第37話 突然始まった戦争
食事会では、大きな会場が設けられていた。9世帯プラス輝明さんら地球人組、マリーやラゼルトの宇宙連邦軍組が居るので、かなりの人数になる。
席に座る事は無い立食パーティー形式だ。これにより各世帯の知り合いと話す事ができる。
まずは最初に挨拶をした。
今スレード隊隊員達は前世で死んだ時の年齢と同じだが、見た目は全く違う。最初に挨拶をしないと誰が誰だかわからない。
お!?あそこに居るのはレイーヌのお兄さんか!?面影がある…というかやっぱり老けたなぁ…。ハゲちゃってる…。おぉ!?まさかあそこに居るのはデルクロイの息子達か!?すげぇ立派になってる。
俺はそう失礼な事も考えながら会場を眺め、自分の番になったら挨拶をして食事会の開始だ。
さて、話そうにも誰から話せば良いのやら…。と、考えていると、先ほどチラッと見たデルクロイの息子達と思わしきおじさん二人が並んで近寄ってきた。うん、近くで見ると前世のデルクロイに似ているな。二人ともデカイ。
「オーヴェンス・ゼルパ・スレード様ですよね?」
と、左側に立っている方が聞いてきた。
「その通りです。もしかしてデルクロイの…?」
「はい!ドルーガです!ドルーガ・ダージンバーです」
と、聞いてきた男が言った。やっぱり!
「ドルーガか!やっぱりそうだったか」
俺はにこやかに声を上げていった。
「と、なると、隣にいるのは弟のガインツか!?」
「その通りです!オーヴェンスさん!」
やはりデルクロイの息子達だった。
今は二人揃ってマフィアのような面になっているから、はたから見ればカツアゲされている図だな…。
最後に会ったのはドルーガが14歳、ガインツが12歳の時だったな。
戦争になる前はデルクロイと一緒に剣の稽古をしたりしてよく遊んだな。
「あっはっは!またお会いできるとは思いませんでしたよ!」
笑い方までそっくりだなドルーガ。
「あぁ、今何をしているんだ?ちなみに俺は学生をしているんだ」
俺はそう二人に聞いた。元々二人とはあまり堅苦しい話し方で接してはいなかったので、自然とくだけた話し方になる。
「我々は父の後を継いでスレード家本家に仕える騎士ですよ」
と、ガインツが言った。
時代が変わってもまだ貴族に仕える騎士とかあるんだな。
「聞いてくださいよオーヴェンスさん、こいつオーヴェンスさんに憧れて戦闘機乗りになったんですよ!」
と、ガインツを指差すドルーガ。
騎士は時代が変わると馬から戦闘機に乗るものが変わるのか!?
「本当はBWに乗りたかったんですけど、どちらかといえば戦闘機の方に適正があったみたいで…」
と、残念そうに笑うガインツ。
「ははは。そうは言っても俺が乗っていたBWより高性能なんだろ?良かったじゃないか」
俺はそう言って笑う。絶対とんでもない性能なんだろうな宇宙連邦軍の戦闘機って…。
「あっはっは。ですが、当時のBWの方が操縦難しかったようですよ?それを手足のように扱っていたスレード隊はすごいですよ」
あぁ…確かに難しかったな…。今の方が楽なのか。羨ましい。
それにしてもドルーガとガインツはまともに育ったようだな。
デルクロイの今世の子供達は…中二病真っ盛りになってしまったよ…。
そういえば俺、あの二人の事を記憶を取り戻す前は魔術士かなにかだと勘違いしていたな。かなり恥ずかしいぞ!
それからドルーガとガインツとで思い出話に花を咲かせ、他の家族の方々とも話をした。
気になったことといえば、ドルーガやガインツの他にもグリゼアの家族とも話していた時にアリアの息子のワイルーがこちらを睨んでいたことである。
なんだろう。仕える騎士と仲が悪いのか?仕えるといってもワイルーは次男だから本家とは別になるだろう。ドルーガやガインツは本家に仕えているらしいし…。
う~ん。あんまり詮索は良くないかな。
既に俺はスレード家から外れているわけだし…。
でも妹のアリアの事は心配だし…。
そんな事を思いながら俺は立食パーティーの食材を堪能していた。
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私、ワイルー・ゼルパ・スレードは今回の立食パーティーを楽しむ事や、叔父のオーヴェンスさんの帰還を素直に喜ぶ事はできなかった。
転生した叔父が、もしかしたら私が生きている内にスレード家を訪れる事になるかもしれない。と、常々母上から言われてきた。
最期はあっけなくやられてしまったみたいだが、間違いなくリール連邦にとって英雄のオーヴェンス・ゼルパ・スレード。
数々の戦場で勇猛果敢な戦果を残した英雄達の一人が自分の身内に居た事に子供の頃から憧れを感じていた。
大戦後に移行した紙幣制度では叔父のオーヴェンスの肖像画が一番高い紙幣に印刷されるほど英雄であった。
今のリール連邦は宇宙連邦となっているのでその紙幣は使われていないが、代わりにスレード隊9人の肖像画が彫られた貨幣としても使える記念コインが発行されている。
叔父は気付いていないかもしれないが、彼…いや、彼らは今なお英雄であり人気が高いのだ。
軍の施設である軍の空港を使用したのは民間の空港を使用した場合混乱が生じる事を懸念しての事であったし、この巨大な大使館を使用した事も一般のホテルではやはり混乱する事が予想されての事だった。
私も『あの人』と出会わなければ素直な気持ちで叔父を迎える事ができただろう。
私が『あの人』に出会ったのは、2年程前だった。
宇宙連邦軍の『情報局』職員という肩書きを持ったその人物は、私に自分の身分証を提示すると共にこの惑星リョーキューに来た目的を伝えてくれた。
宇宙連邦軍の諜報員と名乗った彼は、衝撃的な話をした。
それは、『オーヴェンス・ゼルパ・スレードによるスレード家当主引継ぎ計画』であった。
宇宙連邦の法では、転生したとしても前世の身分や財産を引き継ぐ事はできない。という事を知っていた。だからその話はおかしいのではないか?当初その諜報員から聞いた話は信じられなかった。
だが、今回の件は特別な事情があるらしい。
この『転生資産受継ぎ禁止法』と呼ばれる法にはいくつかの抜け道がある。
それは、
1.元々転生をする事が前提の種族の場合、その転生する種族内で転生が行われていた場合は認められる。ただし、戸籍上や婚姻関係にあっても元々の種族で無い場合はこれに当てはまらない。
2.宇宙連邦政府が原因で転生が行われてしまった場合。(基本は保障のみだが、個別案件で対応する可能性あり)
3.急務を要する事態にて転生された場合、連邦政府内職務に限定し期間限定で役職の復帰を許可する。
4.転生後に転生の事実を明かして遺産以外で利益があったとしても、それは認めるものとする。
5.転生後に転生の事実を明かしての組織の立ち上げには許可がいるものとする。(立ち上げ内容許可については別途記載)
という内容だ。
『1.』は今回に当てはまらない。なぜならば元々惑星リョーキュー人は転生を繰り返す種族ではない。
『3.』も同じく当てはまらない。叔父上は当時宇宙連邦政府の役人ではなかったし、叔父上が必要な状態でもない。
『4.』や『5.』はもはや関係ない。
関係があるのは『2.』だ。
宇宙連邦政府が原因である場合。
今回はヴァルカ残党軍が直接の原因であったが、宇宙連邦の攻撃や妨害によって転生してしまったので適応される可能性があるというのだ。
しかもヴァルカ残党軍が原因というのも宇宙連邦内では結構強いカードになるらしい。
近年減ってきたヴァルカ残党軍対策予算の関係上、少しでも経費がかかったようにしなくてはいけないらしい。それをしなくては困る人がいるとか…。
本来は保障のみだが、諜報員から資産や身分もある程度受継がれる可能性があるとの事だった。
私はこの事実に驚愕したが、彼が極秘文書のコピーを次々に出してきた事によって信用度は増していった。
「これは今のあなた方にとって困ることではありませんか?」
そう諜報員は言ってきた。
確かに現当主は母上であり、次期当主は兄のダルガーである。
ダルガーは国防大臣という役職に就いており、私もスレード家伝統の文部大臣という役職に就いている。
もし叔父上がスレード家の当主となった場合、私や兄のどちらかの役職は子や孫に引き継がれない可能性が出てきた。
そもそも、家や財産の殆どが叔父上のものになってしまう。
母上や兄のダルガーはそれでもよしとするかもしれないが、私はそれをよしとしない。
そもそも今の地位は私の祖父母や母上が必死に築いてきた地位である。
50年前、リール連邦は一度敗戦国となった。
敗戦国としての立場は2年であったが、その間約1年はスレード家は今とは違い戦犯者として国民から罵られていたらしい。
何せ当時最新鋭のBWを7機も保有し、なおかつそれを更に個別で強化ておきながら、5分と経たない内に全滅したのだ。
当時将軍として部隊を率いていた王家のお方はスレード隊に責任転換をし、我々は敵のBWに全く対応できなかった間抜け部隊とて評価されてしまった。
その後の宇宙連邦軍の証言や対応によってスレード家は持ち直したが、祖父母や母上、そして婿に入った父上の並々ならぬ努力があった事を忘れてはいけない。
結果、1年という短さでスレード隊は戦犯者から英雄へとなった。
スレード家は国の英雄的一族ではあるが、ここに叔父上が復活したとなれば、直接戦場に関わっていなかった母上とその子孫達は関係が無くなってしまう。
既に叔父上の妻は決まっているだろう。何せ婚約者のレイーヌ様も一緒に転生されたからだ。
そもそもスレード隊自体が全員英雄なのだ。転生後の結婚自体にリール連邦人の誰もが(一部訳が分からない団体を抜かして)反対するわけが無い。
そうなれば当然叔父上の子孫も生まれてくるわけで…。
我々現スレード家の面々は分家と成り下がり、徐々に駆逐されていくだろう…。
あぁ…考えただけでも頭が痛い。
「大丈夫ですか?」
諜報員は私の顔色が悪い事を心配してきた。
「え、えぇ…大丈夫です」
「突然の話なので混乱される事は分かります。ですが、これは事実なのです」
「そういえば、なぜ私にこの事を?」
「リール連邦的にこの件は国防大臣のダルガー・ゼルパ・スレード様にするのが一番だったでしょう。ですが、まことに情け無い事ながら、スレード国防大臣はガードが強力で近付けませんでした…」
当時は近隣諸国が威嚇攻撃を各地で行っていたため、警戒中であった。その為王族や国防大臣のセキュリティーの度合いは上がっていた。こうやって密会するにも一苦労だろう。
「しかし、宇宙連邦のメリットがわからない。宇宙連邦的には英雄である叔父上が役職につけば支持率も上がり、政治がしやすいのではないですか?」
叔父のオーヴェンス・ゼルパ・スレードはその活躍が絵本にもなるほど有名な英雄だ。そんな英雄が実際国の政治に関わるとなれば高い支持率を得ることになる。それに宇宙連邦も叔父を支持すれば自然に宇宙連邦の支持率も上がるはずである。
「簡単なことです。スレード文部大臣」
情報局員がそう言った後、私の疑問に答える。
「少しでも『ヴァルカ残党軍』に繋がる可能性がある者を排除しておきたいだけです」
「なるほど…」
確かに叔父はヴァルカ残党軍の実験体となった方だ。
当時繋がりは無かったかもしれないが、転生後我々に牙を剥かないとは限らない。
操られている可能性もある。ということだ。
「申し訳ありません。お手数ですが、この情報をスレード文部大臣か外部にもれないよう、ご当主のアリア・ゼルパ・スレード様やダルガー・ゼルパ・スレード様へお話して頂き、話し合いをお願いいたします。結果は後日私の方へ連絡を頂きたいかと思います…」
そう言って諜報員は連絡方法を記したメモを渡してきた。
後日私は再び情報をくれた情報局員と会った。
私が現当主の母上と兄のダルガーに伝えなかったと言ったら情報局員は驚いていたが、これは予防策のためである。
私はもし今回の計画が露見しても一人で罪を被る事にした。
「叔父上がスレード家当主になることを防ぎたい」
私がそう言うと情報局員はホッとしていた。
どうやら叔父上に家督を継がれると連邦政府内でも事例ができてしまい厄介とのことだった。
厄介という内容の詳細は教えてもらえなかったが、先日私に伝えてくれた『ヴァルカ残党軍』関係の不安要素の排除の他に、連邦政府内上層部は今回の『遺産相続』を阻止しようとしているらしいのだ。情報局員もその詳細は話したくないようだ。どうやら宇宙連邦政府も色々厄介事を抱えているらしい。
計画を遂行する為に私は動く事にした。
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食事会が終わる頃、会場内は騒然としていた。
それは甥である国防大臣のダルガーに一人の職員から連絡があったことから始まる。
「なに?それは本当か?」
たまたま俺とダルガーとで話していたが、突然慌てた様子の男性がダルガーに耳打ちをした。
何かを伝えられたダルガーは焦っているようだ。
「叔父上、申し訳ありませんが、席を外させてもらいます」
そう言うと、ダルガーは急いで会場を出て行ってしまった。
周りを見るとソワソワしている人が数名、何かの映像を見て驚いた顔をしている人も数名いた。
「何かあったんですか?」
たまたま近くに居た輝明さんに聞いてみた。彼もスクリーンを空中に出すというなんとも未来的な行動をしていたため、おそらく何かの情報を見ていると推測した。
「ん?あぁ、スレード君か。これだよ」
と、映像を見せてくれた。
映像はニュース番組のようであった。
「<繰り返します。これは訓練映像ではありません。先ほど宇宙連邦リール国に対し、隣国『ガリオニア公国、ギセクション帝国、マルセーア共和国』が宣戦布告をしました。3ヶ国はいずれも旧型ですがBWを多数保有しているようです。国境付近には既に宣戦布告をしてきた3ヶ国の戦車部隊や戦闘機…騎兵も多数見られます…>」
と、ニュースキャスターが額に汗を浮かべながら言っていた。
………え?
「いやぁ、あの3ヶ国は軍をあれくらい動かしている事は珍しくなかったんだけどね。まさか今日までの布石とはねぇ。それにまさかあれほどの大型機械の戦力を隠し持っていたとは…」
と、輝明さんは言った。その表情はピリピリしていた。
「それってかなりヤバイ状況じゃないんですか??」
「ん?彼ら3ヶ国自体は別に大した戦力じゃないよ」
「え?そうなんですか?」
考えて見れば今のリール連邦は宇宙連邦の一地域である。強大な3ヶ国といえど数万隻の艦隊を用意できる宇宙連邦に勝つ事など難しいはずだ。
と、いうか俺達スレード隊には今現在マリーさんと一緒に来た宇宙連邦軍の艦隊が惑星リョーキュー付近に居るはずだ。
「ただ、時期的に何かあると思った方がいいかもね」
と、輝明さんは不吉な事を言い出す。
「何かあるとは?」
「ん?それは簡単だよ」
と、輝明さんはジッと俺の方を見て、
「君達という存在を狙っての行動だとしたら、ヴァルカ残党軍のカトリーヌが動く可能性があるということさ」
うげ!あの数万隻と同等の戦力を持つ魔女が来るのかよ!
「ま、そうは言ってもこっちにもマリー・フー准将もいるし、彼女達高ランカー達は本来の戦闘力を出す事はできないはずだから多少は通常部隊も相手できるはずだよ」
と、にこやかに輝明さんは言った。
ん?なんか変な事を輝明さんは言ったぞ?
「本来の戦闘力を出す事ができないってどういうことですか?」
「そのままの意味だよ。地球での説明会では言ってなったっけ?Aランク以上の能力者は特定の能力は制限されるんだよ」
「え!?聞いてないですよ!」
俺は新たな事実に驚愕する。
「あ~。そうだったか。言ってなかったか…。え~と、Aランク以上の能力者は、皆攻撃能力や特定の能力はBランクまで能力を落とされるように電磁波、魔法、粒子等あらゆる方法で妨害されているんだ」
「マジですか」
「マジなんです。まぁ、でも妨害されている対象は決まっているから、回復能力や魔力量なんかは健在だから優位ではあるね」
「と、いうことは単体で艦を落とせるくらいって事ですよね」
「艦種にもよるけどねぇ~」
そうか、駆逐艦と戦艦の違いもあるもんな…。言われてはいたけどランク制度って案外いい加減なんだな…。
「ま、ランク制度なんていっても、人の強さなんて測りきれないさ。Aランク以上は皆規格外だけどね」
「ハハッ」
苦笑いするしかなかった。なぜならば隣でにこやかにマリーが頷いているからだ。輝明さんは気付いているようでマリーさんの方を見て頭を軽く下げる。なに考えているかわからん二人だ。




