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第54話 今回も犠牲者と馬鹿は多かった

 ようやく校門前の状況が落ち着いたのは負傷者の救助が終わった3時間後の事であった。



 時刻は既に日付が変わって夜の12時。


 結局機動隊の応援がかなり来たようで、負傷者を出しながらも制圧に成功したらしい。


 これは後で分かった事だが、死者の数がかなり多かった。


学校派:30人

反学校派:240人

警官:18人

羽射刃暗:5人


 学校を攻めていた連中の数は計2千人程だったらしいが、その全てが反学校派というわけではないそうだ。

 銃を乱射したのは反学校側以外にも羽射刃暗も含まれていたらしい。

 羽射刃暗側の連中は全員射殺という結果に終わったが、羽射刃暗はなんと反学校側のデモ隊の真ん中で攻撃を仕掛けたのだ。もちろん反学校派の連中の真ん中で銃を乱射したため、多くの反学校派の連中が死ぬ事となった。

 反学校側のメンバーが多く死んだため、反学校派は恐慌状態に陥り、動きが鈍くなっただろう。


 それが今回のデモを終わりへと導くきっかけになったといえば否定はできないと思う。


 羽射刃暗だけではなく反学校派の連中も銃を使っていたため、奴らがどうやって銃を入手したのかは今後調べていくそうだ。


 とりあえず俺達は佐々木さん達警察に自分の身元を説明した後返された。


「そんじゃ竜也、竜生、またなぁ!」

 そう言った純ねぇちゃんは負傷していたので病院へと送られ、安奈ねぇちゃんと晶さんは一緒に帰っていった。

 俺達兄弟もそろそろ帰ろうか。という雰囲気になった時、

「なぁ、兄さん純ねぇちゃんと一緒に病院まで付いていかなくてもよかったのか?」

 と、聞いた。

「行こうと思ったが断られた…」

 と、なんとも悲しそうな表情で答えられた。

「そっか…」

 俺はそう呟くように言った。

 おそらく…というか確実に竜也は純ねぇちゃんの事を想い続けている。


 きっと今まで俺を目の仇にしていたのは、俺の方が素直に純ねぇちゃんと遊べたり会話をしていたからであり、更に俺の方が常に心配してもらっていたからだろう。

 竜也は俺にそういう所を嫉妬していたのかも知れない。


「今回の件で分かったけど、竜也の方が頼りになる存在だったから竜也に電話がいったんだよ…」

 俺は思い切ってそう言った。

 竜也はちょっと嫌そうに驚いているようだった。

 俺が純ねぇちゃんの事を口にすると嫌な顔をするのはお前が純ねぇちゃんの事を口にするな。と言いたいからだろう。


 あー。恋愛関係のもつれって嫌だなぁ。


 だが、考えて見て欲しい。俺には既に婚約者のレイーヌがいるんだぞ?それに、

「俺の婚約者は既に紹介したはずなんだよなぁ」

 更に俺のこの発言で竜也は目を見開き何か憑き物が取れたかのように遠い目になった。

 まったく、この男は…。


 ちょっと愛のキューピットの気分になった俺は竜也より一足早く家へと帰っていった。





 翌日。俺は早速輝明さんに呼ばれた。

 まだ町の治安が安定しないという事で、あれから俺と竜也は神埼ホテルへ泊まった。勿論家族全員一緒だ。


 朝食を食べた後、監視でもされていたのかという位タイミングよく輝明さんが俺に話しかけてきた。

「やぁ、スレード君。昨日は散々だったね」

 と、言いながら近付いてきた。怒っているのかなぁ。

「えぇ、何とかなりました。いろいろとありがとうございました」

 俺はそう礼を言っておく。

「いやいや、実は僕は殆ど君達を救助する事には役立ってないんだよ。あの件は…と、まぁ立ち話もなんだし、会議室に行って話しの続きをしたいんだが、どうだろう?」

 と、輝明さんは提案してきた。

 おや?怒ってはいないのか?

「分かりました。是非」

 俺はそう言って家族に知り合いと上の階へ行くという事を伝えた。

 竜也は純ねぇちゃんの所へお見舞いへ行くそうだ。うん、上から目線になるかもしれないが、頑張って来い。



 そうして、俺と輝明さんは会議室へと向かい、部屋へ入っていった。もう入りなれた部屋でもある。


「オーヴェンス!」

「うぉ!?」

 部屋へ入った途端レイーヌが飛びついてきた。


「ひえぇぇえん!!ご無事でなによりですぅぅぅ!」


 泣かれてしまった。


「まったく、婚約者を泣かせるとは君も罪深い人だねぇ、ねぇ邦治さん?」

 輝明さんはそうニヤ付きながら言い、近くにいた邦治さんに話を振った。

「…う、え?あ、いえ…」

 と、邦治さんは返答に困っているようだが、ちょっとだけ俺へ向ける視線は厳しい。

 よくよく見るとスレード隊全員集まっており、宇宙連邦軍のマリー・フーも加わっている。居ないのはマリーの息子ラゼルトと鬼一郎さん、グリゼアの息子一之君だ。


 いつも思うのだが、一之君は一人で大丈夫なのだろうか?後でそれとなく聞いてみたところ、例の腕輪を一之君も装着したままなので、よほどのことが無い限り大丈夫だそうだ。(よほどの事と言うと、例えばカトリーヌ級のヴァルカ残党軍が艦隊を率いて攻めてきたりとかだそうだ。そりゃ俺達も危険だな)


 そしてレイーヌが落ち着いたところで話が始まった。



「さて、では改めて、スレード君。昨日はお疲れ様でした。皆さんもお疲れ様でした」

 と、輝明さんが言った。ん?皆さん?それはリズリーやパルクス以外のスレード隊メンバーも含まれているのだろうか?

「あっ、そうそう。実は昨日暴徒鎮圧の為に皆にも協力してもらっていたんだ」

 更に、

「さっきもチラッとスレード君に話したけど、実は僕は学校内で起きていた事の対処ではなく、学校外の事を対処していたんだ。この市の担当者の一ノ瀬家の依頼でね」

 そう輝明さんは続けざまに言った。

 なるほど。ん?そう言えば誰が鬼一郎さんを助っ人に呼んでくれたんだ?

「あぁ。もしかして誰の指示で鬼一郎が動いたか気になる?」

 輝明さんが俺の考えを読み取ったのかそう聞いてきた。

「簡単だよ。彼が自分で判断して君達を助けに行ったんだ。勿論僕や一之瀬家に話は通してだけど」

 と、説明してくれた。

「ははっ。いつも僕の指示で動いてくれていたから僕の部下と勘違いしちゃうかもしれないけど、彼は僕とは違う家の人間だからね」

 そう輝明さんは言って笑っていた。

 と、なると今回輝明さんは関係ないのか?

「ははっ。一応今回救助に行ったメンバーの中には僕の部下や一之瀬家の部下もいたけどね」

 とも説明を付け加えていた。

 なんだよ。俺の心でも読んだかの回答だな。


 輝明さんがそう言った後、鬼一郎さんが、

「私は紀崎家次期当主です」

 と、言って苦笑いをしていた。

 そう言えば輝明さんは清堂家の当主で鬼一郎さんは紀崎家の次期当主だったな。


「ま、そんなわけで今日はスレード君を少し叱りたいかと思いまーす」

 そういきなり輝明さんに言われたのでビクッとする。やっぱり怒られるのか。


「ん?なんで叱られるかわかっているかな?」

 輝明さんは笑顔でそう言っているが、叱られるという事なので内心ビクビクする。


「勝手に学校内へ行った事…ですよね?」

 俺がそう言うと、輝明さんは頷き、

「軍人であるスレード隊隊長は民間人を守る為に尽力しなくてはならない。そんな感覚が残っているからこそ行ったのかもしれない」

 その感覚が無いと言えば嘘になる。ただ、俺はもう一つ重要なミスを言わなければならない。

「それと、兄…竜也を学校内へ入れました。彼はただの民間人です。彼をあのような場所への侵入を手伝ったのは軽率でした…」

 そう俺が言うと、今度は輝明さんは首を振った。

「その点はあまり否定はしない。軍人が民間人に協力を求める事は結構あることなんだ。もちろん宇宙連邦軍でもね」

 輝明さんはそう言ってマリーの方を見る。

 マリーは苦笑いしながら頷いている。あー、マリーにも呆れられているなこりゃ。

 んん?でもおかしいな。俺の中の前田 竜生の感覚がおかしいと告げている。と、いうよりも現代日本人の感覚だろうか。民間人を巻き込むのは駄目な気がする。

 やっぱり宇宙連邦関係者と日本人の間では感覚が違うのかな?


「僕が言いたいのは、君はもう軍人では無い。ということだ」


「へ?」


 俺は間抜けな声を出した。

 決して輝明さんが言っている意味が分からないというわけではない。

 ただ、気付いてしまったのだ。

 俺は現在スレード隊隊長、オーヴェンス・ゼルパ・スレードではない事を。

 俺は前田 竜生。民間人だ。

 まったくなんの肩書きも無い民間人である。


「あ~…確かにそれだと拙いですね…。結構な罪になっちゃいます?」

 そう俺が聞くと、またしても輝明さんは首を横に振る。

「それは大丈夫。いくら学校から机を投げようが校庭で反学校派を縛りあげようが罪にならないように手をまわしてある。ま、そんなことをすればあの場に居た学校派の人達全員捕まえなくちゃならなくなるからね。あれはあくまでも反学校派が悪いってことになっているよ」


 うわぁ。情報操作だぁ。


「そうでしたか、竜也…兄や兄の友人達も捕まらなくて済むということですね?ありがとうございます」

 と、俺は礼をする。ひとまず安心だ。ん?じゃぁ、なんで民間人がどうのこうのと輝明さんは言いだしたんだ?

 俺が困惑しているのを見て輝明さんはフゥとため息をつき、

「君はいろんな人に心配をかけたんだ。特にご両親にね。昨日ご両親に謝っていたようだししっかり怒られたようだから僕からはきつく言わないけど、ご両親を心配掛けるような事をしないようにね。君はまだ子供なんだから」

 と、輝明さんは言った。


 心配か…。やっぱり日本人、宇宙連邦人と過去のリール連邦人は感覚が違うな。18歳が子供か…。だけど皆にかけてしまった事は事実だな。


 俺は周りに座っているスレード隊メンバーやマリーを見る。

 俺は立ち上がって頭を下げる。


「ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」


 と謝った。


「坊ちゃま。あまり一人であのような危ない場所へと行かないようにお願いしますよ…」

 と、グリゼアが。

「隊長なら大丈夫だと思っていましたよ~」

 と、ミューイが。おっと、モリガンに頭を叩かれた。

「坊っちゃんならやってくれると思ってましたよ。あっはっは!」

 と、デルクロイが。おっと、デルクロイ。グリゼアに睨まれているぞ?

「私は先ほどいろいろ言いましたので、既に言うことはありません」

 と、レイーヌ。

「でも、おかしくないっスか?」

 と、トリット。

「ん?何がおかしいんだ?」

 そう聞き返すグリゼア。


「いや、輝明さんは隊長をスカウトしているんですよね?それこそ宇宙から来る侵略者から地球を守る組織みたいのに。今回以上の戦闘もあったりするでしょうし、今回以上に危ない事なんて結構あるんじゃないっすか?」


「「「…」」」


 場の空気が固まる。


「確かに輝明様の口から言える話では無いでしょうけど…」

 リズリーが苦笑いだ。

「…クスクス」

 パルクスに至っては笑いをこらえている。


「…うん。だから僕あんまり叱れる立場じゃないんだよね…」

 輝明さんも半笑いだ。おい!


「ま、ばれないように安全にやりましょうってことだね!」

 と、輝明さんが言った。なんだよ!いろいろと台無しだよ!


 俺は急に力が抜け椅子に座る。

 どっと疲れた。


「ははっ。まぁ、スレード君の事はこのぐらいにしておいて、本題に入ろう」

 そう輝明さんは言った。


 ん?本題?


 他の皆も不思議そうに輝明さんを見ている。

 …いや、リズリーとパルクスだけは別の方向を見ている。


 二人の視線を辿るとそこには居心地が悪そうにしているマリーが居た。


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