第42話 閑話:ガリオリア公国のお話
なんか急に思いついた話です。
--------------------------------------
ガリオリア公国内の戦場で、10人の兵士が森の中に潜んでいた。
彼らの所属はガリオリア公国軍の兵士達であったが、最初からここに潜む任務を与えられていたわけではない。
目的は殿だった。
彼らはリール連邦を攻めるための第一次攻撃部隊に所属していた。
3ヶ国合同のの多国籍軍。大規模な軍勢であり、本当であれば今頃国境を越え、近隣の村々を蹂躙しているはずだった。
だが、彼らは一瞬で敗北し、撤退。本体から少しでも敵を近付けないように防衛線を張る。
彼らに与えられた任務はそういう任務であった。
防衛戦を張る。聞こえはいいが、開戦から30分程で多国籍軍を壊滅まで追いやったリール連邦に対し、たった10人で防げなど捨て駒としか思えない。
「(クソッ。戦争反対を訴えていた軟弱者は用無し。か…)」
ここで一番階級が高い人物はガリオリア公国内で5本の指に入る剣の実力者として有名な『ワグナード・キルス』大佐はそう思いながら心の中で悪態を吐いていた。
年齢は45歳である。
顔も整っており、性格も面倒見がよく、女性隊員にもモテる人物だ。
キルスはこの戦争に反対的な立場であった。
彼はリール連邦を含む宇宙連邦の事についてよく知る人物であったからだ。
何故か上層部は宇宙連邦軍の戦力は少ないと見ている。
いや、キルスは理由は知っている。理由は50年前と45年前の戦場での出来事だ。
宇宙連邦軍は出してきた戦力が少なかった。
最大で出してきた時でもBW10機。戦闘車両が50両程である。
はるか遠くの宇宙からわざわざ大量の戦力を持ってくるはずはない。そう上層部は考えているのだ。
しかし、それは過去の話。いや、過去でもそんな事はなかったと思う。
キルスは大きく発展したリール連邦を見てしまっているのだ。
もう5年も前になるが、キルスは形ばかりの親善試合としてリール連邦の騎士と剣で試合をしたことがあったのだ。
試合はキルスが勝った。
思えばこれがいけなかったのかもしれない。
ガリオリア公国の貴族連中は、
「やはりリールの連中は蛮族。わが国騎士に敵うはずがない」
と、余計に調子に乗ってしまった。
実際には、リール連邦の騎士も見事な腕前であった。だが、明らかにリール連邦の騎士は自分達ガリオニアの騎士とは違っていた。
キルスは剣のみの環境で剣をひたすら磨いてきた。しかし、リール連邦の騎士は銃と呼ばれる兵器をいかに上手く扱うかという事に精を出している。
こう言っては失礼であるが、リール連邦は剣はあくまでも二の次であるのだ。
BWの数も明らかに10を超えていた。
格納庫1つに10機は入っている。それが一つの基地に複数。その基地自体が各所にあるとのことだった。
BWだけではない。航空機や戦闘車両も数は多かった。
更にリール連邦は現在宇宙連邦内の一国家だ。
当然宇宙にも基地がある。と、キルスにも理解不能な軍事力を持つ国にリール連邦はなっていた。
上層部にそれを報告したとしてもそれは妄言だとして聞き入れてくれなかった。
キルスはそれが残念で仕方が無かった。
話を元に戻す。キルスは現在森の中。
味方のBW隊は全て破壊され、歩兵の半分も死亡したため、撤退して防衛ラインまで下がっている。
宇宙連邦軍と敵対している勢力『ヴァルカ軍』とやらの第二次攻撃を待つ間。味方の撤退を援護する為、上層部に殿を命じられた。命令内容は『森にて防衛戦を築け』と。
だが、兵士は10人。防衛線なんて築けるわけがない。
しかし、ここは敵の進軍ルートから外れているようである。
先程から全く敵の姿が見えない。
少し安心していた。が、
「隊長…敵が来ました」
部下のその一言でその場の緊張感は一気に上がった。
来たか…。と、キルスに緊張が走る。
「どれ…ん?」
青い軍服の兵士達が居た。あの軍服はリール連邦や宇宙連邦の軍服である。
兵士達は森が開けた道を歩いている。
しかし数は2人であった。
キルス達ガリオリア公国兵の面々は息を潜めてその様子を伺っている。
「数が少ないですね…。斥候でしょうか?」
味方の兵士がそうたずねてくる。
基本、宇宙連邦やリール連邦であれば道があるのであれば戦闘車両と共にやってきそうなものである。
それを徒歩で?
疑問を感じるが、車がある様子はない。
「私が一人殺してもう一人を捕らえてくる」
キルスはそう言い動こうとしたが、
「き、危険です。我々も同行を」
と、味方の兵士の一人が言った。
「いや、奴らは銃を持っている。下手をすれば君らは皆殺しにされるだろう」
キルスは兵士達の同行を拒否し、説明をする。
「銃…ですか」
ガリオリア公国兵達の顔は少し青くなる。
ここでキルスは少しほっとした。
少なくともここに居る兵士達は銃の恐ろしさを知っているようだったからだ。実物は見ていないだろうから口伝であろう。
いや、実物は似たような見ているか…つい1時間半程前に味方が次々と吹き飛ばされた光景を。
そんな事を思いながらキルスは、
「では、行ってくる」
と、体に魔力を込めた。身体能力強化の魔法である。
幸いヴァルカ軍から渡された不思議な道具で宇宙連邦軍は自分達を察知していないようだ。
チャンスである。そうキルスは思った。
一方ガリオリア公国へと続く道を歩いて警戒していた宇宙連邦軍兵二人は、のん気に雑談をしていた。明らかに違反行為である。
「いや~。俺この戦争でやってみたいことがあるんだ」
と、片方の連邦兵が言った。
「ん?どんな事だ?」
もう一方がそう聞く。
この二人はつい最近同室になったばかりの者だった。
最初に話しかけたのはリール連邦出身ではない兵士。つまり宇宙の何処かの星の兵士である。
もう一方はリール連邦出身の兵士であった。
「『地球』って星出身の奴から教えてもらったんだけどな?真剣白刃取りってのをやりたい」
「なんだそりゃ」
「いや、技名なんだけどな?剣を武器を使わずに受け止めちゃう技らしい」
「身体強化の魔法でも使って弾くってことか?」
「違う違う。弾くんじゃない」
「う~ん。どんなものなのか想像つかないな…。そもそも剣を使う相手って…せめてナイフだろ…あ!」
ここでリール連邦出身の兵が気付く。
「俺らが戦っているのってまさに剣を使ってくるのか…」
「その通り」
別の星出身の兵がにこやかに頷く。
「だけどさ、接近する前に銃で殺せちゃうじゃん?剣を受け止めるまで見逃すなんてことうちの隊長にばれたら怒られるぜ?」
と、リール連邦出身の兵が呆れたように言う。
「大丈夫大丈夫、こんな風に…うぐ!」
急に声を上げる別の星出身の兵。
「な!?」
それを見て目を見開いて驚くリール連邦出身兵。
現在別の星出身の兵士の首には剣が真ん中まで切り込まれていた。
これをやったのは勿論キルスである。
だが、これをやったキルスも驚いていた。
「(き、切り抜けない!?)」
まるで掴まれたように剣が固定されて動かなかった。キルスは一瞬慌てた。これではもう一方に銃殺される。では、剣を離して…。
しかしその一瞬の動揺が仇となり、首を途中まで切ったはずの兵士に蹴られてしまう。
「「は!?」」
キルスとリール連邦出身の兵士は驚く。
ついでに森に潜んでいたガリオリア公国の兵士達も目の前の光景を疑った。
「ほら。これが真剣白刃取りだよ」
自慢そうにそう言った別の星出身の兵。
ちなみにこんなものが真剣白刃取りなわけがない。
この兵士に教えた地球出身の誰かは中途半端にこの兵士に情報を与えたようだ。
その様子を見てリール連邦の兵士は安堵する。
「そういえば、お前の能力はそうだったよな…」
魔法ではない特殊能力を持つ兵士。別の惑星出身の兵士の中にはたまにこういう者がいる。
リール連邦出身の兵士はこの別の星出身の兵士の能力を知っていた。
体を分断されたとしても血液等の必要な物質を体中にワープさせて巡回させる能力。
つまり首を切られても生きていられるのだ。潰されなければ問題ない。さすがに一年中というわけにはいかないが。
ちなみに回復能力もある。この剣を抜けばしばらく経てば回復するだろう。
そして分断箇所がくっつくにしても強弱をつけることができる。
つまり剣を首で掴む?ことが可能なのだ。
蹴飛ばされて転がったキルスは体勢を立て直してはいるが、冷や汗をかいて動けないでいた。
得体の知れない化け物と対峙してしまった。
彼はそう思った。
「さて、他にも仲間がいるんだろ?大人しく出て来い!」
リール連邦出身の兵士が森に向かって大声で言った。
「くっ!」
「こうなれば全員でキルス様を救うぞ!」
次々と森の中から出てくるガリオニア公国の兵士達。
「あ、結構いるな数人かと思ったら10人か…」
と言いながら別の星出身の兵が銃を構える。剣が刺さったまま。
二つの勢力がにらみ合っていると、近くで声が聞こえた。
「こ~らぁ~!な~にやってるの!?」
小太りなおっさんがポヨンポヨンと腹を揺らしながら走ってきた。
まったく緊張感の無い言い方で、ちょっと声も高い。
「「た、隊長!?」」
連邦兵二名は声をそろえてその人物に驚きながら言った。
「げ、現在敵勢力と対峙中でして…」
リール連邦出身の兵がそう言う。
「も~。それ絶対嘘でしょ?バレット君の首に剣が刺さっているって言う事は相手の攻撃をわざと受けて遊んでいたんでしょ?」
と、気持ち悪いしゃべり方をしながら真に迫る連邦の隊長。
「い、いえ、油断していたらやられただけであります!すみません!」
銃をガリオリア公国兵に向けながら必死に弁解する別の出身の兵ことバレット君。
「あ~!証拠がないからってそういうでまかせ言うんだ!プンプンなんだぞ!」
と、頭の上で両手をグーにしながら威嚇する隊長。
プンプンらしい。
「「「(なんだこいつは)」」」
それがキルスを含めたガリオニア公国の兵士達の心の声であった。
「君達も!無駄な抵抗は止めて我々の捕虜になっちゃいなさい!」
そう言って連邦軍の隊長も拳銃を構える。
「ふ、ふざけるな!こんな奴に!」
「よ、よせ!」
一人のガリオリア公国兵士が連邦軍の隊長に切りかかる。そしてキルスはそれを止めようとした。
が、
パシュ!
連邦軍の隊長は自身が持っていた拳銃から空気が瓶から抜けた音を立てながら弾丸を放った。
弾はそのまま向かってきたガリオニア公国の兵士の頭を貫通し、後ろに血や脳漿を撒き散らした。
「ひっ!」
「ライナー!?」
「馬鹿な!一瞬で!?」
ガリオニア公国の兵士達が一斉に騒ぎ出す。
どうやら頭に弾丸を打ち込まれた兵士はライナーというらしい。
「皆落ち着け!」
キルスはガリオニア公国兵士に一喝する。
「ふ~ん。貴方が隊長さん?えっとね。後の人たちもそこで死んじゃっている兵士みたいになりたくなければ武器を捨てちゃってって言ってくれないかなぁ~」
と、首を傾げながら連邦軍の隊長がキルスにお願いをする。
「わ、わかった。全員武器を捨てて降伏するんだ!」
キルスがそう言うと、
「は、はい!」
「ひぃぃ…」
「りょ、了解です!」
と、次々にガリオニア公国の兵士達は武器を地面に捨てた。
「うん。皆偉い偉いだよ!では、皆私にと一緒に来てね!これから君達は捕虜さんだよ」
と、連邦兵隊長は言った。
この時点でキルス達ガリオニア公国兵士達は捕虜さんになってしまった。
「それと、バレット君。君は早くその剣を抜きなさい!帰ったらお仕置きだからね!プンプン!」
「た、隊長!それだけはご勘弁をぉぉ!」
バレット君は首に刺さったままの剣を引き抜きながら悲痛な声を出していた。
バレット君はお仕置きが嫌なのだ。
ついでに隊長はプンプンだ。
「(なんなんだこの部隊は…)」
その光景を見ながらキルスは思った。
まったく訳がわからない軍である。と。
その後、ガリオニア公国を含め、リール連邦に戦争を仕掛けた3ヶ国は宇宙連邦軍の活躍もあり僅か1日で降伏。
各国は主要基地を殆ど失い、しばらくは攻め込む力をなくした。
もっとも、戦力を復活したとしても再びリール連邦を攻めるなどと言う事はなさそうだ。
捕虜となったキルスを含むガリオニア公国兵士達は、終戦から10日後に返還された。
キルスは宇宙連邦軍の捕虜扱いの良さに衝撃を感じ戦後自国の意識改革に努め、歴史に名を残す人物となった。
ただし、ガリオニア公国は5年程混乱が続いたため、本格的な活動ができたのはその後になる。
混乱を治めたのもキルスであった為、より一層名を残す事に繋がる。
一方お仕置きをされたバレット君は同室のリール連邦出身兵士から見るに異様な変化をしてしまった。
バレット君もあの隊長と同様にぶりっ子というかメルヘンチックなことを言い続けるようになってしまった。
同室のリール連邦出身の兵士や同じ部隊の仲間達は恐怖したが、バレット君は1ヶ月で元に戻ったそうだ。
もっとも、バレット君は元に戻っても二度とあんな事はしないと心に誓ったようである。
--------------------------------------




