第34話 惑星マティーナ到着
翌日午前8:30惑星マティーナ付近
『人員輸送艦コントール』内で朝食を食べ終わった俺達は何もする事が無いので席に座っていた。
すると突然
ピーッピーッ。
と、音が部屋で鳴り響く。
「<まもなく惑星マティーナへ到着します。ワープを抜けます>」
と、アナウンスが流れてきた。
「もうそろそろかしら」
部屋に付いている窓から外を見る。
窓を操作して切り替える。すると、南の島風の風景から青白い光りの空間が映し出される。
これはモニターなので、好きな風景へと切り替えができるらしく、マリーが好きにいじって風景を変えていた。確かにずっと青白い光の空間を見ていたって面白くないしな。
やはりそこには青白い光の空間が広がっていたが、唐突に青白い光りが消えた。
全体的に見えていた青白い光は既に無く、代わりに宇宙空間が広がっている。ただ、地球から見た宇宙空間とは違い今回見た宇宙空間は大小さまざまな宇宙船が列を成して移動しており、範囲を指定して拡大して見ると、中には車のような小型宇宙船まで見える。と、いうか車だ。
いくつもの浮遊している建物はいわゆるスペースコロニーだろう。様々な形の筒状のものや、球体の人工物が見える。
更にその先にあるものは、灰色の惑星だった。
一之はキャッキャと喜んで窓の外を見ている。そういえば子供を連れてきてしまっても良かったのだろうか?
「あれが惑星マティーナ?」
と、隣に居たレイーヌが呟く。
「海も緑も見えないな…」
そう俺が言った通り、ほとんど灰色の惑星である。
地球とは違い土星のように輪があり、何のためにあるか分からないが、上下左右真ん中に何万kmあるか分からない棒が伸びている。太さも千キロ以上というレベルだと思う。
軌道エレベーターだろうかと思ったが、棒は地表と結構離れている。
なんなんだろうな。あれ。
「<前方に友軍艦隊到着>」
前方といわれてもこの窓は前方を見れない…と思っていたらマリーがクイックイッと指を動かす。するとモニターの見える角度が横から正面へと変わった。360度見えるのかこの窓!?
前方には粒が見える。今度はマリーが拡大をしてくれる。
「かなりの規模じゃない?」
マリーが言うとおり数百の艦がモニターに映っていた。
「そりゃ、カトリーヌと戦った後だからな…惑星リョーキューはここから比較的近いし」
そうラゼルトが言うと、
「カトリーヌとやらを警戒しているのであれば、あの数では少なすぎやしないか?」
と、デルクロイが質問した。
「今見えているだけの艦だと確かに少ないけど、緊急時にはすぐに艦隊が配備されるはずよ。何せこの惑星の基地には1万隻の艦隊が常駐しているし、近くの基地には15万隻の艦隊が居るはずだもの」
と、マリーが答えてくれた。
宇宙艦が万単位というのは多すぎてよく分からなくなってくる。
その後、出迎えてくれた艦隊に囲まれながら俺達の艦はこの惑星の基地へと向かって行った。
「ようこそ!惑星マティーナへ!私、ここの惑星の知事『マリーノ・アンティオ』と申します!」
基地について応接に要ると、この惑星の知事が部屋に入ってきて挨拶をした。
頭部の髪は残念な事になってしまっているが、ヒゲは立派な茶色である。
やはり異星人なんだなと思わせる顔立ちで、額の部分が全体的に盛り上がっており、鼻は丸い形で真っ赤であった。
ちなみにラゼルトと輝明さん、鬼一郎さん、邦治さんは別の用事があるという事で別の行動をとる事になった。
今はマリーとスレード隊が居た。
「どうも、宇宙連邦軍所属マリー・フー准将です」
マリーはアンティオ市長から差し伸べられたの手をとって握手をする。この辺の文化は地球と同じなんだな。
「立ち話はなんですから、どうぞ座ってください!ささっ、どうぞどうぞ」
えらく低姿勢なアンティオ知事である。
「いやぁ~、かの有名なマリー・フー殿にお会いできるとは思いませんでしたよ!」
アンティオ知事はそう興奮気味に話した。
「え?そうですか?」
マリーは得意げそうに笑みを浮かべて答える。
「そりゃぁそうですよ!なにせあの有名な魔法使い『マリー・フーの冒険』の小説を知らない人はこの惑星に昔からいる人は知らないは居ないでしょう。100年以上前からある絵本にも貴方様の話は乗っているくらいなんですから。子供によく母に読み聞かせてもらいましたよ」
アンティオ知事はそう言って昔の良き思い出を頭の中でめぐらせているようで、目を瞑ってニヤ付いていた。
なんだろうその小説。気になる。
「えへへぇ~そうですかぁ~」
マリーはすっかり照れてしまっているようだ。
「さて、フー様は本日から明日にかけてこの都市を調査すると報告を受けましたが…。なにかこの都市で不安要素がありましたでしょうか?」
途端に暗い顔になるアンティオ知事。
「えぇ、ちょっとこの方々に宇宙連邦の都市を案内させたいの」
「案内ですか?」
マリーの説明に疑問を抱くアンティオ知事。
「えぇ、この方達は宇宙連邦と交流はあるけれど、未発展惑星の出身なの。一応科学力はそれなりにあるけどね」
「つまり、宇宙連邦の中でも大都市のこの惑星を案内して、宇宙連邦とはどういうものなのか理解してもらおうという事ですかな?」
「そういうこと~」
「なるほど、ならば話は早いですな!」
再度笑顔を取り戻すアンティオ知事。
先ほどの暗い表情は嘘のようだ。
「え~と、それでは簡単にこの惑星の説明をしましょうかねぇ」
そうアンティオ知事は言った後、説明を始めた。
「この惑星都市は惑星そのものが人工物でして、周辺のスペースコロニーや陸地船などを含めれば人口は約3兆となります」
3兆!?
多すぎ!
「「さ、3兆!?」」
ミューイとトリットが驚いて声を上げる。
3兆人か。どうやって暮らしているのだろうか…。
「ちなみにそちらの方々はどのような惑星のご出身で?」
と、俺達スレード隊メンバーに聞いてきた。
この場合、どういう風に答えればよいのだろうか。
惑星リョーキュー出身で、惑星リョーキューで育ったのと同じ期間惑星地球ですごしました。とでも言えばよいのだろうか。
「この人達は地球から来たの。はい、地球のデータ」
マリーは俺達が答えるより先に俺達スレード隊は地球出身だと言ってしまった。
そして、マリーは自身の腕輪からアンティオ知事の腕輪へデータを送信したようで、
「おぉ!これが惑星地球ですか。なるほど、自然豊かな惑星ですな」
そう言ってアンティオ知事は、目の前に映し出された地球儀を見て笑顔になっていた。
「地球と比べますとこの人工惑星の大きさは約10倍といったところでしょうな。地球のように大規模な海が表面に出ていない分この惑星は住居スペースを確保できているのですよ。地球でいうところの月に相当する衛星もこの人口惑星では4つありますし、その月も地球の約3倍の大きさですね」
俺達の疑問に答えるかの用にスラスラと説明していくアンティオ知事。
「この惑星の周りに伸びている柱はなんなんだ?」
と、デルクロイが質問をする。
「あぁ、こちらも住居スペースですよ。単純に横長の建物なんですよこれ。大体大きさは横8万km、高さ550km、奥行き2500kmですね。軍事施設も入っていたりするんで、かなりの大きさになっちゃうんですよ」
長巨大で横長なスペースコロニーと思えばいいのだろうか。
「説明を受けるよりも、実際に見たほうがインパクトあるかもよ?市内に行ってみようよ!」
そうマリーが提案する。
「そうですね。それが良いでしょう。案内の者を付けさせますので、どうぞ楽しんでいって下さい」
アンティオ知事はそう言って案内係の人を部屋の中へと入れた。
俺達はその後その案内係の人と一緒に部屋を出て行った。
「なぁ、リズリーはこのこと知っていたのか?」
「この事、とはぁ?」
案内係の人に付いて廊下を歩く途中で俺はリズリーに質問をした。
「あぁ、すまない言葉が足らなかった。こんなに地球とかけ離れた建造物がこの人工惑星にあるってことだよ」
「えぇ。ここではありませんが何回か同じような惑星に行った事がありますぅ」
なんてこった。こんな規格外の惑星が他にもあるのか…。
「そういえばワシらって、何で言葉が通じてんだ?」
そうデルクロイが質問をしてきた。
おっと。俺は気にしてもいなかった。
「それはこの腕輪のおかげですよ」
と、リズリーが自身の左手に装着してある腕輪を出す。ちなみにリズリーのはマリーに貸し出されたものではない。リズリーやパルクスが持っているものは自前とのことだった。
「自動翻訳装置が動いているんですよ。地球の言語は既に登録されていますので、彼らと言葉が通じる事ができるんです」
「すごい技術だな…」
地球ではできない技術を目の当たりにし、更にその技術を知らないうちに使用している自分に驚く。
「隊長も私達と一緒に仕事をすれば輝明様からいただく事ができますよぉ」
と、リズリーは付け足して言った。
魅力的な条件かどうかは分からないが、未来的な技術を毎回見る事ができるのであればそういう仕事に就いてみたいと思う。
さて、これからどこに行ってどのような驚きを見せてくれるのだろうか。
俺達は惑星マティーナまで地球でいうところの中型車のバスに乗って移動をした。
車は自動操縦で、宇宙から惑星まで一気に移動した。とてつもない速さである。
惑星マティーナの付近から生えているような柱の部分ではなく、惑星本体の部分なのだ。
そういえば知事のアンティオがこの惑星は地球の約10倍あるって言っていたな…。重力は大丈夫なのだろうか…。
移動中にそれとなくリズリーに聞いてみたところ、各種族によって調整されるから大丈夫と言っていた。どうやって調整されるのかは分からなかったが、大丈夫であるならば問題ないだろう。
惑星に突入すると、驚いた事に雲があった。
降下するにしたがって青空も見えてくる。
空には車が縦横にきれいに並んで走り、大型船は大型船専用ルートがあるみたいで並んで飛んでいる。
高層ビルに相当する建物の数も尋常じゃない。
高層ビルといっても地球にあったビルとは桁違いである。中には雲まで突入しているものもいくつも見る事ができる。
「陸が浮いているぞ…」
デルクロイは口をポカーンと開けて見ていた。
案内係りに聞けば直径10km程の陸地が浮いているそうだ。
標高が高いところに住む種族が多く住んでいるらしいが、高すぎではないだろうか。雲と同じ所にあるぞ…。
10km程の陸地が空に浮いているのであれば日照が下に届かなく問題になるのではないかと案内係に質問すると下から見ると透けて見えるそうだ。
そうなると空に行く車がある際危ないんじゃないか?とも聞いたが、車の窓には陸地は見え、そもそも決まった道にしか行かないのでぶつかる事は無いそうだ。
かなり下まで下がってきた。すると、
「あ、電車だぁ」
ミューイが指差す方向には縦長に伸びた移動物体が移動をしている。
確かに地球で見る電車に似ているが、違いは空を飛んでいる事だろう。線路も無い。
電気で動いているのかどうか分からないので正確には電車ではなく列車と言った方がいいかも知れない。
陸地が近付いてきた。
近づいていみると良く分かる。どこを見ても人工物であり、木々は生えているが街路樹ばかりだ。森や林は見当たらない。もしかしたら公園とかにあるのかもしれないが、今は見当たらない。
車は舗装された道を滑るように進んでいく。地球の自動車のように揺れは無く、快適に乗る事ができた。
車は窓が無いビルに近付く。
立体駐車場か…。俺はそう予想していた。そして、その予想は見事に的中する。
「ここで降りて下さい」
屋根付きの車庫に入ったかと思ったら、外に出るように案内人に言われた。
俺達は素直に従い車を降りて車庫から離れる。
ヒューン。
という音が聞こえて俺達と駐車場に透明な壁が浮き出てくる。ある程度反射があったため、地球で言うところのガラスがいきなり出てきたような感じだ。
その後建物に吸い取られていく中型車。
その速さにただぽかーん。と黙って見ているしかなかったスレード隊。
「さぁ、遊びに行こう!『てっちゃん』、何処かお勧めの服屋やアクセサリーショップとかない?」
と、既に観光である事を隠すつもりが無いマリーは言った。
ちなみに『てっちゃん』というのは案内係の『テルテー・テルト』という女性だ。地球人に容姿は似ているが、腰まで伸びるその髪の色は緑であった。どうやったらそんな色になるんだろうか。染めているのだろうか?
「それならば、こちらに」
てっちゃんことテルトさんはマリーに急かされ俺達の案内を開始した。




