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クリストファー王  作者: ゆきんこ
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マチルダ ④

いつだって陛下は自信に溢れており、いつだって輝いております。

陛下は短剣で縄をほどき、扉に向かいました。


「さすがに鍵が掛かってる…」


扉を押すとそのまま開きました。


「開きました?」


「開いたね」


陛下は苦笑いを引き締め、扉の隙間から外を覗きました。

誰もいない事を確認し、私の手を引き


「大丈夫。さぁ行こう」


部屋の外は中と同じように石造りの窓のない廊下でした。

魔法の灯りが転々とし、陛下に手を引いて貰わなければ怖くて歩くこともままならなかったでしょう。


コツン。コツン。コツン。


私達とは別の足音が聞こえてきました。

全方からか後方からかわからない足音に陛下は警戒し、壁を背に私を背中に隠します。


「…やっぱり。鍵掛けてなかったよね?」


前から歩いて来たのは馬車に乗り込んで来た人でした。


「戻ってくれないかな?血見るの嫌いだから言うこと聞いて欲しいな」


その人は笑っていました。


「なんで?」


陛下はいつもと変わらない調子で話します。


「??えっと…王子様とお姫様は僕に捕まった。これはわかるよね?」


その人は首を横に倒しました。


「お前こそわかっているのか?」


その人はゆっくり首を戻します。


「俺は次期国王。こっちはその花嫁で、隣国の姫君。お前が処刑されるだけじゃ済まない相手だぞ」


「それで?本当はそこのお姫様の暗殺依頼だったけど血見るの嫌だから拐ってみた。むしろ生かされていることに感謝して欲しいくらい」


その人の笑みは崩れることがありませんでした。


「でも、面倒臭いことになるなら殺すよ?」


背中に冷たい汗が流れました。

私は陛下の後で怯えているだけでした。

その人がいるだけで怖いのです。

その人の笑顔は人形のように心がないのです。


「ん~…うん。もう面倒臭い」


突然でした。

その人の前に氷の矢が現れたと思ったらこちらに飛んで来ました。

陛下は氷を短剣で払い落としました。

氷の矢は数を増やして飛んで来ます。

それを陛下は払い落とします。

陛下は私の肩を抱き、払い落とせなかった氷の矢を避けました。


「逃げないでよ。面倒臭い」


「攻撃やめたら逃げないよ?」


「王子様の命を狙っているわけじゃない。 そこのお姫様に死んで欲しいだけ。王子様はついでだけど」


続く攻撃を避け、避けきれなかった氷の矢が陛下の左足を掠めました。

掠めただけなのに左足は氷り陛下は膝を付きます。


「クリストファー王子!?今治療魔法を」


私は 陛下の足に治癒魔法を唱えました。

このまま足がダメになってしまったら…

自分の命が狙われていること以上に怖かったのです。

私がいなければ陛下は難なくこの場を過ごせたでしょう。

涙で視界が霞みます。

怖くて

なにも出来なくて

悔しくて

情けない


「だから僕血見たくないんだよ。おとなしく殺されて?」


いつのまにかその人は剣を抜いており、笑みを絶やすことなく近づいて来ます。

どうか陛下の足が治るまで来ないで欲しいと拙に願いました。

陛下は黙ったまま俯いております。

そして側にはいつの間にかアリスさんの連れていた小犬がおりました。


「術式完了」


突然立ち上がる炎にその人は立ち止まり、こちらに向いていた氷の矢はその力を失い水へと変わります。

陛下は顔を上げます。

その人の胸には陛下の持っていた短剣が刺さっておりました。


「…あれ?どうして?…」


その人は首を横に倒しました。

胸に刺さっている短剣を抜き、投げ捨てその人は膝を付き崩れるように倒れました。

倒れたその人の下に赤い水溜まりが広がっていきます。

人の死に触れたのは初めてでした。

動かなくなったその人が急に気持ち悪く感じ、広がる血溜まりが怖いと感じました。


「もう大丈夫だよ」


陛下は微笑み私の手を取り立ち上がります。

なんでもないように微笑む陛下を少し怖いと思いました。

また、このような目に何度かあったことがあるのだろうかと…

あの数々の噂の中にほんの少しの真実が紛れているのかなと思いました。

手紙でのやり取り、僅かな時間の逢瀬では陛下を知ることは難しいものだと知り…


キャンキャン


小犬が陛下の足元で戯れております。


「ケロちゃん!助かった!」


どこからともなく現れた小犬に驚きを交えません。

小犬が一声泣くと、私達を囲むように光が包みます。

瞬く間なく私達は月明かりの注ぐ森の中におりました。

なにがあったのかと戸惑っているとアリスさんの声が聞こえました。


「大丈夫?クリス。マチルダ様?」


小犬は嬉しそうに尻尾を振りながらアリスさんの元へ駆けて行きます。


「大事な花嫁様くらい守れるって聞いたんですけど?王子様」


「ああ、だから怪我もなく無事だぞ」


陛下は胸を張っておっしゃいました。

アリスさんは呆れながらも事の次第を陛下に報告しました。

恐怖と緊張から解放され気が緩んだのか私は立っているだけ精一杯でした。

その事に気付かれていたのか陛下は私の肩を抱き支えてくださっていました。

私への暗殺依頼…

事なきを得たといってもショックは大きくこの時はまだそれを感じてはいませんでした。

アリスさんの話を聞いた陛下は苦虫を潰したような顔をされていました。


「そうか。ダニエルも…すまなかった。マチルダには怖い思いをさせてしまった」


どこか陛下は悔しそうでした。

陛下が望んでいた結果とは違うものになってしまったようです。


「マチルダ様にも合わせご報告があります」


アリスさんはどこか言いにくそうにしておりましたが、一度深く息を吐き話しました。


「姉姫様ご夫婦が刑を処されました」


アリスさんが何を言っているのか判りませんでした。


「お二人の今度の婚礼を利用し…」


私のこの結婚を一番心配してくださっていたのは姉でした。


「マチルダ様の殺害を我が国もしくは兄王子様の

…」


まさか私を…

血を別けた兄妹を…

言葉にも思いにもならないコレは一体なんでしょうか?

心が冷え動きを止めていくような気がしました。


「マチルダ。笑って?」


陛下は私の顔を両手で包み込み


「マチルダが笑っていられるようにするから」


夜にも関わらず、陛下の金色の髪の毛は太陽のように明るく、澄みきった青い空のような瞳が私を優しく包み込んでくれるような気がしました。

私の知っている陛下はとても優しく誠実な人です。噂にあるような自分勝手な人ではありません。



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