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第33話 宇宙旅行


 何が起きたか分からない。2、3秒程の事だった。


 目の前の真っ白な状態からいきなり灰色を基調とした空間になった。

 青白い光がそこら中から照らされている。


 辺りを見回すと自身の向きから見ると右横の壁に、扉と横長のガラスが目に入った。


 ガラスの向こうでは茶色で複眼の人型生物とエルフ耳の男性がラゼルトと同じ軍服を着て何か作業をしていた。

 ラゼルトよりもきちんと着こなした軍服の二人はこちらを見る。

 エルフ耳の男性が口をパクパクすると、俺達が居る部屋の中で声が響いた。


「<ようこそ、地球人の皆さん。宇宙連邦軍所属人員輸送艦『コルトール』へ>」


 あぁ。やっぱり彼らも宇宙連邦軍の軍人か。


「ママー!宇宙人が居るよー」

 一之は異星人を指差してそう笑いながら言っていた。

 パシュン。という音と共に自動で扉が開くのでマリーとラゼルトに続き全員外に出る。


「え?もしかしてもう地球から出ちゃってるんですか!?」

 と、ミューイが歩きながら驚いている。

「その通りだよ!ほら、あそこの窓から外を見てみよっか」

 マリーがミューイの背中を押して窓を近づける。

「…」

 窓の外を見たミューイは絶句していた。

 俺達も続いて窓を見てみると、そこには青く輝く地球の姿があった。

「マジかよ…」

 俺は思わずそう声を出してしまった。


 宇宙から見た地球。


 現在の地球の科学ではスペースシャトルで来なければ見ることができない光景。


 たどりついた人は必ずニュースで名前が取り上げられる。


 そんな世界に俺達は居た。







 しばらく外の風景を堪能した後、現在俺達は艦内の来賓室のテーブルで食事をしていた。

 ここまで来る途中、そして食事を運んでくる方々は全て異星人だった。


 獣人っぽい者や、クラゲみたいな者、先ほど転送ルームで見た異星人のようにエルフ耳の女性とかも居たし、姿形は一緒だが肌の色だけが紫の人も居た。

「本当に宇宙に来ちゃったんですね…」

 と、ミューイは呟く。


 出てくる食事もリール連邦や日本では食べた事が無い物ばかりだった。


・お米を炊いたようなものがある。というか、お米そのものだ。

 名前は米だった。地球のものでは無く、宇宙連邦国内で食べられているお米に近い植物らしい。


・何の動物か分からない肉と水色の豆に白いスープがかけられている。これが本当の空豆なのだろうか…。スパイスが効いている。

 料理の名前は『コテント・ツィッツオ』で、肉は『コテント』の肉を使っているらしい。コテントってなんだよ!


・ゴボウのような食べ物をおひたしにしてあるが、このゴボウもどきは辛かった。お米もどきと一緒に食べる必要がある。

 料理の名前は『カラー』だった。食べると辛いからカラーなのかな?日本語と宇宙語が一緒だった場合だけどな。


・黄色い葉っぱやら黒色の葉っぱのサラダがあった。

 料理名はサラダだったが、何の素材を使っているか知りたいな…。

 葉っぱは普通に美味しかった。


・桃色のスープが出てきた。具は入っていない。

 『コポニャ』のスープと言うらしいが、カボチャのポタージュのような味だった。


 味は悪くなかったが、見た目で食欲があまりそそられなかった。


「窓から船が複数見えますね」

 レイーヌが来賓室の窓から見える光景を見ながら言った。

「あぁ、あれ窓ではなくモニターだよ」

 と、ラゼルトが教えてくれる。

「もぅ。ラゼルト、そういうロマンチックな雰囲気を壊さないでよ」

「なにがどうロマンチックなんだよ!」

 マリーの文句に素早くラゼルトは反論した。


「おや?あれは五頭家とガルドの艦隊だね」

 輝明さんがそう説明をしてくれた。

 すると、来賓室へアナウンスが流れた。


「<只今、本艦隊へ地球艦隊から『貴艦らの航海の無事を願う』と通信がとどきました>」

 アナウンスでも『貴艦ら』と流れた通り、現在俺達が乗る輸送艦の他に宇宙連邦軍は2隻の艦を地球付近へ派遣したのだ。

 カトリーヌや愛理から再び襲撃に遭った際、対応できるのかと言われれば、一応対抗できるそうだ。

 カトリーヌとほぼ同等の魔力を有するマリー。愛理と同じAランク特殊能力者ラゼルト。この二名が居れば俺達の護衛はできると説明された。


「未だに信じられんな…。宇宙に何の苦もなく来てしまうとは」

 デルクロイが食べることを止めてモニターの外を眺めている。

「地球の技術じゃロケットでGがかかったりして大変だからな。費用もばかにならんし」

 モリガンもデルクロイの意見に同調する。

「地球に帰ってこの話をしたら、俺はまた病院に連れて行かれるんだろうな…」

 そう悲しそうな瞳をしながらトリットは言っていた。トリットは転生前と比べてかなり後ろ向きな性格になってしまったな…。


「<まもなく本艦隊はワープに入ります>」


 アナウンスからそう連絡が入り身構えてしまうが、

「あぁ、そんなに緊張しなくてもいいよ。別に衝撃があったりとかしないから。普通に食事を続けても大丈夫だ」

 と、輝明さんが教えてくれた。


 しばらくすると窓の外は青白い閃光に包まれた。



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宇宙連邦軍上層部会議


とある惑星の建物内で、会議が行われていた。


「またカトリーヌ・パルロッサか!?一体奴はいつになったら倒すことができるんだ!」

 一人の男がそう荒々しく声をあげて言った。

「聞けば今回の件は50年前宇宙連邦領内で起きた事件に関係しているとか…」

 もう一人の大人しそうな男が言った。

「なに?では何故正規軍が動いているんじゃ?宇宙連邦国内で起きたヴァルカ残党軍関連…しかも残党軍幹部の対応は『親衛隊』が行うはずじゃろ?」

 と、髭を蓄えた仙人のような男が言った。

「今回の事件は元々正規軍が担当していた件だったのですよ」

 そう右側に片眼鏡をかけたロングヘアーの黒髪男性が言った。見た目の年齢は地球人で言うと40歳中頃で、周りの連邦軍人の制服とは違う白を基調とした同じデザインの軍服を着ていた。

「ダーカー大将。それはどういうことかな?」

 仙人のような男に尋ねられた白軍服のダーカーと呼ばれた人物。

 彼の名前はマルク・ダーカー。宇宙連邦軍親衛隊に所属し、階級は大将である。

 彼は宇宙連邦軍親衛隊隊長であり、Sランク以上の特殊能力者だ。


 宇宙連邦軍親衛隊というのは、地球でよく見られる『政党』や『個人』を守る為の隊とは少し違う。

 彼らは『宇宙連邦国内』及び『その時々の政府』を守る部隊だ。

 正規軍と存在意義がかぶると思われるが、正規軍は戦争になった場合国外へ侵攻する役割や国外への救助を目的としている。対して親衛隊は国内にて反乱軍等が出た場合や災害に、正規軍と協力し対応する。

 攻めの正規軍と守りの親衛隊と良く言われる。

 最近では境界線があいまいになり正規軍の上位部隊としての認識がされている。


 現在の親衛隊の体系は、元々過去にあったヴァルカ戦争の際、宇宙連邦国家をヴァルカから守る!という当時宇宙連邦最高権力者の『議長』直属の部隊として活躍していたのが、ヴァルカ戦争が終結し、議長直属の部隊から離れた事から始まっている。

 正規軍よりも活躍してしまった親衛隊は戦争終結後正規軍に取り込まれる事は無く、独立部隊となったのだった。

 親衛隊は宇宙連邦軍であり『正規軍』の一つではあるが、上位の部隊。認識を分ける為の言い方として通常の部隊を『正規軍』とし、この独立部隊を『親衛隊』とした。ゆえに『宇宙連邦軍親衛隊』となった。


 これによって事情を知らない人にとっては宇宙連邦軍に対する親衛隊のような印象になってしまった。だが、特に国外へ出る事は無い部隊なので国民が知っていれば十分というような感じである。

 もっとも、国民もわけが分からなくなり議長直属の部隊と認識している者が大半らしいが…。


 さて、そんな宇宙連邦軍親衛隊の総司令官であるマルク・ダーカー大将は、

「今回の事件の切欠となった惑星リョーキューは今から45年前に宇宙連邦へ加入しています。事件は50年前に起きていたので、担当は正規軍の方々だったわけです。更にあのカトリーヌ・パルロッサが相手であったため、正規軍きっての魔法使いであるマリー・フー准将が対応してきました。ま、カトリーヌへ対応する相手は昔からマリー准将が行っていたので今回もその通例に従ったわけです」

「なるほど、だから親衛隊は今回の件については参入していなかったわけか…」

 ダーカー大将の説明に皆納得しているようだ。

「これからも継続してマリー・フー准将に調査を進めてもらいたいと考えておりますが、いかがでしょう?」

 そうダーカー大将が提案すると、

「うぅむ。問題ないのではないだろうか?」

「今回もマリー・フー准将の息子のラゼルト・フー大佐がカトリーヌを追い払ってくれたようだな。これなら正規軍でも問題ないだろう…」


「(追い払う…か)」


 ダーカーは今の発言に苦々しいという表情をする。倒すわけではなく、今の連邦軍はどうも敵の幹部を追い払うだけで満足してしまっているような気がする。

 勘違いであってくれればいい。とダーカーは思っていた。


「今更指揮権を移行しても混乱しか招かないからのぅ。多くのカトリーヌ事件を解決してきたマリー殿ならば大丈夫じゃろう」

 と、反対意見は出なかった。

「しかし、地球の件があるな…。あそこは大丈夫なのか?」

 カトリーヌの件は良いとして、別の話題が出る。

「地球人が突如Aランクの特殊能力人となり宇宙連邦へ戦いを挑んできたとは…」

 やはり問題は小岸 愛理の件だった。

「地球は宇宙連邦から見て少々特殊な星や国家だからのぅ…」

 仙人風の軍人がそう言った通り、地球は宇宙連邦や宇宙連邦などの宇宙進出を果たした国家同士が繋がる世界連合から見て特殊な地域であった。


・宇宙進出といっても惑星間航行をしているわけではない。


・ワープ技術も無い



 というのにも関わらず、



・宇宙連邦製兵器を譲り受けている。


・地球国家の上層部は地球外生命体の存在を空想と思っているが、一部の者達は交流を頻繁にしている。


 というような現状だ。

 なぜここまで宇宙連邦と地球の交流が盛んに行われているのか。それには理由があり、偶然ヴァルカ大戦時よりも前に地球出身のSランク能力者が単身ワープをしてしまい、宇宙連邦国内に来てしまったことが原因であった。

 地球出身のSランク能力者は千年前の清堂家の人間だった。

 更に紀崎家のAランク能力者や他の五頭家の能力者も続けざまに来てしまうという珍事件が起き、更に時期を空けて地球各国の能力者も次々宇宙連邦領まで来てしまった。

 更にヴァルカ大戦時。これまた地球出身の能力者がヴァルカ封印に協力した。

 かなり地球の戦力が大きかった事と、功績により宇宙連邦と地球は切っても切り離せない縁ができてしまったのだ。

 そんな地球からAランク能力の能力者がヴァルカ残党軍へ付いたのだ。これはこれで事件である。


「全く…。あの星はどうなっているんだ!種族的には特殊能力人とは程遠いのに、能力者が生まれる。いや、まだそれはいい。突如特殊能力人が生まれるなんて事はよくある話だ。だが、僅か100年の間にSランクの能力者が2人生まれた事があったりするんだぞ!運が良ければSランクの人間が2000年に一度同じ種族で生まれるかどうかなのに、なぜこうも地球は頻繁に高ランク能力者が生まれるんだ!?」

「マリー・フー殿のように遺伝であれば多少は分かるのですが、地球の場合、そうでない事もありましたからねぇ…」

「これも地球人の特色なのかもしれないな…」

「いくら調べてもわからぬ現象だがのぉ」

「一応、宇宙連邦関係を狙ったヴァルカ残党軍により被害を受けた交流がある未発展惑星には何かしらの保障をしなくてはならない。惑星地球は今回対象となるな」

「50年前は宇宙連邦ではなかったリール連邦は、現在は宇宙連邦であり、なおかつリール連邦で起こった事件は宇宙連邦で引き継いでいるからな。リールの件で地球で起きた事件も我々宇宙連邦の責任か…」

 ここでダーカーが、

「そもそも宇宙連邦軍の"宇宙連邦国内への転生妨害"によってスレード隊のメンバーが地球へ流れてしまった"かも"しれませんしねぇ…」

 と、付け加える。

「そうだったな…その可能性も大きいかったのだな」

 そうして会議の内容は地球でカトリーヌと戦う羽目になった地球人への保障へと切り替わったのだった。


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