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第25話 唐突な平和の終わり

話の最後にテロが出てきます。


苦手な方は飛ばして下さい。

 次の日。俺は隆と達也に誘われて釣りに来ていた。


 当日にいきなり誘われた。

 できれば前日とかから話をしてくれると助かるんだけどな。


 まぁ、昨日あれだけドタバタしていたので、気分転換には丁度いいだろう。



 釣りといっても川や海ではなく、釣堀であった。

 糸に赤い魚の卵を付けて垂らせば簡単に釣ることができる。


 市街地の中にあり、釣った魚をその場でさばいて食べる事ができる。

 ご飯や味噌汁などもあるので昼食にはちょうどいい。


 餌も釣り道具も一式借りる事ができるのでクーラーボックスのみもって行けばいいのだ。

 クーラーボックスは家に持ち帰る用の魚を入れるためだ。

 今夜の前田家の食卓は既に鮎の塩焼きとメニューが決まっている。責任重大だ。


 あれ?そうなると、俺は昼も夜も鮎の塩焼きか?


「そういや、春香のやつ今日は来てないのか?」

 と、隆が達也に聞くと、

「あぁ、あいつは美菜ちゃんと彩ちゃんとで映画を見に行くって言ってたな」

「映画?なんかおもしろいもんあったっけ?」

「CGアニメらしい。なんか今有名なやつらしいぞ」

「あぁ…たぶん俺達には興味無い話だな…。乙女が見るようなものには興味がそそられん。ところで竜生はどんな映画が好きなんだ?」

 と、隆は俺に話を振ってきた。


 映画?うぅん…劇を映像化した程度のものと転生直後ぐらいは考えていたが、レイーヌと一緒に見たあの映画は前世で見た劇とは比べ物にならなかったな…。特に、

「派手に爆発するやつとか、剣で合戦するものとか…」

 と、俺が答えると、


「アクション映画は分かる!俺も好きだからなぁ」

 隆は興奮気味にそう言った。


「それよりも剣で合戦って、ファンタジー系?それとも歴史系?」

 と、今度は達也が聞いてきた。

 ファンタジー系?歴史系?

「うぅん…。どっちもありかな」

 と、適当に答えてみる。

「そうか。歴史系好きなんだなぁ…。剣っていうと中世ヨーロッパの辺りか…」

 そう達也は一人で納得していた。

 中世ヨーロッパ。か…。この世界の歴史書を見たが、リール連邦と同じ西方民族風の人間と北方民族風の人間が住まう地域らしい。

 確かにあの辺りの過去に起こった戦いは俺がいた時までのリール連邦に良く似ている。


 そういえば惑星地球のヨーロッパ地域で魔女狩りがあった事に驚いた。

 宗教上の理由で魔法を仕える者を大勢処刑した事件である。

 あれのせいで地球上から魔術を使える人が一気に少なくなったのだろうか…。


「しっかし、かなり釣ったな竜生」

 そう言っておれのバケツの中を見る隆。

 既にバケツの中には8匹もの鮎が蠢いていた。家族4人2匹づつ食べるとして、今日のお昼に後2匹欲しいな…。

「ここって釣り針にイクラ付けて垂らせば簡単に食いついてくれるから便利だよな」

 達也は既に10匹以上吊り上げているようだ。俺より多い数の鮎が達也のバケツの中に居た。


「うぐぐ…」


 達也の言葉を聞いて悔しそうに隆は唸っている。一緒のタイミングで釣りをし始めた隆はなぜか3匹だ。

 あれ?ここって釣堀だよね?


「お前、昔からこういうの苦手だよな…」

 達也は半ば哀れみの目を隆に向けている。

「せめて5匹…、今夜の家族分と今日の昼分!」

 と、隆は竿を持つ手に力を入れた。

 考えて見れば俺も前世の戦時中、野営地近くの川で釣りをしたが大体夕飯は一人一匹だったな…。9人もいるんだからそう考えれば妥当な数だろう。懐かしいな…。体感時間では一ヶ月程だが、パルクスが料理担当から外れて見張り番をしていた時は野営地で食べたボソボソのパンに沸かしただけのお湯。そして川魚。今世で思う事だが、日本の民は恵まれているな…。

 いや、パルクスが居るだけスレード隊も他の舞台に比べて恵まれていたけどね。


 そんなこんなで制限時間1時間が終わり、バケツを持って会計のところまで行った。

 なんと、僅かなお金を払えば腸もとってくれるらしい。

 今日の戦果は、

俺:10匹。

達也:15匹。

隆:4匹。

 結局、隆は達也に1匹分けてもらい5匹持っていた。


 昼食用の料金も払い、俺達は塩焼きにされた鮎をほおばる。


「いやぁ~。これを食うと夏が来たって感じがするよな!」

 と、隆。

 夏か…。俺も戦時中の野営地を思い出す。

「お前秋でも似たような事言ってるよな…」

 達也の情報によると、隆は秋でもここに来て釣りをして鮎の塩焼きを食べて秋が来たって感じがするよな!と言っているらしい。もはや季節の風物詩ではないな…。

 まさか春や冬も同じことを言っているのではないだろうか?。


 俺達はその後分かれてそれぞれの帰路へと着く。



 自宅へと着き、俺は一度チャイムを三回連続で鳴らしてから鍵を開ける。

 あの不良少年達の襲撃からすっかり我が家ではこの帰宅方法が固定化されていた。

 チャイムを三回連続で鳴らせば前田家の者が帰宅した。と分かるようになっていた。

 鍵を開けて玄関に入ると母が出迎えてくれた。


 母は玄関まで来ると、

「あらあら、お疲れ様。沢山とれた?」

「あぁ、一人二匹分釣れたよ」

「それじゃ、汗かいただろうからシャワー浴びてきたら?」

「そうしようかな…」

 俺が悩んでいると、母は早速俺の戦利品を持って台所へ行った。

「シャワー浴びて夕飯まで休むか…」


ピピピピピピ!


 シャワーを浴びようと風呂場へ移動したところで俺の携帯が鳴った。


 表示には『長谷川はせがわ 拓夢たくむ』と書いてあった。

 誰だ?


 俺は電話に出てみる、

「はい、もしもし」

「<あ、もしもし、前田君?>」

「誰だ?」

「<あ、うん…僕同じクラスの…いや、同じクラスだった長谷川だよ…覚えてない…かな?>」

 どうやら前の学校のクラスメイトだったらしい。

 名前を覚えてないどころか、前の学校のクラスメイトの記憶が無いのだ。あるとすれば泉、朝川、小岸 愛理のみだ。

「すまん…」

「<いや、いいんだよ。あはは。僕、影が薄かったし…>」

 長谷川君とやらがどういう人物かは分からないが、はっきり言って前の学校にはいい思い出がないんだよな…。何せ今世でオーヴェンス人格になってから教師に叱られたり泉や朝川に絡まれたりしたんだから…。冤罪とかもあったなぁ…。

 既に学校名も思い出せない位どうでもいい過去になっているんだよな…。

 羽射刃暗の件がなければ前の学校のことなんてとっくに忘れていただろう。


「それで、どうかしたのかい?」

「<うん。それがね?ちょっと会って話したいんだけど、前田君の家の近くに公園があるよね?>」

「あぁ。あるな」

 知っているとも。何せ最近そこで羽射刃暗のバイク集団に襲われたんだからな。

「<そこで会えないかな?>」

 何だか怪しそうだぞ。このパターン泉で経験済みだ。もっとも泉の方はもっと雑だったが…。

「何時に待ち合わせをする?」

「<え?いいの?…えっと、実はもう着てるんだけど>」

 長谷川君とやらがどういう人物か分からないが、ここで行かずにまた家に殴り込みをされたらかなわない。

 今度は防犯の為に家中鉄の柵で囲まなくてはならなくなってしまう。

 しかし、今世の記憶が殆ど無いというのは結構な痛手だな。電話先の相手が危険人物かそうでないかすら分からない。

「今からか…。分かった」

「<うん…ありがとう>」

 そう言って長谷川君は電話を切った。

 一応家を出る前にリズリーに電話をする。

 内容は長谷川という前に通っていた学校の生徒が俺を近所の公園に呼んだ。という内容だ。

 リズリーからは羽射刃暗を監視しているが、特に変化は無い。公園にも羽射刃暗は行っていない。という情報を教えてくれた。

 ただ、市内の様々な場所で羽射刃暗が集まっているので注意!との事だった。ちなみにそれはいつものことらしい。

 そして長谷川という生徒が羽射刃暗に所属していないとも限らないので、応援を公園に潜ませるとの事だった。間に合うのか?


 ともあれ、不安な気持ちを抑えつつ家を出る。


 そういえば、急に呼び出しを受けることが多いな。この国の人間は予定を入れる時はこんな感じなのだろうか。

 あ~…。もしかしたら通信機を一般人一人一人持っているからいつでも確認できると思っているのか?

 確かに通信機なんてリール連邦の民一人一人どころか一家庭一台も持っていなかった。

 そう考えると日本という国はすごい国なんだなぁ…。




 公園に着くと、まず長谷川という人物を探した。


 俺と同じクラスだったというので同じ年位の男性…。

 考えて見れば名前を知らないくらいなので、顔も分かるはずがない。

 自分で影が薄いと言っていたので、陰の薄そうな人物を探していく。


 どこだろうな…。あれ?あの人かな?


 スーツ姿の男が座っているベンチの前でキョロキョロと辺りを見回している少年がいた。

 背は俺よりも低く、年齢も下のようだ。

 …と、いうか、どこかで見た事あるな…。


 少年は俺に気がつくと手を振っていた。やはりあの人が長谷川 拓夢だろうか。


 俺が近付くと、

「久しぶりだね前田君」

 と、声をかけてきた。

「君が長谷川君だったか…。ゴメン。忘れていたよ」

 と、俺は謝る。

「あはは、いいっていいって」

「いや、でもその顔には覚えがあったよ。あの事件の時、一緒に小岸 愛理さんを保健室まで運んでくれた人だよね」

「あぁ~。うん。そうだね」

 目の前にいる長谷川 拓夢という人物。それは泉によって小岸元議員の娘、小岸 愛理が怪我をした時、一緒に救助をしたあの気の弱そうな男子生徒だった。

「いやぁ~、あの時は助かったよ。君が一緒に運んでくれたおかげで対処が早くて済んだから」

 いくらその後嫌な対応をした愛理であっても、目の前で死んでしまっては夢見が悪い。そんな事を思っていると、

「チッ!」

 と、ベンチに座っていた男から舌打ちの音が聞こえた。

 俺達の会話がうるさかったのだろうか。横目でチラッと見て見ると、そこには無精ひげを生やしたスーツ姿の男がこちらを睨んでいた。

 移動するか…。そう思った時、


「うちの娘を助けたとは…。貴様は随分大きなホラを吹くんだなぁ」


 と、そのベンチに座っていた男は立ち上がって言った。

 誰だこいつ。また俺が今世で出会っていた奴か?


「失礼ですが、どなたでしょうか?」

 とりあえず、そう聞いてみると、その男性は顔を真っ赤にして目を見開いた。

 元々やせていてギョロ目なため、余計目が大きく見えて少し怖い。

「前田君…小岸さんのお父さんだよ…」

 長谷川君が小さい声で耳打ちをした。

 小岸さんのお父さん?小岸って小岸 愛理の…?って、小岸元議員!?

 え?そんなに痩せちゃったの!?この前グリゼアを発見した時よりも痩せちゃってる!どうしたの??

「し、失礼。前に会った時よりも…その…変わっていたもので…」

「全てお前のせいだよ」

 あ、これ俺に復讐するつもりだ。

「あ、あの。前田君。どうやら愛理さんのお父さん、前田君にお礼をしたいそうだよ」

 と、長谷川くんは言うが、これどう見てもお礼が物騒なものでしょう。

 空気読めないのかな?

「そう、お礼。お礼をあげるよ」

 小岸元議員は後ろにあった茂みに手を突っ込んでごそごそと探っている。

 なぜか嫌な予感がする。身体強化の魔法をかけておくか…。

「ほーら、お礼の…鉛弾だぁ!」

 拙い!と思った時、俺はすばやく長谷川君の襟元を引っ張り、彼と仲良く地面へ倒れた。


ズドォンッ!!!


 と、腹の底まで響く重低音を響かせて、小岸元議員は銃をぶっ放していた。

 リール連邦軍が使っていた銃とは少し違う。口径がかなり大きい!


「うぐっ!?」

「キャイン!」


 俺の後ろで甲高い声が聞こえた。

 すばやく見ると、散歩中だったのだろう。男性老人と犬が倒れていた。

「キャー!」

 少し離れたところで女性の悲鳴が聞こえた。


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