1日目 ちょっと一息……?
皆さんこんにちは。今回は少し短めの個別パートとなっています。
気分が悪いので保健室に行くと言いつつも、ひゆと天河はまだ職員部屋の前に立っていた。とりあえず、先生に挨拶するわけでもないが、ひゆは教科書を借りるために残っている。
(とっとと借りて帰ろ…)
天河は扉をガチャッと開けて部屋の入口辺りまで入る。
「先生方、廊下で、倒れてる人いたんすけどどうしたええ?」
だが、その質問に返答は返ってこない。先ほどまで三島が挨拶に来ていたはずの部屋に、返答がないのは明らかにおかしい。
「…?先生?」
天河はひゆを背負ってそのまま部屋に入る。中に入ってみると、人数分のお茶とお茶菓子が置かれている。だが、そこには誰もいなかった。
「魔法使いのお兄さん、さっきの人何でここの前にいたの」
未だに天河の影の薄さが魔法だと思っているひゆは魔法使い天河に言う。
「さぁー、なんでやろうね」
「先生に会ってました、とか言ってたりは」
「いや、一言もいうとらんよ、ただ、失礼しましたくらいしか」
「怪しい...何か見えないの、魔法使いのお兄さん」
「せやな…とりあえず保健室行ってみよか」
そういって部屋を出ていこうとする天河。ひゆはそれに待ったをかける。
「ちょっと待って。これ挟んどく」
「…トランプ?」
「これで誰か来たらわかるでしょ」
そういってひゆはうさぎリュックからトランプを取り出し、1枚カードを取る。そして、それをドアの下の方に、見えづらい場所に挟む。
「じゃーいこか」
天河はひゆを背負ったまま保健室となっている部屋に向かう。保健室は反対側にあるので結構遠いところにある。疲れるのは天河だけでひゆには疲労も何もないが。天河はいいように使われながら保健室の前に来た。
「…別に怪しい音はしない。入ろ」
ひゆは背負われたまま、天河のことをこき使う。天河はそれに嫌そうな素振りも見せずにドアを開けた。
「せんせー、廊下に具合悪そうな人落ちとってんけど、この子どないしよ?」
「あらら、大丈夫?中に布団敷いてあるから、そこに寝かせてあげて」
部屋に入ると1人の女の先生が迎えてくれた。先生の名前は咲山 香織。学校の先生の中では1番美人だと言われていて、生徒からも人気が高い。有名な医大を首席で卒業していて、医学科の先生でもある。
天河はひゆをゆっくり下ろす。もちろんひゆは仮病で演技をしている。よく授業を抜け出しては保健室に来ているが、仮病のふりをしていたら絶対にバレることはなかった。といっても普段はふりなどせず堂々とサボっているため、よく庇ってもらったりしている。
「あ、と、袋ちょうだい、吐きそう」
(役に入りすぎた...)
「あ、そう言えば、ほかのせんせー方って、どこにいはるんですかー」
「さあ?部屋にいるんじゃないかしら。はい、袋」
ひゆは袋をもらうと少し辺りを見回す。自分の近くには少し小さめの救急箱と、医療に使う本格的な器具が置かれていた。ひゆはその救急箱を指差しながら言う。
「あの、これ借りていってもいいかな」
「あ、どうぞ。まだあるから」
「じゃあ、貰う...」
ひゆは渋々ではあるが救急箱をリュックにしまう。そして、いつまで経っても天河が話を続けないので、ひゆから話を続ける。
「咲山センセ、他の先生いないの。あっちの部屋、誰もいなくて、遠かったから、お兄さんに運んでもらったんだけど」
「え?先生達はみんな待機のはずなんだけど…」
「いなかった。でもボク具合悪くて変だったかも...お兄さんが入れてくれたから、多分、お兄さんの方詳しい」
そういって天河に目配せする。天河はそれに気付き話をする。
「あ、はい、誰もおらはりませんでしたよ。なんなら、今から咲山せんせーが見に行ったらどないですか?この子は自分がみとくんで」
「なら見てくるわ。大人しくしていてね」
そういって咲山先生は部屋を出ていった。それを見計らってひゆは天河に顔色を悪くしたまま話しかける。
「魔法使いのお兄さん、本当に何か知らないの…」
「なんか、知っとると思うか?」
「魔法使いさんだから知ってると思う」
ひゆは真顔で答えた。天河は少し呆れ顔でひゆに返事を返す。
「まぁ、魔法使いちゃうからしゃーないけど、これはにおうなー」
「咲山センセが怪しいってこと?それとも学校そのものが?」
そういうと、天河は少し壁に寄りかかりつつ自分の推測を答える。
「せやなー、あの部屋には血痕とか人の気配もせんかったやろ?やから、あの部屋に三島がおったのはおかしいやろ?何もないから、何もすることあらへんはずやしな。んで、自分らはどんなせんせーらがおるかも分かっとらんねん。もしかしたら、忍者みたいなんとかおるかもしれんやろ?」
「流石に変だってことはボクでもわかるけどさ。でもこれ外部からの犯罪なら、超ダサい。くっさい。だから多分内部でなんかあったんじゃないの、知らないけど」
「犯罪なら、警察に通報して…あ、しもた、せんせーら何人おるかきくんわすれとった」
ひゆは何やってるんだと呆れ顔で天河をみた。
「何人でも変わらないでショ。問題は咲山センセだけが残ってることじゃないの」
「いや、ここ、保健室やから、あの人おんねんやろ?」
「だって先生は全員待機っていってたジャン。先生達が何かしてるなら、咲山センセだけ残らないし。何かあるって疑っても可笑しくなくない?」
「持ち場に待機っていみやろ?」
「あっちの先生達みーんな持ち場から離れる事態なら咲山センセも招集かかるんじゃない?ま、犯罪じゃないならどっちでもいいけどサ」
「いや、どちらかというと、せんせーらが消えたことが問題」
「まあ、それはそうなんだけどサ…ん?」
ひゆは話しながらチラッと押し入れを見てみると、少しだけ開いていた。さらに、そこから何かが光ったような気がした。ひゆは演技しながら立ち上がって、押し入れをゆっくり開ける。そこには綺麗なビー玉が入っていた。中に朱色の石が入っている。
「なにこれ…とりあえずもらっとこ」
ひゆはビー玉をポケットにしまっておく。そして、すぐに天河から声がかかる。
「仮病やったら、そろそろ立てるやろ?ちょっと、はしるでー」
ひゆは天河に向かって腕をバッと広げる。
「…めんどくさいから、おぶるけど?」
「ん」
ひゆは天河の背中に乗る。リュックがあって乗り心地は悪いが、自分から動くよりはまだいいだろう。そして、乗ったらすぐに天河のリュックを漁る。中身はやはり記者らしいものしかないが、1つだけ不自然なものがあった。
「とうちょうき...趣味わる」
「あ、ちょうどよかった。ここの部屋のどっかに置いといてそれ」
「うわ、お兄さんそういう趣味あるんだ」
といいつつ、ひゆはビー玉が入っていた場所に盗聴器を入れる。趣味というか、明らかに犯罪な気はするがそこには目を瞑った。盗聴器をセットしたのを確認すると、天河は咲山先生が向かった職員部屋に足を進める。
「あまちゃんやなー、新入生。揺するネタは持っとくべきやねんで、この御時世」
「カチコミ起こるでしょ、それ...そんなだっさいやりかた、したことない。ていうかお兄さんそういうことするんだね」
「せやな、自分非力やからなぁー。まぁ、もし新入生が暴力団関係者とかやったら、こんなんせんでもええもんなぁ」
天河は少し怒りながら言う。ひゆはやっぱりバレてるよなぁと思う。
「は?なんで怒ってんの?お兄さんはお兄さんのやりかたでやれてるじゃん。非力なことでボクを盾にしないでよ」
「盾なら、もっとええ盾が自分と同じ部屋に二つあるわ」
「え、なに、身長足らないっていいたいの」
少し怒り目にひゆは答えた。天河は同じルームメイトを盾といって話を続けていた。はたから見たらただの最低犯罪者である。ひゆはそんなことを考えてはいないであろう。
「お兄さん案外いい性格してるよね。魔法使いのお兄さんが変人っていってたおばさんは間違ってなかった」
「そんな褒めやんでええよ、アハハ…ついたで」
棒読みな答えと乾いた笑いで言う天河。そして、いつの間にか職員部屋の前まで来ていた。挟んでいたトランプはやはり落ちていた。咲山先生はもういないようだ。ひゆは天河をペチンと叩いてトランプを拾うように促すも、天河は中に入り、ひゆをソファーに投げつけた。おでこを少し床にぶつけてしまい、少し悶えている。
「指、詰めるぞ...」
涙目なのでいつもほど迫力はない脅しは天河に効いてないようだった。ひゆはそのままトランプを拾う。
「ちょい減量しぃや。重くてかなわん」
「お兄さん非力すぎでしょ、だっさ」
天河は少し疲れたのか肩を軽く回す。ひゆはそれを見てイライラしながらげしげしと天河の足を蹴っていた。チラッと時計を見ると、時刻はもうすぐ勉強開始時間だった。時間を見てひゆはハッと当初の目的を思い出す。
「やば、そういえば教科書借りに来たんだった。先生いないじゃん。お兄さん、教科書貸して」
「あ、自分教える側やけど、もっとらんよそんなもん。大体覚えとるし」
「じゃあ教えて」
「おっと、もぅこんな時間か。これははしるしかないなー」
天河はひゆの声が聞こえないふりをして急いで部屋を出ていった。
(絶対遅刻だ…あ、仮病で保健室行ってよ)
ひゆは天河に恨みを持ちつつ保健室に向かった。その時同時に、勉強開始の放送がなる。
「皆さん、勉強の時間になりました。開始してください」
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