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第70話 前田竜生への問いかけ

 結果から言うと宇宙連邦軍の艦隊1万6千隻による介入で、ヴァルカ残党軍2千隻に勝利する事ができた。"地球人にとっては"大戦果である。

 しかし、指揮官と思わしき小岸 愛理とその使い魔である朝川と愛理の父には逃げられてしまった。


 惑星ガ五側の被害は、無人艦205隻。有人艦18隻。無人BW195機、有人BW43機、無人戦闘機150機、有人戦闘機51機、死者521人という数字であった。これは地球人(惑星ガ五)側の被害だけである。増援に駆けつけてきてくれた宇宙連邦軍の損害は数に入れていない。


 多くの艦や機体は大破させられたが、生命維持装置や脱出装置のおかげで助かった人は多い。






「いやぁ~、あと少しだったんっスけどねぇ…」

 現在は地球への帰り道の船の中。その中でトリットは悔しそうにそう言った。

「俺とリズリーが戦っていたあの『朝川』って奴が操るアサルトライフル。減らしても減らしても湧いてくるかと思ったら、実は奴の背中のところにあった自己空間から高速で射出していただけなんですよ。どうやら操れる銃は20丁が限度だったみたいなんですけど、リズリーが自己空間から出した瞬間ライフルを雷撃で破壊し続けてくれたので、あとは俺が止めを刺すだけだったんっスよ…それなのに…」

 逃げられたらしい。

 丁度、小岸 愛理が撤退を始めた頃だったそうだ。突然朝川は逃げ出したらしい。

 話し始めたトリットは、最初は意気揚々と語っていたが、段々と暗くなってきた。

「まぁ、俺も似たようなもんだよ」

 と、慰めになるのかならないのかわからない言葉をかけた。

「はぁ…」

 納得したようなしていないような顔をされた。

「ははっ、まぁそうっスよね!」

 急にニカッと笑顔になった。

 あれ?今ので何に納得して笑顔になったの!?今、俺何か間違った事言ったんじゃないかとちょっと心配になってきたんだけど。

「…馬鹿が、敵に逃げられて笑うか普通…」

 と、モリガンは呆れ顔だ。

 だよね。モリガンもそう思うよね。

「はぁ?隊長も言っておられるではないか!」

 トリットはそう抗議をする。

 え?俺の言葉をどう捉えたの?

「いや、隊長は自分自身のミスを嘆いておられるだろう。決して楽観的になっているわけではない」

 うん。そうだねモリガン。モリガンは正しいよ。

「ぐぬぬ!モリガンだって同じじゃん!敵逃がしちゃったじゃん」

「む!?それはそうだが…。だがお前のようにヘラヘラしてなどいないぞ!」

「はぁ?いつ俺がヘラヘラしたよ?」

「今しているではないか!」

 不毛な争いが続く。何でお前らそんなに仲が悪いの?前世で何かあった?冗談ではなく。


「馬鹿者ぉ!!こんな所で騒ぐな!」


「「はいっ」」

 ついにグリゼア副隊長が切れた。トリットとモリガンは二人合わせて元気のよい返事をした。

 グリゼアは年を重ねるごとに威厳が出てきて怖くなってくるなんて思っていることは内緒だ。


「うはは。元気だなぁ!若者はそうでなくてはな!」

 何をのん気に笑っているんだよデルクロイ。

「はぁ…」

 レイーヌが冷たい目でデルクロイとトリット、モリガンを見ている。そういう表情も素敵だね!

「フッ。おじちゃん達可笑しいねぇ~」

 おっと、ミューイが小ばかにした笑いをトリットとモリガンにしているぞ!隣にいる一之君にそう語りかけている。あ、おじさんと言われたトリットが目に見えて落ち込んでいる。まだ二十代なのに!その姿に更にパルクスがニヤニヤしながら見ている。

「ははは…」

 リズリーにいたっては苦笑いをしている。



「いやぁ~、皆さんお疲れ様~。ようやく地球へ帰れるねぇ~」

 と、輝明さんがそう言いながら部屋に入ってきた。

 チョコチョコと後ろから二人の子供が付いてくる。幸輝君と魅香ちゃんだ。あれ?今日の魅香ちゃんは脇差サイズの小刀を帯刀してるんだな…。

 幸輝君が席に座って手に持っていた透明なカップに入っているオレンジジュースらしきを飲んでいる。俺はすぐに立ち上がり幸輝君に近付いて、同じ目線になるよう座る。

「幸輝君。今回はありがとう。君が艦隊を出してくれたおかげで我々は助かったよ」

 と、礼を言う。

 事実、あの艦隊が無ければ苦戦を強いられていただろう。

「ううん。前田先生、気にしないで下さい!また新しいのを沢山もらえるので」

 え?どゆこと?また大量に宇宙連邦から艦船を貰えるの?

「そ、そうかい。それはよかった」

 俺は幸輝君の頭を撫でて、輝明さんの方を向く。

「あぁ、どうやら宇宙連邦軍が報酬として無人艦隊を大量にくれるらしい。まぁ、処分先に困った中古艦隊のいい引取り先になっているんだよ我々って」

 と、輝明さんは笑っていた。

 中古艦隊と言っても地球人から見たらオーバーテクノロジーだろうに…。

「そうですか」

 俺はどんどん増える味方の戦力に心が躍りながらも、ヴァルカ残党軍の存在と逃がした愛理ら三人の存在に不安を感じながら過ごしていった。







 地球ではいつもどおり大学での暮らしが待っていた。


 地球にいなかった分の知識を身代わり人形達から貰い、不自然な点がないように過ごした。

 え?べ、別にレイーヌの身代わり人形の水着姿を見たからって心安らいだわけではないぞ。やっぱり、本物が良いしぃ、人形が良くできているなんて思ってないしぃ…。


 …。


 今度本物のレイーヌを連れて海へ行こう。そうしよう!




――――――――――。




 あれからしばらくは平和が続いた。




 地球では相変わらず異星人の事を知らない人ばかりである。



 だが、俺達は常に宇宙で起きている事件を知ることができる。



 小岸愛理を連れて行ったカトリーヌは、懲りずに悪さをいろいろな惑星で行っているらしい。

 まぁ、悪さなんていう軽い表現で収まるもんではないけどね。




 小岸愛理は地球や惑星ガ・五に近付いてくる様子は無いので、俺は奴を討伐に行くことは無い。

 それが少し残念だが、今は非常に充実した日常を送っている。



 仲の良い友達と学生生活を送り、素晴らしい前世からの婚約者と共に過ごせ、非常に心強い部下達に囲まれ、頼りになる上司に恵まれている。


 あの暗かった高校生活2年と3ヶ月。

 今はあの時とは比べられない位幸せだ。



 前世の記憶が無く、今世の18年間過ごした『前田 竜生』よ。

 前世の記憶がうっすらと戻って俺を助けてくれた『前田 竜生』よ。

 大切な"家族"を殺され強い憎しみを抱いていた『前田 竜生』よ。


 今、お前は俺の中で心安らかに過ごせているだろうか…。





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