おまけ第2話 モリガンの過去
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俺はスレード隊で格闘戦特化の装備をした機体を操る『モリガン・ムグ・タクトリス』だ。
なんの因果か知らないが、俺は転生なんてものをした後に再びBWになんて乗って戦場に出ている。
今度は宇宙だ。
前世では地上戦を主体に戦ってきた俺達スレード隊だ。宇宙なんて未知の領域だった。
今生…今世?まぁいいや、この体に生まれてからはろくな人生ではなかった。
前世では国軍だった親父の影響で同じく国軍に入隊し、親父直伝の剣術で期待の新人なんて言われていた。
剣術だけであれば国のトップ10に入り、周りからは憧れの目を向けられていた。
リール連邦の侯爵家『スレード家』の跡継ぎ様が率いる精鋭部隊『スレード隊』に引き入れられたのも親父から教わった剣術があったからだ。
俺にはBWの適正もあったらしく、直ぐにスレード隊メンバーに加わった。訓練はキツかったが、こんなに順調に出世ができるなんて思ってもなかった。
俺の家族全員俺のことを認めてくれ、誇りだとも言ってくれた。
戦えば戦うほど周囲の評価は上がっていった。
勿論平和は嫌いじゃない。むしろ好きだ。同時に戦闘訓練も好きだった。そして周りの人間も訓練をしている俺を嫌うことはなかった…。前世ではな。
この体に生まれてからは最初、何故自分がこれほどまでにも戦闘の訓練を楽しんでいたのかわからなかった。
小学校1年生の時から剣道を始めた。『剣』というものに並々ならぬ感情が湧き出してきたからだ。これは俺が学ばなきゃいけないものだ。と。
その時は何故かわからなかった。
直ぐに俺は格闘術を覚えるようになった。
やはりこれも自分の中にある何かが学べと言っている気がしたからだ。
やはり何故かはわからない。だが、ボクシング、空手。様々な格闘技を習得していった。
次第に周囲から敬遠され始めた。
俺が格闘技や武術を新しく習得し続ければし続けるほど嫌な視線を受ける。
喧嘩に絡まれる事だってあった。
学校では教師達に不良達からの脅迫を言いつけて守ってもらっていた。
だが、それも日に日にいい加減になっていった。またか。という顔をされて…。
俺は武術を習っている。ルールがあるならばルールに沿って戦えばいい。そう言って試合をして問題を片付けようとしたが、問答無用で武器を持って多人数で奴らは襲い掛かってきた。
俺は初めて自分が学んだ技術を使い試合以外で人を倒した。
中学2年のことであった。
それからは俺の評価は失墜した。
前世ではありえないことだ。
それでも当時、前世の記憶がまだ覚醒していなかった俺にとっては辛い時期になった。
日に日に喧嘩が増え、道場等からは破門され…。俺は悪く無いのに何故か俺に絡んでくる奴が増えた。
周りには勿論相談したが、皆俺が悪いと責め立てた。家族でさえも俺を責めた。
「昔からそうだった。暴力を平然と習うお前のような人間、俺の息子などでは無い!」
この体の俺の親父が言ってきた言葉だった。
母も弟にも同じような事を言われた。
最初は健康の為、精神向上の為と肯定してくれた武術。
しかし、俺が中学2年になる頃には家族は酷い格闘技アレルギーだった。
俺だって好きで暴力を振るったわけじゃない!
理解できない日常。心の中で何かが常に引っかかる。『ここは俺が居る場所ではない』と…。
気付けば俺は殺し屋になっていた。
切欠は家族の死である。
両親や兄弟は皆死んだ。
火事だった。原因は放火である。
犯人は捕まらなかったが、わかっている。何せ自分達から俺に向かって言ったんだからな。馬鹿な奴らだ。
奴らのリーダー格だった奴は刑事の息子だった。
いくらでも偽装は効く。と言っていた。
だから殺した。
この体では初めて人を殺したことになる。
19歳の時だった。
相手は20歳。奇しくも中学2年の時、初めて殴った人物と同一であった。
奴は俺をおびき寄せて殺すために周辺の防犯カメラや人払いは完璧であった。
奴の誤算は只一つ。俺が前世の記憶を取り戻した事だ。
前世の戦闘技術+現代知識。
指定の場所に行けば殺される事は明白だったため、いろいろと仕掛けを作らせて貰いその場に居た5人は全員死んでもらった。
まさか指定した時刻の前にその場を下見され、罠を仕掛けられるとは思っていなかっただろう。
とりあえず全員気絶させ、なぜ俺を呼んだか聞いた。
全て聞いた後、命乞いする連中に迷わず俺は奴らが持っていた銃で全員射殺した。
奴らが持っていた現金や武器は全て回収し、俺は殺し屋へとなった。
奴らを殺したのは俺であり、家族を巻き込んだのも俺である。
だが、どうしても奴らが憎かった。
奴らのせいで俺は世間から弾かれたのだ。奴らさえいなければ俺は暴力事件なんて起きなかったし、家族からも疎まれず、死ぬ事は無かった。
どうしてもそう思えずにはいられなかった。
そんな事をしていたら、何故か政府から声がかかった。
おいおい、国がこんな犯罪者仲間に引き込んじゃ駄目だろぅ…。
そして、なぜかスムーズに俺は政府お抱えの殺し屋となった。
思えば政府が出張ってきた段階で五頭家が関係していたのかもしれない。
だが、今思えばよかったと思える。
あの隊長に再び出会えたからだ。
隊長も苦しい環境で育ってきたみたいだった。
ある時俺は隊長に尋ねた。
殺し屋である俺をなぜいまだにスレード隊のメンバーとして置いてくれるのか。
ある時輝明さんがオーヴェンス隊長に言ったのだ。
「部隊編成はこのままでいい?」
と。
隊長は迷わず、
「いいですよ。増やす気も減らす気もありませんし」
と、言ったのだ。
俺は厄介者ではないのだろうか。
今生のスレード隊の中で異色の存在である俺だ。
俺はそれらの疑問と一緒に聞いてみたのだ。なぜあの時俺を抜かさなかったのか。
隊長の答えは驚きの内容であった。
「モリガン。お前、何を言ってるんだ?お前の家族を殺したその先輩連中は明らかにお前も殺そうとしていたんだろう?なんでこっちが殺しちゃいけないんだ?俺のリール連邦の知り合いの行商人は襲ってきた盗賊を殺しまくってたぞ?ちなみに覚えているかわからないが、『クリマーズ商会』のダウェンズさんだ。ほら、戦争の時、第18補給部隊に居た」
と、なんかしっくり来ない答えを頂いた。
「あぁ、今世で殺した事を悩んでいるのか?今世で人を殺した事が無かったから今の体で初めて殺した事に不安を感じているのか?それは罪の意識か?犯罪を犯してしまったと?」
「…」
俺は黙ってしまった。
隊長の質問に答えられなかった。何で悩んでるかって…。え?
「まぁ、前世の記憶云々が無くて、俺達が生まれた時代の日本で人を殺したとかだったら、確かに悩むよな。うん。絶対俺も罪悪感でいっぱいになると思う。だけど俺、前世の記憶あるからさぁ。盗賊や海賊は平気で首を刎ねる対象だし、暗殺者なんて絶対殺しておく認識なんだよなぁ…」
「で、ですが俺は殺し屋ですよ?」
「政府お抱えのな。もう軍隊の特殊部隊じゃんそんなの…。政府に雇われている時点で前世の俺達と何が違うんだよ…。お前は何の罪を犯していない一般人を金のために殺したのか?そうじゃないはずだ。だってそんな情報モリガンの殺しの資料に書いてなかったし」
「…そんな資料あったんですか…」
「そりゃね、俺だって聖人じゃぁない。過去の経歴だって探るさ。輝明さん頼みだけどね…。君は間違いなく問題ないと俺が判断した。今世でも俺は人を殺しているし、前世ではBWに乗って歩兵を殺しまくってたんだぞ?」
「まぁ…確かにそれは…」
「慰めとか励ましになるかわからないけど、俺達は他の連中よりも特殊な状況に置かれているんだ。確かに今世の19歳の時殺した相手はなんの訓練を受けていない素人だったかもしれないが、立派な暗殺者だ。俺達の中では立派な殺しの対象さ」
なんだろう。そう考えると悩んでいたのが馬鹿らしくなってきた。
両親が盗賊に殺されるのは前世の世界では日常茶飯事だった。
現代日本ではとても受け入れがたい内容ではあるが、俺は確かにそういう環境で育ってきたのだ。
どうやら俺は現代日本に慣れ親しくなってしまったらしい。
間違ってはいないが、俺の行為は『宇宙連邦』や『五頭家』にとっては問題ない行為らしい。
「現代日本人の感覚は間違っているとは言わない。ただし、俺達日本人に転生したリール連邦人の感覚も間違ってはいないと思う」
隊長はそう付け加えた。
あの時から随分と楽になったな…。
さて、これから本当の第二の人生って奴だ!
ったく、ヴァルカ残党軍ってのは数だけ多い雑魚集団だな!
問題は…。隊長と因縁がある『小岸 愛理』とかいう女…。
あいつは前世の記憶とか関係なく人を平気で殺せるイカレ女だ。
ははっ。全く、悩んでいるのは俺のキャラねぇし、俺の方が年上だから隊長にこういうことを教えなきゃいけねぇ立場なんだ。
本当に隊長にはかなわねぇな…。
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