃいますか」
「ちょっと待ってください」
そう言って、その男性教師は高峰を探しに行った。
暫くして、高峰がやって来た。
「秋川さん、ご無沙汰しております」
「先生、いつも千菜美がお世話になっております」
「えっと、今日は、どういったご用件でしょうか」
「ちょっと相談がございまして」
「ほう、相談ですか。わかりました、ではあちらの部屋へまいりましょう」
そう言って高峰は、私を連れて別の教室に行った。
「どうぞ、おかけください」
「はい、すみません」
「で、相談というのは?」
「娘のことなんですけど・・」
「はい」
「娘は虐められているんです」
「えっ!本当ですか?」
「はい。いつも制服を汚して帰ってくるんです」
「ほう・・」
ほう・・?なんだよ、その返事。
「娘は何も言わないんですが、あれは絶対に虐めです」
「千菜美さんが何も言わないのなら、虐めかどうかはわかりませんね・・」
「いや、普通、虐められてても「虐められてる」とは絶対に言いませんよ」
「確かに。ですが、教室での千菜美さんは、いつも明るくて、友達とも楽しそうにしていますよ」
「それは無理をしているんじゃないでしょうか」
「うーん。そうは見えないんですけどねぇ」
なんだ、この担任。
全く頼りにならない。
ベテラン教師と聞いていたけど、どこがベテランなんだ。
「お母さん、ちょっと心配し過ぎじゃないでしょうか」
「そんなことないです。あの・・先生・・」
「はい」
「ちょっと楽観視し過ぎじゃないですか?もう少し親身にというか・・」
「僕は毎日生徒を見ているんです。よくわかっているつもりですが」
「ほんとですか?ほんとに見てくれています?」
「はい。見ています。だからもう少し様子を見ましょう」
「そうですか。わかりました」
そう言って、私は学校を後にした。
あの教師は頼りにならない。くそっ・・・
自分で何とかしないと、千菜美は虐め続けられる。
まだ高校一年生なのに・・これからだというのに・・
千菜美は元旦那に似たのか、勉強はできる方だ。
一学期の中間テストは学年で10番以内に入っていた。
あの子の将来の夢は通訳だ。
そのためには大学へ進学しないといけないし、こんなところで虐めになんかあってたら、あの子の夢は壊されてしまう。
「ただいま・・」
「あっ!おかえりー!」
千菜美は、また黙って部屋へ行こうとした。
「ちょっと待ちなさい」
「なに・・」
「ここに座りなさい」
私は無理やり、リビングのソファに千菜美を座らせた。
「今日、お母さん、学校へ行ってきたの」
「ええっ!!」
「先生に、千菜美のこと相談してきたのよ」
「なに勝手なことやってんのよ!」
「勝手なことって。だってあんた、虐められてるでしょう!」
「虐められてない!」
「どうして嘘をつくの!正直に言いなさい!」
「だから放っといてって言ってるでしょう!!なんで余計なことするのよ!」
「放っとけるわけないでしょう!!」
「もういい!!」
そう言って千菜美は自分の部屋へ行った。
どうしたらいいんだろう。。
担任は頼りにならないし・・千菜美は何も言わないし・・
くそっ・・・
次の日、千菜美が家を出ようとした時、私は思わず千菜美を引っ張って抱きしめた。
「千菜美・・・無理しなくていいんだからね。話したいことがあれば何でも言いなさい」
「・・・・」
私は自分の頭を千菜美の頭にくっつけた。
「いいね?一人で抱え込むんじゃないよ」
「お母さん・・」
私は涙が溢れて来た。
「お・・お母さん。。お母さん!ねえ、お母さんってば!」
「なに・・?」
あ・・・あれっ・・・???
なんで私が目の前にいるわけ??
へ??
「お母さん!!私と入れ替わってる!!」
「ええええええーーー!!」
自分の姿を見ると、娘の千菜美になっていた。
はあ~~~~???入れ替わった??
「あんた・・千菜美よね・・」
「ヤダ~~~私の体、お母さんになってるーー!」
「きゃあーーー!」
私と千菜美はリビングの鏡の前へ並んで立ってみた。
紛れもなく、私と千菜美は入れ替わっていた。
何がどうしてこうなったのか・・・
テレビでは、よくこんなドラマあるけど・・マジで!!
えっと・・・じゃ、私は今から千菜美として学校へ行く・・??
「ヤダーーあり得ないーー!」
千菜美は頭が混乱して、そう叫んでいた。
私だって、マジで混乱してるっつーの。
「千菜美・・もう一回、抱き合ってみようか・・」
「うん・・」
私たちは思いっ切り抱き合った。
元に戻れ~~~!!ええーーい!
もう一度鏡を見るも・・・状況は変わらなかった。
ひぃ~~~どうしたらいいんだあ~~~
私たちはその場にへたれ込んだ。
「ねえ、どうするの?ねえ、お母さん!」
「どうするったって・・このままお互いがお互いになるしかないよね・・」
もう私は覚悟を決めた。
「ええーーヤダ~~。私、どうすればいいの?」
「えっとだな・・今日は、パート休みだから、あんたは家にいなさい」
「お母さんはどうするの?」
「それはだな・・学校へ行くしかないだろ」
「えええーーヤダーーー休んで!」
「ダメだ。ちゃんと勉強しなくちゃね」
「いやーーー休んで!」
「いや、行く」
私にすがりつく千菜美を離して、私は学校へと向かったのだった。
第一章END




