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クリストファー王  作者: ゆきんこ
4/21

アリス 14歳 ③

潮風は爽やかな喧騒を届けてくれるものだと思っていた

だけど今この港町は静かだ


「港町ってこんなに静かなんですか?」


ヴィンセント君がそう思うのも無理はないと思うくらい静かだ

以前来たときはもっと賑やかで活気があったと思うけど、王子は気にする様子もなく近くの料理屋へ入っていく


「クリストファーっていつもあんなに自由なんですか?学校で羽根伸ばしているだけかと思ってましたけど?」


自由じゃない王子をわたしは見たことがない

いつだって気紛れで自分勝手で傍若無人

おかげでいつもわたしは振り回されて…これから夏を嫌いになりそうだ


王子はすでにテーブルについていた

給仕のお姉さんがメニューを持って来て


「もしかしてお客さん海魚の磯焼き食べに来ました?」


目線はしっかりヴィンセント君に向いている

まあこれだけ綺麗な人なら見ていたくなるよね


「もちろん。それ頂戴」


お姉さんは残念そうに


「ごめんなさい。今海魚が不漁でご用意できないんです。」


王子のご機嫌だった顔にヒビが入ったように見えた


「それ以外でしたらこちらがおすすめですよ」


笑顔でヴィンセント君にメニューを見せていた

慣れているのかな?ヴィンセント君は顔色一つ変えずにお姉さんをあしらっていた


「…出る」


お姉さんは残念そうにヴィンセント君を見送っていた

何店舗か回ったがどこも海魚はなかった

貴族御用達の店でも出すことが出来ないと断られた

あからさまに王子の機嫌が悪くなっていた

嫌だな…

ホント、イヤな予感しかしない

ご機嫌な王子もイヤだけど、機嫌が悪い王子も手が付けられなくなる

あーこのまま帰りたい

どうも海魚が不漁なのは昨日今日の話ではないらしく、2週間くらい前から沖に海獣が大量発生したらしい

どうしてこのタイミングなんだ?

このままじゃ王子が納得して帰らないじゃない

本当にこの王子は面倒なことを寄せてくれる


「おい。沖へ出るぞ」


唐突に、いや…ある程度予想はしてたけど、王子は港に向かう道すがら言い出した


「は?」


「やだ。」


それって海獣退治ってことでしょ?

ほら、ヴィンセント君だって嫌がっているよ?

これって普通の感覚だと思うけど?


「まさかですけど、海魚のために海獣退治するってことじゃないですよね?」


ヴィンセント君の顔が青ざめていた


「そうだけど?アリスがいるから海獣くらい倒せるさ」


なにを簡単に言っているんだ?


「アリス様がいるからって…海獣一頭に艦隊を組むくらい慎重にいくと聞きました。ここは海洋騎士団に任せるべきじゃないですか?」


「ケルベロスもいるし、大丈夫だ。海魚が食べられないことのほうが重要だ」


欲望に忠実ですこと

ヴィンセント君が言っていることはもっともだよ


「ケルベロスってこの小犬ですか?」


あ。

このバカ王子は…

このケルベロスは魔王城を守る三つの頭を持つ魔犬、悪魔だ

王子のせいでこの悪魔と契約をすることになり、普段は小さな黒い小犬の姿でわたしにまとわりついている

特に害はないが、王子はこの悪魔が側に居ると魔術が使えるようになった

次期国王ともいえる王子とその側仕えが悪魔と契約していることがバレることはあまりよろしくない

精霊契約と違い悪魔だし

あまり良いものではないし

なのに、この王子は全く気にしていないような…


「ケルベロスが居れば俺も魔術が使えるからな。それにアリスだぞ?」


ドヤ顔で言われても…

それじゃヴィンセント君だって納得しないでしょ

それじゃあ説明にもならないし、ケルベロスのことのバラす気なのか?

ん?

なんでわたしが居れば大丈夫って空気になっているの?

港からでもわかるくらい沢山の海獣が沖にいた

あの数、なかなか見られるものじゃない

壮観ともいえる

港では騎士たちが海獣討伐の準備をしていた


「騎士たちはあの海獣の数に対して一隻で行くつもりですか?」


出向準備している船が一隻しか見当たらない

戦艦とはいえ船一隻では自殺行為だ

海獣一頭だけでも脅威だというのに、あの数の海獣を相手にするには戦力が足りなすぎる


「さあ、いざ行かん。海獣退治!」


王子はすでにその船に乗っていた

慌ててわたし達も後に続いた

身分を明かしたのか王子は船の中でふんぞり返っいた

騎士たちはこちらを気にしながらも準備を進めていた


「クリストファーなにか策はあるんですか?」


ヴィンセント君はこめかみをひきつらせている


「策を練るのはヴィンセントの役だ。俺は指揮を執る役だぞ?」


「それじゃあ今すぐ船から降りましょう」


「ダメだ。それじゃあ海魚が食べられない」


そんなに食べたいの?

王子は幾らでも贅沢なものを食べらるじゃない

そこまで拘らなくても…

ヴィンセント君は深く息を吐いた


「指揮官でしたら港で待っていればいいでしょう」


随分と冷たく言い放ち、王子はそれにも全くめげることもなく海魚に拘っていた

ヴィンセント君の説得の甲斐もなく船は出向してしまった


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