サヨナラ、ホンモノ。
いつからだろう。
弱音を他人に吐く事を忘れた日は。
小学生の頃は、辛い事があれば泣く事が出来た。
中学生の頃は、ひどい事を言われたら喧嘩する事が出来た。
高校生からは、嫌な事があってもただ苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。
大学生になってから、他人に見せる「自分」は完璧じゃなきゃいけないのだと知った。
社会人になってから、周囲の信頼を得る為にただひたすら完璧を演じてきた。
どんなに辛い仕事でも、笑顔で引き受ける。
どんなに理不尽な事があっても、それは実力で乗り越える。
その度に、本物の自分と乖離していく気がしていた。
周囲からは「なんでも出来る」とか「さすがだね」とか。
そんな言葉は、自分にとってはただの呪いでしかなかった。
いつからだろう。
本気で笑えなくなった日は。
だって、今その時に他人に見せている笑顔は、本物の自分じゃないのだから。
頼られれば頼られる程、弱音が吐けない自分が居る。
だって、彼らが求める自分は完璧であって、それ以外を求めていないのだから。
失望されるのが怖かった。
幻滅されるのが恐ろしかった。
だから、ひたすらに完璧であり続けた。
ニセモノを演じ続けた果てに、何も残らないのだと知っていても。
だって、それは本物じゃないのだから。
もしも。
もしも、完璧でない自分を求めてくれる人がいるのだとしたら。
きっと、「僕」は……。
そんな理想を胸に、「僕」は今日も「自分」を演じ続ける事にしよう。
いつかきっと、「僕」を見つけてくれる人と出会える事を信じて。
それまでは、さようなら「僕」。
大人になればなるほど。
責任が重い立場になればなるほど。
「私」というのを殺していく。
そんな気がしますよね。