第65話 訓練試合
俺達は基地の格納庫へ案内され、現在地球人が開発したBWを見ていた。
説明では最新型との事らしい。
「こりゃすごいっスねぇ、隊長!」
そう言ったトリットの顔は生き生きとしていた。
「これだけのBWを生で見たのは久しぶりですね」
グリゼアは格納してあるBWを見渡しながら言った。
現在は大型BW格納庫の中に居る。
比較的高い位置から見ているので、中の様子が良く見渡せる。
3体が一列の10列。30体のBWが並んでいた。全て同じ機体である。
「『GBW-08雷牙』。五頭家とガルドが開発した最新のBWですねぇ」
と、リズリーが説明をした。
俺も久々にこれだけの数の地球産BWが揃っているところを見た。
シミュレーターでは1万機VS1万機という地球の機械なら処理ががた落ちしそうな体験をしたことはあるが、やはり生でこれだけの数のBWを見る事ができるのは気分が高まる。
実際に宇宙での訓練をした時でも旧型の最大15機を同時に見る事はできる。今回はその倍である。
「今まで実際に使っていたのは旧型の『太刀風』だったからなぁ」
と、しみじみとした表情でデルクロイは言った。
『GBW-07太刀風』旧型とデルクロイは言ったが、宇宙連邦軍が現在幅広く使っている主力機『バリオン』という機体と同等の性能を持つ機体である。そして、今回俺達が見ているこの『雷牙』は、現在配備を進めている『リッドⅦ』という宇宙連邦軍の新型機と同等らしい。
これは本格的に宇宙連邦と国交を結んでいない者達が作った機体としては破格の性能を持っている。
噂では過去、宇宙連邦のコストを度外視した試作機を提供され、それを解析して量産したとか…。五頭家の財政は大丈夫なのだろうか。
地球人産のBWを強くする理由としては単純に宇宙連邦に比べて数が少ないからだ。
つまり少数精鋭ということなのだそうだ。
またカトリーヌみたいな奴に来られても防衛できるようにしないとね。
最新型か…。乗ってみたい。
「さて、スレード隊諸君には陸戦テストを兼ねて、この機体を扱ってもらいたい」
と、輝明さんが俺達に向かって言った。
マジか!この機体を使えるのか!
「マジっすか!」
トリットはそう言って喜び、
「やったー!新型機だぁ!」
と、ミューイも両手を挙げて喜んでいる。
あれ?ミューイってBWじゃなくて、指揮車に乗るんじゃないの?
「期待しているよ」
と、赤林大将もニヤリとしながら言った。なんだ?何を企んでいるんだ…?
「ところで、装備は標準装備で?」
と、ここでモリガン。
あ、そうか。これはテストだから普段俺達が使っている追加装備は使えないのか。
「いや、それぞれ得意な装備でテストを行ってもらいたい。専用のバックパックや装備は既に用意させているからね」
輝明さんはそう言って否定した。
「なるほど。太刀風用のバックパックも付ける事が出来るんですね」
と、レイーヌは言った。
ふむ。それならばコスト削減にも繋がるし、戦場では流用もしやすいだろう。
「いんや、バックパックやその他装備もこの機体と合わせて新型を作った。もちろん太刀風にも流用可能だが、バックパックも性能が上がってより一層協力になったぞ!」
そう輝明さんは胸を張っていう。
「さぁ、こっちだ!」
と、テンション高めの輝明さんは俺達を別の場所へと案内する。
輝明さんに案内されて最初の倉庫を離れた。あれ?この中の機体を使うんじゃないの?もしくは専用の装備がある格納庫は何処か別の場所なのかな?
そう思って着いた場所は先ほどの格納庫とは違う場所であった。
「よし、着いた。ここに君達が本日使う機体と装備達があるぞ!」
そう輝明さんはニコニコしながら言った。
じゃぁ、なんであそこに連れて行ったんだ!?
「え?なんでここに機体があるのにあそこに連れていったんスか?」
おぉ、トリットが真っ先に聞いてくれた。
「「…」」
え?輝明さんと赤林大将が黙ってしまった…。まさか!
「宇宙連邦と同等の性能を持つ優秀な量産機を自慢したかっただけか…」
あ、モリガンが言ってしまった。
「「……」」
輝明さんと赤林大将が俺達から視線を外した。図星だったのかよ!
「フゥ…」
あ、グリゼアが冷ややかな目をしている。その目やめてあげて!
「プッ!」
パルクスが笑いを堪えきれず噴出している。もうこれ以上苦しめないで。
「「…」」
あっ!輝明さんと赤林大将のテンションが目に見えて下がってる!
「それで、私と副隊長がのる指揮車はどれです?」
と、気を遣ってか、ミューイが輝明さんと赤林大将に聞いた。
あ、指揮車ってことは分かっていたのか。新型BWに乗れずがっかりするかと思っていたけど大丈夫そうだな。
「え?あぁ、うん。よく聞いてくれた!」
輝明さんのテンションが戻った。
「実は、あそこにある機体に乗って欲しい」
輝明さんが指差した方向にはしっかりとした四脚の上にBWの胴体がくっついたような機体があった。
何だありゃ。
「バトルワーカーなのか?」
と、デルクロイが疑問を口にする。
デルクロイの感想も最もだ。地球のアニメとかの知識から言えば多脚戦車だ。
「そうだね。あれもバトルワーカーの部類だよ。君達がいつも乗っている機体は『人型BW』っていう部類だけど、あれは『半人型BW』だね」
輝明さんは目を輝かせて説明をする。その横で赤林大将は誇らしげに胸を張っている。
どうやらBWにも沢山種類があるらしい。
もしかして四脚動物型とか魚型、鳥型、昆虫型もいるのだろうか?
「『半人型』と付いているという事は、半分人のようだという意味ですよね?」
レイーヌがそう質問をすると、
「その通り。あの新型はあんなしっかりした足をして重そうだし遅そうけど、地上では主に歩いて移動したりするわけではなく、ホバー移動を目的としているんだ。そして自由に自身の高さを変える事ができ、あの機体は特に通信能力やレーダーが強化されているんだ。指揮官専用の機体と言ってもいいね。ちなみに防御面も装甲の強度やエネルギーシールドが雷牙の倍あるよ。ちなみにあれを元に多脚戦車も開発しているんだ」
輝明さんは力を入れて説明をしてくれた。
しかし珍しいな。今まで五頭家のBWは全てマルチロール機だった。宇宙連邦だって特殊な環境下用でない限り人型だ。こういう機体を見るのは旧型機ぐらいだろう。
「名前は『GBWX-35栄華』だ。新型機っていっても試作機だけどね。操作は簡単。とりあえず今回は地上戦だけの予定だから車を使うような感覚でいけると思うよ。通信機器の扱い方は今まで訓練してきたものと同じだから迷う事はないと思う」
と、輝明さんは説明を付け加えてくれた。
なんか重厚そうで武装をしっかりすれば俺達が乗る機体よりも強そうだな…。
そういえばこの機体を元に多脚戦車の開発もしているんだっけ?こっちを量産した方がいいのではないだろうか?
「まぁ、そんな事より、みんなにはこれから演習をしてもらおう。対戦相手は同じ数の『太刀風』と指揮車両だから」
そう輝明さんが言った後、俺たちは自分達用にカスタマイズされた機体に乗り込んだ。
俺用の機体には、通信能力が強化された上に、通常のバックパックよりも機動力が上がるバックパックを装備している。長剣にアサルトライフルという装備である。長剣にはビームを纏う事ができる。標準装備の小型ミサイルもバックパックに収納されているようだ。
デルクロイ用の機体は重砲撃ができるように装着パーツが備えられており、バックパックは砲撃用の大砲が片側一門ずつ装備されている。
バックパックには俺の倍ほどある小型ミサイルと、脚部に中型三連ミサイルポッドが左右に装備されていた。
演習には高火力の機体は意味がないかと思うが、味方機に当たる際は全て打ち消されるような演習ビーム粒子の為、安心して撃ちまくれるらしい。すごい技術だ。
格闘武器としてランスが備えられているが、このランス。砲撃にも使用できるという意味のわからない武器だ。
レイーヌの機体は頭部にスナイパーゴーグルが付いていた。
バックパックは標準装備であるが、持っている武器が長距離用のスナイパー銃である。マシンガンにもなるらしい。
モリガンは格闘戦用の装備だ。バックパックは通常のものだが、大剣を装備している。俺の機体が装備する剣よりも大きいようだが、どうやら振れば斬撃が飛ぶらしいとんでもない代物の武器だ。シールド発生器にもなるらしい。
パルクスは標準装備のアサルトライフルだ。格闘武器はビームサーベルとい本当に特徴のない機体だ。ただ、バックパックは俺と同じ機動力が上がるもののようだ。
リズリーは大規模攻撃魔法用の魔力タンクを積んだ機体だ。バックパックに不自然な丸みがある。燃料タンクのような扱いだろう。
武器は大きい人工魔宝石が付いたアサルトライフルである。
トリットは様々な妨害用の攻撃ができる電子戦機のような機体だ。
レドーム付きのバックパックは魔法攻撃の妨害の他に科学攻撃の妨害もできるようだ。トリットの戦術は魔法以外にも広がったため多種多様の訓練が必要になったようだ。
武器は通常のアサルトライフルである。
グリゼアとミューイの機体は二人乗りである。グリゼアが操縦をしてミューイが機器を確認して戦場の全体を把握、グリゼアに伝えグリゼアの指示を隊の全員に伝えていく。
以上が全員の機体説明である。
前世の頃に乗っていたそれぞれの機体の特徴と役割は大きく変わっていない。ただ、科学的な要素が追加された位だ。
もう少し機体の説明をすると、宇宙連邦や五頭家が使用するBWはパイロットの能力も大幅に上げる事ができる。
反射神経や情報の処理能力を上げ、更に重力軽減もしてくれるため、Gの負担もないとんでもない機体だ。
それを倒す生身の人間って…いったいどうなっているんだろう。
今は全員それぞれの機体に乗り込み戦闘開始の合図を待つだけだった。
「<全員所定の位置に着いたな?>」
と、赤林大将の声が全員のコクピット内に響く。
「<これより、雷牙の地上テストを行う。全員戦闘を始よ!>」
赤林大将の声で、模擬戦が開始された。
「よし、スレード隊、模擬戦を開始する。ミューイ敵の動きは」
「<敵、微速ながらこちらへ近付いてきています>」
「なるほど。グリゼア、敵の進路を予想し、配置を頼む」
「<了解。敵は10時方向からの接近と予想されます。配置は…ん?ミューイ。直ぐに敵の高度を解析>」
「どうした?」
「<副隊長!結果出ました!>」
「<なるほど、隊長。彼らは正攻法で我々と対峙するつもりはないようです>」
「と、いうと?」
「<この反応。地中ですね>」
「マジか…」
BWで地中って…。




