第35話 惑星マティーナ観光
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場所は変わって現在服やバッグ、装飾品を取り扱っている店にスレード隊とマリーは居る。
そんな中でトリットはつまらなそうに店に備え付けられている椅子に座って天井を見ていた。
「男の俺達がこんなところに居たって意味無いよな~、モリガン」
トリットはモリガンに話かけるが、
「…」
モリガンは黙ったままである。
「え?無視っスか?」
トリットは無視をするモリガンの顔を覗き込んでくる。
モリガンは相変わらずの仏頂面で、
「少しは大人しくしていろ」
と、トリットを叱る。
「そんな事言ったって暇なもんは暇なんだよ」
トリットはそう言って椅子に座りなおしてため息をつく。
「お前な…。少しはオーヴェンス隊長を見習ったらどうだ?」
「いや~。あれを真似するのはなかなか…。隊長は流石は貴族様だよな~」
モリガンとトリットが見た先には、レイーヌと一緒に服を選びつつ、ミューイやグリゼアと装飾品の相談をしているオーヴェンスが居た。
「モッテモテだよな隊長…リア充ってやつか」
「リア…?まぁいい、お前も隊長を見習って女性のお相手をしてみろよ…」
「隊長のようにはなぁ…」
「別に隊長と同じようにしろなんて言ってないだろう…。リズリーの所へ行って一緒にアクセサリーでも見てあげたらどうなんだ?」
「な!?なんでそこでリズリーの名前が出て来るんだよぉ!」
トリットは明らかに動揺を見せ、小声で怒鳴っていた。
「ん?今はもう違うのか?前世ではリズリーに惚れていたと思うが…?」
「バッ、バッキャロー!そんなわけねぇーだろぉー」
と、やはり小声で怒鳴りながらトリットはモリガンのそばを離れていき、リズリーのところへ行って声をかけていた。
「…」
そんな様子をモリガンは呆れながら見ていた。
一人で静かにしていたかった為、トリットにそのような事を言ったのだが効果覿面である。これからはこの手を使おうかと思っていた矢先、
「なぁ、モリガン。娘にはどっちの方が似合うと思う?」
と、デルクロイがモリガンに話しかけてきた。
「…。左の方がいいんじゃないですかねぇ…」
と、やさしいモリガンはぶっきらぼうに答えてあげたが、
「というか、一度テルトとかいう案内人に素材見せましたか?地球への他人に渡す土産の素材は限られてるって言ってましたが」
「おぉ、そうだったな!では、一度テルト殿に見せてこよう」
デルクロイはそのまま可愛らしいポーチ二つを持って行った。
「…ふぅ」
モリガンは一息ついたが、
「…パルクスか。何の用だ?」
モリガンの視線の先には二つのペンダントを持ったパルクスが笑顔で立っていた。
「地球の彼女にでも渡すのか?」
モリガンの言葉をきいたパルクスは嬉しそうに首を縦に振るう。
「ふん。羨ましいことで…。あ~…どっちがいいかねぇ…」
仕方なしにモリガンはパルクスやデルクロイの商品選びに付き合うことになってしまった。
ふと隣を見ると今度は、
「…リズリーの息子か…」
一之がモリガンをジッと見ていた。
仕方が無いのでモリガンは一之を肩車してパルクスのプレゼント選びの手伝いをする。
なんだかんだで面倒見がいいモリガンであった。
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一通り女子の買い物は済んだ。
主にマリーがいろいろと見ていただけだが、俺も『惑星リョーキュー』に居る妹に何を買っていった方がいいだろうか。と頭をめぐらせていた。
以前輝明さんやリズリー達清堂家メンバーから俺の妹の生存が確認できている事は知っている。
しかし、50年という歳月だ。当時俺の妹のアリアは15歳だったから今は65歳か…。
レイーヌやミューイが買っているようなものではなく、少し落ち着いた感じのアクセサリーを選ぶ。これでいいかな?
一応資金の事は心配は要らなかった。輝明さんが出してくれるとの事だったので、会計の時にリズリーかパルクスにお願いをすればいい。
そうは言っても高いものは買うのをはばかられるし、ものすごい安物は買えない。相手はスレード家を継いだと思われる貴族だ。
困った…。
ふとマリーの方を見ると、両手いっぱいの紙袋を自身のポーチにしまっていた。そんな量入らないだろう…。と見ていたらなんとすっぽり入ってしまった。しかもポーチの大きさは変わらず。
今日から俺は物理法則の常識は崩壊した。
「オーヴェンスこっちの色はどうでしょう?」
「うん、色はいいと思う。だけどここに書いてある模様、多分文字じゃないかな?地球には持っていけないんじゃない?」
「あ、そうでした。では、色が一緒のこのデザインの服にしましょう」
俺とレイーヌはレイーヌの服を選んでいた。
いろいろと制限があってなかなか決まり辛いが、久しぶりのデートに心和ませる。
考えて見ればこの体になって2回目のレイーヌとのデートである。
うへへ。
「え~!この服もダメなんですかぁ??」
「はい、これは宇宙怪獣の素材を使ったバッグです。地球にはこの生物は居ません」
と、ミューイはテルトーさんから説明を受けていた。なにやら物騒な単語が聞こえてしまった。宇宙怪獣の素材って…。
「むぅ…。なかなかと条件が厳しいですな」
グリゼアも頭を悩ませているようだ。
「ねぇねぇオーヴェンス君、これなんてどうかな?」
と、今度はマリーが俺に服のデザインを聞いてきた。
「すごい可愛らしいですね。といっても落ち着きもあるデザインです。地球では見られない珍しいものですね」
なんというかゆったりとした上下一体の服である。腰の部分に大きなリボンが付いて全体的に薄いピンクであった。
首の部分から肩の部分まで白い布が覆いかぶさっている。
「む…」
レイーヌは俺がマリーの服を見て感想を言うと少しムスっとした顔になる。これは俺がミューイに同様の質問された際、感想を答えた時の顔と一緒だ。嫉妬しているのだろうか。一応マリーさんは孫も居る年なんだが…。
「あれぇ?いまオーヴェンス君失礼な事考えたかなぁ~?」
と、マリーは笑顔のまま顔に影を作り言った。
ヤベェ!この人Sランクとかいう規格外の人物だった!心読まれた!?
「い、いえ。そんな事ないですよ?」
「そう?ならいいんだけど…」
マリーはそのまま会計へ再び行った。どれだけ買うつもりなんだあの人…。まぁ、とりあえず命は助かった…。
ともあれ、買い物を終えた一行はその後レジャー施設で空中移動するサッカーのようなものを楽しんだり、ゲームセンターでリアルすぎるシューティングゲームをした。
そして夜。テルテーさんに案内されたホテルで、夕食を食べ終え、部屋で一人のんびりとしていた俺は、一人テレビ番組を見ていた。
テレビ番組は自動的に腕輪の機能によって翻訳されるので内容は分かった。
テレビは、あのカトリーヌが地球で起こした事件の番組もやっていた。
テレビの情報を見ると、カトリーヌという人物は500年もの間、様々な惑星で事件を起こしている凶悪犯であった。
魔具(魔力で使用できる道具)を悪用したり、とある国家同士を戦争させたりと、リール連邦の事件と同じような事を各地でやっているらしかった。
各時代で協力者もそれなりに居たらしいので、全く捕まらなかったとの事。
そんなカトリーヌの特集は終わり、
「あとは特に見るものないな…」
と、見るものがなくなってしまった。ドラマとか見ても続きからなのでよく分からない。
『時代劇』と翻訳されている番組を見ると、そこには巨大なBWが敵戦車部隊と戦っている様子や戦闘機がドッグファイトしている映像が映し出されていた。
「おい!」
思わずツッコミを入れてしまう。これのどこが時代劇なんだ!と、
だが考えて見れば高度な文明を誇る宇宙連邦にとって、このテレビに映る兵器達は皆旧式なのだろうな…。
丁度そのドラマは終わりを迎えるところで、敵空中戦艦に味方の空中巡洋艦が体当たりしたところで終わった。
これは続きを見たいが見る事はできないだろうな…。
暇だ。
仕方が無いのでホテル内を見てまわろう。
俺は最上階のレストラン兼バーへと入った。
目的は単純に最上階からの景色を見たかったからだ。
やはり夜の風景も格別だった。
地球のどの都市よりも発達したこの人工物に囲まれた風景。
実際に俺が今居るホテルも高さ800mというとんでもない大きさだ。(そんなに泊まる客がいるのだろうか?)その最上階から見てもこのホテルよりも更に高い建物がそこら中にあるし、車は上空をライトをつけながら列を成して飛んでいた。空中にも決まった道があるのだろうか?
「(何か頼もうかな…。あ、そうだ金がない)」
残念ながらこの惑星の通貨は持っていない。仕方が無い風景を後少し見た後自分の部屋に戻るか…。そう思っていると、
「おや?スレード君ではないか。どうしたんだい?こんなところで」
と、後ろから声をかけてきた人物が居た。
その人物は輝明さんである。
「あぁ、輝明さん。いえ、夜の街の風景も見ておこうかと思いまして」
「なるほど、確かに僕もこういった都市の風景を初めて見たとき、一日中眺めていたなぁ~」
と、輝明さんは思い出に浸る。
「そうだ、せっかくこんなに眺めがいい所に居るんだ。何か飲みながら話さないかい?もちろん僕の奢りだ」
「そうすか。それではいただきます」
俺はそう言って飲み物を頼む。輝明さんはワインのような飲み物で、俺はジュースを頼んだ。お酒をたのもうかと思ったが、今は地球人だから駄目と言われてしまった。
前世。つまりリール連邦では15歳から飲んでいたのに…。
「どうだった?観光の方は」
もはやマリーの思惑は皆に筒抜けというわけだ。あの様子でただの視察とは誰も思わないだろう。どう見ても遊びに行く気満々だったからな。
「えぇ、ものすごく面白かったですよ。特に地球では見られない科学技術で満ち溢れているんですから」
と、俺は答えた。
「ふふ。実はこの惑星の技術は科学技術だけではないのだよ。魔法技術も僅かながら使用しているようなんだ」
「ま、魔法ですか!?」
今日見たSF映画さながらの光景のどこに魔法要素があったのだろうか。
「ははっ。地球の物語とかに登場するような箒に乗って飛ぶようなものではなく、魔道機関によって飛ぶ車もあるんだよ。魔力が無い人でも使えるような道具もかなりあるしね。誰でも魔法使い…いや、魔道具使いになれるんだ」
輝明さんの言葉で一つ思い出した事がある。
「尋常じゃない量の品が入る小さなポーチとか、ですか?」
「そうそう、そういう物。確かに一般的な物ならば科学でも再現できるし価格も変わらないから、あとは好みの問題だろうね」
科学でも再現できるのかよ!
「なんだか、ほんとに異世界ですね…」
「僕も初めて目にした時は驚きの連続だったよ」
「それでも変わらないものっていうのもあるんですね」
俺がそう言うと、輝明さんは不思議そうな顔をして、
「ん?それはどういうものの事を言っているんだい?」
と、質問をしてきた。
「例えば今日行った服屋とかですね。なんていうかほら、なんか未来世界では自宅でパネルを操作するだけで自由に服を着替える事ができるとかテレビとかで流れていたんで」
だが、それは所詮ドラマやアニメの世界の話である。
「あぁ~。なるほどね。確かにそういう服の買い方もあるね。今日行ったああいうお店は僕達みたいな未発展国の人間が好んで行くところだからねぇ~。まぁ、今では現地の人も良く行くお店らしいけど」
と、輝明さんは説明した。
「え?どういうことです?」
「ほら、パネルを操作して選ぶっていうこと自体慣れてない人がさ、ああいうお店に行くんだよ。あとカップルとかが利用するんだ。妬ましい」
おっと、何だか輝明さんから黒いオーラが出てきたぞ?結婚とかしてないのかな?いや、してる!指輪してる!え?じゃぁなんで…。話題を変えた方がいいかなぁ…。
「そ、そういえば、輝明さん達は街を見てまわらなかったんですか?」
「ん?あぁ、実は宇宙連邦から今回のカトリーヌの件について保障が出てね。その受け取りチェックをしていたら時間がなくなってしまったんだ」
「ありゃ。それは残念ですね」
「まぁ、何回か来た場所だからね。ホテルのお土産店で何か買って帰るさ」
輝明さんと俺はその後様々な事を話した。
さて、そろそろ自分の部屋に戻ろうかとしていた時、
「そうそう。あまり自分を責めないようにね」
と、輝明さんから言われた。
「え…?」
「ほら。長谷川君の事を気にしているんじゃないのかな?」
あ、バレてた。
「やっぱりね。だけど君も今は民間人だ」
「わかっています。彼とはあまり付き合いは殆どなかったはずなんですが、あんな理不尽な殺され方をされたのが許せなくて」
俺は少し怒りをにじませながら言った。
「うん、確かにね。だからヴァルカの連中は怖いんだ。何度も言うけど、あまり思いつめないように」
「わかりました。ご心配していただきありがとうございます」
「うん」
その後、俺達はそれぞれの部屋へと戻って就寝した。
次の日、予定通り惑星リョーキューへ向け出発した。お土産を沢山乗せて。
「「またのお越しをお待ちしております」」
アンティオ知事とテルテーさんに見送られて艦の中に入っていく。そういえば帰りにもう一度寄るのだろうか?
移動する艦は同じだったため特に目新しいものも無い。惑星リョーキューへの旅路も快適に過ごせるだろう。
変わった点としては護衛をしてくれる艦隊が増えた事だ。
総数40隻の宇宙艦隊が俺達と合流し、惑星リョーキューへと向かった。




