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第26話 虐殺戦闘開始

話の中にテロが多く出てきます。


苦手な方は飛ばして下さい。

 な…一発で二つの対象を…?

 いや、あの銃はチラッとインターネットの情報で見た事がある。小さな弾丸を広範囲に複数飛ばす銃だ!


「次は当てるぞ!」

 小岸元議員は息をまいて俺に再び銃口を向けるが、俺はその銃を蹴り飛ばす。

 小岸議員の特殊な銃はそのまま遠くへ吹っ飛んでいった。


「あぁん?」

 小岸議員は懐から今度は小型の銃を出す。

 いったいいくつ持ってるんだ!昨日の暗殺者もそうだったが、軍以外でも一般人や危ない奴でも銃をそろえる事ができるのか!?


パンパン!


 小岸元議員は俺に向けて銃を撃った。


「あれ?効いてない?おかしいな…」

 もう魔術が世間に知られていないとかそういう問題ではない。

 俺は自分の身を守るのと、長谷川君を守るために体の前面に薄い緑色の魔障壁を展開させ、更に自分の身を身体強化の魔法で硬化させて銃弾に耐えていた。結構キツく、魔力が結構消費された。

「えい!」


パンパン!


 小岸元議員は俺に効かなかったことに疑問を感じたらしく、試し撃ちのごとく周りの逃げ遅れた人達に向かって銃を撃った。

「なんだ。ちゃんと効くじゃないか…あれ?」


 俺は長谷川君を抱きかかえて逃げた。

 試し撃ちの結果倒れている人達…。すまない。


 身体強化をしているので、人を抱えていても普通に走っている速度よりも速い。

 俺の身体強化の魔術は他の人が使う身体強化魔術よりも強力で、魔術の中では取り柄でもあった。


 これは拙い!俺は今、逃げながら右や左に避けている。銃弾が後ろから飛んでくるからだ。

 ってか、あいつ色々おかしすぎだろ!なんで俺に銃が効かないからって一般人に向けて試し撃ちしているんだよ!


 俺と長谷川君が公園の出口に近付いたところで、一台の車が公園出入り口で止まった。

 何だあの車。まさかあいつの仲間か!?


 挟まれた!?と、思ったが、窓から顔を出していたのはパルクスであった。


「隊長!乗って!」


 パルクスが叫んだ!?

 いや、今そんな事を驚いている場合じゃない!

 俺は急いで長谷川君を後部座席へと押し込み、俺も続いて乗った。

 車は急いで発進した。


カキン!パキン!

 銃弾が車に当たる音がした。

 あの元議員、しつこく俺達を追ってきてこの車に向けて銃を撃ったらしい。


「ハァ、ハァ、た…助かった?」


 俺は改めて自分の体を確認する。

 大丈夫そうだ。


 あ、そうだ!

「長谷川君?大丈夫か!?」


 俺の下敷きとなってブルブル顔を青くさせながら震えていた長谷川君に尋ねる。

「は、はい」

 小さく声を出して答える長谷川君。

 見たところ、長谷川君には外傷は無かった。

「隊長は?」

 と、パルクスが聞いてきた。

「あぁ、俺は大丈夫だ…。だが、一般人が犠牲になったぞ…クソ!」

 俺は怒りのあまり座席を殴る。

「隊長は今一般人です。気にする必要は無いかと…」

 パルクスは俺をなだめようとするが、

「だが、俺を狙っての犯行だろうあれは!」

 と、つい感情的になり怒鳴ってしまう。パルクスが悪いわけではないのに…。

「っすまん。警察には?」

 俺は冷静になろうと深呼吸をし、パルクスに謝罪したあと現状を把握しようとする。

「いえ、大丈夫です。警察には仲間が通報済みです…」

 無口なパルクスがここまで饒舌なのは珍しかった。俺を落ち着かせるために普段出さない声を出しているのだろう。ありがたかった。


ゴトゴト…。


 ん?なにやら下から変な音と揺れが…。


「パンクしました…」

 な、なんだって!?

「駅に居る仲間と合流します」

 仲間が駅に待機していたのか…。

「分かった。頼む」

 それから、俺達は駅の有料駐車場に車を停め、別の車に乗って移動をした。

 運転している人はパルクスの話だと輝明さんや鬼一郎さんの家の人ではないらしい。どんだけ仲間がいるんだ輝明さん…。




「後は警察が何とかしてくれるでしょう…」

 今は神埼ホテルの会議室だ。

 以前使った部屋と同じ部屋である。


「至急駅に置いてきた車を回収せよ!」


 輝明さんが指示をしていた。初めてあんなにキビキビと働いている姿を見たな…。

「ナードレー君。尾行はされなかっただろうね?」

 と、輝明さんが鋭い目でパルクスを見た。

「途中、怪しいバイクを追跡しましたが、振り切りました。車を代えてからは尾行はされていません」

 と、パルクスは言った。ってか、尾行されていたのか!?小岸元議員に仲間がいたのか…。


「なっ!クソゥ!駅は今どうなっている!?」


 突然輝明さんが声を荒げた。


「輝明殿?どうしたのだ」

 鬼一郎さんが不安そうに聞くと、


「駅の近くまで尾行されていたということは、駅に行った事が既にばれている可能性が高いということだ!それに車を乗り換えた事を知らなければ、銃を持った小岸元議員は前田君達が駅に入ったと向こうは考えるだろう!」

 と、輝明さんが言った。そ、そうか!


「一般人が危険にさらされる!?」

 鬼一郎さんも気付いた用で焦りの表情を見せる。


 会議室が瞬時に冷たい空気へとつつまれる。

 パルクスなんて顔面蒼白である。


「輝明さん!大変です!」

 と、レイーヌの今世の父、邦治さんが会議室に入ってきた。

「なんだ?」

 輝明さんは邦治さんの慌てように眉をひそめた。


「え、駅で発砲事件が発生したようです!いえ、発砲なんて生易しいもんじゃない。複数の男が駅内にマシンガンを持って、一般人を虐殺しているようです!」


「な、なんだってぇ!?」

 輝明は驚いて数秒固まってしまった。


「小岸元議員だけではなく、複数の男が銃を乱射だと…?」

 鬼一郎さんもあまりの出来事に目を点にしながら言った。


「警察は!?」

 輝明さんはなんとか思考を復活させて声を振り絞って言った。

「既に動いています。銃撃戦が繰り広げられているようで…」

 開いた口がふさがらない。まさにこの状況を示すのだろう。輝明さんは口を開いたまま数秒間停止していた。


 いったい小岸元議員は何を考えているんだ!?

 一般人に向けて乱射なんて、狂人がやる事だ!

 …いや、あの様子を見るからに、既に狂ってしまっているのだろう。

 それよりも、複数と言っていたな。あの男に協力する奴がいるのか?まさかまた羽射刃暗か?


「それと、すぐに暗部の者が転送されてくるそうで…」

 と、邦治さんが続けて輝明さんに報告をする。

藤造とうぞうか?」

「はい、藤造様です…」

 ん?輝明さんと邦治さんが言う藤造って誰だろう。

「わかった。それと、ここの市長は確か一ノ瀬の血筋の者だったよな…。一ノ瀬に連絡をするよ」

「はい…」

 邦治さんは、冷や汗をかきながら椅子に座った。

 会議室は輝明さんの声だけが響いた。


「もしもし、清堂 輝明です。―――えぇ、その件でお電話致しました。―――いえ、一ノ瀬家が謝る必要はありません。私も市長に直接会って小岸の件は了承したのですから…。そもそもこちらの人員の関係でしたので…。―――そうでしたか。警察の手配ありがとうございます。こちらからも私の配下である暗部の者を駅に向かわせます。―――そんな!必要無いとはどういうことです!?いらぬ犠牲が出ますよ!?―――それは…確かに…―――分かりました。では、お任せいたします」


「輝明殿、電話の相手は一ノ瀬のご当主かな?どうやら揉めているようだったが…」

 と、鬼一郎が心配そうに言った。


「あぁ、一ノ瀬のおじさん。今回の騒動はワシの調査不足であるら、おぬしに責任は無いとか言ってたぞ!」

 と、怒りに声を震わせながら輝明さんは言った。


「実際動いていたのは輝明殿だが、やはり小岸を議員の座から引きずりおろしたり、警察を動かしていたのは間違いなく一ノ瀬ご当主だからそう言ったのであろう?あまり自分を責めるな…」

 と、鬼一郎は輝明さんへ慰めの言葉を言った。


「この市内での行動の依頼をかけたのはこちらだろうに…」

 そう言って輝明さんは悔しそうに歯を食いしばっていた。


「なぁ、リズリー。一ノ瀬って、昨日港に行った時車の中で話していた協力者なのか?」

 と、俺はいつの間にか隣に来て座っていたリズリーに話しかけた。

「左様ですわぁ。同じ宇宙の事を知る仲間の家です」

 リズリーはそう答えた。

 知れば知るほど巨大な組織だな。

 だが、味方であれば安心だ。

 ここにいればある程度の驚異から身を守れるだろう。

 長谷川君も守ることができてひとまずよかったと考えよう…。


「あれ…?」


 ここで俺はあることに気づく。


「長谷川君は?」

 俺は周囲に長谷川君の姿がないことに気が付く。


「すみません、鬼一郎様ぁ。オーヴェンス坊ちゃんのご友人を存じませんか?」

 と、リズリーは鬼一郎さんに尋ねた。どうやら鬼一郎さんのグループが長谷川君の面倒を見ていたらしい。


「ん?あれ?」


 鬼一郎さんは近くの部下を呼んで長谷川君の事を聞いてくれているが、だんだんと顔が青くなってきている。


「そんな!手洗い場から帰って来ていないだと!?いつからだ!」

「15分ほど前からです…」

「すぐに調べるんだ!」

 鬼一郎さんの部下が慌てて部屋から出て行った。何が起きたんだ!?


「鬼一郎君…」


 輝明さんが鋭い目で鬼一郎さんを睨む。


「す、すまぬ…」

 鬼一郎さんは目を伏せて輝明さんに謝罪をした。


「ちょうど藤造が来るようだから、駅に向かわせないのであれば彼も捜索に加えさせればいいよ…」

「かたじけない…」

 俺も慌てて電話をかけてみるが繋がらない。正確には通話中となっているようだった。


 いったい何が起きたんだ?なぜここから逃げ出す必要がある?まぁ、ちょっとよくわからない組織の人間が沢山いるから緊張はしてしまうかもしれないが、逃げることはないだろう。


「俺も探しに行きます!」

 と、俺は提案したが、


「いや、君はこの階から移動しない方がいい。こちらとしても安全を保障できる」

 と、輝明さんから止められてしまった。




 その後何回か長谷川君に電話をかけてみるが、今度は電話中というわけではなく、単に電話に出なかった。

 コール音ばかりが続く。


「バイタル登録しておけばよかった…」

 輝明さんはそう言って悔しがっていた。


 リズリーが教えてくれたのだが、バイタル登録というのは生体反応を追跡できる機械へ自身の情報を登録する事らしい。

 地球外からもたらされた技術であるが、宇宙連邦でも子供の安全チェックなどで活躍しているらしい。地域によっては子供に危険が及んだら強制転送してくれる便利品だ。


ピリリリリ。


 会議室に俺の電話が鳴り響いた。

 電話の送信相手は長谷川君だった。


「長谷川君か!?」

 と、俺は慌てて電話に出た。同時にスピーカー状態にして会議室にいる全員が会話を聞こえるようにする。


「「「!?」」」


 会議室も緊張した空気になる。


「<…>」

 しかし、向こうは何も言わない。


「今どこにいるんだ?なぜここから離れたんだ!?」

 俺がそう言うと、


「<プッ!>」


 突然電話の向こうで噴出したような声が聞こえた。

「???」

 当然俺は何がおかしかったのか分からず戸惑う。


「<お久しぶりねぇ。クソ前田ぁ>」

 電話の向こうで女の声が聞こえた。


「誰だ?」

 俺は強めな口調で問いかける。


「<…は?分からないの?ほんっとに最っ低な男ね…>」

「家族やよく会って話す友人、恋人ならば聞き分けがつきそうなんだが、どれも違うだろ?」

 俺がバカにした口調で言うと、

「<はぁ~?アンタに恋人?クソ前田が大きく出たわね>」

 と、向こうも同様に馬鹿にしてきた。

「すごく可愛い彼女がいる。転校してからできた」

 悔しかったから言い返してやった。

「<チッ!>」

 電話先から舌打ちの音が聞こえる。

「<アンタに傷つけられた女よ!そう言えば分かるでしょ!>」

「俺が傷つけた?」

 わからない…。やはり今世の記憶を持っていないといろいろと問題が出てくるな…。


「すまない。分からない…」


「<ふざけんな!小岸 愛理よ!>」


「あ!俺が前の学校で"助けた"女子か!元気だった?」

「<ふざけんな!許さない許さない許さない許さない許さない許さない…>」

 とっさに怪我をした小岸 愛理の事を思い出したが、それよりも後に達也の家に行く途中、電車内で会った愛理の事を思い出す。

 あの時のただならぬ雰囲気を出していた小岸 愛理だ。


「<私に怪我をさせておいて元気だったか?ですって?謝りもせずにお父さんの職も奪っておきながら、元気だったか?ですって!?>」

「いやいや、あれは泉が投げた椅子だろ?覚えてないのか?」

「<アンタが余計な事を言わなければ椅子だって飛んでこなかったのよ!>」

「その理屈だと、あの時あの場に君が座っていなければ椅子だってお前に当たらなかった。という事になるだろ?」


「<このクソ前田がぁぁあああああ!!!!>」


 小岸 愛理は電話先で癇癪を起こして叫んでいた。


トントン。


 と、俺の肩がつつかれ、リズリーから一枚のメモを渡される。

 そこには、"あまり挑発をしないで下さい"

 と、書かれていた。

 あ、すみません。


「それで、何の用なんだ。長谷川君の携帯電話からかけてくるなんてどういうことだ?」

「<決まっているでしょ!?アンタ今から私のところに来て謝りなさい!>」

「え?何を??」

「<私を傷つけたことよ!>」

「そう言われてもなぁ…」

「<長谷川がどうなってもいいの?>」

「やはり長谷川君を人質にとったか。俺が謝らなかったら長谷川君をどうする気だ?」

「<殺すわ>」

「ずいぶんはっきりと宣言したな…。分かった謝ろう」

「<ハッ!今更素直になって…いいわ。学校近くの廃工場で待ってるわ>」

「どこの学校?」

「<アンタが前まで通っていた高校よ!>」

「あ~…あったような、なかったような…うる覚えだ」

「<時間は20分よ>」

「短いな…」

「<神埼ホテルに居るんでしょ!?20分で来れるでしょ!>」

「時間帯を考えてくれ。今道の前は混んでいるようだぞ?それに場所も良く分からない。住所を言ってくれれば分かりやすいんだが…」

 そう言って俺はリズリーの方を見る。

 リズリーは黙って頷く。


「<こんな工場の住所なんて分かるわけないでしょ!?学校の裏手にある赤い屋根の工場よ!20分で来なくても長谷川を殺すわ。可哀想にねぇ。クソ前田のせいで長谷川は死ぬんだ>」


「本当に可哀想だな。時間計算もできない奴に無茶振りをされて殺されてしまうんだから…これは完全に小岸のせいだな」


「<はぁ!?なに言って…!?>」

「これで長谷川君を殺して俺が時間通りに来なかったと言っても、場所があやふやだった事と、交通量とホテルからの距離を公表すれば果たして世間はどちらが酷いか理解するだろう…」

「<あ゛あ゛あ゛!イライラする!30分よ!遅刻したり警察に言ったら殺す!>」

 小岸 愛理はそう言った後電話を切ってしまった。10分多くしただけかよ。


「場所の特定できました」

 と、リズリーは言った。


「よし、わかった。では長谷川君を救出するためのメンバーは…」

 と、輝明さんは辺りを見回していると、

「私とパルクスにお任せ下さい」

 と、リズリーが言い、パルクスも前に出た。

「俺も行きますよ。行った時に俺が居なかったんじゃ何をするか分かったもんじゃない」

 俺もそう言うと、

「そうか…。わかった任せよう。スレード君?本当にいいんだね?」

 輝明さんは少し不安そうに言った。

「はい。任せてください。これでも前世は軍人です」

 最終的に死んだけどな。


「しかし、前田殿、少し挑発しすぎではなかったかね?」

 と、鬼一郎さんが言った。あぁ、貴方は前田と呼ぶんだね。


「すみません。向こうで人質交渉はしたことなかったので。普段は強気で交渉するのが向こうでの習慣でした」

「そ、そうだったのか…」

 鬼一郎さんは納得していた。が、もう一つ俺の考えを言っておく必要がある。

 俺にとって関係があった交渉の場といえば戦時中の敵との交渉だ。

 常に威圧的に話さなくてはならなかったので覚えるまでに少し苦労したなぁ。

「それに、長谷川 拓夢は小岸親子と繋がっている可能性が捨て切れません。なにせ小岸元議員のところへ俺を呼んだのが長谷川君でしたからね」

 もし彼も巻き込まれているだけだったら可哀想だが、そういう可能性だってあるのだ。俺を殺そうとする可能性が…。

 …いや、ないかもな。あの怯えた表情が演技ならば大したものだぞ。


「わかった。そういうことなら我々も全力でバックアップしよう」

 輝明さんはそう言って立ち上がった。


「ありがとうございます」

 俺も立ち上がって頭を下げる。

「いや、これは我々の責任だ。最後まで面倒を見させて欲しい」

 輝明さんの表情は真剣そのものだ。

 俺は頷いて急いで工場へ向かった。



この話を書いる時はこんなに無差別テロがヨーロッパで連続するなんて思わなかった…。

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