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第39話 カトリーヌとの戦い

 地球の神埼ホテルの会議室で映像を見たから覚えている。映像は荒かったが髪の色は同じである。


「カトリーヌ!?」


 と、輝明さんが驚いている。やっぱりそうか!

「このっ!」

 鬼一郎さんはすばやく刀を手にしてカトリーヌに切りかかるが、

「ぐあ!?」

 鬼一郎さんは一瞬で反対方向に吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。カトリーヌの攻撃は全く見えなかった。


「ワイルーさん、よくやったわぁ。うふふ」


 と、カトリーヌは吹き飛んだ鬼一郎さんには目もくれずワイルーの方を見て笑っていた。

 リズリーは自分の息子の一之君を守りながら後退をしている。


「ど、どういうことだ、ワイルー殿!?」

 デルクロイはそう問い詰めるが、

「し、知りません!私は宇宙連邦の情報局の方にこの部屋へ皆さんを集めるようにとしか…ま、まさかあの情報局員は!?」

 ワイルーは顔を真っ青にながら叫ぶ。

「情報局員?」

 輝明さんはそう言って怪訝な顔をしてワイルーを見る。

 あぁ、なるほど。いいように利用されたってパターンね。


「お話はそこまでよ。スレード隊の皆さんには私についてきてもらうわ」

 クスクスと俺達を見下した目で見ながらカトリーヌは言った。


パシュッパシュッ!


 と、音がした。

 音の発生源は輝明さんであった。

 輝明さんの手元には銃らしき物体が握られており、そこからビームのような弾をとばしているようだ。

 だが、


ムワン、ムワン!


 と、薄い金属が歪む時に出るような音を出しながらカトリーヌの手前でビームが水辺の波紋のように薄く広がって散っていった。

「うふふ。地球人って皆面白い能力を持っているのねぇ…」

 カトリーヌは愉快そうに笑って自身の掌を輝明さんの方へ向ける。が、

「あら?熱心にまた妨害?」

 と、カトリーヌは不機嫌な様子も見せずニコリとトリットに向けて笑顔を見せた。

「や、やっぱりこいつ尋常じゃない魔力だ!俺の魔力妨害をやすやすと解除しやがった!」

 トリットがそう叫ぶと、カトリーヌの掌から青黒い魔力弾が放たれる。


「ぐわ!?」


 その弾は輝明さんに直撃してしまう。

「まずい、これはまずすぎる!」

 俺は必死に状況に対し最善の策を頭の中で巡らせた。

 カトリーヌは明らかに俺達スレード隊よりも強い輝明さんと鬼一郎さんを一瞬で倒してしまった。

 トリットはカトリーヌの魔法に1秒程なら妨害できるだろう。…できるだろうか?

 とにかく接近戦は危険だ。

 遠距離狙撃しようにもレイーヌは現在遠距離射撃用の武器を持っていないし、部屋中で狙撃なんて無意味だ。

 逃げるか?だが、相手は大使館とトリットに張られた転送魔法妨害を易々と突破したような奴だぞ??どうする!?


「ま、また来る!?」


 突然トリットから叫び声が出された。


「な…」


 俺は言葉を失った。ただでさえカトリーヌ一人でも対策ができていないのに、更に敵が増えるのか?もはや絶望しか残されていないように感じたかが、


「ふっふっふ。カトリーヌ、あなたまさかあれで私を出し抜こうなんて思っていないわよねぇ?」


 と、不敵な笑みを浮かべたマリーがカトリーヌと同じく空間を歪めて部屋に入ってきた。


「おぉ!?マリー殿!」

 デルクロイは喜びの声を上げた。

「おぉふぅ…」

 トリットは冷や汗を流していたが、マリーの姿を見ると安心してへたり込んだ。

「さぁ、皆早く建物の外に!」

 マリーの一言で皆我に返り、急いで全員外へと移動した。

「チッ、させるか!」

 突然先ほどまでの余裕な面から不機嫌なものへと変化させたカトリーヌは魔法を逃げる俺達に放とうとするが、


ブワァァァァアアア!!!


 と、輝明さんが退避しつつガトリング銃のような武器でカトリーヌを撃ちまくっていた。

 カトリーヌへ物凄い数のビームの雨が直撃するが全て、


ムワワワワワン。

ムワワワワワン。


 と、先程のビームガンと同様に全てカトリーヌの手前で波紋を広げているのみだった。

 それでもかなりの量だ。

 マリーからも極太ビームが放たれていた。

 どちらかと言うとカトリーヌはマリーの魔法の方が厄介そうな顔をして押しとどめていた。


「警報を!」

 リズリーは部屋から出ると近くにあった警報機を鳴らそうとするが、


「<緊急、緊急。大使館に侵入者あり。敵戦闘能力者と推定。直ちに建物から避難してください>」

 と、アナウンスが流れた。


「おせーよ!」

 モリガンはアナウンスが流れてきた方向へ向いて怒った。

「とにかく、早くこの施設から出よう!」

 と、一番後に部屋から出てきた輝明さんが言った。彼は既に銃器を持っておらず、代わりに鬼一郎さんに肩を貸していた。

「うぅ…面目ない輝明殿…」

 鬼一郎さんは申し訳なさそうに言っていた。

「気にするなって。ほら、皆いくぞ!」

 俺達は急いで下の階まで降りて行った。


----------------------------------------------------------


 数多く居る宇宙連邦軍人の中で上位の魔法使いであるマリーは自分とほぼ同等といわれる敵のカトリーヌと一対一で向き合った。


「久しぶりねカトリーヌ。今度こそ逃がしはしないわ」

 マリーは笑みを浮かべてポーチから分厚い本とステッキを取り出す。


「あら?口では随分余裕なようだけど、大丈夫なのかしら?」

 カトリーヌは現在の状況を不利とも思わず。むしろ優位に立っていると思っていた。


「どうしてそう思うのかしら?」

「アハハ。私が気付かないとでも思った?」

 と、カトリーヌはマリーを小ばかにしたように笑う。


「貴方、戦闘でこの部屋…いいえ、この建物が壊れないように強化の魔法をかけているでしょう。私と戦闘をしつつ魔法をかけ続けるなんて、いつまで続けてられるのかしら?」

 そう言ったカトリーヌは得意げにマリーを見た。

「フンッ…」

 そう声を出したマリーの笑みは、ぎこちない笑いへと変化していった。


----------------------------------------------------------


 スレード達はエレベーターで下の階まで降りた。地球では考えられないくらい待ち時間は無く、スムーズに1階まで降りることができただろう。

「そういえばアリア達は大丈夫なのか!?」

 と、俺は1階へ出て周りを見回す。

「おい!どうなんだ!?」

 デルクロイはそんな俺の疑問に答えるべく、ワイルーの胸倉を掴み迫った。

「い、いえ私には…そ、そこの警備員に聞くのが一番かと!」

 ワイルーは完全に縮こまってしまっている。

 いくら敵に騙され利用されてたといえど何かしらの責任を問われるだろうが、少し扱いが酷くはないですかね?デルクロイさん。

 グワッとデルクロイは近くに居た誘導をしている警備員を睨む。必死に誘導をしていた警備員はデルクロイの殺気にビクッし、何事かとデルクロイを見て震え上がっていた。

 一人の大柄で強面の人物に睨まれちゃそりゃぁ怖いよな。

 ここでパルクスが溜息をついて警備員に駆け寄る。


「え…?え?大使館からの脱出者リストですか??は、はい。あります!」

 ボソボソと小さい声でパルクスは警備員に話しかけると警備員はパルクスに退避した一覧リストの映像を空中に出す。

「…」


 一瞬沈黙が支配する。

 リズリーもその場に行って確認をしていた。

 やがて、

「大丈夫なようです。スレード隊ご家族の面々は既に大使館を出たようです」

 と、リズリーが報告をする。

「よし、ならばさっさと脱出するぞ!」

 俺は皆に伝えると、人の流れにそって大使館から脱出した。


----------------------------------------------------------


 マリーとカトリーヌの対決はマリーの不利という状況であった。


「なかなかしぶといわね…」

 呆れたようにそう言ったカトリーヌ。


「うっふっふー。一体何十年あんたを追いかけていたと思っているの?こん位じゃぁ諦めないっての!」

 カトリーヌは平気そうだが、マリーの服のところどころは焦げ付いていた。

 ちなみにマリーは今鯖よ読んだ事はお気づきだろうか。何十年という単位ではなく、百年以上カトリーヌを追いかけているのだ。

「(ははっ。皆脱出したようね。これなら全力を出せるかなぁ?)」

 マリーは頭に入ってきた情報に喜び、建物全体に施していたシールドを解除する。


「さて、本番はこれからよ!」

 マリーがそう意気込むと、カトリーヌは詰まらなそうな目をしていた。

「<お袋!おい、お袋!>」

 と、突然マリーの頭の中に声が響いた。

「(なに?今お母さんいいところなの!)」

 と、声の主に文句を言う。連絡をしてきたのは勿論ラゼルト大佐だった。

「<その…すまねぇ、一匹そっち行った>」

「(え…?)」

 マリーは最悪な情報を息子からもたらされた。


----------------------------------------------------------


 外に出て車を拾って乗り込んだ。

 車の中には大使館へ来た時のメンバーからフー親子は外れ、代わりにワイルーが乗っている。

 今のワイルーは顔を真っ青にして冷や汗を垂らし、ブルブルと震えていた。

 そんな彼になんて声をかけていいかわからず、迷っていると、


「前方から人影!」


 と、リズリーから声が発しられた。

 運転しているのはオートであったが、すばやく横へと避けた。

 現れたのは地球の神埼ホテルの会議室に映し出されていた映像で見た何百丁とあるかわからないほどの黒い拳銃で翼のオブジェクトを作り飛び回っていた黒い影”だった”使い魔だ。

既にそいつは黒い影というわけではなく、ちゃんとした人型になっている。

だが、その使い魔の顔を見た瞬間俺は凍りついた。

 ウソだろ!?


「馬鹿な!な…なんで君がここに!?」


 俺は思わず声に出して驚いてしまった。


「オーヴェンス様、あれを知っているのですか!?」

 レイーヌが俺の声に驚いて聞いてくる。


「知っているも何も…あれは…いや、彼は!長谷川 拓夢君だ!!」

 そう、目の前の青白い顔の少年は確かに地球で最期を見取った長谷川 拓夢君であった。

 なぜか背中に纏っていた翼状の拳銃たちは霧散し無くなった。

 だが、こちらをジッと見据えている。


「こ、これは結構まずいかも!全員車から降りて!」

 輝明さんの言葉で、急いで車を降りる。

「ググッ。我ら二人で全員を守りきれるか…?」

 と、鬼一郎さんは真っ先に車を降りて長谷川君を警戒し、いつでも刀を抜けるようにしている。

「分からん…が、やるしかないだろう…」

 輝明さんが大型の重火器を取り出している。

「全員一之君を守りつつ後退せよ!」

 俺はそう指示を出した後に、

「長谷川君!なぜそこに!?」

 と、呼びかけた。

「だ、駄目だスレード君。彼は既にカトリーヌ…いや、小岸 愛理の配下にあると考えるべきだ!」

「そんな!」

 輝明さんから絶望の一言を言われて俺は動揺してしまう。

 すると、長谷川君から言葉が発しられた。


「前田くぅ~ん」


 その声は確かに長谷川君であったが、それに混じって嫌な低い声が聞こえる。

 そしてその表情はニタァといやらしく笑い、本人なのかと疑ってしまう。


「前田くぅ~ん」


 もう一度長谷川君から言葉が発しられると、瞬時に俺の所まで移動をしてきた。が、鬼一郎さんの攻撃で長谷川君の移動は遮られてしまった。

 長谷川君の腹には鬼一郎さんの刀がめり込まれたが、そんな事は意に介さないようで、すばやく鬼一郎さんから距離をとり長谷川君は両手に持った拳銃で鬼一郎さんを銃撃した。

 しかし、鬼一郎さんは銃弾を全て刀で弾く。


ブワァァアアアアア!!!


 輝明さんは長谷川君が鬼一郎さんに意識を集中させている隙に再び取り出したビームガトリングガンで攻撃をした。

 長谷川君はそれに対し空中高くジャンプして回避をする。


 すごいな長谷川君。

 なんて思っている場合じゃないな。

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