クラリッサ・ダーリング
陛下がお生まれになったときのことは今でもよく覚えております
朝より降っていた雨もご生母の王妃様の陣痛が始まってからは雷雨となり激しさを増しました
陣痛も雷雨も三日三晩続き、もうお二人とも無事では済まないだろうと諦めににた雰囲気が漂うなか王妃様だけが諦めることなく必死でおりました
私はお生まれになる御子様の乳母となるために隣室に控えておりました
乳母ですから私にも子があり共に控えていたのですが、いつもよく泣く子がこの時ばかりは静かにしておりました
まだ物心もつかない幼子でもこれからお生まれになる御子様のことをわかっているのだと関心したものです
とても大きな雷鳴が轟いた時でした
それはとても愛らしい王子様がお生まれになったのです
王妃様は意識がなく生死の間をさ迷っており御子様をその日お抱きになることが出来ず、お父上である王様は王妃様を心配され御子様にまで関心が回らなかったようでございます
いともせず私が一番に御子様を抱く名誉を頂いたのでした
御子様は私の乳を飲むとお疲れになった御様子ですぐに寝てしまわれました
王妃様は産後の肥立ちが悪くなかなか床を離れることが出来ませんでした
御子様を王妃様のもとへお連れすると喜ばれご調子が良くなるようでした
御子様の命名の儀も王妃様は立ち会うことが叶いませんでした
産毛だった髪の毛も綺麗な金髪に生え揃う頃には王妃様もお元気になられ安心致しました
陛下の髪は今でもそうですが本当に見事な金髪です
あのお生まれになった日に轟いていた雷鳴のように光っているような綺麗な髪色をしております
あの青い目はいつもなにかを語っているようで気になって仕方がありませんでした
陛下の元に貴族のお子様達が遊び相手として参りましたが、どのお子様達も陛下と馴染むことがありませんでした
親御さんの過度の期待がありすぎ、どの子も陛下に気を使うばかりで遊ぶことが出来ませんでした
その頃の陛下はなかなか笑うこともなく、我が子とも遊びが合わず、いつも一人でおりました
私や他の大人が側におりましたが、陛下が楽しそうに遊んでいた記憶はございません
お父上の王様やお母様の王妃様は仕事に忙しく、なかなか陛下と会うことも儘ならない時期でもありました
あの頃の陛下は寂しい想いをされていたことでしょう
その日もいつもと変わりなく陛下が一人で遊んでいました
あの伝説の魔術師ケンゾウ・ダート男爵がお孫様のアリス様を連れて参りました
赤いリボンのついたワンピースを着て赤茶けた髪をお下げにした可愛らしいお嬢さんでした
アリス様は陛下にご挨拶を済ませるとすぐにダート男爵に帰りたいと申しました
我儘なお子様は今までにもおりましたが、帰りたいという子はおりませんでした
全く陛下に意識を向けることなくお城の堅苦しい仕来たりなどを嫌がっておられるようでした
これも初めてのことでした
陛下からアリス様にお声を掛け、遊びに誘われたのです
どのようなお子様がいらしてもそのようなことは今までありませんでしたから驚きました
その日陛下はアリス様のお側を離れることなくお過ごしになりました
それからアリス様は陛下の遊び相手としてお城に上がることになったのです
笑顔の少なかった陛下もアリス様と遊ぶようになってからは笑うようになりました
表情の読みにくさは今も昔もかわりませんが表情の数は増えました
まだ幼いお二人ですから私や他の世話係の見ている所で遊ぶのが常でした
お絵描きやごっこ遊びなどどなたでもされている遊びよりもアリス様がお持ちになった魔術書や木剣を振り回して遊ばれることが多かったです
そのせいでしょうか
アリス様も陛下も今でもは魔術や剣に長けておりますでしょう
アリス様の祖父母であるダート男爵やトワイニング伯爵婦人の影響も大きいのしょう
いつものようにお二人で木剣で遊んでいるのだと思っておりました
ほんの一瞬お二人から目を離してしまったのです
お二人がいなくなってしまいお城の中では大変な騒ぎとなりました
お城の外へ出るにはお二人は幼すぎるため、お城の中にいるはずと皆で探しました
そんなか王様と王妃様だけは気にされていないようでした
どんなに探したことでしょうか
普段立ち入ることのないはずの馬屋も
こっそりと忍び込んでは怒られている台所も
いつも寝ている大きなベッドの下も
大臣の立ち会いのもと宝物庫の中も
用がなくては入れてもらえない王様の執務室も
アリス様がイキイキとされる騎士の稽古場も
時折かくれんぼをされる書庫も
王様と王妃様の寝室も
塔の一番上の埃のまう部屋も
思い付くまま至るとこを探しました
どんなに探してもどこを探しても見つからないのです
手が空いているものは立場も身分も関係なく城の中を探しました
おやつの時間になっても食事の時間になっても見つかりません
魔術師達の人探しの魔術でも見つからないのです
お城の外へ出てしまったのではないのか
誰かに誘拐されてしまったのではないのか
誰もが最悪の事態を思い浮かべておりました
本当にお二人はどこに行ってしまったのか心配で生きた心地が致しませんでした
そこは何度も探した場所でした
騎士の一人が謁見の間で王の椅子に座り寝る陛下とその足元で寝ているアリス様を見つけたのです
アリス様の手には失われた国宝<聖剣ミカエルの剣>が握られておりました
そのお姿はまるで未来のお二人のようであったと聞きました
夜も更けておりましたのでその日はそのままベッドび運びました
どんなに起こしても起きなかったというのもありましたが
朝になるとお二人は王様とトワイニング伯爵婦人のお二人にキツく叱られておりました
泣くことのへこたれることの少ないお二人ですが、この時ばかりは大きな声で泣かされておりました
大人振るお二人もまだ幼い子供なのだと思い知らされていたようです
アリス様の持っていた聖剣は陛下がアリス様に賜れたというのです
今までどこにあったのか定かでなかった国宝がなぜこの時に出てきたのか謎でした
そして未だに、お二人がどこで何をされたいたのかわからないのです
どんなに聞いてもお城の中にいたというのです
あんなに探したのに…
でもお二人が無事ならそれでよいのです
他になにを気にするものがあるのでしょうか?