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クリストファー王  作者: ゆきんこ
3/21

アリス 14歳 ②

「はぁ。ヴィンセント様にですか?」


お屋敷の使用人は困惑した顔をしていた


「そ。クリストファーが来たって伝えてくれる?」


この王子はわかっているのだろうか?

使用人のこの困りきった顔を

満面の笑みの王子の後ろに立つわたしをこの使用人は無遠慮に見てくる

王子と一緒にいるとこんなことは多いから慣れてはいるけど、嫌な気持ちになることは変わらない


「では、こちらへご案内いたします」


使用人は恭しく頭をさげ案内しようとする


「いや、こっちでいいよ。もう馬車疲れちゃって」


なんてことを言いながら王子はホールの端にある扉へ向かった

使用人はどうにか自分達の案内したい方へ王子を誘導しようとすが、どうにもならなかった


"王子の自由は誰にも止められない”


王都では誰もが知る格言だ

王子が勝手に入った部屋は一応応接室の体をしていた

一応というのも貴族の屋敷の応接室といのは無駄に広く、高そうな調度品を並べ、ソファーを鎮座させた部屋が多い

ましてや王子を案内する部屋となれば家の見栄を張るようなものになる

この部屋には小締まりとしたソファーがあり広くはないがキチンとしている印象がある

薪割りの音が聞こえてくるくらいだからこの部屋は使用人や出入りの商人などを案内する部屋なのだろう

王子はソファーに座り込むと足を投げ出した

いくらなんでも行儀が悪い

王子としての慎みを持てと言ったところで聞きやしないが、行儀だけはキツく叱ってくれと王妃様に言われていた

王子と同い年のわたしにそんなことを頼む王妃様もどうかしていると思う

王子が投げ出した足を引っ込めた時にドアがノックされた


「この度はこのフォックス家にご足労頂き誠にありがとうございます。クリストファー王子殿下」


ん?

物好きな学友としては年が過ぎているような気がするし、当主としては若いよね?

ブロンドの髪を丁寧に後ろへ撫で付けた髪型はこの人には似合ってないと思った


「当主不在に付きましてこのウィルフレッドが代わりにご挨拶さていただきます」


使用人が用意してきたお茶をテーブルに並べた

お茶菓子の焼菓子がおいしそうだ


「ところでそちらのお嬢さんは?」


ウィルフレッドさんも無遠慮にわたしを見てくる


「…お下げ頭に赤いローブ。腰にサイズのおかしい剣。そして黒い小犬!?まさか…人間ではなく秘密裏に開発された人型兵器と噂されている"深紅の子供”?」


独り言漏れてるし

たまに居るよ

本気でヒト扱いしてくれないやつ

しかし、そのダサい二つ名どうにかならない?


「本物の王子一行!?」


えーこの人わたしたちを偽物だと思っていたの?

ちゃんと王子は名乗っていたけど

なんでわたしを見るまで本物だと思わなかったの?

仮にも貴族でしょ

当主の代わりに出てきたくらいなんだから跡取りじゃないの

…この家大丈夫かな?

王子はウィルフレッドさんの話しをつまらなそうに聞き流していた

後ろから見ていてもわかるくらいだもの、正面にいるウィルフレッドさんにもしっかりと…

あ、この人テンパり過ぎて気がついてない


「で、ヴィンセントは?」


とうとうウィルフレッドさんの話しを遮った


「今ちょっと外せない用があって」


王子は不意に立ち上がり窓を開けた


「おーい!ヴィンセント!」


薪割りの音が止まった


「遊びに来たぞ」


なにかを放り投げる音がした


「この俺を待たせるくらい大事な用って薪割り?」


窓の縁に寄りかかり、王子は腕を組み口許だけニヤリと笑った

あの顔を大抵の人は怖がる

王子はどんな顔をしたら人が傅き怖がるのかわかっているらしい

例に漏れずウィルフレッドさんも怖いらしい

あたふたとしながらなにか言い訳を繕っているが王子は聞き流している

ノックもなしにドアが開いた


「なぜいるのですか?」


こいつか物好きな王子のお友達は

真っ黒な髪に真っ黒な瞳

切れ長な目元に極め細やかな肌

城には整った顔をした人が多いから見慣れているといってもこの人は美しさは別格だった


「なぜって、友人の家に遊びに来ただけだ」


なんで王子はいつもあんなに自信に溢れているのだろうか?

人の迷惑なんて考えたことのないやつはきっと王子の他にはいないと思う


「ヴィンセント。客人に対してその態度はなんだ」


ヴィンセント君はウィルフレッドさんを一瞥すると


「これは客じゃありません。すぐに追い返してください」


王子をこれ呼わばりする人がわたし以外にいるとは思わなかった

寄宿学校ではこのヴィンセント君に迷惑を掛けていることが容易にわかった

やっぱり王子の独り善がりじゃない


「酷いな。俺はモノじゃないよ?」


「…なにしに来ました?」


冷たい…

綺麗な顔をしている分言葉のトゲが際立ち、冷たい印象を与えていた


「ヴィンセント。クリストファー王子殿下の御前だぞ。態度を改めろ」


ウィルフレッドさんは至極真っ当なことを言うが、この王子の前じゃおかしなことに聞こえてくる


「兄様…すみません」


そんなに嫌々謝らなくても

…てか、兄弟なの?

ちっとも似てない

ウィルフレッドさんが不憫だけどさ、別にこの人が言っていることはおかしくないよ?

臣下の者であるはずの貴族としては敬わなければいけないはずだよ

まあ、相手がこの王子だからおかしいってだけ


「遊びに来たのだから用意しろ」


突然すぎる言い分だった

この場にいる誰もが理解するのに時間が掛かった

いきなり来てなにを用意しろというのだろうか?


「山も良いが夏と言えば海だろ?行くぞ」


はい?

わたしなにも用意してないけど?

王子と行動するにあたり一泊くらいどうってことがないようにしてはいるけど、海に行く用意はしてない

てか、家を出る前に教えてよ…


「ア…アリス。苦しい…」


あ。

気持ちに任せて王子のこと締め上げていた。


「ごめんなさい。ついムカついたから」


さすがにみんな顔が引き吊っていた

ヴィンセント君だけがちょっと残念そうな顔をしていたけど


「いきなり過ぎて話が追い付きません…クリストファー、一人で完結してしてないでちゃんと説明してください」


この王子にまともな説教をする人がいるなんて思わなかった

幼い頃から王子殿下と次期国王と崇められて王子自身をちゃんと見ようとする人なんて殆んど居なかった

遊び相手と呼ばれた貴族の子供達も粗相がないように気を使う連中ばかりだった

王子に対して生意気な態度をとるのはわたしだけだった

だからヴィンセント君は意外だ

王子の寄宿学校での生活に少し安心した


「まず一緒にいるこちらの方はどなたですか?」


「はじめまして。騎士アリス・トワイニングです」


王子に変な紹介をされる前に名乗った

いつだったか、王子の紹介で嫌な目にあった覚えがある

王子は夏休みだから海で避暑をしたいらしい

寄宿学校が夏休みだからといっても王子には公務がある

それを放り出してまで行くとは呆れる


「勝手に行ってください。僕は関係ないです」


ヴィンセント君…王子がここにいる時点で君の自由はもうないよ


「折角王子殿下自らお誘い下さっているのに、なんだそれは?フォックス家の人間とし恥ずかしくない振る舞いをしろ」


ほらね


「…おまえには難しいか」


ウィルフレッドさんヴィンセント君にちょっと当たりが強い?

ヴィンセント君の格好もウィルフレッドさんのものに比べるとかなり質素だ


「さあ、決まった。フォックス家の人間として恥ずかしくない振る舞いを!」


すっかり楽しそうに王子はヴィンセント君の肩に手を回す


「クリストファーこそ王子としての…」


「それはどんなに言っても無駄だよ。一度だって聞いたことがないよ」


そのまま王子はヴィンセント君を拉致するように屋敷の外へ連れ出してしまった

かわいそうにヴィンセント君もまともな準備をさせて貰えずに海に向かうことになった

この王子に関わった時点でされるがままになっていまうことは仕方がない

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