第40話 長谷川拓夢の意思
「キャー!」
「ウワー!?」
「ギャー!!」
と、周りで一般人達の悲鳴が聞こえた。
彼らは皆車を降りて逃げ出す。
「邦治殿は隠れて!」
鬼一郎さんはそう今世のレイーヌの父に言う。
「お父さん!こっち!」
「わ、わかった」
邦治さんはレイーヌに言われて車の陰に隠れた。
「くっそお!どっかに武器は無いのかよ!」
と、その様子を見ていたモリガンが痺れを切らす。
「ここにある!好きなだけ使ってくれ!」
輝明さんがいきなり空中を蹴る。いきなり何事かと思ったら、先ほど蹴った場所が何故か裂けており、中にアタッシュケースが見えた。
「了解ですわぁ!」
と、リズリーがその空間を手で押し広げてアタッシュケースを取り出す。
次々に放り出されるアタッシュケースと刀剣類。
そして、アタッシュケースをパカパカ開ける作業をするパルクス。
「「「!!???」」」
他のメンバーはその光景を唖然とした表情で見ていた。
「さぁ、皆さん。武器を取って!」
大小さまざまなアタッシュケースには拳銃やアサルトライフル、スナイパーライフルなどがあった。
「すげぇ…」
トリットがその光景を見て言った。
俺達はすぐに得意な武器を持つ。と言ってもモリガンは剣と拳銃、レイーヌはスナイパーライフル、デルクロイはグレネードランチャーとショットガン、その他はアサルトライフルであった。
「通信機器が欲しいな…」
と、グリゼアが言うと、
「ありますよ。ここに」
そうリズリーが自身の左腕に装着してある腕輪を指差した。
なるほど。そういう使い方もあるのか!
その間、長谷川君の銃弾を防ぎ続ける鬼一郎さんと攻撃を加え続ける輝明さん。その間も長谷川君は、
「前田くぅ~ん。前田くぅ~ん」
と、俺を呼び続けていた。
そして、長谷川君から発しられた弾幕は厚みを徐々に増していった。
「ひぃぃ…、隊長。あの前田くぅ~んって隊長のことっスよねぇ?」
と、トリットは及び腰になりながら俺に質問をしてきた。
「あぁ、多分な!」
多分ってか完全に俺の事だろうな…。
「全員、攻撃位置に着いたようだな」
腕輪の通信機能を使い全員が所定位置に着いたことを確認する。
長谷川君には悪いが、ここは少し大人しくしてもらおう。
「全員攻…?」
「<<<??>>>」
非情なる決断を下そうかと思ったが、何かがおかしい事に気が付く。
「<隊長、いかがされましたか?>」
と、グリゼアから心配の声が上がる。
「皆ちょっと待ってくれ」
俺が通信機でそう皆に伝えると、隣に居たトリットが不安そうな顔をする。
「大丈夫だ。もしかしたら、うまく場を収められるかもしれない」
俺はトリットと通信機に向けそう言うが、トリットはなおも不安そうであった。
とりあえず、なぜ俺がこの状況をおかしいと感じたのか、だ。
1.長谷川君はの能力は何百丁もの拳銃を翼代わりとし、自由に飛行できる。そしてその翼の拳銃は一斉射撃ができるものと推測される。ならばなぜ今それをせず両手の銃だけで戦っている?
2.なぜ俺の今世の名前『前田』を呼び続ける?
3.なぜ俺の方だけ見続けている?
あ~…これはもしかして…。
「輝明さん、鬼一郎さん。戦闘を一時中断して、俺に任せてくれませんか?」
「「え??」」
二人に通信機を使ってそう言うと、二人同時に驚いていた。
「<竜生殿、どういうこと…グホッ!説明を…ウゴッ!>」
話している途中で長谷川君の銃弾が鬼一郎さんの体に度々当たった。見ているととても痛々しい。
「<何か分かったんだね?>」
と、輝明さんが聞いてきた。
「えぇ、おそらくですが…」
俺はそう言うと車の陰から出て長谷川君と鬼一郎さんが戦っている近くまで行く。
「<た、隊長危険です!>」
「<た、たいちょ~>!」
「<坊ちゃん!?>」
レイーヌ、ミューイ、デルクロイの驚きの声が通信機から次々と聞こえてきた。
「<ちょ、竜生殿!?ッグエ!>」
鬼一郎さんも驚愕しつつ銃弾に撃たれている。
俺はそのまま歩いていき、長谷川君に近付く。すると、長谷川君はこちらを確認するとピタッと戦闘が止まった。
「長谷川君、俺だ!前田 竜生だ。分かるよな?」
俺がそう言って近付くと、
「前田くぅ~ん!」
と、長谷川君は言って瞬時に俺の目と鼻の先まで来た。
うぉぉ!そういう移動のされ方はびっくりするよ。
今度は鬼一郎さんの妨害は間に合わず、
「あっ!」
と、鬼一郎さんは声を小さく出した。
「やぁ、久しぶりって程でもないか?」
俺はそう言って長谷川君に声をかけた。
「…」
長谷川君は俺の近くまで来たが攻撃する様子は無かった。だが、その場に居た全員が冷や汗を流す。
「何か俺に言いたい事があって会いに来てくれたんだろう?」
なおも何も言わず視線を合わせてくる長谷川君。その顔をよくよく見ると生気が全く無く、悲しげな表情を浮かべていた。
「ま…」
と、長谷川君は小さな声で何かを伝えてきた。
「ん?」
「ま…前田…く…ん?」
途端に長谷川君の声が変わり、先程までの嫌な低い声から生前の声に戻る。
「あぁ、そうだ。俺は前田だ。分かるんだな?」
「あ…あぁああぁ…ま、前田君、前田…君」
長谷川君は突然涙を流しながら俺の名前を連呼しだした。
「<隊長!一体何がどうなっているんです?>」
通信機からグリゼアの声が聞こえた。
「皆、聞いてくれ。おそらくこの長谷川 拓夢は生前の意識がある状態だ。そして、現在は俺に対し接触を持ちたかったようで危害を加えるつもりは無いようだ」
俺がそう言うと、
「そんな…!?」
と、近くに居た鬼一郎さんが目を見開いて俺と長谷川君を交互に見ていた。ってか、鬼一郎さんは銃で撃たれまくっていたけど体大丈夫なのだろうか?
「前…田君…ごめん…ごめんな…さい…」
長谷川君は搾り出すように己の声を出してそう言った。
「やはり意識があったのか…」
と俺は呟いた。
地球付近でラゼルトと戦闘していた時からかは分からないが、今は少なからず長谷川君は自分の意思を取り戻しているかのように見える。術者(小岸 愛理)が未熟なのか、長谷川君の意思が強かったのか、またはその両方か…。
考えてみれば、長谷川君は一見弱々しく見えるが、意思は強い方だと思う。何せ愛理が教室で怪我をして俺が助けようとしたら我先に手伝おうとしてくれた。クラスの皆が動けない中、彼だけが。
そして銃弾飛び交う街中、愛理を助けに行ったりした。そんな彼が何故あれほどオドオドとした姿を見せているのか不思議ではあるが、間違いなく彼の心は強かった。
「うぁぁあ…あぁぁ…ごめんなさい!」
「なぜ謝る必要があるんだ?謝るのは俺の方だ。俺が間に合わなかったばかりに君は死んでしまったんだぞ?」
優しく問いかけ、俺は涙を浮かべて謝罪をする。
「僕が…前田君を…呼ばなければ…前田君、は銃で、撃たれなかった…散歩を、していたおじいちゃん、も…死ななかった!」
小岸元議員に公園であった時の事を言っているのか…。
「工場に、行かなければ…前田君は、銃で、撃たれなかった…」
長谷川君が死んでしまったあの工場の事か…。
「君のせいじゃない!そして撃たれても当たったわけじゃない。一発も当たっていないんだ。君はあの時、それにあの教室で一人ぼっちだった俺に手を貸してくれたじゃないか?俺はあの時とても助かったんだよ?」
助けた相手は最悪な奴だったけどな。
「あ…あぁぁあああ…」
長谷川君は空を見上げて泣いている。
「もし、それが心残りになっているのであれば俺は許すよ。そもそも許すというよりも恨みなんて君に一切感じていないんだよ?」
「うぐ…うぁぁぁぁ」
長谷川君は泣いていた。血の気が無い顔で涙を沢山流しながら泣いていた。
その瞬間、場の空気は一瞬緩んだ。が、その緩みも一瞬で引き締まる事になる。
後ろにあった大使館から巨大な爆発音と共に大量の破片が辺りに散乱する。
「うお!?」
見ると二人の人影が大使館から飛び出て宙を浮いていた。服装から見てマリーとカトリーヌだろう。
「あの二人は何でもありなのか」
と、近くに居たモリガンは呟きその宙に浮いている二人を見ていた。
「全員戦闘態勢、あのカトリーヌとかいう魔女を倒すぞ!」
俺がそう皆に指令を出すと、
「「「<了解!>」」」
と、スレード隊各メンバーからいい返事が返ってきた。
「私を倒す。ですって?」
不意に後ろから声が聞こえた。
振り返るとなんとその場所にカトリーヌが居るではないか。
「(まずい!)」
そう思って後ろへ跳んで距離をとろうとしたが、カトリーヌの方が速く追従してきた。
だが、カトリーヌが居た場所に黒い影が覆いかぶさる。
「!?」
目の前は黒い大きな球体が存在しており、カトリーヌはその中に居ると思われる。
パパパパパン!ドドドドド!!
ドドドドドドド!!パパパパパパン!!!
続いて球体から大量に発しられた発砲音。
その球体の正体は長谷川君が出した銃器が球体状に纏まったものであった。銃口を中に居るカトリーヌに向けて。
ドンドンドン!パンパン!!
ドドドドド!パパパパパン!!!
球体の中に入れられていると思われるカトリーヌに前田君は無表情で攻撃を続けていた。
「隊長、大丈夫ですか?」
トリットが心配して聞いてくれた。
「あ、あぁ…。取りあえずみんな物陰に…」
と、放置されていた車の陰に隠れた俺達は、その判断に救われる事になる。
ズドン!
いきなり長谷川君が作り出した球体が弾けとんだ。
「ふん、使い魔風情が!主人の意向に逆らうとはいい度胸ね?」
爆心地の中心からカトリーヌが出てきた。やはりあの程度では止まらないか…。
はたして俺達の攻撃が通用するかは分からないが、やるだけやってみるしかないだろう。と、思っていると、いつの間にかマリーが俺達の前に現れた。
「あらあら、飼い犬に手をかまれちゃったね」
と、言いながら。
俺達の前でカトリーヌと対峙している為表情を見る事はできない。
「ちっ!」
悔しそうにカトリーヌは舌打ちをした。
「さて、言いなさい。これほど大規模な作戦を立ててまで何をしたかったのかしら?いえ、そこのスレード隊のメンバーに用事があったんでしょ?何を企んでいるのかなぁ?」
「………」
しばらくマリーの問いに答えず黙ってマリーを睨み続けていたカトリーヌであったが、
「くっ。ふふふ、あはは」
と、笑い出した。
何が可笑しいんだ?とお決まりのセリフを発しそうになるが、それを言う前にカトリーヌが話を始めた。
「データ収集に決まっているじゃない?まさか貴方達も気付いていないわけじゃないでしょ?」
「転生の結果を知りたかったっていうのなら、大成功じゃない。残党のクセに少しはやるわね」
カトリーヌの発言にそう返したマリー。だが、
「ハッ、知らないふりをしたって無駄よ。確かに転生自体は成功させたけど転生場所が失敗しているのよ。よりにもよってあの忌々しい地球って、何の関連性も無いとは言わせないわよ!」
カトリーヌは一人熱くなっているようだ。何を言っているんだ?忌々しい地球?
「本当は脳みそや内臓もグチャグチャになるまで調べたかったけど、私が思っているような事じゃなくてひとまず安心ね…フフフ」
今度は笑い出した。
「そこの隊長さんの髪の毛一本で調べさせてもらったわ」
と、カトリーヌは言って指で摘んだ髪の毛を見せてきた。え?あれ俺の!?いつの間に…ってか、さっき近付かれた時か!?
「はぁ?なに?もしかして貴方地球にこの子達が転生したのは偶然じゃ無いって言いたいわけ?」
ここでマリーは声色を変えた。呆れが混ざった声である。
「あなたねぇ…。当たり前でしょ?遺伝子的にはありえない程高確率にCランク以上の戦闘員を出し続けている惑星に転生者全員が私の魔方陣に逆らって地球へ行ったのよ?」
「そりゃ貴方の魔方陣が不完全で私達の妨害があったからじゃ…」
「まぁ、確かにあんな大規模な転生用の魔方陣なんて初めて使ったから否定はしない。だけどはっきり言って異常なのは確か。あんな術師を輩出した惑星…私が警戒を解くわけがないじゃない」
そうカトリーヌが言った瞬間、カトリーヌの周りがどす黒くなっていく。
「え!?」
マリーはその光景に驚いている。
「逃げられないと思った?残念、転送妨害シールドを新たに張りなおしたみたいだけど、協力者が居るの。じゃぁね」
カトリーヌがそう言った瞬間彼女は消えてしまった。本当に一瞬だった。
「…っもう!また裏切り者が出たっていうの!?いい加減にしなさいよ!もう!!」
マリーはそう言って地団太を踏んでいた。『また』ってそんなにしょっちゅう協力者=スパイが見つかっているのか?!宇宙連邦軍はそんな事で大丈夫なのだろうか?
……。まぁ、宇宙連邦に潜り込んでいたスパイに関してはマリー達に任せるとして、
「長谷川君…」
俺は長谷川君に近寄る。
「まえ…だ…く…ん?」
心なしか穏やかな顔をしている長谷川君は俺の顔をジッと見ていた。
「あぁ、そういえばそっちの彼をどうにかしないよね」
マリーもそう言って近付いてきた。
「あの…彼を元に戻す事はできるのでしょうか?」
そう俺が聞くと、黙って首を横に振るマリー。
「そんな…」
元に戻らないという事に俺は愕然とする。そうなると彼はこのままずっと生きているとは思えない顔色のまま過ごしていくのだろうか…。
「元に戻るって事は生き返らせるって事よね?それは特例を除き無理なの」
「な、なんでですか!?」
「明らかに『闇の悪意』による生き返りの術ね…。残念だけど、闇の悪意のエネルギーを排除するって言う事は、この子の魂をつなぎ止める為のエネルギーを取ってしまうっという事なの。そしてそれに変わったエネルギーを使用して魂をつなぎ止めるという事は、すなわち生き返らせるという事になるの…」
「それは…魔法でもできないということですか?それとも法律上…?」
「えぇ、宇宙連邦の法律上よ。更にきつい事を言うようだけど、彼はこのままにはしておけないわよ」
「また暴走する可能性があるからですか?」
「その通り。今は安定状態だけど、徐々に闇の悪意に侵食されてしまう可能性があるわ。何せ従者用の術ですもの。単純に力を増幅させる為とかの術とは全く違う侵食の仕方よ」
「…」
生き返る事はできないのか…。自分の中で悔しいという感情が湧き出てくる。
「まえ…だく…ん」
と、長谷川君が話しかけてきた。
「僕は…大丈夫…。僕は…君に謝る事、ができて…許してもらう、事も…できた…」
「長谷川君。君は理不尽に殺されて…理不尽に操られたんだ…」
「あの…時…死んだ…人は…僕だけ…じゃ、ない」
そうだけどさ!そうなんだけどさ!
「僕は…満足…だよ?」
そう言った長谷川君の顔は嬉しそうだった。
「…なんで」
俺は声が漏れた。悔しさのあまり声に出してしまった。
「なんでお前のような奴が死んで!あんな愛理ってクズが生きているんだよ!」
悔しさのあまりそう言ってしまった。そんな事誰にも答えられるわけが無いのに。
「これから…皆を守れば…いいんだよ…僕の分まで…だけど、無理は…しないで、ね?」
長谷川君はそう言って俺の仲間。スレード隊を見回した。
「…あぁ…」
俺は拳を握り締めて頷く。
「ふぅ、じゃぁ魂の浄化をするわよ」
そう言ってマリーが長谷川君に手をかざす。
「じゃぁ、向こうで元気でね」
マリーの掌から淡い光が出ると、長谷川君は薄くなっていき、やがて黒い霧と光の粒子となって消滅した。
長谷川君…。
…さようなら。ありがとう。
「―――ガリオニア公国、ギセクション帝国、マルセーア共和国は本日午後4時に降伏いたしました。これは宇宙連邦軍の増援部隊が敵部隊と共に主要敵基地の破壊をしたことが原因ではないかと専門家から分析がされております。今後この3ヶ国にどのような条件を出すかが―――」
俺はホテルの一室でテレビを見ていた。
あれから俺達はホテルへと案内され、それぞれ休むことになった。
街には軍が警戒のため、多くの軍人を見かけることができる。
することが無いので何気なく見ていたテレビには、今日の戦争について常に流されていた。
しかし本当にあっという間に戦争が終わったな。




