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クリストファー王  作者: ゆきんこ
8/21

ハロルド・オルコット

ただ王子様というだけじゃないか

今まで俺が作り上げてきたものはなんだったんだ

去年までみんながこの俺を持ち上げていたのに…

まだ4年生だから生徒会長にはなれないけど、ほぼ俺が生徒会長として君臨していた

上級生までこの俺になにもかも頼りきって、この学園はこの俺のものだった!

あのクリストファー王子が入学してからは…

腹が立つ

噂が本当ならあの王子はとんでもない奴じゃないか

それをみんな知らないはずないのに

王子というだけで…

遠目から見ただけでも王子の周りにはいつも誰がいる

ついこの間まで俺の取り巻きだった連中まで王子のご機嫌伺いをしているありさまだ

本当に腹が立つ

いずれは俺が宰相としてあの王子の隣に立つわけだから今からでも側にいた方がいいのだろう

だが、俺はあの王子が嫌いだ

これが嫉妬だとしても、あんな噂が立つような王子だ

碌でもないに決まっている


日に日に俺の周りから人が減っている

明らかに王子の側に移っている

俺は今までこの学園に尽くしてきたと自負している

今日だっていつもと同じ日常のはずだった

いつものように生徒会のサロンに行った

そして、そこには王子がいた

いつも俺が座っている長椅子に腰掛け茶を飲んでいた

嫌みのような金色の髪を輝かせ、なんでも見透かすようなあの青い瞳が俺の中の恐怖を呼び出す

なんだ?

あの青い瞳から逃れたいのに逃れることは出来ないと本能が叫んでいた

上級生が俺に王子を紹介した

王子は誰にでも向けているであろう笑顔を俺にも向けてきた

ここで王子に敵対行動をするのは得策ではない

王子への嫌悪感を隠しながらも当たり障りのない笑顔で返した

もうここは俺の憩いの場ではない

ああ、生徒会はもう王子のものだ

本当に腹が腹が立つ


「それで?俺がここに呼ばれたのは彼を紹介したかっただけですか?」


この上級生は王子に俺を紹介したかった?

余計なお世話だ

いずれは俺が王子の隣に立つことは決まっているのだからそんなことしなくてもいいのに

この上級生は王子にも俺にもいい顔がしたいだけなんだろうな

王子は優雅に茶を飲んでいた

女生徒はその姿だけでうっとりとしている

馬鹿じゃないのか

ついこの間まで俺の隣に立ちたがっていたくせに

とんだ牝犬どもだ

大体俺はこの王子の噛ませ犬じゃない

どうしたらこの王子を失脚させられるんだ?

王子というだけの絶対的地位

別にこの王子が国王になることに反対しているわけではない

そりゃ、次の国王にはこの王子の従兄弟だというダニエル様の方がいいとは思うが、ダニエル様は体が弱いというから心配ではある

それでもこの王子よりはマシじゃないかと思っている

あんな噂がある王子だ

誰だって不安に思うだろう

これは誰もが思っていることだと思う

せめて学生のうちはこの王子に仕えることはないと思っていたのに

親父にも無理に王子に近づくなと言われていた

王子がこっちをじっと見ている

俺なんか見てもつまらないだろうに

一体なにを見ているんだ?


「ハロルド先輩は俺が嫌いなんだな」


は?

なにを突然言い出すんだ?

嫌いだ

もちろん嫌いだ

今すぐ目の前から消えて欲しいと思っている

将来王子に仕えることは決まっているのだから今くらいは嫌いでも構わないだろうに

そんなことを言われてはやりにくくなるじゃないか

なんだこいつは?

周りの連中だってどうしたらいいのか戸惑っているじゃないか

まあ俺につく奴なんていないだろうが…

当然否定はした

でも、この話はすぐに学園中に広がるだろう

貴族なんて連中は噂話が好きだからな

誠か嘘かはどうでもいいはずだ

ああ、本当にこの学園での俺は終わったな

王子に楯突いたわけでもないのにこの失脚…

親父にでも知れたら俺はもう跡継ぎとして見てもらうことも出来ないだろう

地味な弟に家督を譲る事になるとは考えた事もなかった

一体俺はなにをしたんだ?

ただ王子と挨拶をしたというだけなのに…

なにか嫌われてしまうような事をしただろうか?

誰かに王子が嫌いだと話したこともない

俺が王子が嫌いだという素振りは見せてはいないはずなのに

学園に居場所もなくなり、家にも居場所はなくなるだろう

俺のこれからはどうなるんだ?

王子の不用意な一言のせいで俺の人生真っ逆さまだ

あの地味な弟に見下されると思うと吐き気がする


「おい。ハロルド、殿下を睨み付けるとはどういう了見だ?」


生徒会長に胸ぐらを捕まれた

睨んでいる自覚はなかった

反抗しようものならどうなるのか…

もう俺の人生は詰んだのだからどうでもいい

否定する気も肯定する気ももてなかった

それでも一応否定はする

俺はこんなに感情を外に出すようなやつだったか?

王子さえ入学してこなければ俺の地位は盤石なものになったはずなのに

親父の跡を継いで宰相としてこの国の礎となるはずだったのに

この生徒会長だって俺に付き従っていた一人なのに

ここからどうやって持ち直せばいいんだ?

王子におべっかを使えばいいのか?

嫌だ

どこまで落ちようともこの王子におべっかを使うなんて考えただけでも虫酸が走る

あの弟に助けを求める事も嫌だ

考えられない

ああ、この想いいつか王子に返してやる

俺はこの日学園を辞めた

家にも帰らなかった

いつか王子にこの想いを返すことだけを誓い生きていく

破滅に向かうとしても構わない

この王子さえどうにかできればそれでいい

俺に賛同するやつは必ずいる

あんな噂がある王子だ

王子の廃嫡を望むやつは絶対にいるはずだ

絶対に俺は返り咲く

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