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第7話 話し合いと殴り込み

 次の日、俺は父と一緒に学校の校長室へと足を運んだ。

 そういえば昨日は夢の中で竜生と話をしなかったな。

 特に話すことは無かったのだろうか?


 校長室へは担任の先生が一緒についてきてくれた。

 先生は終始「ごめんな…」とか細い声で言っていた。

 う~ん…。この先生は良い先生なんだろうが、力不足…なのだろうな。だが、おそらく状況を正しく見ている数少ない教師の一人だと思う。


 俺は担任に校長室の案内を先生にお願いしたところ、不思議な顔をしていた。

 俺の頭の中にはこの校舎内の情報なんて無いから咄嗟に、

「校長室なんて滅多に行きませんからね」

 と言ったが納得してくれただろうか?


 さて、いよいよ校長室の前へと着き、ノックをした。

「どうぞ」

 と、扉の向こうから声が聞こえた。

「失礼します」

 そう言って俺は校長室へと入った。


 校長室では、校長が一人待っていただけだった。

 担任の先生、俺、父の順でそれぞれ部屋に入り、校長へ挨拶をした。


「おはようございます。前田君。退学届は持ってきたかね?」


 校長は挨拶早々俺に退学届を要求した。

 初っ端からそれかよ…。


「校長先生。申し訳ないのですが、退学をする理由が見当たらない為、今日は持ってきませんでした。代わりに話し合いをしたいのですが…」

 と、俺が言うと、校長はむっとした顔をした。

「それは…どういうことなのかな?君は一人の女子生徒を怪我させておいて謝りもせず、責任も取らない。そう言うのかな?」

 おいおい…。どうしても俺を暴行犯にしたいらしいな。

 おっと、まだ呆れるには早い。もしかしたら目の前の校長先生は正しい情報を与えられていないのかもしれない。

「校長先生。自分は女子生徒を怪我させてはいませんので、責任をとる必要がないのですよ…」

 俺はそう言った後、校長に正しく事件の経緯が伝わっていないであろうと予想し、今回の事件について始から説明した。







「―――――――。というわけで、自分ではなく彼らがその女子生徒を怪我させたのです」


 その後、俺は一通り昨日の出来事を校長に説明した。

 さて、これで俺の事を全面的に信用とまではいかないが、再調査くらいしてもらえるだろう。

 そう俺は考えた。


「なるほど…よくわかりました」


 校長は椅子にゆっくりともたれかかりつつ目を瞑りはぁ。と、一言ため息をついた。

 ようやくわかってくれたか…。


「前田君。君はなぜそこまで嘘をつく必要があるのかな?」

 と、校長は言いやがった。


 なんでだよ!!!

 わかってないじゃん!


 なんだろう…。王族というだけで戦場の最高指揮官に抜擢されたボンボンとの会話を思い出したぞ。

 あいつら、わかってないのにわかったとか言いやがるからなぁ。そして見当違いな作戦ばかり立てやがる…。

 おっと、今はそんなことを考えている場合じゃなかった。


 とりあえず冷静になろう。


「嘘…ですか?今の私の話のどこに嘘があるのでしょうか?」

 なぜこれほどまでに俺の話を信用できないのか…。

 逆に考えよう。こうも一方的に俺が嘘をついていると決め込んでいる態度を見るに、今まで竜生はどんなことをしてきたのか…。と焦る。

 う~ん。竜生が教師に迷惑を掛けるほど非行に走っていたなんて思えないしなぁ。


「一応息子から学校へはいじめの報告は行っているはずですが?」

 たまらず父が校長にそう言った。

 父は今まで協力的ではなかったが、流石にこういう場面では息子を援護するらしい。

「嘘だと思うのであればその女子生徒から事情を聞けばいいのでは?」

 と、続けて父は言った。


 それに対して校長が、

「ふむ。そのことなのですが、その被害にあった女子生徒も前田君のせいで今回の事件起きたと証言しているのですよ」


 はぁぁぁあ!?

 な、なんだと!?俺が今回の事件を起こした?

 一体どういうことなんだ?俺は彼女に恨まれるような事をしたのか??

 ……いや、まさかあの女子生徒もいじめのグルだったのか!?


「具体的にはどう息子は関連しているのですかな?机を一緒に投げたとでも証言しているのですか?」

 俺が驚き声を失っていると、父が冷静に校長へ聞いた。

 かなりありがたい質問である。

「机を投げ飛ばすほど大喧嘩をしている最中、どちらが投げたか定かではないが、その一つが被害に遭われた女子生徒に当たったそうです。本人が証言しているのですから…」

 と、校長はあきれたように言った。


 あれ?今校長は変な事を言ったぞ?

 "その一つがが被害に遭われた女子生徒に当たったそうです"だと?


「校長先生、あの時あの場所では喧嘩は起きていませんし、机が投げ飛ばされたのも"私の机のみ"です。教室の状況を見ればすぐにわかることでしたが…」

 俺はそう言ってあの場にすぐに駆けつけた担任の先生を見るが、担任が首を縦に振ってくれていた。

「被害者が言っているのです。これ以上の証拠はどこにあるのですか?」

 校長はそう言った後、得意そうにそう笑みを浮かべていた。

 え?なぜ笑っていられるんだ?ってか、担任が今首を縦に振ったのを見なかったのか??


 …だが、校長の笑みでなんとなく分かってきたぞ…。

 これはもう話し合いでは難しそうだな…。


「校長先生。校長先生はどうしても私にやめさせようとしているみたいですが、何か賄賂でも受け取りましたか?泉か…朝川か…」

 俺がそういうと、校長は、

「もういい。出て行きなさい。明日の朝まで退学届けを待ちます。それまでに必ず持ってきなさい。今日はそのまま帰っていいから」

 と、校長は掌で俺を出入り口へ案内した。


 この校長は…。あ~、もうダメだな。

 賄賂の話を出しただけであの態度。

 仮に賄賂を受け取っていなかったとしても何かしらの圧力や優遇があったに違いない。


 流石に俺は怒ったぞ。


「残念ながら出るところに出るしかないですね…」

 俺が怒りを含ませながらそう言うと、

「無駄だよ。教育委員会にもこの件は既に伝わっている。君が自主退学をしなければ、強制的に退学させるだけだよ」

「…」

 俺は呆れてそれ以上言葉に出すことはせず、校長室を担任の先生に促されながら出て行った。










 で、今は父と一緒に帰宅中である。

 竹沢という教師が主立っていじめの事実を隠していると思ったが、実のところ学校のトップが積極的に隠そうとしていたとは…。あの学校も長くはなさそうだな。


「竜生。どうするつもりだ?このまま辞めるしかないと思うが?」

 と、父はそう言ってきた。


 なぜ竜生の父親はここまで他人事なのだろうか。

 仮にも自分の息子がこのような事態の時に、なぜそういう言い方ができるのだろうか。

 もともと俺の意識が混ざる前、竜生がいじめられている時にも助けようとはしなかったが、これはどういうことなのだろうか?

 まさか自分の息子が一人でどこまでできるか試しているのだろうか。

「いくつか手を用意してあるよ。準備はしていたからね」

「ほぅ」

 感心したように父は言った。

 ほぅ。じゃねーよ。


「今日明日とすぐに結果は出ないかもしれないけどね」

 俺がそう言った後は特に父との会話は無かった。


 そして、家に帰ってきた俺は、すぐにノートPCの電源を入れる。

 ポケットからボイスレコーダーを取り出し、校長とのやり取りが入っていることを確認する。

 確認後、カタカタとブラインドタッチで文字を入力し続ける。

 すごいなー。竜生。こんなに早く板を叩いて文字を入力することができるとは。

 竜生の記憶に感謝だな。


 1時間、2時間と時間は過ぎていく。


 母は心配そうに部屋の外で声を何度もかけくるので、扉を開けっ放しにして二階へ上がってくればいつでも俺の姿を確認できるようにしておく。


 ノートPCいじりが終わり、プリンターで印刷をした後便箋の確認をしていると、一階からなにやら大声が聞こえた。

 作業を始めて3時間後のことだった。

 なんだ?忙しいのに…。


 気にせず作業を続ける。

 数分経った頃だろうか。


「息子をだせ!貴様の息子を!」


 と、下の階から怒鳴り声が聞こえた。。

 なんだ?息子?あぁ、俺のことか?いや、竜也か?


 何事かと思いつつ、やはり学校で問題となっている件しかないとは思うので、再びスイッチを入れたボイスレコーダーをポケットへと突っ込みに一階へと降りていった。


 玄関では見知らぬ男のが一人、父と対峙していた。


「ようやく出てきたか!犯罪者!よくも娘に怪我をさせたな!?」

 ……なんだこいつ?


 俺を見るなりそう言った男は怒りに任せて玄関から上がってこようとした。だが、父に制止させられる。


「離せ!お前の息子を一発殴らせろ!」


 と、その男は父に怒鳴っている。

 本当になんだよこいつ。薬でもやっているのか??


 いや、待てよ?娘と言ったな…。


 あ!


「もしかして、学校で怪我をされた女子生徒のお父さんですか?」

 俺はそう言いながら近づく。

 もしかしたら、この人に話をすれば案外この面倒な件をすんなり解決できるかもしれない!

 そう思っていたが、事はそう簡単に運ばなかった。

「娘の仇ぃぃぃいいいい!!!!」

ドガッ!!

 その男は父の制止を振り切り俺の顔面を殴ったのだ。


 しまった。つい解決できるかも知れないと思い油断してしまった。


 俺は軽くガードをしたので、それほど顔に痛みは無かったが、衝撃で壁へと吹き飛ぶ。


「いやぁああああー!竜生ぃ!」

 近くに居た母が悲鳴を上げ、俺の近くに駆け寄ってきた。


「これが娘の…。愛理あいりの痛みだ!」


 愛理…。怪我をした女子生徒『小岸』の名前かな?


「いえ、これは小岸さんの傷みではないでしょう。あなたの憂さ晴らしだ」

 挑発するつもりで言ったわけではなかった。単純に俺に対して痛みを受けさせるのが間違いだ。と言うつもりで言った。

 小岸の父親は俺の一言でさらに怒りの感情が吹き出し再度殴りかかるが、今度はそれを簡単に受け止めて見せる。

 この国の人間の男は、怒って殴りかかってくるかビクビクしているかのか、人を常に見下すか。そういう人種しかいないのだろうか。唯一の例外が竜生の父親くらいか?


「あのですね。俺は娘さんに怪我をさせてはいませんよ?俺はそもそも――――――」

 俺はこの父親を説得させる為にそう話を切り出すと、小岸の父親は信じられないことを言い出した。


「怪我をさせてようがさせていまいが、お前のことはクラスの中で一番嫌いだと愛理が言っていたんだ。お前が全ての原因なんだよ!」

 と、無茶苦茶な事を言い出した。


「「「はぁ!?」」」

 この場に居る前田家全員がそんな間抜けな声を出してしまった。


 なんだよそれ。

 なんでお前の娘が俺のことを嫌いだと退学になるんだよ!


「チッ。このような事をして、ただで済むとは思わないことですね…」

 俺が小岸の父親を睨みながら言うと、小岸の父親は俺を睨み返す。


「無駄だ。お前の退学は決定事項だ!」

 と、小岸の父親は言った。

「あなたにそれを決める権限があるのですか?」

 俺がそう言うと、小岸の父親は乱暴に俺の手から自身の拳を振り払い、

「ふん。俺はこの市の議員だ。お前一人どうこうすることなんて簡単なんだよ…」

 と、そう言った後帰って行った。殴りに来ただけなのかあの人は…。

 まったく、市議会議員ってのはどういう立場なんだ?貴族なのか?その割には護衛が付いていなかったなぁ。それよりも…、

「父さん。あの人に今回の件、話しましたか?」

「あぁ。お前の言い分を伝えたが納得しなかった。それにしても娘がお前を嫌っているから退学させるとは…。そんな理由であいつはこの家に来たのか?」

 と、竜生の父は呆れながらそう言った。


 竜生の周りはおかしな人物ばかりだな。願わくばこの国全体でないことを願う。




 小岸の父親が帰った後、父と俺は静かに玄関を眺めていた。

 母が慌てて俺が殴られた頬を手当てしようと確認していた。

「大丈夫。少し痛むだけだから」

 母にそう言ったが、心配そうであった。

「じゃぁ、二階で作業があるから」

 俺はそう言ってそのまま二階へと上がっていった。




 しかし、この国の大人達は皆あのように暴力的なのだろうか。

 丁寧に状況を説明したとしても喧嘩両成敗というのか連帯責任とさせるのか、一方が悪くなくても悪くない方もまとめて排除しようとする…。

 小岸の父親は娘が巻き込まれた形となるので気持ちはわからんでも無いが、冷静さを失っている以前にやはり一方的な判断で事態を推し進めるという異常性がある。

 そもそも、娘が嫌っているからなどと、論外な理由で排除されては堪らない。


 市議会議員と言ったが、あのような人物が議員をやっていて大丈夫なのだろうか…。

 この国は民主制とのことだったが、短気で頭がおかしいほど政治家に選ばれやすいのか?


 まぁ、それよりも作業の再開だ。俺は便箋を全て各封筒へ入れ、コピーされたSDカードをそれぞれの封筒に入れ、郵便局へと向かった。


 インターネットの投稿板にも投稿は完了した。


 さて、結果は明日か明後日…。


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 とある大きな屋敷の一室で、三人の男達が話をしていた。

 一人は60代位であり、もう二人は20代後半位である。

 20代の男の一人は好青年ぽい風貌であり、スーツを着ている。

 もう一人は長髪を後ろで束ね、和服を着ていた。


「では、『前田 竜生』との接触は君達に任せるとするかな」

 と、60代位の男が言った。

「ありがとうございます」

 と、次に好青年ぽい男が礼を言った。

 するとそこへ、


トントン!


 と、襖を叩く音がした。

「なにかな?」

 60代位の男が扉の向こうに居るであろう部下に向かって声をかける。

「はい。状況が動きましたのでご連絡をと思い…」

 60代位の男の部下の発言を聞き、3人は見合う。そして、好青年ぽい男が60代位の男を見て頷く。

 60代位の男はそれに答え、

「入って報告をしなさい」

 と言った。

「はい」

 60代位の男の部下は部屋に入ってきて報告をした。




 報告を聞いた後、


「いやはや。まさかマスコミに連絡をするとは…」

 と、好青年ぽい男は苦笑いをしながら言った。

「普通、彼の思うようにマスコミは動きはしまい。既に我らの息が掛かっている弁護士にも相談しているとの話ではないか」

 和服の男は呆れ顔で言う。

「あの父親の様子を見るに、多分前田 竜生君に教えていないんじゃないかな?」

 と、好青年ぽい男は言った。それに対し、またも和服の男は呆れた表情をする。

「だが、君らが動きやすい状況になったのではないかね?」

 と、60代位の男は言った。

「フフ。そうですね。これで不自然な動きではなく彼、前田 竜生を援護する事ができます」

 そう好青年ぽい男は笑った。

「うっ…。輝明てるあき殿…」

 和服の男が好青年ぽい男の笑顔を見て若干引いていた。

 もはや好青年っぽい男の笑みは邪悪な笑みとなっていたのだ。


「さて、早く行動をしよう鬼一郎きいちろう君。"あの星の英雄"が我々の助けを待っている。では我々はこれで失礼いたします」


 そう言って好青年ぽい男。輝明と呼ばれた男が立ち上がる。


「まったく…。では失礼いたします」


 鬼一郎と呼ばれた和服の男も一礼して部屋を出て行った。


「(ふぅ~む。膠着していたこあの件。ついに動き出したかもしれんな。"あの片眼鏡の魔法使い"にも連絡をしておくとするか)」

 60代位の男はそう思い、桐箪笥の引き出しを開けた。


 この日、竜生が住む街で恐ろしい勢力が本格的に動き出すこととなった。


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