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第23話 救出作戦その1

 俺達はしばらく固まっていた。


 確かに前世の記憶を取り戻すと混乱してしまい、今世の家族に病院へ連れて行かれる可能性はある。


 問題はモリガンである。

 どこをどういう道を歩んだら殺し屋なんて物騒な職に就けるのだろうか。

 いや、前世ではこういう職の人は結構居たし、暗殺ギルドなんてものも普通にあった。

 暗殺ギルドは大抵国の要請に応じる機関であったが、モリガンの場合ははたして…。


 リズリーは既に手を打ってあると言っていたが、どういう手なのだろうか。





 その後昼食を出されたが、味がしなかった。


 このホテルの高級料理が会議室に運ばれてきたのだが、味や香りなど感じるほど余裕が無い。


 今世のレイーヌと初めて会った時のホテルの食事は美味しかった。

 今世のレイーヌの家族と前田家が一緒に食事をした時もこのホテルの料理は美味しかった。

 だけど、今日の料理は不安な気持ちでいっぱいで食が進まない。


「さて、残りの二名についてはこちらで何とかするので、今日はこのへんでお開き。ということでどうだろう?」

 食事が終わると輝明さんがそう言ってきた。


「輝明さん。よろしいでしょうか?」

 俺は手を上げて言った。

「ん?なんだい?」

 輝明さんは笑顔のままこちらを向く。

 言わなくては駄目だ。

 任せっぱなしでは駄目なんだ!


「前世の事ではあるが、隊長としての責任を果たしたい。迎えを待っている部下が居るのであれば、行ってあげたいのです!どうか"私"も連れて行ってはもらえないでしょうか?」


 断られるだろうか?そう思って輝明さんを見ていると、


「す…」


 と、輝明さんは言ってプルプルしている。


「す?」

 何だ?『す』って何だ?



「すっばらしぃ~~~!!!」



 と、輝明さんは満面の笑みで言った。

 一瞬輝明さんがおかしくなったかと思ったよ…。


「その隊長としての責任感。感動しましたよっ!是非一緒に行きましょう!」

 と、輝明さんはテンションが以上に上がっている状態で言った。


「だけど、全員は無理だよ!流石に人数の制限もあるし。俺と鬼一郎、ボルグランとナードレーが行くからね。君一人ぐらいなら大丈夫だけど」

 輝明さんはそう言って周りを見た。

 確かに他のスレード隊のメンバーも行きたそうにしていた。

「でもまぁ、坊ちゃんであれば大丈夫でしょ」

 と、デルクロイ。

「うむ。確かにここは坊ちゃまが適任でしょう」

 と、グリゼア。

「殺し屋…ですか。気をつけてくださいませ…」

 と、レイーヌ。

「いいな~。たいちょ~」

 と、ミューイ。…遊びに行くわけじゃないんだぞ?

「まずはトリット・マーキーからだけど、これから向かうんだ。いいかな?」

「勿論です!」


 輝明さんの問いに俺ははっきりと答えた。

「よし、それでは出発しよう!他の者達の中で電車やバスで来た者に関しては、こちらで車を手配するよ。邦治さん、よろしくお願いします」

「かしこまりました輝明様」


 残りの仲間を迎えに行くメンバーは俺と輝明さん、鬼一郎さん、リズリー、パルクスに決まった。


 車は分かれて乗った。

 パルクスが運転する俺とリズリーと輝明さんが乗る車。

 もう一台は運転手つきの車に乗る鬼一郎さんだ。

昨日俺がバイク集団で襲われている時リズリーとパルクスが助けに来た際乗っていた車ってこれじゃないか?

「そういえば!」

俺はとあることに気づく。

「どうしました?」

 隣に居た輝明さんが聞いてきた。

「いえ、昨日俺を襲ったバイク集団って異様に俺に執着していましたけど、まさかヴァルカ関係のテロリストですか!?」

 まさかとは思うが宇宙連邦と敵対するヴァルカ軍かその信奉者か…?

「あぁ、あれかい?あれはほら、昨日の昼間君と君の家族を襲った集団と一緒の『羽射刃暗』だよ。彼らはヴァルカ関係のテロリストとは違うとは思う。ま、調べ中だけどね」

 と、輝明さんが答えてくれた。


 関係無し。か…。


 ってか、頭の藤が捕まっても暴れ続けるなんて厄介すぎるな。


「今後、君達家族にあの集団が近付かないように監視しておくから」

 そう輝明さんは言ってくれたが、心配なんだよな…。

 輝明さんの組織の実力が不明確だが、他に頼れる人はいない。

 まぁ、会議へ来る途中にリズリーから聞いた時よりも組織の大きさを実感できたから安心できる部分は大きくなったけどね…。

 少しでも大きいところに所属していればいつも家の中で気を張っている心配は無いかもしれない。

 とにかく今はトリット救出に向け気持ちを切り替えることにした。




 精神科の病院へ着いた。

 俺達は車を降りて早速向かう。


 受付ではリズリーが全て手続きをしてくれた。


 そのまま女性看護師の案内で一つの部屋へと連れて行かれる。


「では、私は部屋の外で…」

 鬼一郎さんが部外者を入れないように見張りをしてくれるらしい。


 部屋をノックして入ると、椅子に座った頭に包帯を巻いた一人の青年の他に男性の医師と男性看護師が居た。二人とも体格がいい。


「では、後は我々と話をしますので…」

 と、輝明さんが言うと、

「お気をつけください。再び興奮状態となったら手がつけられなくなりますので…」

 と、男性医師が言うと男性看護師と一緒に部屋を出て行った。

 青年は怯えているようであった。

 この青年がトリットか…。


「こんにちは僕は清堂 輝明と申します。『田中たなか 勇二ゆうじ』さん。ですね?」

 輝明さんは青年の正面の椅子に座って青年に向かって話しかけた。


「ち、違う!いや…違わないけど、俺は『トリット・マーキー』だ!」


 と、少し声を大きくして青年、いや、トリットは言った。

「いや、すまない。存じているよ。君は『トリット・マーキー』リール連邦軍宮廷魔術士であり、新設されたBW部隊スレード隊隊員だ」

 そこまではっきりと輝明さんは言ったが、


「ハッ!お前もそう言って俺を馬鹿にしているんだろ?それは全て俺が言った情報だ!信じているふりしているだけだろ?俺に信用されたかったら、俺が話していないリール連邦の情報を少しでも持ってくるんだな!」

 徐々に声を荒げながらトリットはそう言った。

 ビクビクしながら輝明さん以外にも俺達を見ている。いたたまれない…。


「そうだね。僕は残念ながらリール連邦の情報をあまり持っていない。だが、君の言っていたスレード隊長やその仲間達がこの度全員発見できてね。今日ここに来てもらったんだ。さぁ、スレード隊長。僕の代わりを頼みます」

 輝明さんはそう言うと俺を輝明さんの隣の椅子へと誘導し、座らせた。


「は…は?アンタがスレード隊長だって!?ははっ、冗談はやめてくれ、隊長はそんなひ弱な面じゃない」


 うぅむ。流石にそういわれると傷つくぞトリット。


「やぁ、久しぶりだなトリット。俺だ『オーヴェンス・ゼルパ・スレード』だ。どうだ?信用してくれるか?」


「いやいや、その名前は医者に何度も言っている!偽る事なら簡単だぜ」


「む。そうか。では、俺の婚約者はレイーヌだ。『レイーヌ・パレス・バルカッチェ』だ!」


「それももう言った!」

 なかなか信用できる材料が無いな…。そうだ!前に一度個人的に話した内容ならばいけるだろう。


「そ…そうか。じゃぁ、この情報はどうだ?俺が始めてレイーヌとデートをした場所は…」

「その話ももうとっくにした!それと隊長が初めてレイーヌと口付けを交わした場所もな!」

 ちょっ!何でそんな事まで赤の他人に言いふらしてんの!?


「クスクス」

 おい、リズリー笑うな!

 俺はそう思いながらリズリーを睨む。

 リズリーは慌てて目を逸らした。が、顔はニヤついている。


「これ以上俺が尊敬し信頼する隊長の名を騙って愚弄し続けてみろ…お前を最大火力の炎で包み殺してやる!」

 隊長を愚弄してんのお前だからね?あぁ…トリットに誘われたカードゲームに負けていなければあんな事言わなかったのに…。トリットだけじゃなく、ミューイとトリッパルクスも居たんだよな…。

「って、そもそもお前最大火力の炎なんて出せても指先に灯すぐらいじゃないか!なんで火炎系の攻撃魔術苦手なくせに最大火力の炎で殺せるとか言えんの!?そもそも攻撃魔法全体が苦手だろ!」

 と、ちょっと俺も大きな声で言ってしまった。

 はしたないな。反省しよう。


 …ん?なんでトリットは止まっているの?そんなに驚かせてしまったか?


「その情報…俺言った事無い…」

 と、トリットは呟いた。


「ん?どの情報だ?」

 若干イラつきながらそう俺が言うと、


「俺が攻撃魔法が苦手な事…」


「なんでその情報は言ってないんだよ!なんで俺とレイーヌの事が先に出てきたんだよ!」

 俺は先ほどの反省を無にして怒鳴った。




「ほ、本当に隊長なんスか!!」

 トリットは涙を流しながら抱きついてきた。

 やめてほしい。


「あぁぁ!良かったぁ、良かったぁ。隊長ぉぉぉおお!」

「…」

 まぁ、でも許してやるか…。頭があれな人と認識されてここに入れられていたんだ。一人で寂しく待っていたと思えばあれくらい…。

 それにしても、

「リズリー。俺とレイーヌの件、笑う事ないだろぅ」

 と、ちょっと文句をリズリーに言った。


「いえいえ。素敵な事ではないですか。満月の光の下、スレード邸の庭先で…。一度お庭を拝見させていただいた事がありましたが、あそこでの口付けは最高のシチュエーションですよぉ?」

 と、リズリーはニヤつきながら言った。

 チッ、人の恋愛を笑いやがって…ん?


「ちょっと待て、場所や時間帯については言ってないぞ?」

「え?あぁ、前世でミューイに聞いておりましたのでぇ」

 あの小娘ぇぇえ!

「ついでにパルクスにもぉ」

 すまし顔でそう言ったリズリーへ驚いた表情で慌てて顔を向けたパルクス。

 パルクゥゥス!貴様もか!あ、目を逸らしてんじゃねぇぞ!普段無口なのをいいことにそんな事は話さないと思っていたが、ペラペラと他人の恥ずかしい話言いふらしやがって!


「まぁまぁ隊長。これであとはモリガンだけですわよ?」

 と、リズリーがなだめてくる。


「うまくなだめようとしているのだろうが、俺の怒りは収まらんからな!特にパルクスとミューイとトリット!」

「えぇぇ!?俺もっスか!?」

 と、泣き止んでいたトリットは絶望の声を上げる。

「当たり前だ!あの時誰にも言わない約束だっただろ!」

「そんなぁ!前世での事はノーカンでお願いしますよぉ」

「だーめーだ。そもそも転生したからってなんでその話が自分のプロフィールより先に出るんだ!」

「ひぃぃぃぃ…」

 相変わらず情けない声だすなぁ…。



 そんなわけで、トリット救出作戦は無事に終わり、残すはモリガンただ一人となった。


 ちなみにトリットは今日中に病院を出る事はできないらしい。

 手続きやら何やらで最低二日はかかるそうだ。


 これはトリットの現在の家族にも話を通さなくてはならないらしい。


 トリットは、

「いきなり変な奴らが家族とか言い出して、俺の兄貴とかいうやつがここにぶち込んだんだ!」

 と、言っていた。が、ちょっと引っかかる事がある。

「トリット。もしかして、前世の記憶のみあるのか?今世の記憶は?」

 俺がそう聞くと、

「え?ありますよ!日本語話せますし読めますよ」

 と言った。それもそうだな。今世の記憶が無ければ日本語を話す事はできない。

「ただ、一部の情報しかないみたいで…」

 そうシュンとしながらトリットは言った。

「どうやら彼は事故で頭を強く打った影響で前世の記憶は蘇ったが今世の記憶がふっとんでしまったらしい」

 輝明さんがそう説明してくれた。トリットの頭に巻かれていた包帯にはそういう意味があったのか…。

「その2週間前の事故っていうのも覚えてないんですよ…。いえ、徐々に今世の記憶は思い出してきてはいるんですが…」

「2週間前?その事故で前世の記憶が戻ったのか?」

「そうっス」

「ちなみにもう一人の自分ってか、夢の中で『田中 勇二』が出てくる事は?」

「なんっスかそれ?」

「いや、いい。なんでもないよ」

 やはり夢に今世の自分が出てくるのは俺ぐらいなものか…。

 そういえば最近竜生は夢に出てこないな。やはりもう出てこないのだろうか。


「では、マーキー君。退院したら前世の事は回りに話さず、ここに来てくれ。君の新しい職を紹介しよう」

 そう言って輝明さんは一通の封筒をトリットに渡した。

「はぁ…。仕事っスか」

「あぁ。以前の仕事はもうできないだろう?既に病気を理由に退職してしまっているようだし…」

 輝明がそう言うと、

「そうでしたね…。はぁ…」

 と、トリットはため息をついていた。




 俺達はトリットと分かれて病院を出た。

 輝明さんは今夜の夕食はどうしようかと鬼一郎さんと話していた。

「ちなみにモリガンとは今日会うのか?」

 と、リズリーに聞いてみる。

「そのように予定しております。時間は夜7時で、ここから移動すると車で1時間かかります」

「今は4時か…。まだ時間があるな…」

「既に移動を開始しましょう。遅れていくよりかはいいはずです」

「そうだな…」

 しかしモリガンは殺し屋に転職か…。いや、転職っていう表現もおかしいな。


 ともかく、俺達は移動を開始し、モリガンとの待ち合わせ場所へ向かった。



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