第27話 救出作戦その3
話の中にテロが多く出てきます。
苦手な方は飛ばして下さい。
工場へは電話の後25分で着いた。
本当は15分程で着く予定だったが、あまり早すぎては更に小岸 愛理を刺激してしまうだろう。ということで、少し時間をかけた。
俺とリズリー、パルクスが工場へ入る。当然リズリーとパルクスは見つかったら困るので透明になってもらった。
事前に説明を受けていなければ俺は驚いているところだったが、どうやら透明化の技術は地球外のものらしい。こういう潜入に対して有効な手段とのことだ。
歩く程度ならば問題ないが、走ったり戦闘する場合は透明化が意味を成さなくなってしまうらしい。
宇宙連邦では走ったり戦闘したりしても大丈夫な技術を持っているが、地球への技術提供は性能を落として提供しているとのこと。
もっとも、宇宙連邦でもこの技術の使用条件は厳しく、通常街中はもちろん使用できないらしい。更に随分昔から透明化対策の技術が普及しているらしく、宇宙連邦並に科学が進んだ国には既に無意味な技術とのこと。
小岸愛理は廃工場の中心で古びたパイプ椅子に座りながら待っていた。
親子揃って俺の前に登場する時は座ってなきゃいけないのかよ!
隣には手足を縛られた長谷川君が居る。
「来たぞ!」
俺は随分と余裕そうな表情を見せる小岸 愛理に向かって言った。
「前田君!」
長谷川君は、口はふさがれていないようであった。
「本当に謝れば長谷川君を解放するんだな?」
俺が念を押して言うと、
「ほんっとうに馬鹿な男達よね…。もういらないわ」
パン!
一瞬の出来事だった。
小岸 愛理はいきなり後ろから出した拳銃で長谷川君の胸を撃ったのだ。
「…!?このアマァ!」
俺は何も考えず風魔法を使用し、小岸 愛理を吹き飛ばす。
そして身体強化の魔法を使って長谷川君の所へと駆け寄る。
リズリーとパルクスも透明化を解いて駆け寄る。
「長谷川君!今、助けるからな!」
長谷川君に治癒魔術をかけようとしたが、
「ま…えだ…くん…ごめ…ん…ね…」
と、言ったきり長谷川君の力が抜けてしまっていた。
死んで…しまった…!?
「こんおぉ!クソ前田!また私を傷つけたなぁ!」
愛理は立ち上がって俺に罵声を浴びせる。
「なぜだ!」
俺も怒りのあまり叫んだ。
「なぜ長谷川君を殺した!」
「そんなの決まってるじゃない!貴方を呼び出す駒に使ってたんだから、用が済んだらいらなくなるでしょ!?」
「駒だと!?」
「えぇ、そうよ!長谷川は貴方の連絡先知っていたようだし操りやすかったから、私が彼女になってあげるって言ったら馬鹿みたいに喜んでた。私のお父さんが前田君に謝りたいって言ってたって言ったら、喜んで連絡を取ってくれたわ!」
「お前の父は俺を殺そうとしたんだぞ!?」
「知ってるわよ!私もアンタを殺すために呼んだの!怖いからそばに居てっていったら慌てて来たわよこいつ。二人きりで居たいって言ったら馬鹿正直に本当に一人で来たし」
と、目の前のクソ女は笑いながら言っていた。
「このクズ女がぁぁあああ!」
「はぁああ!?私がクズですってぇ!??アンタも死ねぇぇぇ!」
パンパンパン!
小岸 愛理の銃から弾が何度も放たれた。
俺は魔法障壁にて防御をする。
グッ!小岸元議員の時もそうだったが、結構重い攻撃だな!
「なによそれ!」
小岸 愛理は俺が展開する薄い緑色の魔法障壁に驚いている。
「オラァ!」
「死ねぇ!」
と、どこからともなく様々な方向から銃弾が降ってきた。
どうやら他にも仲間が居たらしい。
「伏兵!」
リズリーはそう叫んで懐から出した拳銃で応戦した。
パルクスもリズリーと同様に応戦をする。
「うぎゃ!」
「ひぎぃ!」
リズリーとパルクスが放った銃弾は見事に敵の肩を打ち抜いて敵を無力化させた。
「待て!」
俺は逃げた小岸 愛理を追いかける。
だが、何人も小岸 愛理の仲間が姿を現し俺に銃を撃ってくる。目の前に現れたのは3人だ。
「このぉ!」
俺は掌から炎を出してぶつけた。
「あぎゃぁああああ!」
火達磨になった男は熱さのあまり転げまわる。
「んぴっ!?」
「あ!」
パルクスが撃った銃弾が敵の一人の額に。
リズリーが撃った弾は敵の胸に吸い込まれていった。
後二人銃を撃ってきている敵が居る。
「後の二人は任せた!」
俺は小岸 愛理を追って廃工場の裏口から外に出た。
「逃がすか!」
俺は勢い良く外に出ると、既にバイクの後部座席にまたがった小岸 愛理が勢い良く道へ出ていく瞬間であった。
バイクは5台ほどあり、それぞれ人が乗り廃工場から出て行く。
「待ちやがれ!」
俺はかまわず炎の球を二発連続で打ち出す。
一台には当たったが、小岸 愛理が乗るバイクではない。
燃え上がったバイクは運転手と一緒に横転してバラバラになった。
「あははははは!」
小岸 愛理は何が面白いのか、笑いながら民家に向けて銃を乱射しながら過ぎ去っていった。
「チィ…!!」
俺が唇をかみ締めていると、
ズドーン!
と、横から重い発砲音が聞こえた。
発砲音がした俺の後ろを見て見ると、そこにはモリガンの姿があった。どうやら援軍に来てくれたらしい。
モリガンが撃った弾は小岸 愛理の乗ったバイクではなく、別の仲間に当たり、その仲間は力なくガードレールへとぶつかっていった。
「くっそう。すみません。やはり俺は狙撃が苦手です…」
と、モリガンは俺に謝った。
「いや、それはいい。とにかく追うぞ!」
俺とモリガンは急いでリズリーとパルクスの所へ戻った。
リズリーとパルクスは既に敵を倒していた。
「隊長!モリガン、いかがでしたか!?」
リズリーがそう聞いてきたが、
「駄目だった!すぐに追うぞ!被害が拡大する!」
と、俺は言った。
「長谷川君…ゴメン…」
俺は悔しさのあまり顔を歪めて長谷川君の遺体を見た。
今長谷川君の亡骸を回収してどうこうするほど余裕がない。つまり置いていくしかなかった。
「隊長、行きましょう!」
リズリーは真っ直ぐ俺の目を見ていった。
そうだな。ここで止まっているわけにはいかない。
俺達は急いであの馬鹿共を追跡する事にした。
モリガンは別の車で来ていた。俺はモリガンの車の助手席に乗る事にして、リズリーとパルクスの班。俺とモリガンの班に分かれた。
バイク集団はどこに行ったかは通行人が倒れているのを確認して進むしかなかった。悔しいことに通行人が撃たれて倒れているということは小岸 愛理がそこを通ったという証明になっていた。
なぜこうも簡単に無関係の人達を巻き込めるんだ!?
すると、車内のカーナビのあたりから音が聞こえた。
ガガッ!
何だ?カーナビの調子が悪くなったのか?
「<こちらスレード隊副隊長グリゼアだ。全車両応答せよ!>」
「!?」
なんと、グリゼアのの声が聞こえたのだ。
「このカーナビ、通信機の機能もあるんだそうです」
と、モリガンが教えてくれた。
「そうなのか?俺だ、オーヴェンスだ!」
「<隊長ですね?…全員揃ったようなので、説明いたします>」
今のグリゼアは完全にスレード隊モードだ。
「<現在、この市内全域で無差別殺人が横行しています。駅や隊長が以前通っていた学校の近くだけではなく、十数か所で発砲事件が発生しています>」
「「な!?」」
俺とモリガンは絶句した。
「<警察では手に負えなくなっているため、この市内を管理している『一ノ瀬』という者から正式にスレード隊に依頼がありました>」
一ノ瀬って、輝明さんが会話していた一ノ瀬のおじさんっていう人か?
「<現在、各車両を衛星にて確認しています。判別をするため、隊長とモリガンが乗っている車を一号車、リズリーとパルクスが乗っている車を二号車、モリガンとレイーヌの乗る車を三号車、トリットのバイクを四号車とします>」
「トリットは病院から出てこれたのか!?ってか、レイーヌもいるのか!?」
「<トリットは無事病院から出られました。レイーヌは…>」
ピピピ!
カーナビが鳴る。
「<隊長、私です。レイーヌです!>」
「レイーヌか!?」
「<私なら大丈夫です。お父さんも許可してくれました>」
「そうなのか!?」
レイーヌも出てきているとなれば、当然彼女はスナイパーとして出てくるだろう。戦力としては大きいが、よく邦治さんが許可をしたなぁ。
「<よろしいですか?>」
と、再びグリゼアの声が聞こえた。
「あ、あぁ…」
「<作戦指揮は私、ミューイがオペレーター。隊長は現場の指揮をお願い致します>」
「あぁ、わかった!」
ミューイも居たのか!
「<みなさーん。ひっさびさのスレード隊の任務。張り切っていきましょー>」
と、ミューイの声が聞こえた。
どんな戦場でもそんな調子だよなお前…。
こうして、ミューイの指示が開始される。
「<一号車と二号車はそのまま真っ直ぐ進んでください。敵、小岸 愛理は移動しながら虐殺行為を行っている為、移動速度は低下しています。接触は2分後と予想されます。三号車、四号車はこれから誘導するショッピングモールへ移動してください>」
「了解!」
あぁ…なんか懐かしいな。前世ではよくこんな感じで作戦をこなしていた。
「<一号車!後方より一台のバイク接近!敵の可能性があります。注意してください!>」
俺は後ろを確認すると、バイクがかなりの速度で接近してきた。
パン!パン!
銃を撃ってきた!やっぱり敵か!
俺は迷わず敵に向け魔術で作った炎の球を撃ちだすが、敵のバイクは避けてしまう。クソッ、弾速が遅いか!?ってか、車からだとこの車に当てないようにしなきゃいけないから身を乗り出さなくてはいけない。炎を小さくすればいいが、それだと威力が落ちてしまう。
「隊長!ダッシュボードに銃があります!」
「わかった!」
銃があれば話は早い。俺は銃を取り出してバイクに向かって撃つ。
パン!
パン!
俺は計二発を相手に向かって撃った。
一発目は外したが、二発目は敵の顔面ど真ん中に直撃した。フルフェイスのヘルメットを被っていたそいつは、バイクごと転倒し、間接をいろんな方向に曲げながら宙を舞った。
「隊長、流石です!」
と、モリガンから賞賛の言葉をいただく。
「ありがとう…。見えてきたな!」
俺はリズリーとパルクスが乗る二号車前方に居たのバイク集団を発見する。
既に道は直線の大通りの四車線となっていた。しかし、走っている車の数が妙に少なかった。
だが、それよりも妙なのは、
「隊長、数が多くはありませんかい?」
モリガンが言うとおり、あの時廃工場を出た時にあったバイクで無事だったのは3台。今はゆうに10台のバイクと派手な装飾をした車3台が目の前を走っていた。
「ミューイ、小岸 愛理が乗ったバイクは!?」
俺がカーナビに向かって言うと、
「<すみません。数が多すぎて判別不可能です!>」
「二人乗りをしているバイクだ!そちらからは確認できないか?」
「<二人乗りですか?…確認できません。車には二人以上乗っていますが、バイクの二人乗りは確認できません!>」
何処かで分かれたのか?
「ああいうやからで二人乗りがいないのは珍しいですね。機動性を重視したんでしょうか?」
と、モリガンが言った。
「連中に詳しいのか?モリガン」
「詳しいって程じゃないですよ。ああいう道端を爆走する集団はよくいるんですよ」
「銃をぶっ放しながら道を走る集団…」
考えてみるととんでもない世界だな…。よく今まで日本は国という体制を維持できたな。
「いや、連中がなんで銃を持っているかはわかりませんよ?普通はあり得ないことですから」
公道で迷惑行為をしながら走りはするが、虐殺をしながらではない…。まぁ、普通に考えればそうだろうな。銃を乱射しながらなんてそんなことをしていたらこの国の軍も動くだろうよ。ってか、この状態でも軍は動かないのか?
「これが普通ではない状態っていうのは日本でもそうなんだな。とにかく、攻撃を開始していく。二号車!聞こえるか?」
「<はい、こちらリズリー聞こえます!>」
「最初に右側面のバイク達を倒して、車一台分通り抜けられるようにしてくれ!」
「<通り抜ける。ですか?>」
「あぁ、右側が空いた後、全力で連中の横を二号車が魔力障壁を張りつつ射撃攻撃攻撃を行いながら通り抜け、続いて俺が乗る一号車も魔力障壁を張りつつ射撃や魔法で攻撃をする。リズリーは魔力障壁はできるだろ?」
「<なるほど、了解ですわぁ!私も魔力障壁は得意な部類なのでできます>」
俺とモリガンが乗る一号車の前方を走る二号車は左側へ寄る。そして運転席側の窓からパルクスが拳銃を持った腕を出し射撃を行う。
右車線を走っていたバイク達は次々と転倒し、後方へと姿を消していく。
「よし、右車線に車は居なくなったな。二号車右車線へ突入!続いて一号車も突入だ!」
俺が合図をすると、二号車が勢いよく右車線へ行き敵集団の横を通り過ぎていく。その際に大量の鉛玉をプレゼントすることを忘れない。
俺が乗った一号車も突入し、銃弾と炎の球を敵へと浴びせていく。
幸いにも反撃はほとんどなかった。
連中は動揺し、反撃をするのが遅れたようだ。
敵集団全員を仕留めるには至らなかったが、足を止めることはできた。
俺達は敵集団の前方で車を止め、銃を手にして車を降りる。
「抵抗するな!武器を置け」
俺は車体に身を隠して叫んだ。
「くぉっのやるぉぉお!許さねぇ!」
それぞれの車両から降りた敵集団は、銃を撃ってくる。
パン!
パルクスが撃ち返すと、見事に敵の一人の額に弾が当たる。
お見事!
「あぁああん?人殺しとかそういうのやっていいと思ってんのかゴルゥアア!」
パン!
今度は俺が撃つと文句を言っていた男の心臓に銃弾が当たる。
よし!
「「「死ねぇえ!」」」」
「「「殺せぇぇぇええ!!!」」」
敵の方は諦めが悪いようで、攻撃してくる。
「仕方がない、やるぞ!」
俺が全員にそう指示を出して、一気に制圧をしようとする。
「このぉぉおお!ぐぎゃぁあああ!」
「んだゴルァァアア!?あっ!」
確実に仕留めているが時間がかかる。
それは敵がバイクではなく乗用車の陰に隠れて応戦している為であった。
「一人の炎魔法では焼き切れない。リズリー天候魔法にて援護を!」
「天候魔法は周りの建物や市民を巻き込む恐れがありますわぁ!」
「小規模な竜巻でいい!あいつ等に向けて放て!」
「なるほど!了解いたしました!」
リズリーは魔法にて敵の一団に向け竜巻を放つ。そして俺はその竜巻に向け炎魔法をぶつける。すると、火柱となった竜巻が敵の一団に向かって行った。
「ひっ!うわぁあああ!?」
「く、くるなぁああ!」
「助けてくれぇぇええ!」
敵の一段は断末魔を上げ焼かれていく。
「隊長!逃げていく奴らが!」
モリガンの声で前方の反対車線方向を見てみると、確かに二人程逃走を図ろうとしている。
モリガンは敵に向けて銃を撃っていたが、かなりの距離があった為銃弾は全て外れていた。やはりモリガンは接近戦向きだな。
車道の中央には分離帯があるので、車に乗って追いかけるにしてもその間に建物の間に入って逃げられてしまいそうだ。
走るか?そう考えて車の陰から身を乗り出そうとすると、
キキキー!
と、反対車線の後方から車がドリフトをしてきた。
ドリフトしてきた車は道路に対して横に停車した。
敵?いや、車が俺達と同じだ…。つまり、仲間である。
運転手が見える。デルクロイだ!
後部座席の窓は空いており、そこから長い鉄の筒が飛び出していた。
パシュッ!
その音が長い筒から聞こえたのとほぼ同時に、敵の逃げた二人のうち、一番遠くを走っていた奴の足から血が飛び出てそいつは倒れる。
そいつの後ろを走っていた奴も、デルクロイが運転する車からもう一回、パシュッという音が聞こえると倒れてしまった。
こんな芸当ができるのはただ一人、
レイーヌ、よくやった。
そう、うちの隊員で魔力を使わないピンポイント攻撃ができるのはただ一人、レイーヌだけであった。
後部座席からレイーヌの手が振るわれているのが分かる。
「<全員無事ですか!?>」
車内でミューイが心配している。
「あぁ、大丈夫だ。これから生き残っている奴を尋問する」
と、俺は連絡をして、モリガンを連れて倒れている敵の所へ向かった。
リズリーとパルクスは生き残ってはいないと思うが、炎の竜巻によって焼かれたバイクと車集団のところへ行ってもらった。
「ひ、ひぃぃいい」
パン!パン!
足を撃たれた敵二人は俺達を接近させまいと銃を撃ってくる。だが、それは全て俺の魔法障壁によって防がれてしまう。
「バ、バリア!?」
と、敵の一人がよく分からない事を言っていた。
一人目はあっさり確保、持っていた銃を蹴り飛ばした後モリガンに見張りをお願いする。
「わかりました」
と、モリガンはニヤリとして言った。
さて、もう一人を捕まえなくてはな。
足を引きずりながら逃げようとするもう一人を俺は追った。
ボコッ。
「うぎゃぁ!」
なんだか後ろの方でモリガンが捕まえた一人を殴っていたが気にしない。
「くんじゃねぇよ!」
と、もう一人も抵抗して撃ってきたが、最初の一人と同様に魔法障壁を張りながら近付き、簡単に無力化させる事ができた。




