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第36話 故郷へ到着

 そして更に翌日。


「<惑星リョーキューに到着します。ワープを終了いたします>」

 艦内に聞きなれたアナウンスが流れる。

 やはり青白い光の空間から黒い宇宙空間へとかわる。


「ここが俺達の居た惑星リョーキューか…」

 俺は窓から見える惑星リョーキューを見ながら言った。惑星リョーキュー全体を見るのは初めてだ。

 見た目は地球と大差は無いが…。


「なんだあれ?…あ!宇宙ステーションがある!!」

 と、トリットが声を上げた。


「なんか…でかいな…」

 デルクロイも目を丸くして驚いている。

 でかいと言っても惑星マティーナのスペースコロニーに比べれば小さなものだ。


 すると、マリーが近寄ってきて、

「あぁ、貴方達が転生する前は無かったものよね。あれは確かに宇宙ステーションよ」

 と、説明してくれた。

 高さ8km、横幅6kmとも説明してくれた。

 軍事施設も入っているらしいが、惑星リョーキューには大小様々の宇宙ステーションが計20基ほどあるらしい。

 あぁ…遠くに見えるあのちっこいのがそうなのか?近付いたらでかいんだろうな…。


 そしていよいよ俺達は惑星リョーキューへと降りていった。



 流石50年という月日である。

 リール連邦国首都の様子は様変わりしていた。50年という年月もそうだが、宇宙のとんでも技術が流れてきているので当然といえば当然なのだ。


 輸送のための馬車は見かける事は無くなり、変わりに空中浮遊するトラックが首都上空を行きかう。


 建物は半分はあまり変わりないように見えるが、大きな建物が連なっている。


 首都も大きくなっているようで、どちらかといえば城壁外の方が巨大なビルが立ち並んでいる。


 そうは言っても一昨日惑星マティーナで見たような空中都市や何キロも高さがあるビルは無い。だが、地球の高層ビル群のような光景が城壁外に広がっていた。

「これではどちらがメインの都市か分かりませんね…」

 そうごちゃ混ぜの作りをした都市を見ながらグリゼアは言っていた。


 俺達が乗る輸送艦は城壁外へ向かい。そのまま広大な基地へと降り立った。

 地球の空港のようなゲートをくぐり外へ出ると、そのまま基地内へと入る。

 一同が艦内から全員降り、広大な待合室を見ると、スーツを着た人と連邦軍の軍服を来た俺達と同じ人間の者が複数俺達を見て立っていた。

 前方の一団は俺達の姿を確認すると、笑顔で俺達に近付いてきた。

 近くで見ると確かに笑顔であるが顔が固く引きつっているようにも見える。

「宇宙連邦軍マリー・フー准将と元スレード隊隊員の方々でよろしいでしょうか?」

 と、前方のスーツ姿の男性が話しかけてきた。年齢は40代位であろうか。何処かで見たような顔である。そんなはずは無いか…。

「えぇ、そうです」

 そう珍しくまともにそう答えるマリー。

「我々、宇宙連邦リール国国防省から参りました。私は国防大臣の『ダルガー・ゼルパ・スレード』と申します」

 と、その男は名を名乗った。ん?スレード!?


「スレードと言ったか?まさか…」


 俺がそう言うと、彼は俺の驚愕の意味を理解し、

「そうです。私は『アリア・ゼルパ・スレード』の息子です。はじめまして、オーヴェンス叔父様」

 と、俺の目を見て言った。

「あ…アリアの!?え!?」

 一瞬頭が回らなかった。

 そうか!どうも見覚えがあると思ったら雰囲気がアリアに似ている!ウェーブかかった髪と優しげな目。確かにアリアの血縁者だ。

「あら?早くも感動の対面?」

 と、マリーが笑顔で見てくるが感動の対面とはちょっと違う。

 だが、子供がいたことは予想された事である。だが、まさか貴族であるスレード家が今も政府の仕事をしているとは思わなかった。

 宇宙連邦と対決して負けたと思っているのだが、当時の官僚は責任を取らされなかったのだろうか?もっとも当時父上は文部大臣だったため責任の取りようは無いと思うが…。

「では皆様、こちらへ」

 俺達はダルガー達にそのまま案内された。




『惑星リール連邦国内宇宙連邦大使館』


 俺達はそう名前が付いた建物に入った。

 大使館といっても巨大なビルだった。話を聞くと、ここの建物全てが大使館であるとの事らしい。

 人生初の大使館である。転生後どころか転生前も来る事は無かったが、人生で初めて入る大使館がとんでもない規模のものであった。


「それでは、皆様。別々の部屋になりますが、その後全員で食事をいたします。ではどうぞこちらへ」

 俺達スレード隊一人につき一人の大使館職員が付き、連れて行かれ別々の部屋へと移動する。既に軍人の姿は見えず、スーツを着た職員の姿しかない。

「さぁ、オーヴェンス叔父様。こちらへ…」

 俺は案内された部屋の前へ立つ。

 甥のダルガーはそのまま扉をノックし、

「オーヴェンス叔父様を連れてまいりました」

 と言ってドアノブへと手をかけ回す。

 緊張しているのでせめてタイミングは俺に委ねて欲しかったが、そんな事はお構いなしに扉は開かれた。


 ドアノブを回すカチャっという音だけで開かれた音は特にしない。


 開かれた先に居た人物…いや、人物達は真っ直ぐ俺の方を見ていた。


 中央に落ち着いた色のドレスを着た優しげな年配の女性。

 左右にはダルガーと同じ位の男性や20代位の男女が居る。ダルガーや俺を抜かして部屋の中には8人の男女が居た。


 俺はゆっくりと中へ入っていく。


「アリア…なのか…?」


 中央の年配の女性に向けて俺は言った。


「お久しぶりです…オーヴェンスお兄様!」

 その年配の女性は俺のところへゆっくりと近付いてきてそっと俺の右手を握る。

 涙を浮かべてニコリと笑みを浮かべている。


ポタ。


 と、床に水滴が落ちた。

 汗…?

 俺の鼻の横を伝う感覚に慌てて左手で確認する。

 どうやら水滴は目から来ていたようだ。

 涙である。


「あ…あぁ…アリア!」


 俺の感情は無茶苦茶となり泣き始めてしまった。





「そうか…。父上と母上は死んでしまったか…」


 そうアリアから報告を俺は受けていた。

 とりあえず双方が(というか俺だけ)落ち着いた所でスレード家の話をアリア達から聞いていた。


 アリアは二人の息子と一人の娘を生んでおり、全員結婚し子供も居るとの事だ。俺達を空港から案内したダルガーは長男であり、スレード家の次期当主らしい。

 アリアの旦那はスレード家に養子に入ったのだが、既に他界しているようだった。


「父上と母上はオーヴェンスお兄様がお亡くなりになり大変悲しみましたが、転生される可能性が高いという事実を聞き、オーヴェンスお兄様が再びこの地に足を運ぶまで生きると言っていました…」

「そうか…」

 一足遅かったな…。

「ですが、その役目は私に引き継がれ、無事役目を終えることができました」

「うん。ありがとな…」

「とんでもございません。私は何もしておりません」

「何もしていない事はないよ。ちゃんと待っていてくれたじゃないか」

「…はい」

 再びアリアは涙目になった。


「お兄様、転生先の世界はいい世界ですか?」

 ここでうん。いい世界だよ。と言うべきなんだろうが、転生後の記憶。それもオーヴェンスの記憶が入ってきたあの日の記憶が蘇る。

 いきなり見ず知らずの場所で頭にコブを作って倒れており、その後日コブを作った張本人達に何度も絡まれ、最後には銃撃戦となり、目の前で知人が死んでいく記憶。

 この記憶を元に「うん。とってもいい世界だよ!」なんて素直に言えていたならば俺は今後一生何も悩みなんてないだろう。

 だが、

「あぁ、いい友人達もできて、スレード隊隊員全員向こうに居るから安心だよ」

 と、言った。

 悪い記憶よりもいい記憶を思い出した方がこの場合いいんじゃないかと思う。

「そうですか」

 ニコリとアリアは笑って言う。

 実際俺が居た頃のリール連邦と日本の俺が住んでいた地区はそれほど変わらない殺伐とした状況だが、アリアを不安にさせても得は無い。

 ここでふっと思った事があったので聞いてみることにした。

「そういえば、あれから…俺が死んだ後リール連邦はどうなったんだ?」

 と。

「オーヴェンスお兄様がお亡くなりになった後ですか?そうですね。あの後すぐに宇宙連邦とリール連邦とで講和が行われました。当初宇宙連邦という組織は信用できず、戦いを挑んでしまいましたが、力を見せ付けられた後は素直に会談を行ったと聞いています」

「その結果は?」

「はい。結果は終戦協定を結ぶ事になりました。そして、国境もその当時のままという事になり、相手側へ賠償を払うわけでもなく貰うわけでもなく終了致しました」

「ん?国境はそのままとは支配した土地をそのままリール連邦としたのか?」

「その通りでございます。今回の戦争原因はリール連邦ではなく周辺国だという判断を宇宙連邦はしたみたいです。そしてリール連邦は守ってもらう代わりに宇宙連邦へ情報を渡す事になりました」

「情報?」

 惑星リョーキューの世界情勢とか王家の個人情報か?と思ったら、

「『ヴァルカ残党軍』だったと思います」

 と、アリアは言った。出た!ヴァルカ残党軍!

「当初リール連邦どころか各国がリョーキュー外生命体とつながりがあったようでして…」

 リョーキュー外生命体。なんか地球外生命体みたいな言い方だな…。意味合い的には一緒なんだけど。

「リール連邦は技術面で支援を受けていたそうで、全面的に宇宙連邦と協力することで『宇宙連邦』との戦時賠償はありませんでした」

「ん…?」

 アリアは妙に引っかかる事を言う。

「その言い方だと、宇宙連邦以外の国といざこざがあったように聞こえるが?」

 そう言って自分の質問の言い方に少し戸惑った。

 アリアは確かに妹ではあるが、見た目や立場はアリアの方が上だ。もっと丁寧な言葉遣いの方が良かったかな?


 そんな俺の懸念はよそに、

「その通りです。宇宙連邦とは講和ができましたが、周辺国は納得しなかったようで、すぐに戦争へと突入しました」

 と、アリアは答えてくれた。

「結果は宇宙連邦、リール連邦連合が勝利しました。宇宙連邦は今回は周辺国に非があるとして賠償問題へと発展し、当初敗戦国と思われていたリール連邦はいっきに勝戦国となりました」

 えぇぇぇ……。


「戦争は終結、リール連邦はこれ以上周辺国から攻められた場合苦しい状況となるので、宇宙連邦と同盟を結んだ後、戦後10年…今から40年前宇宙連邦へと編入させてもらいました」

 何だろう。リール連邦が一気に勝ち組になった気がする。というか周辺国馬鹿ばかりだろ!?

 当時…。50年前攻めてきた時も無茶苦茶な理由だったが、自分を追いつめた兵器を持つ集団と敵対している組織が居るのに攻めたりしたら宇宙連邦にボコボコにされるのは当然だと思うが…。


 これほどまで周辺国が間抜けな行動をすることと、リール連邦が良い方向に都合よく進んでいく事に何か陰謀を感じてしまう…。


「あ~…今はさすがに過去のしがらみなんてもうないんだろ?」

 と、俺は聞いてみるが、その答えは、

「いいえ。周辺国はいまだにリール連邦を虎視眈々と狙っております。文明レベルは当時からあまり変わっていないのにも関わらず…」

 馬鹿だろう…。

 まったく酷い話である。見たところ既にリール連邦の文明はかなり先に進んだだろう。それに対しまだ戦争を仕掛けようとしている事に周辺国の正気を疑う。

 あぁ、でも地球でも同じような事をしている国はいくつもあったなぁ…。


「状況は平和ではないけど、リール連邦民はほぼ安全ですよ」

 まぁ、皆が安全ならばいいんだよ。周辺国がどうなろうと俺にとってはどうでもいいし。

「そうか…」

 俺はそう言って安心した。


「昼食までまだ時間はありますね。思い出話でもしていましょうか?」

 と、アリアが提案すると、

「お母様…。よろしいでしょうか?」

 と、口髭を蓄えたアリアの息子…。ダルガーの弟が口を開いた。

「なにかしら?ワイル」

 ワイルと呼ばれたアリアの次男は、

「スレード家の事をお話した方がよろしいのではないですか?」

 スレード家…なるほどそういうことか…。

 俺はワイルの言いたい事を理解する。

「スレード家の事…ね。そうね、それも話さなくてはいけないわね…」

 と、アリアは今までの笑顔とは違い、キリッと真剣な眼差しをして俺を見た。

「もう少し後でも…」

 と、ダルガーがワイルへ小さい声で言ったが、

「こういうのは先に言っておいた方がいいのです。後々言い辛くなってしまっては困ります」

 と、ワイルはダルガーを厳しい目で見ながら言った。

 ダルガーはそれに対し小さいため息をついた。

 アリアはそんな会話をしている二人をお構いなしに話を始めた。

「オーヴェンスお兄様、現在私がスレード家の当主の座に就いております」

「うん」

 まぁ、そりゃそうだろうな。

「次期当主も既に、ダルガーが継ぐ事に決まっております」

「なるほど」

 それも、その通りだろう。

「オーヴェンスお兄様は本来このスレード家をお継ぎになるお方でした…」

 ここでアリアの説明が僅かに途切れる。


「うん。だけどあの戦いで死んだんだ」


 俺がそう言うと、アリアは悲しい表情となり、

「その通りです。残念ながらあの日を境にオーヴェンスお兄様はスレード家を継ぐ序列から外れてしまいました…」

「まぁ、そうだろうね」

 死んだ人間に跡を継がせるなんて事は出来ないからね。

「…。なので、お兄様には…申し訳ないのですが…このスレード家を継ぐ事はできません…。その為、父上や母上の遺産なども殆ど受け継ぐことができない状態なのです…」

 悲痛な面持ちでアリアは言った。もう見ていられない。

「うん、そうだろう。それも分かっていた事だ。俺も前世の記憶があるという状態なだけで、実際に今はスレード家と血のつながりが物理的に無い」

 アリアの次男ワイルが懸念する事は当然である。

 何せ今までスレード家当主の息子という座に居たのに、俺が現れた事によってそれを奪い取られてしまったら堪ったものではない。

「お兄様、申し訳ありません…。せっかくあの戦争から戻ってこられたというのに…これほどまでにも酷い仕打ちを…」

 ついにアリアは泣き崩れてしまった。

 いつの間にか俺の呼び方が昔と同じ『お兄様』になっている。昔はお兄様の前にわざわざ名前を付けていなかったからな。

 ダルガーとワイルはそんな母の姿を見て複雑な顔をしていた。


「叔父上、誤解が無いように言って起きます…」

 と、ダルガーが話に割り込んできた。

「これは宇宙連邦の法律でもありまして、転生者への転生前の財産は認められない。という内容があるのです。もちろん種族的に転生をするものに関してはその法律には引っかかりませんが、今回のリール連邦人に関しては適用される項目なのです」

「なるほど。確かに今は9人のリール連邦人が転生をしましたが、あの戦場で死んだリール連邦人は万単位。何らかの現象で全員転生してしまった場合、リール連邦は混乱するでからね」

「その通りです」

 と、ダルガーはホッとした表情で言った。

「グスッ。しかし、父上と母上はオーヴェンスお兄様が転生する事を存じていたため、遺言と僅かな財産を残してくれています」

 涙を拭きつつアリアがそう言った。

「遺言と財産?」

「はい、財産の方は法律上でも禁止されてはいますが、それはあくまで転生者が要求できないというものです。なので父上と母上からの思い出という形式であれば受け取る事ができます。もちろん残された家族の許可や監査官の検査もありますが…」

 思い出の品も結構扱いが厳しいらしい。

「う~ん。つまり、父上や母上の写真とかをもらえるという事かな?」

「はい、その通りです。そういうものであれば高価な財産というものでは無いようなので…」

 自分で聞いておいてなんだが、まさか写真があるとは思わなかった。俺がまだ前世の身の頃には写真なんて無かったからな。つい今世の感覚で聞いてしまった。


「それはありがたいな。自分の中での感覚はまだ数ヶ月しか会ってないくらいなのに、妙に懐かしく感じてしまうよ…」

 俺はそう言ってアリアに微笑んだ。

「お家にいらっしゃって頂いた際、それらの品はお渡ししたいと思います。そろそろ時間ですので、お昼へ行きましょうか」

 アリアはそう言って、俺を昼食へと誘う。

「あぁ、わかった。父と母の思い出。楽しみにしているよ」

 そして俺はスレード家へ招待される事になり、そこで宿泊する事も決まった。その前にみんなで昼食だ。


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