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第6話 責任転換

 俺がこの世界で目覚めて3日目となった。


 2度目の朝日を確認し、1階の洗面所へ行って俺の姿を確認する。

 やはりそこには竜生の姿があった。


 あ~あ。朝起きたら全てが元通りになる魔法があればいいのに。


 そんな馬鹿な妄想の後、朝食を済ませ身支度をしてから学校へと向かった。


 今日は母の様子は少し暗かった。

 原因は昨日の件だろうけどね。






 学校へ着いて自分の机で今日も自主学習をする。


 数学の問題を確認し、自分の世界との公式を比べて整理していく。

 数学に関しては問題ないな。この内容ならば俺もついていける。

 問題はその他の授業だな。


 そんな事を考えていると、昨日と同じようにほとんどの生徒が教室の中に入っていた。

 だが、昨日と違い俺を腫れもの扱いしているような目を皆向けていた。

 まぁ、当然だよな。


 すると昨日とまったく同じく、泉が俺の横に立って睨んでいた。

 うげぇ。また来たのかよ。俺が大好き過ぎないか?こいつ。

 おや?鼻が補強されている。折れたのだろうか?


 なにか言いたそうだな…。

 そうだ!ここで昨日の夢で竜生に教えてもらった事を実践しよう!


 俺がバレないようにコッソリと行動すると、


「てめぇ…昨日はよくもやってくれたよなぁ?」

 泉が思いっきり俺を睨みながらそう言った。


「ちょっと面貸せよ」

 と、俺の後ろから朝川が声をかけてきた。お前も居たのか。


「昨日も言ったと思うが、問題を起こすつもりなら俺は関わらん。仲直りしたいならば既に気にしていないと言っているだろ?」


「あ!?」


 俺の回答にイラつきを見せた泉が机を蹴って威嚇する。


 あ、俺の机が。


 ハァ。考えてみれば俺の今の一言でこいつらが下がるとは思えないよな。

 これは別の視点から説得するしかないだろう。

「あのさぁ、お前達は今危ない立場なんだろ?再び問題を起こせば立場が危ぶまれる。それとも俺に退学という引導を渡されたいのか?」

「ごちゃごちゃうるせぇんだよ!てめぇをみんなてめぇを待ってんだよ!」

 朝川が珍しく大声を上げる。みんなが待っているて…人を大勢呼んだのか…。自分たちだけでは勝てないと知って。

 本当に厄介になってきたら殺しちゃうぞ?

「行く義理はない…」

 そう言っておれは教科書に目を移して泉と朝川を無視し続けた。ギャーギャー騒いでいると思ったら、急に俺の机が視界から消えた。


 あ、俺の机が。


「てめぇ!ぶっ殺してやる!」

「キャー」

 なんと泉が俺の机を持ち上げ俺の頭に落とそうとしたのだ。

 周りの女子が悲鳴を上げる。

「ちっ!」

 回避は余裕。だが、こんなことをすれば泉もタダじゃ済まないだろう。分かっていないようだな。

 と、思っていたら泉の手から机が消えた。

 いや、泉の手が滑って机は泉の後ろ。俺の前方を飛んでいった。


 あ、俺の机が。


 宙を舞っている!?


「危な…!」


 危ない!そう叫ぼうとしたが間に合わなかった。


 前方でこちらを見ていた居た女子のところへ吸い込まれるようにして俺の机が飛んでいった。



ズドン。



「「「キャー!」」」

「「「ヒャー!」」」


 机が落ちる音の次に鳴り響いたのは悲鳴。


「ち、ちが…俺じゃない…!」


 顔面を蒼白にして必死に否定している泉。いや、間違いなくお前がやったんだよ。


「俺…は関係ない…」

 朝川もそう言って突っ立っている。

 う~ん、お前はギリギリセーフかもな。ってか、それどころじゃない!

 誰も悲鳴や呆然としているだけで動かない。

 俺は被害にあった女子の所へと駆け寄り、状態を確認する。


 額から血を流し気絶をしていた。

 かすり傷だな。だが、出血している。


「早く救護を!医務室の先生の所へ行くぞ!なるべく揺らさないように!誰か手伝ってくれ」

 俺はそう叫んだが誰も動かない。いや、男子が一人動いた。


「あ…あの…あの…」


 おどおどしながら近づいてきた。

「あともう一人運ぶ人!それと誰か医務室の先生へ連絡をしてきてくれ!」

 俺がそう言うと女子が一人駆け足で飛び出した。よし、これで医務室の先生のところへは連絡が行くはず。よし、ではこのあまま…。

「頭を抑えつつ揺らさないように運ぶぞ!いいな?」

「え…!?あぁ…うん!」

 おどおどしている男子がそう言った時、担任の先生が教室へと入ってきた。

「な、何があったんだ!?」

 担任の先生はこの状況に目を見開いて質問を飛ばす。

「先生!いいから手伝って!」

 俺がそいうと、担任の先生は慌てて俺を手伝うべく手を貸してくれた。




 それから担任と男子、俺の三人で医務室へと被害に遭った女子を運んだ。

 一通り事情を担任に伝えた後、教室へと戻ると泉と朝川の姿は無かった。

 まさか。逃げたのか!?クソッ。あいつら何処に…。

「皆!あの二人はどこへ行った?」


「「「…」」」

 教室の生徒達の返事は無い。

 まだショックから立ち直れていないのか?

 おや?一緒に女の子を運んでくれた男子生徒も困惑した顔をしている。

 教室内は不穏な雰囲気だからな。そんな顔になるのもわからんでもない。


 う~ん。しかし、あいつらを探そうにも勝手に教室を抜け出してもいいものなのだろうか?

 と、俺は困っていると、


「前田。もう一度話を聞いてもいいか?」

 と、担任が戻ってきて俺に聞いてきた。女子生徒は大丈夫なのだろうか?

「先生、先ほどの子は?」

「あ、あぁ。大丈夫。意識を取り戻したよ。ただ、彼女が言っていることとさっき前田が言っていた事が矛盾していてね。もう一度話を聞かせてもらいたい」

「はい。大丈夫ですよ」

 俺は快く承諾する。

 しかし、話が矛盾している?

 もしかして、頭をぶつけた影響で記憶が混乱しているのだろうか?そうなると、意外と重症なのかもしれない…。


 そして俺は再び事情聴取を担任から受け、教室へと戻り通常の授業を受けた。

 そういえばまともにこの学校で授業を受けたのはこれで二回目だな…。


 この日の最初の授業は数学だった。


 と、まぁなんの問題もなく授業を終えた。

 昼休みに被害に遭った女子生徒を訪ねて医務室へと行ったが、既に女子生徒は帰ったあとであった。

 医務室の女医に話を聞いたとこ、頭の傷以外問題は無さそう。とのことだった。


 女性の顔に傷ができてしまったか…。これは問題だろうな。




 そんなこんなで放課後である。

 大半の生徒は学校に残っていた。それぞれこの後学校内で予定があるようだ。


 部活?何それ?


 うん…。帰ろうか…。

 そう考えていると、担任の先生が教室へ入ってきた。

「前田君…いいかな」

 少し顔が青い。まさか…!?

「先生、どうかしたのですか?もしやあの女生徒の身に何か?」

 帰った後、急に容態が悪くなったのか!?

「いや、そうじゃないんだ…。ちょっと生徒指導室まで一緒に来てくれるかな」

「はい。大丈夫ですが…」

 担任の態度が少しおかしい。本当に何があったんだ?




 担任に連れてこられた場所は生徒指導室だった。

 え?なんでまたここに来るの?正直ここにはあまり良い思いは抱かないんだよね。


 生徒指導室に入るとそこには竹沢が居た。非常に不機嫌だ。まぁ、昨日の今日で態度が改善されることはないだろう。現に昨日は父や兄に正しい情報を渡さなかったという前科がある。信用に欠ける人物だ。


「座れ」


 俺は竹沢の言葉に素直に従い目の前の椅子に座る。

 俺が座ると同時に、


「お前、一体どれだけ問題を起こせば気が済むんだ?」


 と、竹沢は言った。

 なんだ?また俺のせいにしたいのか?


「一体何のことですか?今日は問題を起こしてはいませんが…」

「ふざけるな!小岸おぎしに怪我させたのはお前達だろうが!」

ドガン!

 竹沢は怒鳴り、目の前の机を拳で叩いた。


 なるほど、今日怪我した女生徒は小岸という名前なのか。

「あぁ。『泉』が怪我をさせたあの女生徒ですか…」

 俺がそう言うと、竹沢は顔を真っ赤にして、

「お前達の喧嘩に巻き込まれたんだろうが!なんでそんなに平然としてられる!」

 おいおい。あれを喧嘩というのかねこの教師は。まぁ、見ていなかった為、想像から話している部分もあるのだろう。

「竹沢先生。誰に聞いたかわかりませんが、確かにあの時泉にちょっかいをかけられていたことは認めます。ただし、私が相手にしていない事に逆上した泉が突然机を振り回したんです。まさか竹沢先生はそれすらも俺のせいだとおっしゃるんですか?」

 俺はため息混じりでそう言うと、

「女子が怪我をしているんだぞ…」

 と、竹沢は俺を睨みながら言ってきた。女子が怪我をした。それはそうだが、それがどうして俺のせいになるという話になるんだ?

「先生。それではあの場で起こったことが俺のせいになるのであれば、他にもあの場所にいてあの状況を見ていた生徒はたくさんいます。その人達はなんの責任は問われないのですか?いや、私は彼らに責任はほとんどないとは思いますよ?ですが、あの場で唯一争いを避けようとしていた人物を知っています。それは私だけです。罰を受けるのは泉だけであるはずだと私は思うのですが」

 そう俺が教えると、竹沢は悔しそうに俯き、

「そうか…まったく反省をしていないんだな?」

 と言った。

 は?なんでそこで俺に反省を求めるんだ?

「先生は…一体俺に何を期待しているんですか?」

 純粋に出た疑問であった。

 あの場で竹沢先生は俺に何をして欲しかったのか。この場で何を言って欲しかったのか。果たしてそれが教師として生徒に求める範囲なのか。本心から尋ねてみたいことだった。

「…他の先生方と話し合った。今日この後の職員会議でも話し合われる…」

 そう言った竹沢はひと呼吸して、

「お前は退学になるだろう」

 と言った。

 なるほど…。このパターンか。問題を直接起こした生徒といじめられていた被害者。この両者が居なくなれば問題はなくなるだろう。加害者が居なくなれば被害者が減り、被害者が居なくなれば学校の評判が悪くなくなる。訴える人がいなくなるのだからな。

 邪魔者は排除。つまりはそういうことだろう。

「もし…状況を正しく認識しておられて、学校でそのような判断に至るのであれば、非常に残念です。そのような低次元な学校ではないことを私は願っております」

 俺はそう言って頭を下げた。

「…」

 既に竹沢は俺に興味がないような目線を送っていた。担任の教師は青い顔をしたままだ。

 俺は竹沢に哀れみの目線を送る。

 少し沈黙が空間を支配した後、竹沢が、

「もう帰れ…」

 竹沢のこの一言で俺は席を立って帰宅した。




 家に帰ってきてから俺は机を漁る。

 そしてひとつの機械を取り出した。

 ボイスレコーダーであった。

 夢の中で竜生に教えてもらった役立つものだ。


 ボイスレコーダーには、

・泉と朝川の俺に対する罵声。

・竹沢が無責任にも俺を突き放す言葉。


 すごい機械だなこれは。

 『録音』というものだったな。魔法を使わずこんなことができるなんて!


 ふっふっふ。これを教育委員会に送れば良い。


 そう。昨日、竜生にはボイスレコーダーの使い方を他にも教えてもらっていたのだ。

 ははっ。これであいつらも終わりだろうな。朝川は女子生徒に手を出していはいないが、いなくなってもらったほうが、俺には好都合だ。


 自分のノートパソコンにボイスレコーダー内の録音内容をコピーしたあと、用意されていた封筒と便箋に筆を走らせる。

 今回起きた事件内容だけではなく、今まで自分がされた事。知っている限りの事を全て書き上げた。

 念のため複数同じ内容のものを用意した。

 書いている途中、俺は兄に1階から呼ばれた。

 なんだよ。このクソ忙しい時に!




 俺が席へ座ると、家族会議が開かれた。

 議題は『前田 竜生』の退学についてだった。

「竜生…。何か言うことはないか?」

 父がまず俺にそう聞いてきた。

「非常に残念だよ。あの学校の先生方の質がこれほど悪いものとは思わなかった…」

 俺がそう言うと、父は不機嫌そうな顔をして、

「明日、学校へは自主退学届を出し、その足で怪我をされた娘さんの家へ謝りに行くぞ」

 そう父が言った。

 またこれか…。一方的に俺が悪い事になっている。だが、一応伝えておいたほうがいいか…。


 俺はその後、今回起きた事の一部始終を伝えた。




「―――――と、いうわけで、確かにその女子生徒は巻き込まれた形になり非常に気の毒だったけど、今回の件では俺は被害者でも加害者でもない。これで俺のせいになったのであれば理不尽過ぎないか?」

 俺がそう説明を終えた後、父に質問をする。が、


「嘘だ!父さん、こいつこの期に及んで嘘をついているんだよ!」

 と、兄竜也は息を巻いて言った。


 竜生の兄は何故か竜生に対して異常なほど嫌悪感を抱いているようだ。

 家督争いでどちらがより優秀でこの家にふさわしいかの話であればこのようなことは当然なのだが、そういう事をする身分の家ではないだろう?この家は。


「兄さん、なぜ嘘だと思うのかな?」

 俺がそう聞くと、


「はぁ?お前が今言ったことと学校の先生が言った事。全然違うじゃないか」

 と、竜也は言った。

 えぇぇぇ。実の弟よりもあの教師の方を信用していうのか?


「兄さん…。俺は今まで被害を受けていたとずっと訴えていたでしょう。学校にも言っても無駄だった。それは既に話してあるはずだ。それなのに学校を信用するとは、何か学校が信頼できるという決め手があるのかな?」

「こ…こいつ!」

 竜也は顔が真っ赤になっている。

 しかし、竜也の発言ではっきりしたことがある。

 それは竜也が俺の発言を『嘘』と思ったことだ。


 俺が実はなにもしていなくて、泉が勝手に机を放り投げて女子生徒に怪我をさせた。俺はケンカになりそうな状況を回避しようとしていた。


 その状況を『嘘』と否定したということは、俺の行動は傍から見たら正しくあり、俺に責任が無い。という事になる。

 そして俺に責任を負わせたいとするのであればそれを否定すればよい。

 つまり俺がやった対応は間違いではなかったと兄が証明してくれたのだ。

 俺は少しホッとした。この世界やこの国では、今俺のような状況でも俺の責任になるのであれば、今から俺がやろうとしていることは全て無駄になってしまう。


「竜生。学校では会議を開いて今回の件について話し合われたんだぞ。それでも認めないのか?」

 父からの疑いの目は晴れない。


「俺は自信を持って恥じる行為はやっていないと言えるよ」


 俺はまっすぐ父親の目を見て言った。


「…」

「…」

 俺と父は互いに言葉を数分発しなかった。



「…はぁ。わかった。明日俺も学校に行く…」

 ようやく、父が言葉を発した。

 え?付いて来てくれるの?

「父さん!?」

 と、竜也も驚いていた。

 放任主義かと思っていたがそうではなかったのか?


「学校がそれでも納得しない場合は、俺の方で動きます。明日はお手数をおかけします…」

 俺がそう言うと今回の家族会議は終了した。



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