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第60話 むもも

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 私ことレイーヌ。今世名麗華は現在、魅香ちゃんと一緒に岩だらけの山の中に居ます。

 この山には緑が生い茂った木々は生えておらず、ポツンポツンと枯れたような木々が点在しているのみです。

 この世界は植物が生えるのに適さない場所なのかと思えばそうではないらしく、山の下には広大な樹海が存在が確認できました。


 一応私は魅香ちゃんからこの世界について説明を受けました。


 妖怪界。

 凶暴な妖怪が居る可能性。


 通常であればとても信じられる状況ではありません。


 だけど、異星人や里帰りしたリール連邦で見たオーヴェンス様の生き返った御学友を見てきた私にとっては、あぁ。こういうこともあるのか。と、簡単に納得してしまいました。

 数ヶ月前の私であれば絶対にありえない物分りの良さです。


「魅香ちゃん。私から絶対に離れないようにしてくださいね」

 私はマリーさんから貰った腕輪の機能の一つ。自己空間と呼ばれる特殊な空間から拳銃を取り出す。

 これはお父さんから貰った銃。妖怪には効くのかな…。


「神埼先生。その銃は何処で?」

 と、魅香ちゃんが聞いてきました。


「これは私のお父さんから貰ったものよ。魅香ちゃんにはちょっと扱いが難しいかもしれない…」

 自分の身を守るために必要な物かもしれないけど、7歳の女の子が扱えるような物ではない。


「いえ、魔殺しの仕掛けが施されているようでしたので、少々驚いたのです。しかしそうでしたか。神崎先生の父君が…」

 あぁ、これが欲しかったわけじゃないのですね?

 それよりも、

「え?これは妖怪とかに効くのかしら…」

「ある程度は効果があるかとおもいます!」

「そうなの?それならば…」

 少しは希望が持てそうですね。


 私達はそのままオーヴェンス様や幸輝君の捜索を行いました。


 だけど、人一人発見できません。


 代わりに発見できたモノといえば、


「神埼先生!餓鬼です!」

 ガキ?子供?

 私はそう思っていると、前方の岩陰から子供くらいの背の醜い何かが飛び出してきました。

「こちらを殺そうとしています!」

 魅香ちゃんはそう言うと、刀を取り出して宙を切ります。刀といっても小刀ですが、綺麗に扱っていました。

 そして、魅香ちゃんが何をしたかと思いながらも岩陰から出てきたガキといわれるモノを確認します。すると、ガキの上半身と下半身が分かれて倒れていました。


「まさか、斬撃を飛ばしたの!?」

 リール連邦でも斬撃を飛ばせる兵士は居たけど7歳の女の子ができるなんて話聞いたこともありません。

「はい、神崎先生。あれは餓鬼と言われる小鬼の一種です。あ奴は確実に私達を殺そうとしていたので、神崎先生も攻撃して大丈夫です」

 しれっとそう答える魅香ちゃん。

 すごい…。

「わ、わかったわ。あれは敵なのですね?」

 私は辺りを警戒しつつそう答えました。


むもも。むもも。


 え?


 変な声が聞こえるかと思って振り向くと、10m程先の岩陰から私と同等の高さの紫色の泥人形みたいのが現れました。上下に黒い袴のようなものを着ています。

 目が三つあり、私達を見るとこちらに向かって進んで来ます。


「クッ!」

 私はとっさに銃を構えて引き金を引こうとしましたが、


「神崎先生待ってくだされ!あれは味方でございます!」

 と、魅香ちゃんが私を止めました。

 え?あれが味方!?


 魅香ちゃんはそう言った後、ドロドロ人形へ向かって駆け出します。


 魅香ちゃんはドロドロ人形へ近付くと、

「お久しぶりです!まさかこのような場所で会えるとは…」

 と、ドロドロ人形へ話しかけました。


 え?日本語通じるの??


「むもも、むもも」


「そうしたか。妖怪の調査をしていたのですか…」


「むもも。むもも」


「実は私、音熊市から来たのです」


「むもも?むもも」


「はい。あの事件があった場所です」


「むももむもも、むもも」


「多分そう考えています…」


「むもも?」


「いえ、私達だけではありませぬ。清堂家の幸輝と前田先生…えっと、男の人が一人ここに迷い込んでいるはずです」


「むもも…。むもも!むもも?」


「あ、父へは連絡は行っていると思いますよ?清堂の家の人が私達がここに来るのを見ていましたから」


「むもも」


 驚いた事に魅香ちゃんとドロドロ人形は会話をしています。

 "むもも"としか話していないのによく会話ができるものです。

 ちなみに私の腕輪は翻訳機も兼ねているようですが、まったく反応がありません。


「えっと、魅香ちゃん?この方はなんと仰っているのかしら?」


 私も恐る恐る近付きながら魅香ちゃんへ問います。


「あ、すみません。この方は『むもも』殿で、私の父の部下の方です」

 と、魅香ちゃんは説明してくれました。

 部下。ですか…。


「なるほど、だから味方なのですね」

 私は先ほどの魅香ちゃんの発言を思い出しつつ納得した。


 それよりも、さっきの餓鬼は悪い奴でこの『むもも』さんは良い妖怪。


 この先どんな妖怪が出てこようとも見分けがつかなくて大変そうです。


「むもも、むもも!」


 あ、なんだか私に挨拶をしてきた気がします。


「『むもも』殿は、『私が安全地帯まで案内しますので、よろしく』と言っています」

 魅香ちゃんが訳してくれます。


「は、はい。こちらこそよろしくお願い致します!」

 翻訳機!仕事して!






 私達はそれから山を降りて行きました。


 途中先ほどと同様に餓鬼が複数出てきましたが、その殆どを魅香ちゃんやむももさんが倒しました。

 私が倒したのは1匹だけ。


 むももさんの攻撃方法は体液を飛ばして相手を溶かすという手段です。

 結構えげつなく、ジュウジュウと餓鬼が溶けていくところを間近で見てしまい少々気分が悪くなってしまいました。

 あれはきっと強力な酸とかでしょう。


「うぅむ。一体二人は何処へ行ってしまったのか…」

 魅香ちゃんは下山しつつ周囲にオーヴェンス様や幸輝君を探しています。勿論それは私もです。


「むもも…」


「そうですか…。むもも殿も人の反応は感知できておりませぬか…」

 相変わらず魅香ちゃんはむももさんの謎言語を理解して会話をしています。先ほどから私の翻訳機は仕事をしていない…。


 あれ?なんとなく見上げた空から一粒の点がこちらに受かってやってくるような…。


「皆さん。あれは何でしょう」

 私がそう質問をし、空の黒点を指差す。


 黒点はだんだんと近付くにつれ、形がはっきりとしてきます。そして飛んでくるのが鳥や飛行機ではない事に気付きます。


「人?」

 私はそう呟きました。そう、夕焼け空からやってきたモノは人型の何かでした。


「あれは?」

「むもも?」

 魅香ちゃんもむももさんも分からないようです。


 やがて、その人型は私達の目の前に降り立ちました。

 飛んできた速度そのままではなく、スピードを落としてゆっくりと着地しました。


 あれは敵なのでしょうか味方なのでしょうか。

 とりあえず私は銃を構えます。


 降り立った人型は、細身で肌の色が茶色く、ゴツゴツと乾いた大地のように皮膚が割れています。口元は尖っており、色や皮膚を無視すれば河童のように見えます。


 すると、

「ほぉぉう。人間が迷い込んだよ思ってきてみれば、人間に飼われている群れてなきゃ何もできない妖怪の風上にも置けない奴もいるじゃぁないかぁ~」

 そいつはそう言っていやらしい笑いを私達に向けてきました。


「むもも!むもも?」


「はぁ?獲物を前にして引き下がるわけねぇだろぅ?親分の命令でお前達には手は出さなかったが、目の前に人間が居るならば話は別だ!そいつらを置いていけばお前の事は見逃してやる。さっさとその人間を寄越せ!」

 敵意ある者で間違いなさそうですね…。


「むもも!むもも!!」


「ほぉ~う。俺に逆らうのか…?フン、いい度胸だ。いいぜ、お前を消した後その人間達を頂こう。女が二人、その内子供が一人…美味そうだなぁ~」


パン!

 とりあえず撃っておきましょう。


「いて!!?な、何しやがる!!」


パンパン!

 あまり効かないようですね。


「ぎゃ!?な…なんだと!?人間如きの攻撃がこの俺に通じるだと!?馬鹿な!」


パンパン!

 あ、痛がっています。


「ひぎゃ!?痛い!痛い痛い!!このやろぉぉぉぉおおおおうぅぅぅ!!!」


ドガン!


 相手は自身の拳を地面へ叩きつけました。すると、地面が捲りあがり津波のように私達に土の塊が向かってきます。


「切る!」

 魅香ちゃんは再び横一直線に斬撃を飛ばします。すると、見事に土の津波は吹き飛びました。


「むもも!」

 むももさんも酸の液体の大きな弾を相手に飛ばします。


「ぐっ!?」

 相手は飛び上がり空中に回避します。

 しかし、

「残念だったな。空を飛べるのは貴様だけではない」

 魅香ちゃんは空中に飛び、相手を刀で叩き落としました。

「なんだと!?うげふ!!」


ドウン!


 相手は地面に落下しました。死んだのでしょうか?


「う…ぐ…くそぅ!」

 相手は直ぐに起き上がってきます。残念。


「ま、まさか硬化させた俺の腕に傷を付けたのか?」

 起き上がった後、自分の腕を見て驚愕しています。黒く色が変わった所が硬化した所のようですね。ですが、ぱっくり切り傷が入っています。


「お前ら!遠慮はいらねぇ、こいつらを殺せぇぇえ!」

 怒りに震える相手はそう叫びました。まさか!仲間が居たの?


 周りを見ると、餓鬼や昆虫が大きくなったような妖怪が私達の周りを囲っていました。


「うわっはっは!流石この妖怪界に乗り込んできただけの実力はあるようだが、ここまでだ!お前達人間は俺の胃袋に入り、そこの雑魚妖怪はここで切り刻まれて死ぬんだよぉぉおお!」

 そう高らかに笑っています。

 く…。銃弾はまだありますが、少し一斉に攻められたら防ぎきれるでしょうか…。


キーン!


 なんでしょう。空から甲高い機械音が…。


 え?何あれ!?


「あ!?なんだありゃ!?」

 相手も気付いたようです。


 空から聞こえてきた音の主は、一つの未来的なデザインの大型バス並みの大きさがある飛行物体でした。

 黒く、緑色の光を放っています。

 周りには同じく灰色の機械的な翼が生えた空飛ぶ人型の何か。


 敵…かは分かりませんが、少なくとも目の前の妖怪の仲間では無いでしょう。


 飛行物体は私達の上空で止まり、こちらの様子を伺っているようです。


「むもも!むもも!」

 むももさんがあの飛行物体に向かって叫んでいます。知っているのでしょうか?



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