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第31話 融合

 俺は前田邸へ帰って来た。


 両親は俺を心配してくれて、兄も少し気にかけてくれていたらしい。

 兄は、

「この大変な時にどこへ行っていたんだ!?」

 と、少々お怒りになりながら俺に言ったが、彼なりの気遣い方法なのであろう。


 ひとまず落ち着き、俺は夕食中にニュースを見る。


 やはりニュースはこの市内で起きた虐殺事件の事でもちきりであった。

 全国ニュースでも取り上げられているくらいの事件だ。しばらくこの件のニュースが世間に流れ続けるだろう。


 首謀者、小岸 利吉は警官隊との銃撃戦後射殺。他の支持者も銃撃戦で射殺された。彼の支持者は15名死亡。29名が逮捕された。

 羽射刃暗のメンバーは59人が死亡。38人が逮捕された。

 無論彼らは犠牲者として数えられた数ではない。この何倍もの人々が彼らの暴走で死んだのだ。

 日本で起きたテロ事件ではかなりの規模とニュースで説明があった。

 彼らはなぜこのような事件を起こしたのか?そもそもなぜ大量の銃や弾薬があったのだろうか。警察は慎重に捜査をするらしい。佐々木刑事が過労死してしまいそうだな…。


 さて…竜生はこの状況を見てどう思うのだろうか。愛理と同じくお前のせいだと罵ってくるのだろうか。

 理不尽ではあるが、俺が愛理に頭を下げて退学をしていればこのような事件は起こらなかったのかもしれない。そう頭によぎりだしてきた。


 落ち着いてしまうと嫌な事が頭に浮かんでしょうがない。


 最近夢で会うこともない竜生の考えが知りたいな…。この世界の常識はまだ殆ど知らない自分からではまた争いの発端になってしまいそうだ。



 就寝前にも同様のことを考えつつ眠りについた。





 久しぶりの空間である。


 片方が明るくて片方が薄暗い。


 そう、ここは夢の中で前田 竜生と会っていた空間。


 当然そこには俺の他に竜生と一匹の犬『レイーヌ』が居た…はずであった。


「……」


 俺の目の前には理解不能な光景が広がっていた。


 薄暗い空間は以前よりもより暗く、竜生の姿は目は鋭く俺を睨み、口元は笑っていた。

 何よりもそんな悪魔的な雰囲気を出す竜生の傍に似合わない存在があった。依然見た時と変わらず犬のレイーヌがうれしそうに一点を見つめて尻尾を振っていた。

 竜生が感情を爆発的に出している一方犬のレイーヌには感情が一切見られない不気味な光景だった。


「よう。久しぶりだなオーヴェンス。まさかまだ俺の意識が残っていたとは思わなかっただろう?俺も思わなかったけどな」


 うれしそうに竜生は言った。

「随分と禍々しい雰囲気を出しているじゃないか。竜生」

「へへっ。そうかい?俺としては歓喜している感じなんだがな」

「そうなのか?」

 とてもそうには見えないのだが…。

「そりゃそうさ。あの泉が警察に捕まって喜んでいた次に、朝川が死んだんだぞ?これを喜ばないでどうするってんだ」

 竜生という人物が人が死んで喜ぶような存在だった事に驚いた。

「いやいや、知っているだろう?俺がどういう目にあったか。レイーヌがどういう目にあったか!?」

 確かに恨みは大きかったんだろうな。そこに居る魂が入っていない犬は泉達に殺されたんだったな。

「そういうことだ。本当ならば俺が奴らを殺してやりたかったんだが、愛理の奴が始末してくれるとはなぁ」

 既に愛理が朝川を殺した事は輝明さんが情報をつかんでいた。

 愛理とカトリーヌの映像があの会議室に流れた時には既に朝川は死んでいた。その前の事を知っていたのは、たまたま現場に居合わせて監視をしていた清堂家の者からの情報だった。

「うひゃひゃひゃ!本当に愉快だ!だが、愛理の奴がどうなろうと知ったこっちゃ無かったが、こうも簡単にオーヴェンスに喧嘩を売ってくるのは気に入らないな」

「まぁな…」

 まぁ、非難されるより喜んでもらえて何よりだろう。

 さて、早速会えたことだし、竜生にお願いをしようかな。


「竜生、やっぱり俺がこの世界で動くとなると記憶がない俺には結構足かせになっているんだ」


 ここは正直にいくとしよう。


「残りの記憶をもらえないか?」

 俺はそう竜生に提案した。

 竜生の記憶が無い事により今まで結構不便な事があった。

 これから先も無いとは言えないし、あった方がよいのではないか?

 そもそも人格が分かれていることでいいことはあるか?

 目の前の竜生は日に日に黒い感情に支配されていっているようだ。それは一人孤独に過ごしているからではないのか?


「俺を受け入れるというのか?」


 と、竜生は小馬鹿にした態度で言い、

「俺を受け入れるという事は俺の感情を受け入れるという事だ。お人よしでお優しいオーヴェンス君に俺のこの感情耐えられるかな?」

 そう続けて皮肉めいた言葉を俺に向かって言った。


「だが、前に会った時よりもかなり拙い状態なんじゃないか?俺の心の中でこのような状態の者がいても危ないだろう」

「うひゃひゃ!正直だな!いいぞ、融合してやろう。俺の感情に耐え切れればいいなぁ?」

 竜生はそう言うとサラサラと砂のように崩れだして俺の中へと入っていった。

「これからは本当の意味で一心同体だ。お前は俺で俺はお前だ!」

「あぁ。わかっている」

 周りでは薄暗い場所と明るい場所が融合して、俺が世界は俺が居た場所よりも若干暗くなった程度だった。


「ありがとう…」


 そう竜生は言い残して消えていった。


 犬のレイーヌは尻尾を相変わらず振っていたが、だんだんと存在が薄くなっていき、最終的にはやはり消えてしまった。


「…そうか…」


 俺は竜生の記憶が入ってきた事により、今世の記憶、学んできた世界の常識、楽しかった思い出や恨み辛みも情報として入ってきた。

「一人で抱えていればああなるわなぁ…」

 この日、俺と竜生は完全に一つになった。


 さて、今の俺はどっちなんだろう。







 翌朝目が覚めると、そこはいつもと変わらないベッドの上だった。


 何だか懐かしい気持ちになるのは竜生人格が入ってきた事による影響だろう。

 今の俺はどちらの人格かなんて判別できないと思う。

 竜生のように黒い感情に支配されて発狂しているわけではない…と思うし、オーヴェンスのように物事をスッキリと考えてはいない。


 俺はふとテープで封をされていた紙袋を手にする。

 中には一冊の漫画が未開封の状態で入っていた。


 漫画やプラモデルを見て竜生の事を芸術家と思っていたんだよな…。その事を思い出すと少し恥ずかしい。


 プラモを見るとそこには見知った機体が並べてあった。


 こんなものに乗っていたんだよな…俺。こちらは空を飛べたりするからリール連邦が所有していた機体よりも性能はいいのか…。

 などと、俺は架空の期待と実際に乗っていた機体を無意味に比べていた。こんな考察をするのはやはりオーヴェンスの人格が入っているからだろうか。


 朝食を食べに下へ降りると既に家族はテーブルへ着いてテレビを見ていた。


 テレビにはやはり昨日の虐殺事件が報道されている。

 この状況の中に居たという実感があまりないな。

 そもそもこれほど被害が広がっていたとは思わなかった。

 小岸元議員一派や羽射刃暗の連中も厄介な事をしてくれる…。


 さて、俺は昨日輝明さんから言われていたことを実行しなくちゃならない。


「なぁ、皆聞いてくれるか?」


 俺は家族に話を始めた。


「どうしたの?竜生」

 不思議そうな顔をして母が聞いてきた。

「実は俺、昨日あの襲撃の現場に居たんだけど、主犯格の小岸っていう元市の議員がいたよね?」

 一瞬で家族全員の顔が引き締まる。

 俺が現場に居たと言った一言が原因だろう。

「あぁ、うちに殴りこんできたあの男か…。今回の主犯格がまさにその男だったのは驚いた。いや、あのような正確の男だ。あれだけの事件を起こしても不思議ではないか…」

 と、父は顔をゆがめて言った。よほど嫌な思い出なのだろうがそれは俺も同じだ。

「今回の事件に流れ的に結構関わっちゃったんだ…」

「どういうことだ?」

「お前、また面倒事に首突っ込んだのか!」

 父に続き兄が文句を言ってくる。毎回無意味に突っかかってくるよなこの兄は…。

「家族を巻き込まないからいいだろ?兄さん」

 と、俺は兄を睨んで言った後、説明を始める。

「あの日、俺は前の学校で少しだけ仲がよかった『長谷川 拓夢』君と会っていたんだが、その時にあの小岸元議員が銃撃で近くを歩いていた老人を殺している現場に出くわしちゃったんだ。んで、俺達は逃げたんだけど、長谷川君は小岸元議員の娘の愛理ってやつと恋人だったから、その愛理に会いに行ったわけ」

「そんなところに居たの!?」

 と、母は俺が殺人現場に出くわした事について驚く。少し嘘が入っているが問題ないだろう。

「うん。まぁ、それで愛理って奴の所に遅れて行ったら丁度長谷川君が愛理に殺される所に出くわしちゃったんだ」

「「「え!?」」

 ま、当然家族からはこういう反応が出るわな…。

「丁度知り合いの警察の人達と一緒に居たからその場で愛理を逮捕しようとしたんだけど逃げられてしまって…」

「知り合いの警察って、前に家に来てくれた人?」

 と、母が聞いてくる。

「そうそう、あの人達。んで、愛理の仲間も銃撃してきたから、俺は警察の人達と一緒に命からがら逃げてきたわけ。逃げる途中で一般市民も倒れていたけどすぐ後ろにイカれた野郎達が銃を撃ってくるから逃げるのに精一杯だったよ」

「災難だったな…」

 おや?めずらしく兄が同情してくれたぞ。

「そんで、しばらくの間事情聴取に出かける事になった。現場検証とかいろいろとね」

 そう俺が説明すると、

「そんな事をしなきゃならないのか?」

 と、父が不思議そうに言った。

「なんだかんだで結構関わりができちゃったからねあの小岸元議員とその娘には。俺も緊急だったから逃げている最中ナイフを持って向かってきた馬鹿を殴ったり蹴ったり腕の骨折っちゃったりしたから…。一般市民が死んでいる横で」

「そ、そうなのか…そんな事があったのか?」

 兄が顔を青くしながら言った。おや?こういう話は苦手なのか?18年一緒に居てはじめて知った事実かもしれない。

 アクション映画は好きなくせにこういう実際に人が死ぬ現場の話には弱いんだな。

「そういうわけで近々泊り込みで協力してくる。夏休みだからいつでもOKって言っちゃった」

「そうか…。今は警察の方に居た方が安全だからな…」

 父はそう言った後、ズズっと茶を飲んだ。

 これで一応家族から賛成を得たって考えていいのかな?

「連絡はまた来るみたいだから、とりあえず準備だけはしておくよ」

 俺はそう言って席を離れた。

 とりあえず家族への連絡は以上だ。






 部屋に戻ってからほどなく、携帯にリズリーから連絡がきた。

「明日から一週間…か」

 少し長い気がしたが、スケジュールを聞くとそうでもないと感じる。

 まず前提として地球を離れるのだ。

1.宇宙連邦軍からの事情聴取。主に転生の件とカトリーヌの件。

2.惑星リョーキューへ行って前世の家族との対面。

 夏休みに宇宙旅行だぁ…。なんて、呑気に考えていられないんだろうな。


 これでは長谷川君の葬式に出る事も不可能だろうしな…。






 翌日、リズリーやパルクスではなく、モリガンが家まで迎えに来てくれた。

 話を聞くと、彼とトリットは無事清堂家の下で働くことができる社員?となったらしい。

 モリガンは車を運転しながら俺に質問をしてきた。

「なんだか今日の隊長は雰囲気違いますね。宇宙に行くってんで緊張してますか?まぁ俺もですけどね」

 散々現在のモリガンの顔を見ながら話していたが、どう見てもカタギの人間に見えない人物から敬語で話されると違和感があるな…。

「実は昨日前田 竜生の人格と一つになったんだ…」

「え??」

 どうやら理解できていないらしい。そういえば彼には俺の中に竜生とオーヴェンスの二つの人格があることは話していなかったな。

 移動中はその説明をした。

 モリガンは、


「隊長は随分と複雑な転生の仕方をしたんですねぇ」

 と、言った。


「それほどでもないよ」

 俺はそう答えた。そう、俺はモリガンのように殺し屋になるような人生を選ぶほど複雑な人生を送っていないのだ。




 場所はやはり神崎ホテルの会議室であった。

 こういう高級ホテルですら以前までであれば一生縁のない場所であった。会議室であれば尚更である。しかし、最近毎日のようにここに来ている為この場所も慣れてきてしまっている。


 現在はこの部屋に居る者は全員席に座っている。


「いやぁ~、まさか神崎ホテルのスイートルームに泊まることができるとは思わなかったっすよ!」

 と、トリットは笑っていた。彼はここのホテルに泊まったのか…。

「モリガンもそう思うだろ?ハハハ」

 そう臆することなくモリガンの肩を隣に座っていたトリットが叩く。モリガンはジロっと一瞥したが、その恐ろしい瞳に動揺することなくトリットは笑っている。スゲェなトリット。

「さて、全員揃ったかな?」

 輝明さんが会議室内を見渡してそう言った。

 既に会議室内にはスレード隊全員が揃っていた。

「今日は宇宙連邦軍とかいうところのお偉いさんが来るんですよね?」

 デルクロイがそう質問をすると。

「えぇ、既にこのホテルに泊まっているよ。時間は伝えてあったからそろそろ来ると思うんだけど」

輝明さんは眉を顰めて自身の腕時計を見る。


そして、コンコン。と、ドアをノックする音が聞こえた。


「どうぞ!」


 輝明さんがそう会議室内から声をかけると、


「こんにちはー!」


 と、扉を勢いよく開けて一人の少女が会議室に入ってきた。

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