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第43話 閑話:ギセクション帝国のお話

 時は少し巻き戻る。

 現在はガリオニア公国、ギセクション帝国、マルセーア共和国の3ヶ国が同時にリール連邦を攻めている時であった。


 ギセクション帝国の宮殿にて、ひとりの男が笑いながら報告資料を眺めていた。


「ほう。あの方から頂いた戦力を集めるとこれほど大規模なものになるのか」


 この満足そうにしている男こそ、リール連邦国にこの度戦争を仕掛けた3ヶ国の内の1国『ギセクション帝国』皇帝『マーバレスト・ゴーロン・ギセクション4世』であった。


「ようやく先代皇帝の無念を晴らすことができるな」


 そう言って報告資料を近くのテーブルへ置く。


 先代皇帝は蛮族の集まりと言われているリール連邦と戦争をした。


 上手くリール連邦から攻めさせるようにし、大義名分を得た。


 楽に勝てる戦い。当時は誰もがそう思っていた。


 だが、逆にギセクション帝国は追い詰められることになる。


 リール連邦の最新兵器である、

・馬が無いのに動く馬車。

・歩兵が持ち運び可能な高速で連射できる魔法の矢筒


 自動馬車は火を噴き、爆発魔法を放ってくる。

 魔法の矢筒は高速で連射し、バタバタと味方をなぎ倒す。


 これだけでも厄介な存在なのに、

・巨大な人形兵器

 の登場である。


 当時のギセクション帝国はこれらの存在に追い詰められていたが、宇宙連邦の介入により国を崩壊させずに済んだ。


 だが、戦勝国と思っていたギセクション帝国を始め『多国籍連合』は宇宙連邦から戦利品は何もない事を伝えられる。

 これに激怒した今回戦争を仕掛けた3ヶ国を始め、当時の『多国籍連合』はリール連邦を再度攻めたが、今度は宇宙連邦がリール連邦に味方をし、あっという間に多国籍連合は敗北した。


 だが、今回は勝つことができる。


 ギセクション皇帝はそう思っていた。


 なぜならばギセクション帝国を始め、今回戦争に参加した3ヶ国はとある団体に大量の兵器を譲り受けていたからだ。


 ギセクション帝国だけでも、

・戦車:500両

・戦闘機:400機

・バトルワーカー:150機

・その他戦闘車両:1000両

 である。


 当時のリール連邦が使用していた兵器よりも僅かに性能はいいらしい。


 宇宙連邦軍も当時は最高で10機程のバトルワーカーしか出してこなかった。


 性能は下かもしれないが数では圧倒的に有利である。


 なにせ今回は3ヶ国以外の軍の他に、兵器を渡してきたあの方が率いる集団も戦争に参加するという話だからだ。


 あの方の集団は3ヶ国よりも強力な兵器を持っている。


「ふふふ。あはははは!うっはっはっはっは!!」


 ギセクション皇帝はたまらず大声を出して笑った。


 既に勝利を確信している彼にとっては既に領土分配や大量に手に入るであろう奴隷についてのみにしか考えが行っていなかった。


「……」

 そんな彼を冷たい目で軍務大臣は見ていた。

 他にもちらほらと彼を冷たい目で見ている者が彼の下に集まった中に居た。



「た、大変です!」

 すると突然皇帝が大笑いで笑っている途中、突然部屋の扉を開いて一人の兵士が入ってきた。


「何事か!?」

 入ってきた兵士を見て醜く肥太った財務大臣が声を上げる。

 この財務大臣はギセクション皇帝と同様にリール連邦との戦争を強固に推し進めていた人物だ。


「お、恐れながらほ、報告いたします!リール連邦国を攻めた第一次攻撃隊が全滅しました!」

「なんだと!?」

 今度声を上げたのはギセクション皇帝であった。

「ば、馬鹿な!第一次攻撃隊は3ヶ国合わせて100機以上のBWが居たのだぞ!?」

 財務大臣は顔を青くしながらそう叫ぶ。

「文字通りの全滅です…。BWは全て破壊され、残った歩兵も半数にも及ばないようで…」

 と、兵士が続けて報告をした。


「クッ。3ヶ国のBWでは力不足だったか…。だが、あの方々の空飛ぶ艦隊やBWが第二次攻撃隊として参加している。あの方々ならば…」

 ギセクション皇帝は忌々しいという表情をしながらそう言ったが、


「た、大変です!」


 と、また別の兵士が部屋に入ってきた。


「今度はなんだ!?」

 財務大臣が顔を青くしながら悲痛な声を出す。


「お、恐れながらほ、報告いたします!リール連邦を攻めようとしていた第二次攻撃隊が全滅したようです!」


「キュー」


 財務大臣が倒れた。

 全く可愛くない声を出しながら。

「「「大臣!!」」」

 財務大臣の取り巻き達が介抱しようと財務大臣に近付く。


「そんな馬鹿な…」

 ギセクション皇帝も顔を青くしながらそう呟いた。

 それもそのはずである。

 圧倒的な存在と信じていたあの方の軍。『ヴァルカ軍』は自分達よりも数百年先の技術を持つ集団である。そんな集団がこんな短時間で敗れる等と皇帝は夢にも思わなっか。


「そ、そうだ。”あの方”は?あの方からはなんと?」

 ギセクション皇帝は圧倒的な力を持つ”あの方”と呼ぶ『カトリーヌ・パルロッサ』の指示に期待をした。が、

「連絡はありません…。あの方も戦闘に参加するとの事だったので、直接指示をいただくことは難しいかと…」

「そ、そういえばそうだったな」

 兵士からのその一言でギセクション皇帝は少し落ち着きを取り戻す。

 とてつもない魔力を持つカトリーヌ。この国の誰よりも魔力を持っている人物である。そんな人物が戦場に出ているのである。少しは安心だろう。

 何故かそんな気持ちになるギセクション皇帝。

 だが、その安堵感も直ぐに潰える。


「た、大変です!」


 と、更にまた別の兵士が部屋に入ってきた。


「いったいなんだ!!」

 これ以上悪い情報は聞きたく無い。

 そんな気持ちを隠しきれないギセクション皇帝は叫ぶようにそう言葉を発した。


「ひっ!お、恐れながらほ、報告いたします!て、帝都に!帝都に敵の空軍部隊が大量に迫ってきています!」


「は!?」

 ギセクション皇帝は理解不能に陥った。

 余りにも早すぎる展開である。


 戦争が始まってまだ1時間半程度だ。

 リール連邦から首都まではかなりの距離がある。1時間半程度で来られるわけがない。

 ギセクション皇帝はそう考えていたが、相手は宇宙連邦である。

 降下部隊を宇宙から降ろすこともできるし、短距離ワープで首都付近まで飛んでくる事ができる。

 ワープを妨害されていたとしても、宇宙連邦が誇る輸送機で1時間程度であればギセクソン帝国帝都程度の距離はなんともないのである。

 更にギセクション帝国にとって今はタイミングが悪かった。

 スレード隊を護衛する目的でマリー・フー准将と一緒に来ていた大量に宇宙連邦軍が戦争に参加したのだ。


 ギセクション皇帝は慌てて部屋を飛び出した。


 目的地は帝都の様子が観ることができるテラスである。


「あ…あ、あ…」

 ギセクション皇帝は外の様子を見て絶望した。


 次々と巨大な輸送機や空中を移動する艦船から飛び立つBWや戦闘機。

 ギセクション皇帝が考えていた10機程度の数ではない。

 BWだけでも100機は飛んでいる。


 これはギセクション帝国だけに起きていることではなく、今回戦争を仕掛けた他の2国も同様のことが起きていた。


 過剰な戦力に見えるが、これは今後の為の脅しの目的も含めている。


 圧倒的な力を見せ、今後戦争を吹っかけるような馬鹿な思考を抱かないようにするためだ。


「あっ」


 ギセクション皇帝は見た。一際大きい飛行機から光の線が帝都を囲む壁に向け発射されたのを。

 ギセクション皇帝が見たのは爆撃機である。強力なビームを放つ事ができる爆撃機だ。


ピュンピュンピュン!


 10機ほどの爆撃機から放たれた光は巨大な帝都を囲む壁に当たり、


ズドドドドドドン!!!

ドガガガガガン!!

ボボボボボン!


 200年以上の歴史を持つギセクション帝国帝都の壁が簡単に爆発して崩れた。

 全てでは無いが、かなりの規模だ。


「う、うひゃぁぁあああ!?!??」


 ギセクション皇帝は逃げるようにテラスから部屋へと転がり戻る。


「陛下…」

 そんな皇帝を先程からと同じく冷たい目で見る軍務大臣。


「ひ、あ、あれをなんとかしろ軍務大臣!て、帝都にあんな連中を入れるんじゃない!」

 ギセクション皇帝は軍務大臣に縋り付きながら言った。


「無理ですな」

 そんなギセクション皇帝を冷たく突き放す軍務大臣。


「私は何度も申し上げたはずです。宇宙連邦どころかリール連邦にすら我が国の軍事力は劣っていると…」

 呆れたように軍務大臣はそう言った。

「馬鹿な…そんな馬鹿なこと、あるわけが無い!」

 皇帝は尚も否定する。

「あれを見てまだそう言いますか。…仕方ありません。やはり次の皇帝陛下『クリュトラ・リダス・ギセクション』殿下にお任せするしかありませんね…」

 軍務大臣がそう言うと、ギセクション皇帝は目を見開く。

「な!?つ、次の皇帝だと!?何を言っている!クリュトラは弱腰の第2王子だぞ!と、いうかなぜそんな事を今言うのだ!ま、まさか貴様…」

 皇帝は徐々に後ろに下がる。

「クリュトラ殿下は数少ない理解ある皇族であります。第1王子や王妃の方々とは違うのです。あれほどクリュトラ殿下もお止めしていたというのに…」

 軍務大臣はそう言って嘆く。そして、

「騎士団団長!ギセクション陛下…いや、国賊マーバレスト・ゴーロン・ギセクションを捕えよ!」

「はっ」

 騎士団団長は副騎士団長や部下と一緒に軍務大臣に従いギセクション皇帝を捕える。


「や、やめろ!余はこの国の皇帝であるぞ!ぶ、無礼者ぉぉぉ!」


 ギセクションはそのまま牢屋へと連れて行かれた。


「さて、どうするかな…」

 軍務大臣は外の光景を見ながらそう呟く。

 降伏するに白旗を振るか…。

 と、軍務大臣は考える。

 ちなみにこの世界でも降伏する際も白旗を振る。


パシュン。

パシュパシュン。


 軍務大臣が降伏の事を考えていると、急に7人の青い軍服を着た者達が自分達の目の前に現れた。

「な、何者だ!?」

 軍務大臣はそう焦った表情で言った。

 だが、言ってから気付く。この状況、ここに来るこの国以外の軍服を着た者達は誰なのかなど考えれば直ぐに分かる。


「我々は宇宙連邦軍だ!無駄な抵抗は止せ。既にこの帝都は包囲されている!」


「(やはり、か…)」

 軍務大臣は肩を落とし、

「わかりました。抵抗はしません。皆!武器を床へ置け!」

 と、指示を出した。が、


「こ、ここをどこだと思っている!ギセクション帝国の城であるぞ!」

 ここで厄介な財務大臣の取り巻き達3人が騒ぎ出し、剣を抜いて宇宙連邦軍の兵に襲いかかった。が、


パン!

 と、宇宙連邦兵一人が拳銃を撃ち、取り巻きの一人の額を撃ち抜く。

シュパン!

 と、宇宙連邦兵一人がナイフで斬撃を飛ばして取り巻きの一人の首を切り飛ばす。

パチン!

 と、宇宙連邦兵一人が指パッチンをして取り巻きの一人の頭を吹き飛ばした。



 一瞬で財務大臣の取り巻き達は死亡した。


 こんな連中に勝てるわけがない。軍務大臣は一瞬で宇宙連邦軍の歩兵にも勝てない事を理解した。


「申し訳ありません。あの者達は状況を理解できない馬鹿者共です。私はこの国の軍務大臣をしている者です。先程第2王子が実権を握りましたので、すぐにでも講和の席を設けたいと考えております」

 と、軍務大臣は宇宙連邦兵にそう言った。

「ふむ。なるほど…。話が早いな。では、直ぐにでも準備をしていただこう。こちらも準備を進める」

 宇宙連邦兵の隊長と思われるその人物は頷きながらそう言った。


 これでこの国の歴史も終わるだろうか…。せめて第2王子だけでも…。

 そう思いながら軍務大臣は講和の為の準備に奔走した。




 そして、わずか1日で戦争は終わり、結果はこのようになった。


 ギセクション帝国は帝国を継続する事を許された。次の皇帝は第2王子である『クリュトラ・リダス・ギセクション』だ。

 クリュトラ皇帝は思慮深く民を愛する皇帝となり、将来はギセクション帝国の民だけではなくリール連邦の国民にも賢帝と言われる程になる。

 そして前皇帝は処刑されずに幽閉となった。


 だが、ガリオニア公国の公王とマルセーア共和国大統領は悲惨な運命を迎えた。


 ガリオニア公王は自国の民に処刑され、マルセーア共和国大統領はクーデターにより死亡した。

 『マーバレスト・ゴーロン・ギセクション4世』は、戦争を仕掛けた3ヶ国のトップ3人中唯一生き残る事ができたのだ。


 このような形でこの戦争の幕は閉じた。


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