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第41話 天音姫

 そういえば、輝明さんからいろいろと話を聞いた。


 あの後、甥のワイルーに責任があるのではないかと調べられていたが、彼が受け取った文章は本物であったらしい。いや、少し間違っている。本物の政府の職員が出した書類ではあったが、その職員がヴァルカ残党軍のスパイだったのだ。

 よってワイルーへ責任は問われないらしい。

 彼は利用されただけなのだ。


 だけど世間は許さないので、取って大臣を辞任する。なんて事にならなければ良いが…。



 現在の時間は午後7時。

 本来であれば俺は現在妹が住む俺の前世の家に行く予定であったが、今日は無理らしい。まぁ、戦争があったんだから当然だ。


 この後、俺達は会議をするらしいので、輝明さんからの連絡を待っている。


 しかし、まさか一日で戦争が終結するとは思わなかった。

 まぁ、宇宙連邦軍の大艦隊から大規模空襲を受けて尚勝てるとは思わないだろう。ニュースの映像を見た時思わず敵側に同情してしまった。



ピピピッ!


 急に腕輪が鳴った。画面が浮き出て応答、拒否と発信者が日本語で表示された。

 発信者は清堂 輝明と書いてあった。

 俺は迷わず応答のボタンを押す。


「はい。もしもし」


「<はい、どもども~…あぁ、まだマーキー君が出ない…あ、出た出た。え~と、改めまして本日はお疲れ様でした>」

 と、輝明さんは挨拶をした。

 話の内容からこの電話は全員に繋がっているらしい。


「会議する場所が取れたんで、これからはじめようと思います。今から指定する場所へ来て下さい」

 輝明さんはそう言って添付ファイルをくれた。どうやら会議用の部屋はこのホテルの俺が居る部屋より上階らしい。

 俺は早速移動して会場へと向かった。





 会議の部屋で全員が集まったところで輝明さんからの話が始まった。

 会議に集まったメンバーは、スレード隊の他、輝明さん、鬼一郎さん、邦治さん、そしてマリーとラゼルトである。

 あれ?一之くんはどこにいるんだろう。

 俺は左隣に居たグリゼアに、

「一之君は?」

 と、聞いた。

「私達の寝かせてあります。疲れたのでしょう…」

 と、答えた。

「え?大丈夫なんですか?その…一人にして…」

 俺の右隣に居たレイーヌが心配そうに言った。

「この腕輪で常に確認をしているので、心配には及びません」

 なんだかんだで機械の操作は得意なグリゼアはもう俺よりも早く腕輪を使いこなせているようだった。


 そして、輝明さんは皆が揃ったことを確認すると話を切り出した。

「今日はお疲れのところ、集まっていただきありがとうございました。皆様の活躍で我々は無事戦いを終えることができました」

 輝明さんはそう言うが、実際俺達スレード隊は何もしていない。

「さて、それでは今回起こった事件の内容をまとめます」

 そう言って表の映像を映し出した輝明さん。あの戦争が終わった後この表を作っていたのだろうか…。

 映し出された映像には時系列ごとにまとめられた表があった。


「まず、今回起きたこの事件の結果はカトリーヌ・パルロッサと小岸 愛理に逃げられるという事になってしまいました」


 あの後カトリーヌの他に小岸 愛理にも逃げられてしまっていた。実は追撃戦をしたらしいが、見事に援軍に駆けつけた残党軍を囮にされ、逃げ切られた。


「毎回!毎回!ほんっとにもう!」

 マリーは顔を真っ赤にして怒っている。よっぽど悔しかったのだろう。


「それでは、ここまでの流れをまとめてみよう」

 輝明さんはそんなマリーの様子を気にせず話を進める。


・50年前ガリオニア公国との戦いでスレード隊全員死亡

 ↓

・宇宙連邦軍にてスレード隊メンバーが転生された事を確認

 ↓

・スレード隊メンバーの転生先が地球の日本であったため、宇宙連邦は地球の宇宙連邦協力組織である五頭家に監視を依頼

 ↓

・スレード隊を転生させた原因がカトリーヌの魔方陣だった事が判明。カトリーヌの目的は未だ不明

 ↓

・スレード隊のリズリー、パルクス、モリガン、トリットの転生先も判明し、50年後その後他のメンバーの転生も確認できて接触もできた。

 ↓

・カトリーヌが地球へ来た際、地球人を一人自身の仲間にして去っていく。地球人の名前は『小岸 愛理』であるが、その愛理は大量殺戮の犯罪者である。

 ↓

・スレード隊を前世の故郷である惑星リョーキューのリール国へ連れて行くが、再度カトリーヌが現れる。彼女の目的は自分が行った転生魔法陣の調査とのことだった。理由は予定とは違う場所に転生された事による懸念。転生された場所が地球だったこともカトリーヌの不安を更に煽ったと推測される。


「こんな感じかな」

 と、輝明は言った。

 ここでデルクロイが手を上げる。

「はい、ダージンバーさん」

 輝明さんはデルクロイの発言を許可する。

「うむ。これはみんな思っていることだろうが、なぜあのカトリーヌとやらは地球を警戒しているのだ?」

 確かにカトリーヌは『あんな術師を輩出した』とか言っていたな。ここで俺も手を挙げ、輝明さんに発言を許可してもらい、

「一体カトリーヌは誰を警戒しているんですか?」

 と、聞いた。

「うん、確かに気になるよね。まさか僕も今回あの人物が関わっているとは思わなかったよ」

 そう言って映像を切り替えた。

 切り替えた映像にはとても着物を着た綺麗な女性がそこに居た。

「わ~、綺麗な人~」

 と、ミューイは言った。レイーヌやグリゼアも肯定するように首を縦に振る。女性陣も美しい認めるこの女性は何者だろうか。

「えー、この写真の人物は僕のご先祖様です。約500年前の人物で名を『清堂 天音』といいます。宇宙連邦では『天音姫』と言ったほうが有名かもしれないね」

 輝明さんはそう言った後チラッとマリーとラゼルトを見る。マリーとラゼルトはうんうん、と頷いていた。

 会議室では「へ~」とか「ほぉ~」と声が聞こえる。そもそも500年前の人物をカラー写真で見るという事自体が初めてだ。

「姫…ですか?」

 と、グリゼアは疑問に持っている。

「うん。貴族の嫁さんだったからね。それも五頭家の中の貴族である清堂当主に嫁いだから」

 輝明さんが説明すると、再び「へ~」とか「ほぉ~」とかいう声が聞こえた。

「この写真は10代頃の写真だね。天音姫って人物は地球人の宇宙連邦軍Sランク戦闘員だったんだ。ちなみに地球人歴代最強のね」

「「「「え!?」」」」

 俺も含め、スレード隊メンバーから驚きの声が上がった。

 と、いう事は過去にマリーやカトリーヌ級の能力者が輝明さんの先祖に居たってことか!?

「もちろん地球の歴史上には全く表舞台に出てこない名前だよ。彼女が有名なのは先ほども言ったとおり宇宙連邦や宇宙連邦と交流がある所であって、有名になったのは先の大戦『ヴァルカ戦争』でなんだ」


 そして、写真から映像へと変わった。

 そこで出てきたのは宇宙戦争をしている様子で、天音姫が宇宙を宇宙服も着けず飛び回っている映像だった。着ている服は着物ではなく巫女さんの服だ。

 くるくるととんでもないスピードで宇宙を移動していると思ったら、持っていた太刀からビームを出したり、突き刺さったら敵戦闘機ごと爆発する槍を飛ばしたり、扇をひと振りすると麒麟のような幻獣を召還したりしていた。


 ナニコレ?


 あっけにとられている俺達であったが、輝明さんは話を続け、

「天音姫っていう人物はご覧の通り無茶苦茶強かったらしい。"現在"連邦軍でSランクトップの人物と一緒に戦っていたが、当時は彼女の方が強かったらしいんだ」

 天音姫すげぇ!

「彼女は元々五頭家の中の『榊家』出身でね。その榊家から清堂家へ嫁いできたんだよ。榊家ってのは神社の家系でね。天音姫は神通力を使っての戦いが得意だったんだ」

 知らなかった。神通力ってビーム出せて宇宙戦争にも通用するんだ…。と、いうか、だ神社家系出身だったから巫女服だったのか!

「まぁ、『神通力』っていう言葉自体が我々の定義している力の種類だから、地球的な考えの能力とは違うかもね。こういう霊的な力の分け方には『神通力』の他に『法力』『妖力』『魔力』『聖力』ってな感じでいろいろあるから」

「え?魔力と妖力って違うの!?」

 と、トリットが驚いている。

「正確にはちょっと違うみたいなんだ」

 そう言って苦笑いをする輝明。

「まぁ、そんなわけでこの天音姫。ヴァルカ戦争当時かなりの活躍をしてね。ヴァルカ戦争時の英雄の一人なんだよ」

 そして、輝明さんは映像を切り替えてカトリーヌと天音姫の画像を並べる。

「え~と、それでこの二人の関係なんだけど、ヴァルカ大戦の最終決戦で戦った関係なんだ」

「「「おぉぉ」」」

 そんな声が会議室に響く。

「まぁ、1対1ってわけじゃなく、Sランク能力者やSSランク能力者が複数での混戦だったらしくて、正確には10対8の大決戦だったらしい。宇宙連邦側が10でヴァルカ側が8ね」

 新しい単語が出てきた。SSランク?Sランクの上が居るのか!?

「カトリーヌを叩きのめした1人が天音姫だったんだ。まぁ、もっと痛い目にあわせたのは別の人物だけど、天音姫はカトリーヌ以上の術者だったらしい」


 なんと!地球にはそれほどの人物が存在していたのか…。なるほど、それで天音姫の出身地である地球をえらく警戒しているのか。


「無理もないよ。カトリーヌの言っていた通り、何故か地球は特殊能力者が豊富に誕生しているんだ。これは未だに宇宙連邦でも分かっていない現象なんだよね」

 俺達は目の前に居る輝明さんと鬼一郎さんを見て納得する。

「まぁ、そういうわけでカトリーヌは自分を出し抜いた原因は天音姫が原因じゃないかと思った。とあの時の会話から予想されたんだ」

「500年越しの因縁か…」

 俺はそうポツリと言った。

「カトリーヌは一応オーヴェンス君の事を髪の毛一本で調べたらしいからもう安全なんじゃないかと思うんだけど、連邦軍の方から念には念を入れてということで、惑星リョーキューの軌道上には艦隊が警備しているよ」

 そう輝明さんが言ったため、俺は望遠鏡で艦隊を見る事はできるだろうか…などという考えが頭をよぎってしまった。


「それでは、他に何か質問はありますか?」

 輝明さんがそう聞いてきたので、俺は遠慮なく質問をする事にした。


「あの、俺の甥であるワイルーの処遇とかってどうなるんでしょうか?」

 一応心配なので聞いてみた。ワイルー自身は騙されていたようだが、何かしら処罰はあるのではないか?

「うん。情報によると、ワイルー自身は被害者って事になって、首が飛ぶのは宇宙連邦のもっと上の人らしいね」

 やっぱり、かなりの責任問題に発展しているのか…。

「と、いうよりも責任を取ってとかいう話じゃなく、スパイ容疑で逮捕されて処刑っていう流れかな…」

 本当に首が飛ぶ方だったか…。

「詳しい事はまだ分からないから、明日にでも分かるんじゃないかな?」

 輝明さんはそう言って俺の質問に対する回答を締めくくった。

 明日分かると言ったが、それは結構速い事ではないだろうか?

 こんなに簡単に分かるのであれば未然に防げなかったのだろうか…。

 まぁ、そんな宇宙連邦の内情を輝明さんに聞いたところでしょうがない。何せ彼は宇宙連邦国民ではなく、あくまでも日本国民なのだから。



 その後、今後の予定をチラッと説明され今日は解散となった。

 それにしてもまさかカトリーヌはもう何百年も前の故人を警戒しているとは思わなかった。


 俺達は各自の部屋へ戻り休む事となった。


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