おまけ第3話 パルクスの料理
第48話後、地球に戻っている時の話し。
始まりはトリットの一言であった。
「前世では新鮮で物凄く美味しく感じたパルクスの料理っスけど、今世ではその料理の腕は上がっているんですかねぇ」
トリットにとっては何気ない一言であった。が、その場に居た全員にとっては聞き逃す事ができない一言であった。
現在は惑星リョーキューから帰っている途中である。
暇な時間をもてあました俺達スレード隊は全員大広間に集まっていた。
「パリクスの料理か…」
モルガンは遠い目をしていた。思い出しているのだろうあの素晴らしき料理の数々を。
「今世の日本では美味しいものを食べる機会が多かったため前世のパルクスさんの料理は霞んでしまうかも知れませんが、あの日、あの時の食べる事ができた料理の数々の感動を忘れるわけがありません」
と、レイーヌは力説していた。
あ~。確かに野営地で現地調達した牛のステーキは美味しかった。
あの時はスレード隊しか居なかったから良かったものの、他の隊の連中と一緒に居たらいらんイザコザに巻き込まれていたな…。
それだけ匂いも良かったのだ。
「ふへぇ~。また食べたいですねフルコース」
と、ミューイが言った。
そう。本格的に敵部隊とぶつかる前、一回だけフルコースが出やがった時があった。
前菜にスープ、メインディッシュにデザート等々…。俺達は何しにここまで来ているんだと言いたくなるような品揃えであった。
ほんっとうに他の部隊が居なくて良かったと思う。
あ、大変だ!
お腹が空いてきた。
「そんなにおいしいの?パルクスさんの料理って」
と、たまたま一緒に居たマリーが聞いてくる。
「えぇ。それは勿論。シチュー一つでも絶品なんですよ」
俺がそう答えると、
「それは是非とも食べてみたいねぇ」
と、輝明さんは言ってきた。
俺も食べたい。
そして、更に次の人物が放った一言で空気が変わる。
「そんじゃぁ、昼はもう直ぐだから無理だが夕飯をその絶品とかいうシチューをパルクスさんに作ってもらえばいいんじゃね?」
と、ラゼルトが言った。
この一言でスレード隊の雰囲気が変わる。
皆、一斉にパルクスを見る。
「ひっ!」
おや?パルクスが声を出すとは珍しい。
それにパルクス。何で怯えているんだい?
「パルクス?いいかな?」
俺がそう言うと、パルクスは汗を流していた。
どうしたのかなぁ…?
「あ、あの…材料…」
パルクスがか細い声でそういう。
あぁ…そうか。材料か…。
「材料なら僕が持っているよ。艦内の人数くらいの量だったら余裕で」
と、輝明さんが自己空間から人参やジャガイモを取り出す。
え?いつも持っているの?それ。
だが、これで材料問題は解決した。
「ひゃ、百人分以上…」
パルクスはそう言った後顔を青くしていた。
百人分?何のこと?
「まぁ、我々だけ違うものを食べるわけにもいくまい」
と、鬼一郎さん。
「この艦内の方々全員分用意するのが筋というものでしょうか」
そう言って頷く邦治さん。
「この艦の料理人に人達にお手伝いをお願いすれば?」
と、ミューイが言うと、
「ミューイ。こういった艦船では殆ど料理は自動化されていますのよ…。まぁ、料理係りは居るには居るとは思いますがぁ…」
と、残念そうな表情でリズリーは言った。
「ふむ。皮むきさえやってくれれば後はパルクスがどうにかするだろう」
と、デルクロイ。
ここでパルクスはグリゼアをチラッと見る。
助けを求めているのだろうか?
だが…無駄だ。
「パルクス!隊長の命令であるぞ!さっさと準備に取り掛かかれい!!」
ヤベェ。グリゼア怖ぇ…。
口元の涎が無ければな。
パルクスは驚いて直立不動になって敬礼した後、ドアを勢いよく飛び出して行った。
「か、館長へのきょ、許可なら俺が取ってみるよ…」
ラゼルトはいたたまれなくなくなったのか、パルクスに続いて部屋から出て行った。
可哀想なパルクス。
手伝う気は一切無いが。
そして夕飯。
許可は無事に下りたらしい。
目の前にはシチューがあった。パンと一緒である。
パルクスの方を見ると微笑ましそうその光景を見ているようだ。ついでにやり切った感も出している。
「うひょー!言ってみるもんっスね!」
トリットは上機嫌だ。
「ほぅ。普通のシチューとは違うのだな?」
と、鬼一郎さんがシチューを見ながら言った。
ふっふっふ。見た目は一緒だがパルクスが普通のシチューを作るわけがない。
これは既に絶品のシチューだろう。
「では、頂きましょうか」
マリーはニコニコ顔でスプーンを持ちながら言った。
「よし、では皆でパルクスとその他もろもろに感謝していただこう!」
俺はそう言った後、スプーンでシチューをすくった後、一口食べた。
…。
……。
―――――。
!?!??!!!!??
うっまーーーーい!!
何だこれは!なんなんだこのシチューは!?
今まで食ってきたのは豚の餌だったのか!?(おかーさん給食のおばちゃんごめんなさい)
上品であり、口の中でパレードを起こし、体全身に衝撃が響いたぞ!?
そして更に急に体が軽くなってきたと思ったら力が湧き出し、更に先ほど食したものを求めるがあまり舌が制御不能なほど暴れ周り…何言ってんのかわかんなくなってき…あばばばばばばばばばば!!!
見渡すと皆衝撃を受け、固まっているか一心不乱意食事を続けていた。
マリーやラゼルトは目を見開いてスプーンを持ったまま固まっている。いやぁ~親子そっくりですね。
パルクスの方を見るとなんだか唖然とした表情をしている。
ん?どうしたのだ?
おや?なんだか向こうの方が騒がしいな。
どうやら騒がしくしていたのは一緒に食事をしていた艦内の宇宙連邦軍の皆様だ。
今回は食事を作らせていただいたお礼として皆に振舞っていたのだが、
「ち、地球人はぁぁぁぁぁ!毎日こんなにも美味しいものを食べているのかぁぁぁぁああ!?」
「ブヒー!ブヒー!ブヒー!」
「嫌だー俺、地球人になるんだー!!今回でこの食事とお別れなんて認められないぃぃぃぃいい!!!」
「もっとよこせぇぇぇぇ!いえ、もっと下さいぃぃぃいい!!!」
「艦長ちょー感激!」
阿鼻叫喚の世界がそこに広がっていた。
「はっ!こ、これは!?」
ようやくマリーはお気づきになられた。
さぁ、更によく味わって食べるがいいさ!
「これは危険よ!」
そう。危険なほど美味しい…へ?危険??
「みんなしっかりして!いえ、駄目ね…パルクスさん。ちょっと」
マリーに呼ばれておっかなびっくりマリーへ近付くパルクス。
「貴方、魔法を使っているわね?」
と、マリーが真剣な表情でパルクスへたずねる。
へ?魔法?おかしいな。パルクスは魔力はあるけど魔法は使えなかったような…。これうっめぇ!
「え…魔法…ですか?」
パルクスは驚愕した表情でそう小さい声で言った。
「失礼。変な質問して悪かったわ。…魔法はどうやら無意識で使っているようね」
無意識で魔法を使う?一体どういう事なのだろう…。おい!そこの連邦兵!お代わりは1回までだぞ!書いてあるじゃないか!ほらぁ。喧嘩が始まっちゃった…。
「いったいどんな?…まさかみんなの食の感覚を狂わすような…」
え?俺達狂ってる?そんな事ないってぇ。うひょー!
「いいえ。そんな大層なものではないわ…。いえ、考えようによっては大層なものね。貴方の魔法、食材を適切にどう調理すれば美味しくなるのか無意識の内に感じ取る魔法のようね。効果としては作った料理がめちゃくちゃ美味しくなる」
な、なんだってーーーー!!?
もう俺の皿にシチューが無いだとぉぉぉう!?
「へ!?」
おっかわっりだー!
「私やラゼルト、地球人の五頭家トップの人達は大丈夫なようだけど…」
「母さん!これうまいよぉ!?」
「おい、鬼一郎!こいつぁ~最高だぜぇ!」
「輝明殿ぉ!輝明殿ぉぉお!!美味いでござるぞ!うみゃいでごじゃるぅぅ!!」
「…駄目だったようね…」
あ、割り込みだ!
「な、なんですかその魔法!?」
おい!順番守れよ!
「私も久々に見たわよ。こんな特殊魔法…。とにかく詳しく調べて見なきゃわかんない事は多いけど、貴方はもう他の人に料理を作るのは禁止したほうがいいわ。まったく、なんだってこんな人材が軍事関係の仕事をしているんだか…」
貴方はもう他の人に料理を作るのは禁止…。
料理を作るのは禁止…。
禁止!?
マリーのその一言で、食堂に居た全員がマリーの方を向く。
「あ、いや、控えてくれればいいかなぁ~」
マリーは汗をダラダラにしながら俺達へ言った。
なんだろう。なんで今マリーの言葉に反応したんだっけ?
ま、いいか。それよりもごはんだー!
「はぁ…こりゃ下手なこと言えんわ…。ちょっと皆が落ち着くのを待ちましょうか」
「はい…」
こんな感じで食事を終え、皆食後の一時をまったりしていた頃。
「どうやら皆落ち着いたようね…」
と、マリーはため息を吐きつつ言った。
ん?落ち着いた?なんのことだろう?
「皆覚えてないの?」
マリーは呆れたように全員を見た。
おい、その目は普段あなたが向けられている目だろぅ?俺達が何をしたって言うんだ?
「すまん。俺どうかしていた…」
と、ラゼルトは肩をうなだれながらそう言った。
え?どうしたんだ??
「流石にラゼルトは覚えていたようね…まだまともだったようだったし…」
「あれでまだまともだったのか?」
「まぁ…他の人に比べればね」
「はぁ…」
なんだろう不愉快だ。
「あの…俺一体どうなってしまったんでしょうか…」
うわぁぁぁ!パルクスが喋ったぁぁぁああ!?
あ、さっきっから喋ってたか。
「うん、いや、あなたは多分正常よ。別に魔法でこの空間を支配して感覚を狂わしていたわけでも、料理を魔法で無理やり味覚を麻痺させていたわけではない。決して犯罪行為というわけではないのよ。ただ…料理を美味しく作ってしまうだけなの…。魔法の効果でね」
なんだかよくわからない。
「あの…それってズルなんじゃ…?」
パルクスは不安そうにそう言った。
「う~ん。ズルではないと思うよ?さっきも言った通り、ただ上手に作れる方法を無意識に理解できる魔法ってだけだから。だからあなた、パルクスさんだっけ?パルクスさんはマジで料理の才能あるから。それ料理の才能の一つだから」
「そうなんでしょうか…」
「そうそう」
なんだかパルクスが元気を取り戻してきたようだ。
「でも、おかしいんですよね…。前世よりも皆喜んでいるというか…異常な反応をしているような…」
い、異常な反応だとぉぉう?
「まさか、転生して能力が上がった!?それはあれね、今流行りの転生して能力チートってやつね!」
マリーはなんだかよくわからないことを言い出した。
「はぁ…」
ほら。パルクスも目が点になってる。
「うん。まぁ、本当にこれから料理は控えた方がいいかもしれない…。もし、それが嫌ならば私が魔力の操作の方法教えてあげるけど…。それならばある程度なら良くなりかもね」
「それならば是非!」
パルクスは目を輝かせながらマリーに教えを乞うた。
なんのこっちゃ。
よくよく話を聞くとパルクスの作る料理は大変なことになっていたらしい。
しかも転生前よりも格段に。というおまけ付きで。
別に何がまずいというわけではなく、ただ単に料理が美味しいというだけだが、余りにも美味しくて周りに異常をきたすという話だ。
う~ん。それって別に問題なさそうだけどね。
その後、パルクスはマリーの指導のもと、能力の制限が可能になり、いく段か料理の味を落とすことになってしまう。
当然、パルクスの料理はそれでも美味しかった。
パルクスの料理人としての意地だったのだろうか。
料理人じゃなくて軍人だったし、今もそんなような感じだと思うのだが…。
これはスレード隊料理係パルクスの物語。
料理に意地と情熱をかけた人の物語である。
だけど、俺達スレード隊は特権としてたまに能力全開で作ってもらっていたりもするけどね!
うみゃぁあああい!!!
書きためていた異星転生の話は以上です。
新しいネタが思いついたら投稿するかもしれません。




