名も無き少年
何が当たるかと総当たり気味に色々投稿したけど、どれもPV20すらもいかねぇよ!
どうしようも無く死にたくなった。そしたら思いついた。
目標は高く30PV。
たのむ、越えてくれ。
――嘘かほんとか真しやかな話の集まりを総称して都市伝説という。
世の中には数え切れないほどの都市伝説が溢れている。身近でお手軽なところだと学校の七不思議が挙げられるだろうか。美術室のブルータス君に睨まれたとか言うあれである。
その有象無象の中の一つに『死神たん』というネットサイトがある。
曰く『死神たん』のサイトに書き込みを行った者は三日以内に死ぬ。
曰く『死神たん』のサイトに書き込んだら美少女が訪ねてきた。
曰く『死神たん』のサイトは自殺志願者にしかたどり着けない。
曰く『死神たん』のサイ――――。
嘘かほんとかわからない情報がネットの海に混在する。
『死神たん』もまたその一つだ。
それが真実であるかどうかは『死神たん』に直接触れたものしかわからない。
――とっぷりと日が暮れ、明かりも付けず真っ暗な部屋の隅で震える少年がいる。
少年は日常的に実の親に虐待され、監禁され続けている。
少年は生まれてからこの方一度も外に出たことがない。
戸籍登録さえされていない政府に認知されていない子供だ。名前も付けて貰えなかった。
彼の世界は暗く締め切った四畳半のみ。
彼にとっての世界の登場人物は自分をいじめる両親だけ。
少年は言葉すら喋れない。文字を読むことも出来ない。教育を受けていないから当然だ。
彼は四畳半の部屋で今日も泣き続ける。
自分が流しているものが涙だと、悲しいという感情が何だかすらもわからないままに。
少年は怯えることしか出来ない。自分を加害する両親に。
少年は部屋から出ることはしない。自分を加害する両親が部屋の外にいるからだ。
今日は炙った鉄の棒を顔に押しつけられた。昨日は酒瓶で殴られた。一昨日は気を失うまで首を絞められた。その前はナイフで爪を剥がされた。
少年には常識はない。これは少年にとっての当たり前の日常だ。だが、少年は辛かった。
少年はその辛い気持ちをどこにぶつければいいのか、それすらわからずにいた。
この日、いつもと一つ違うことがあったとすれば、少年をいたぶった両親がスマホを少年の監禁されている部屋に落としていったことだろう。少年は初めて見るそれに興味を引かれた。
好奇心という、少年にとっては謎の引力が少年の手を引っ張ったのである。
少年がスマホを手に取ると、画面が自動で点灯した。
画面にはURL入力済みの検索エンジンが表示されている。
少年は初めて見る文字列に恐る恐る手を伸ばし、触れた。
スマホの画面に『死神たん』とポップな文体で大きくロゴが表示される。
サイトには美少女のCGイラストが描かれている。
そして画面の真ん中には「死にたい方はこちらヘド―ゾ」とバナーが張ってあった。
少年は繰り返すが文字を読めない。
だが、再び謎の吸引力によって本能を刺激させられ中央のバナーへ指を動かされた。
画面に指先が触れる。
すると、カレンダーが表示された。
死亡予約日とオプションサービスについて記載されたページのようだ。
少年はよくわからなかったので初期設定の「おまかせ」を選択。
――その五秒後。
窓が破砕しガラス片が散った。
「撲殺☆爆殺☆デストロイ♪ 死神たん唯今参上デス!」
大鎌を手にしたゴスロリ衣装のツインテール少女が窓を蹴破って侵入してきたのだった。
「どーするデスか? 死ぬデスか? 今ならまだ間に合うデスよ? ただし、違約金は貰うデスよ?」
死神たんを名乗る少女が言っても少年は首を傾げるしかない。
少年は人が死ぬと言うことすらも知らなかったのだ。
「オプションは無しで死亡方法はお任せデスか?」
死神たんは念のために聞く。
依頼人の最後を飾る美しい死を提供するのが死神たんのポリシーである。
死神たんは魂を貰う対価として依頼人の最後の願いを叶えるべく奔走するのである。
死神たんは少年の胸元へと手を伸ばすと、青白く燃える魂の炎を取り出した。
魂の炎と少年の体は未だ炎で出来た線で繋がっており、死神たんの手の中で炎が鼓動する度に少年へと生きるエネルギーを送還し続けている。
死神たんの目は少し特殊だ。
魂を見る事でその人物の産まれた日からの人生が全て見えるのである。
「これは酷いデスね」
死神たんが垣間見たのは少年が虐待されるだけの記憶。
故に少年には自我すらもなかった。自我がないから望みもない。
いや、彼が自ら行動したことが一度だけあった。
『死神たん』のサイトへのアクセスである。
そこで、ようやく死こそが少年の一番の望みだと死神たんは理解した。
「……ならばサクッと終わらせちゃうデスよ」
死神たんは背負った鎌を構えると、手の中で鼓動を続ける魂と少年の間を結ぶ炎の線を断ち切った。
糸が切れた操り人形のようにその場から崩れ落ちる少年。
倒れた時には既に呼吸は止み心臓も止まっていた。
散々虐待され体に傷を刻み続けた少年だったが、最後に死へ至る一撃のみ外傷がなかったのは何の皮肉だろうか。死神たんによる死は痛みを伴わない死であった。
証拠に少年は安らかな顔で床に倒れている。
まるで地獄から解放されて安堵したかのように笑みを浮かべていた。
そして、少年が笑ったのは産まれて始めての経験だった。
尤も本人は笑ったことを自覚する前に死んでしまったが。
死神たんは独りごちる。
「……死ぬことしか救いがないってのも罪デスねぇ。生きたくても生きられなかった私が言っても詮無いことデスが」
死神たんは死を求めて今日も宵の町を駆ける。
『死神たん』は人間社会の闇でひっそりと日常に潜む絶望の匂いを探している。