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第4話 学校は平和な場所ではなかった

 朝食を食べ、身支度を済ませてから学校へと向かう。


 母からは、

「あら今日は早起きなのね」

 などといわれ、笑顔で

「今日は何だかすっきりと目が覚めたんだ」

 と返したら、やはり驚いていた。いったい普段の竜生はどういう会話をしていたんだ。


 学校への道は昨日通ったので覚えている。

 しかし、俺はこのまま学生生活を続け、結局その後どうすればよいのだろうか。

 もし次に夢の中で竜生と会うことができたら普段の口調を聞いておこう。


 そういえば、竜生は学校を卒業したらどうするつもりだったんだ?就職か。進学か…。

 前世では既に進むべき道が決まっていたオーヴェンス・ゼルパ・スレードの頃はこのようなことを考えなくても良かった。


 俺はこれから何を目標に生きていけばいいのだろうか。


 今更であるが、リール連邦がどうなったかも気になる。

 あの戦闘の後、リール連邦はおそらく劣勢に立たされただろう。

 敵も高性能なBWを用意してきた。リール連邦側のBWを50機も一瞬で葬ったのだ。敵の戦力は大きい。

 戦線は押し戻され、国土も…。


 母国に関しては絶望的だな。


 うん。悲惨なことばかり考えていても仕方が無いか…。

 どうすればいいかはこれから見つけていこう。


 教室についてから、俺は自分の席に座る。


 何もすることが無い。


 いつもはどうしていたのだろうか。  

 鞄の中身を漁って教科書を取り出す。

 昨日パラパラと見たが、ここでしっかりとこの国の歴史を見ておいたほうがいいだろう。

 ほうほう。弥生時代…。飛鳥文化…。平安京…。

 しばらく見ていくと、戦国時代までページが進む。本当にパラパラ流し読みだ。

 戦いの歴史だ。


 どうやらこの国の内戦時代を記録したものだ。

 この国は海に囲まれている為、戦争の記録は圧倒的に内戦が多い。

 あれ?何か違和感が…。


 絵に描かれているのは弓兵や槍兵、騎馬隊…。鉄砲隊というリール連邦の新型兵器を劣化させたような部隊もあった。


 『鉄砲』

 奇妙なものを発見した。


 『火縄銃』か…。


 なんだろう。これ、どう見てもリール連邦軍が使っていた新型の"弓"だよな?

 リール連邦よりも性能が悪そうだが、これは紛れもなく新型弓である。


 あれ?やっぱりおかしいぞ?


 この教科書に書かれている『銃』を見ると、こっちの方が最初に登場するべき兵器じゃないか?


 リール連邦の新型弓は完成されすぎていたような…。


 う~ん。どういうことだろう。


 考えていても理由が思いつかない。


 後で考えるとして、別の歴史でも見るか…。


 次は魔術師の活躍を見たい。


 竜生は魔法はこの世界に無いと言っていたけど、過去にはあったのではないだろうか。


 そう思って魔術士のことについて記載された歴史を確認する。が、やはりどこを探しても魔術士の活躍は書かれていなかった。


 この世界には元々魔法は無い。

 これは確定した事実だろうな。


 はぁ~…。他の事を調べるか。


 そういえば夢の中で竜生は『インターネット』なるものでレイーヌを探せと言っていた。


 インターネットのことについて歴史の教科書に書かれていない。どうすればよいのだ?


 頭を悩まし、誰かに聞くか。そう思って周囲を見回すと、既に教室の三分の二の人数が集まっていた。俺が来たときには数人しか居なかったが、もう時間になるのか…。

 隣の人が来た時にでも挨拶ついでに聞いて見るか。

 すると、後ろから覆いかぶさるように人影が俺の視界を遮った。


「よぉ」


 おや、だれだ?と一瞬思ったが、思い出した。

 泉か朝川のどちらかだ。

 えっと、たぶん泉の方かな?

「やぁ、おはよう」

 気兼ねなく声をかけてくれたんだ。挨拶ぐらいしても問題ないだろう。

 ニッコリと挨拶をすると、一瞬で俺に挨拶をした人物…たぶん泉の顔が歪んだ。

「昨日はよくもやってくれたな…面貸せや」

 あぁ、これは単純に昨日の仕返しをするだけだな。

 懲りない奴だなぁ。

「すまない。用事があるならここで言ってくれ。俺はちょっと忙しいんだ」

 と、歴史の教科書をペラペラめくる。

 一応竜生の忠告は聞き入れておく。こいつは無視しておけばいい。

「あ!?」

 俺の態度が気に入らなかったのか、バシンと机を蹴って威嚇された。

「何を怒っているんだ?昨日の事は自業自得だろ?最初に手を出してきたのはお前達だ」

 俺はそう言ったが、一向に俺の机から離れようとしない。

 本を見ながらチラッと確認する。

 まだ居る。しつこいな。

 すると、後ろから背中を掴まれた。横に居る奴ではない。新手だ。

 何故気付かなかったかと後悔した後、俺は後ろを振り返る。

 昨日のニヤつき顔の奴だ。朝川だったか?今日は不機嫌そうである。

「こいって言ってんだよ」

 声を低くしながら言ってきた。本当にこいつら俺…竜生の事が大好きなんだな。

「用があるならここですませろ。と言っているんだ。わからないのか?」

 俺がそう言うと、


「え…?」


 という驚きの声が周りから聞こえる。竜生がこんなことを言うのは意外なのだろうな。今までこの二人にされるがままだったのに、急に態度が変わったんだ。

 そうはいっても別に一昨日までの竜生として振る舞う必要はない。竜生だって俺にこの体を任せているようだし、俺の好きにさせてもらおう。

「てめぇ…。おい、朝川やるぞ」

「落ち着け、ここではやめよう」

 やはり俺に挨拶をしてきた方は泉だったようだ。どうやら泉は喧嘩っ早い性格みたいだな。昨日ニヤついた顔をして、今泉を止めようとしている奴やはり朝川らしい。

「おい前田。てめぇだってここでみんなに迷惑かけるより、場所を移動して穏便に済ませた方がいいだろ?」

 朝川の方が俺を説得しているみたいだ。どうしても俺を教室外へ連れ出したいらしい。

「他の人間に迷惑をかけるかどうか。それはお前達次第だぞ朝川」

「は?」

 朝川は知的ぶっているが、どうやら理解力が無いらしい。

「わからないか?ここで昨日の件を謝罪するならば別に人が居ないところでやらなくてもいいだろ?口で言うのが恥ずかしいのであれば、手紙でもいい」

 俺がそう言うと朝川の目が据わった。

「「…」」

 おや?二人共黙ってしまったぞ?

「おい。みんな聞いてくれよ。こいつここに居たらみんなの迷惑だよな?一旦教室を離れた方がいいよな?そう思う人は手を挙げてくれ」

 朝川がそう言うと、ちらほらと挙手する人が出てくる。

 あらら。最終的には教室の半分の人間が挙手した。

「ほら、前田。みんなこう言っているんだからさ。出ろよ!」

 朝川はまるで大人が子供に言い聞かせるように言ったが、その表情は大人というより子供が機嫌を悪くしている表情そのものだ。

 竜生は無視しろ。と言ったが、ここまで味方が居ない状態とはな…。

 俺はため息を付いた。そして目の前の駄々をこねる二人をゴミ虫に向けるような目で見る。

「そんなに俺に出て行って欲しいなら無理やりにでもやってみるんだな。手を上げた奴も含めてもいい。やってみろよ」


「え?」

 教室に居た泉や朝川以外の連中は驚いているようだった。まさか自分達まで俺に挑発を受けるとは思っていなかったようだ。


 だが、それが戦闘の合図になったようだ。泉が俺の机を蹴飛ばし、殴りかかってきた。だが俺はすばやく立ち上がり泉の足を引っ掛け思いっきり頭を押して先ほどまで俺が座っていた椅子に泉の顔面をぶち当てた。

「アガァアアア!?」

 鼻血を出しながら床に転がる泉。

「おらぁぁああ!」

 朝川は別の椅子を持ち上げ俺の頭に落とそうとする。そこで俺は身体強化の魔術を使い、難なく椅子を受け止め、そのまま片手で朝川の顎を下から殴った。


バタン!


 朝川は崩れるように倒れた。


 俺は朝川が手を離した椅子をくるくると回して床に置き、そこに座る。

「まだやるか?」

 俺がそう聞くと、

「グガッ。でめぇ!」

 と、泉は鼻を押さえて俺を睨み、

「うぅ」

 と、朝川は呻いていた。

 勝負あったな。ってか、泉はこれだけ実力差を見せつけられてなお反抗するとはいい度胸だな。


「おい!お前達何をやっているんだ!?」

 ん?誰の声だ?

 突然俺の後ろから声が聞こえた。


 新手かと思い後ろを見ると担任がこちらを見て唖然として俺と馬鹿二人を見ていた。





 今俺は生徒指導室という部屋に来ている。

 どういう部屋かはよくわからないが、普通の教室とは違い小さめの造りとなっている。

 どういう目的で使う部屋なのだろうか?

 生徒を指導する…部屋?それだとそのまんまだな。


「おい、前田。お前自分がやったことわかってんのか?」

 そう言って担任とは違う教師が俺に問いかけてきた。

 あれ?怒ってるの?

 もしかしてここは説教部屋だったのか?

 先ほどまで俺がこの部屋で教師と泉と朝川の件で話している理由については、単に事情聴取目的と思っていた。


 目の前で何故か怒っている教師。最初にこの世界で目を覚ました俺が出会った上下青の服を来た男だ。今日は上下黒の服を着ている。材質は前回と同じく動きやすそうな感じだが、なんだかこの教師のファッション感覚はおかしいのではないだろうか?

「前田。お前は今日どれだけ拙い事をしたか理解しているのか?」

 あれ?どうやら今回の事件はこの世界にとってかなりまずいことだったらしい。

「私がやったことですか?単純に正当防衛ですが?」

 俺がそういうと、教師は俺を睨み、

「怪我人が出たんだぞ」

 と言って来た。

 うん。出たよね。


「そうですね。私も昨日の話ですが怪我をしました。あの二人のせいで頭に大きなコブができてしまいました。見ますか?」

 俺がそう返すと、明らかにイラついた態度を教師は見せ、

「お前なぁ。前にも言ったが、お前が我慢すればこんなに大事にはならなかったんだぞ!」

 と、教師は言い出した。


 は?


 何を言っているんだこの教師は?


 相手から手を出されたので自分の身を守った。このことがこの世界ではまかり通らないのであろうか。

 そう考えていたが、そうではなかったらしい。

 教師はどうやら今回の責任を俺に押し付けたいようであった。

「なら、今回はあの二人に我慢してもらいましょう」

「チッ」

 俺の提案に盛大な舌打ちで教師は返した。

「なにも私が犠牲になる必要性はありませんよね?今回は単純に今まで俺が肩代わりしていた分を彼らに責任をとってもらう。ただそれだけです。それともどうしても俺が犠牲にならなくてはいけない理由があるのですか?」

 教師がなおも忌々しいという表情で俺を見ていた。すると、


「すみません!竜生の母親の前田です!」


 と、母が真っ青な表情で生徒指導室に入ってきた。

 あれ?どうして竜生の母親がここに?


 そう思っていると、教師は俺から視線を竜生の母親へと移して、

「あぁ、どうぞお座りください」

 と、教師はぶっきらぼうに母を椅子へと案内した。

 すごく悪い態度だなぁ~。


 母が席に座るのを確認した後、

「早速ですが、前田さん。あなたのお家では息子さんにどういう教育をしているんです?」

 教師がそういうと、母はたどたどしく、

「あの…。内の竜生が人に暴力なんて…。何かの間違いではないのでしょうか…。昔から竜生は人に優しくて正義感が強くて…」

「事実は事実です。受け入れてください」

 母の言葉を遮って教師は真剣な表情を作った。さっきまで変な顔だったのにそんな表情ができるのか…。

「竜生…。なにかの間違いよね?あなたが暴力を振るったなんて…」

 母はすがるように俺の服を両手でつかみ、涙目になりながら聞いてきた。

 なるほど、竜生の母は精神的に少し弱い部分があるのか。だから問題になって母に迷惑をかけまいと竜生はやり返しもせず、ただただいじめを受け続けていたのか…。


 だが、俺は正直に言わねば先には進めないと思った。

「母さん。残念ながら本当です」


「…!?」


 母は、両手で口を押さえて涙をこぼした。

 あぁ、見ていると心苦しい!


「息子さんもそう言っている通り…」

「ですが、母さん。俺もいじめられていた。いつも殴られて蹴られて…今日も同じようにやられそうになったんだ」

 俺は教師の言葉を遮り母に言った。

 この言葉で更に母は驚いたようであった。

「おい、お前はもう黙ってろ!」

 教師は慌てて俺にこれ以上言わせないようにしようとしたが、

「嫌です」

 と、きっぱり断った。

「なんだと!?」

 教師は顔を赤くして俺に威圧をかけるが関係ない。

「母さん。昨日は心配させまいとだまっていましたが、この頭のコブは昨日やつらにやられた時の傷です。母さん、今日起きたことも…」

「黙れ!いい加減にしろ!」

 教師はついに怒鳴った。

 俺は泉や朝川に対して行ってようにため息をついて蔑んだ目で教師を見た。

「先生。事実は事実です。受け入れてください」

 俺は先ほど教師が母に対して言った言葉をそのまま使用した。

 教師は見る見るうちに顔を赤くし、


「もういい!帰れ!」


 と、教師は顔を真っ赤にして怒鳴り、入り口を指差した。


「わかりました。では、母さん。行きましょう」

「え?…えぇ」

 母は状況が飲み込めていないのかフラッと力なく立ち上がり、俺についてきた。


「この件の処分は受けてもらうからな…」


 去り際に教師はそう言ったが、

「あまりにもこちらで受け入れかねない内容だった場合、しかるべき処置をとらせていただきます」

 と、俺は言って生徒指導室を出た。

 生徒指導室から少し離れると、


「チクショウガァァァ!!」

ドガーン!!


 と、生徒指導室から怒鳴り声が響いていた。

 何かに八つ当たりしているような音も聞こえていた。


 物は大切にしないとな。"クソ教師"。



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