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クリストファー王  作者: ゆきんこ
12/21

バート・ベネット

あそこを歩いてるあの坊主、スゲー綺麗な金髪だな

あんな見事な金髪なかなかいないぞ

糊のきいたあのシャツ、良いとこの坊っちゃんだな?


「おーい、そこの坊っちゃん。そうだよ。あんただよ」


坊主はこちらに気がつくと人のいい笑顔を向けてきた

そう簡単に笑顔を見せるなんて、世間を知らない坊主だこと

だけど、なんだ?

あの坊主の青い目はこちらを見透かしているんじゃないかと不安になる

見たくなくてもあの青い目は見なくちゃいけない気がしてくるのはなんでだろうな


「なあ、ヘアカットのモデル頼めないか?練習させてくれる相手を探しているんだがなかなか見つからなくて」


「俺でいいのか?そろそろ切ろうかと思っていたから助かる」


随分と間単に返事をくれるな

もしかして箱入り坊主なのか


「あ、でもお代はどうするんだ?」


そんなもの考えてなんかない

今はいらないでいいだろう

綺麗な金髪なのにボサボサじゃないか

もっときちんとしたら童話の王子様にでもなれるんじゃないか?

まあ、俺が切ってしまうんだから王子様にはなれないな

でも…なんだかハサミをいれるのがもったいない

本当にいいのか?

坊主は俺の葛藤なんか気にせず俺に髪を触らせている

まあ、いいか

俺に髪を弄らせる坊主が悪い


「さあ、出来た。どうだい?」


坊主は鏡を覗き込み、しばらくじっとしていた

頭の後ろに手をあててはしきりに頷き、前髪を下に引っ張っては笑みをこぼしていた


「いいね。すごくいい。俺気に入ったよ」


本当にいいのか?

前髪は適当に切ったせいでがたついているし、後ろは刈り上げだぞ

こいつ…どんなセンスしているんだ?


「おい、バート。金の用意は出来たのか」


ドアをぶち破る勢いで3人の男達が入ってきた


「ヤバい…」


俺のつぶやきに坊主が反応した


「まだ…出来ては…」


男達は俺の胸ぐらをつかみ


「約束の日は過ぎてるだろ?いつまで待たせる気だ!」


男の一人が坊主の肩に手を回し、頭をがしがしといじる


「なかなかいい頭にしてもらったな。坊主」


「そうだろ。自分でも気に入ってるんだ」


状況がわかっているのかいないのか得意気にこたえていた

大丈夫か?こいつ…


「そんなに気に入っているなら手間賃ははずんだろ?」


「…そうだな。お代は要らないって話だったがここまでよくしてくれたのだから払わなくてはな」


そう言って坊主は財布を取り出した

それを男が奪い取って中を覗いた


「こういうものの相場がわからない。幾らぐらいが妥当なんだ?」


男は坊主の顔と財布の中を見てあんぐりと口を開けた


「随分と持っているじゃないか。銀貨なんて…おまえ良いとこのお坊っちゃまか」


男は銀貨を取りだしまじまじと見ている

普通に生活をいれば銀貨などそう使うこともない

本当にお坊っちゃまなんだな


「そんなに入っていたか?銅貨しか入ってないと思っていた」


坊主は気にする素振りもない


「その銀貨じゃ足りいないな」


俺の胸ぐらをつかんでいた男が言う

銀貨じゃ足りないってどんなぼったくりだ?

流石に坊主も驚いている


「そうか…そんなにするのか…」


坊主はなにかを考え込み始めた

そりゃ髪切るだけにそんなに掛からないだろ

この男、雑だな

まあ普通は銀貨を持っているとは思わないよな


「どうするんだ?坊やのパパにでも払ってもらうしかないよな」


「それはダメだ。こんな事知れたらただじゃ済まない」


お忍びか?

世間を知らな坊っちゃまが一人で街を歩いているのが悪い

どこのどなたか知らないがありがたいな


「次ここに来るときじゃだめか?」


坊主は男達に交渉しているがどうにもならない

仕方がないだろう

男達はこれで飯を食っているんだ

蝶よ花よのお坊っちゃまとは違うんだ

諦めた方がいい


「払えないって言うなら坊やにどうにかしてもらうしかないよな」


そのまま男達は俺と坊主を連れて行くことにした


「すいませんね。巻き込んでしまって」


「なにを謝る?」


坊主はわからないと首をかしげた。

連れ去られたこともあまり重要視していないようだし、どこまで箱入りなんだ?

逆に心配になってくる

状況をわかっているのだろうか

いくら殴られても家名を言うこともないし、どこか楽観視しているような気がする

まあいいや

金になればなんでもいい

この見事な金髪に青い目

ちょっと整えればいい商品になる

犬畜生や亜人、人間でもなんでも商品になる

ちょっと目利きが出来ればなんでも金になるんだ

世間知らずの坊主には運が悪かったと諦めてもらえばいい

さあ仕事の時間だ


「やっぱりあんたはそっちの人だったな」


なに?

さっきまでちゃんと俺は怯えてみせていたじゃないか

ちゃんと気弱な男をやっていただろ?

バレても問題はないが、なにか引っ掛かる

気持ち悪いな


「パパの名前が言えなくても坊っちゃんの名前くらいは教えてくれてもいいんじゃないか?」


名前なんてどうでもいいが、ちょっとは知りたいじゃないか

気になるってのが人の性だろ


「クリストファーだ」


そこは随分と間単に教えてくれるんだな

…クリストファーってあの噂の王子と同じ名前か

あの王子には近づくなっていうのが常識だ

まあここまでの箱入りなら王子ではないだろうな

なにせあの噂だ

それにしても不思議なやつだな

どうしてここまで落ち着いていられるんだ?

身ぐるみ剥がれて自由を奪われているにも関わらず、どうしてこの坊主は平気なんだ?

誰か助けに来るとでも思っているのか?

普通のやつならさっさと脅え卑屈になるって言うのにこいつはまったく変わらない

どうしたらへし折れるんだ?

まあいいか

この坊主との付き合いもここまでだ

商品台の上に坊主を乗せた

それでもこの坊主は平気な顔してんだな


「いい値がつくといいな」


「それで俺は自由になるのか?」


あ、やっぱりこいつも不安に感じてるのか?

顔に出ないだけで実は…

いや、違う

この坊主はそんなじゃない

だって、笑っていやがる

おかしいだろ?

自分に値段がつくとか

もしかしたら殺されるんじゃないかとか少しも思い付かないのか?


「どうして坊っちゃんは平気なんだ?」


いつもなら商品になった人間に興味はわかないし、話しかけるなんてしたことがないけどこいつだけは気になる


「平気?いいや不安だよ。帰ったら絶対怒られる」


帰ったらって…

帰れるわけがない

どうして帰れると思ってんだ?

もう陽の目を見ることもないってんのに

おかしいな…

よくわかんねぇけど、おかしい


「どうやって帰るつもりだ?」


そうだ

この状態で帰る手段があるわけがない


「そんなことは簡単だ。いつでも帰れる」


どこにその自信があるんだ?

こいつの目…この青い目に不安にされる

いつもと変わらない仕事なのに

乱暴に坊主の髪を掴み顔を引寄せ凄んでみてもこの坊主の様子は一向に変わらない

だが、一瞬青い目が光った気がした

見てはいけない青い光…

背筋に悪寒が走った


「俺に値が付くって、これは人身売買か?」


もしかして今まで気が付かなかったのか?

この坊主ならあり得そうだが

身代金が取れないやつは売ってしまえばいい金になるってもんだ


「これって犯罪じゃないか」


だからどうした

いい金になるんだからいいじゃないか

売られてしまったやつは気の毒だが、仕方がない

そいつの運が悪かったんだ


「王子である俺に値をつけようなんておまえらは命知らずだな」


坊主は人のいい笑顔を向けた

青い目だけは笑っておらず、恐怖が込み上げてくる

笑顔が怖いなんて思わなかった

…王子って言わなかったか?

まさか…な

だって王子様が目の前にいるとは思わないだろ

あ、こいつの名前゛クリストファー゛だ

あの噂のクリストファー王子なのか

それってかなりまずくないか?


「あんたが噂のクリストファー王子様っていうなら」


坊主は俺の言葉を全部聞かずに


「おいで。ケロベロス」


坊主の足元にいつの間にか黒い子犬がいた

子犬の頭を優しくなでると


「じゃあ帰るから。おまえらのことはちゃんと騎士団に伝えておくから逃げるなよ?逃がさないけど」


坊主はそのまま消えた

言葉の通り消えた

本当に王子なのか?

本物だったらまずい…

このままここに居ては捕まる

慌てて外に飛び出せば、俺は元の場所にいた

さっきまで坊主を乗せていた商品台の前にいた

おかしい…

なんで外じゃないんだ?

俺は何度も外へ向かった

それでもまた元の場所に戻っていてた

何度試してもかわらなかった

何度も同じ場所に戻るうちに実感がなくなっていく

俺はなにをしたんだ?

何度目だろうか?

やっと外へ出られたと思うと俺たちは騎士団に囲まれていた

クリストファー王子に関わってしまった…

知らずにとはいえ関わってしまった…

それが失敗だ

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