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第22話 ヴァルカという存在

 4千年前、『リグター・マトリスト』博士が感情の物質化を発見しました。

 今まで感情エネルギーというものは目に見えないエネルギー体でした。

 感情エネルギーとは、魔力が高い惑星や特殊な自然環境下、または能力が高い人物によって生み出されたり発生するもので、知的生命体の意思の塊とも言われているものです。


 しかし、それが物質となっているというものは今まで発見されませんでした。


 では、なぜ発見されなかったのでしょう。

 いえ、実は今まであることは分かっていたのですが、それが感情エネルギーの集合体であるという認識がなかっただけだったのです。


 皆さんは物語などでご存知ないでしょうか?例えば宝石の魔力増幅装備を装備した戦士がいるとします。最終決戦時等に感情によって宝石が光り、今まで死んでいったり、思いを託した仲間達の影が自身の背後に映り共に敵を討つ。

 これは現実でも起きていたことでした。

 このような現象は単に宝石によって力を増しただけではなく、人々の善意や願いが宝石にコーティング、または内部にエネルギーとして蓄えられたり物質変化をしたものの影響だったのです。


 この感情という物質化したものを『感情の結晶』と呼びます。


 また、リグター・マトリスト博士はもう一つ大発見をしました。


 それは感情の良化と悪化です。


 善意や悪意、悲しみや喜び等のエネルギーを増幅させる事に成功しました。

 これが簡単に行える事ができれば、感情エネルギーの資源化を期待できました。


 研究の結果、増幅後のエネルギーは大きく分けて二種類に分かれました。

 良い方向に増幅できたものを『光シリーズ』。悪い方向に増幅できたものを『闇シリーズ』。


 実はこの二つ。とてもおかしな性質を持っていました。


 例え負の感情でも光シリーズに組み込め、闇シリーズでも正の感情を増幅することができたのです。

 例えば光シリーズであれば『光の憤怒』や『光の悲しみ』。闇シリーズであれば『闇の思いやり』や『闇の喜び』です。


 そして、それぞれで強力な感情エネルギーを発見します。それが光シリーズ最強の『光の善意』と闇シリーズ最強の『闇の悪意』でした。

 また、この光の善意や闇の悪意のカテゴリーは複雑で、例えば闇の悪意の中には『憎しみ』や『怒り』も含まれています。ですが、『悲しみ』は入っていません。※注意!:これは4千年前の話であり、現在は『悲しみ』も闇の悪意エネルギーへと変換できます。

 これらの研究で強化された感情物質を『強化感情物質』と呼ぶことになりました。


 リグター・マトリスト博士は光の善意や闇の悪意を物質化にすることに成功。


 そしてリグター・マトリスト博士は20年後、更に驚くべき理論を発表しました。


 強化感情物質の生物化です。


 感情エネルギーや感情物質は今まで生物を作ることは可能でした。

 しかし、強化感情物質は生体構造に繋がる性質を持っていないと考えられていたため、そのような生物はできないという意見が大半でした。


 博士はそれに対し真っ向から反対し、そもそも物質の構成が通常の感情物質から変わってしまっているのは当たり前で、むしろ感情物質の能力が上がったので、生物化しやすくなる。

 と、研究結果を発表。

 書類上やデータ上だけの実験でありましたが、確かにできそうではある。という内容だけでした。

 実際できてみなくては信用はできなかったのです。


 博士は残りの人生を『強化感情物質生物化』に捧げました。


 しかし、博士はその研究中の事故により死亡してしまいます。

 博士は研究施設で『闇の悪意』にとりつかれ、周りいた研究員に笑いながら泣いて、「必ずお前達を助けてみせる!」と宣言しながら殺し周り施設を爆発させました。


 以上のことから強化感情に触ったり取り込んだ場合は狂人化する。ということがわかりました。


 皮肉にも結果だどうあれ博士は最期まで感情物質の研究に成果を残した存在と言えましょう。




 ここで輝明さんが映像を止める。何が言いたかわかった。


「つまりテロリストは強化感情エネルギーを集めていた。ということですか?」

 と、俺が聞くと、


「まったくもってその通りです。テロリストは感情エネルギーを集め、強化感情エネルギーへと変換し、強化感情エネルギー兵器を作成していたのです。地球や、宇宙連邦も所属する『世界連合』は感情エネルギーの闇化する手段を抑えるシールドを持っている為、シールド内の人間の感情エネルギーをいくら取り出そうとも、強化エネルギーに変換することはできません」

 と、輝明さんは

言った。

「その強化感情エネルギーというものは、宇宙連邦が惑星リョーキューの戦争に介入するほどまずいものなんですか?」

 と、今度はミューイが質問をした。


「その答えは、次の映像を見ていただければわかると思います。どうぞ!」




次に流された映像は『ヴァルカとヴァルカ戦争について』という文字が最初に映し出された。



 今から500年程昔、宇宙連邦領域外のとある宙域で異常な現象が観測されました。


 現象は、感情エネルギーの渦でした。


 現在でもこれは偶然起きたものであった。という見解がなされています。

この感情エネルギーの渦はかなり問題であり、計測すると『負の感情エネギー』シリーズであることが分かり、物質化と共に、『闇の悪意』に変質していることがわかりました。


 宇宙連邦や周辺国家はこのエネルギーの渦を排除しようとしましたが、かなり大規模な渦であったため、作業は難航しました。


 作業は3年かかり、いよいよ一気に消滅させることができる準備ができた時、既に大規模な『闇の悪意』の塊となった物体に変化が起きました。


 リグター・マトリスト博士が提唱した『闇の悪意の生物化』でした。


 これが後の世に恐怖と絶望の存在として語り継がれる事になった闇の悪意の生命体『ヴァルカ』の誕生の瞬間でした。


 ヴァルカは自ら『ヴァルカ』と名乗り、作業をしていた作業艦を次々に襲いました。

 護衛をしていた艦も攻撃し、艦隊の90%を消失させました。


 ヴァルカは善悪関係なく感情エネルギーを次々に取り込み力を増幅させ、別の物質に変化させて兵器も体内で生産していきました。


 ヴァルカは軍を作り出し、ヴァルカ軍となって様々な星を襲っていきました。


 これが『ヴァルカ戦争』という名前の宇宙中を巻き込んだ戦争でした。


 宇宙連邦軍は各国と協力し、かつてない程の大艦隊を率いてヴァルカを封印することに成功しました。


 ヴァルカ軍との戦争は多大な犠牲を払いました。

 いくつもの命と惑星が消滅してしまったのです。


 しかし、戦争は終結しましたが、その後に起こった混乱は今でも続いています。


 ヴァルカ軍残党やヴァルカ信奉者によるテロ行為。


 犯罪者によるヴァルカへの責任転換。


 我々はこのような事を防ぐべく、ヴァルカが生み出されたような負の感情エネルギーの渦を発見した際はどんなに小さなものでも消滅させ続けています。


 皆さんも負の感情エネルギーの集合体、『闇の悪意』。特にヴァルカ関係は注意しましょう。


 ヴァルカは負の感情エネルギーを使い、世界を悲しみと絶望へと導こうとしています。


 我々はこれを防がなくてはならないのです。



 映像はここで止まった。


 今まで不思議な事が身の回りで起こりすぎていたため、すんなりと情報が入ってきた。

 オーヴェンスだった頃にこの情報を知っていたとしても、信じる事はできなかったかもしれない。


 宇宙戦争のシーンには驚いたが、これは記録映像らしい。

 宇宙に沢山の船が浮かび、BWの数も多かった。


 だが、それよりも闇の悪意の生命体に衝撃を受けた。


「こんな…いくつもの惑星を破壊した化け物へ資源提供していたのか…リール連邦は!」

 俺はそう言って拳を握り締めた。

 上層部は理解していたのか?


「リール連邦は闇の悪意などの感情エネルギーについては知らなかったらしいよ。ま、そんな情報与えてしまったら協力してくれなくなる恐れもあるだろうしね」

 と、輝明さんが答えてくれた。


「我々が居なくなった後のリール連邦はどうなったんですか?」

 今度はグリゼアが質問をした。


「リール連邦か…えぇっと」

 輝明さんが情報端末らしき機器を操作し、調べてくれているが、

「リール連邦の現在については私から」

 と、再びリズリーが挙手をした。

「あぁ、任せるよ」

 輝明さんはそう言って座る。

 リズリーは特に映像を使わずに、


「現在もリール連邦は残っていますわぁ」


 と、言った。


「リール連邦が残っている!?あの映像にあった宇宙連邦という国家に喧嘩を売っても国は残れたのか!?」

 と、デルクロイは驚いていた。

 まぁ、確かにあの映像の中にあった宇宙連邦の艦船からのエネルギー砲とか撃たれたら国土が焦土と化しているイメージしか浮かばないよな…。


「元々宇宙連邦はリール連邦と交渉する事が目的でした。もちろんリール連邦に居たヴァルカ軍やヴァルカ信奉者とは激しい戦闘を行ったようですが、我々が死んだ後リール連邦とはよほどの事が無い限り大きな争いをしていません」

 そうなると、リール連邦には戦後の賠償とかを払ったのだろうか。


「宇宙連邦はリール連邦に賠償金などを請求せず、むしろ近隣諸国のリール連邦侵攻を阻止してくれました。リール連邦は今回の戦争の加害者でもありますが、被害者でもあります。最初に侵攻したのは紛れも無い近隣諸国だったことが、宇宙連邦がこのような判断を下した要因とも言えましょう」

 それはうれしい話だな。

 土地も失わず、他国に金も支払わなくてもいい。敵国からの侵攻から守ってくれる味方を付ける。

 話がうますぎるような気がするが…。


「あの戦いから50年経ちましたが…」


「「「「「え!?」」」」」

 リズリーの次の言葉に、リズリーやパルクスを除く転生組みが驚きの声を出した。

「ご…50年ですか?」

 ミューイが恐る恐る言った。


「…そうです。50年ですわぁ」

 と、リズリーは再び言った。僅かだが表情も暗い。

 あれから50年も経っているのか…。


 考えて見ればデルクロイの今の年齢は死んだ時の年齢と同じ44歳。

 転生して44年経っていると考えれば50年という数字もおかしくは無い。


 うぅ…。覚悟はしていたが、実施に現実を突きつけられるとキツイな…。

 父や母は当然生きてはいないだろう…。忠誠を誓った陛下ももう…。


「お母さん…」

 ミューイが小さく発した声は、静まり返った会場では良く聞こえた。


「…話を続けましょぅ。現在のリール連邦や周辺国家は宇宙連邦の指導の下、終戦協定が結ばれました」

 リズリーが言う通りそれは良い事なのだろうが、リズリーも含め、50年という歳月は家族を失うに十分な時間だ。

 ここに居る殆どが家族の顔をもう二度と見る事は無いのだ。


 俺には婚約者というレイーヌが居て、家族になる人だからこれからも支え合える。だが…。


「そっかー!もしかしたら生きてるかな~っと思ったけど、50年じゃ流石に難しいよねぇ」

 と、ミューイが突然明るく言葉を発した。

 いや、少し無理をしているかもしれない。


「今は今の親を大切にしていこうかな!」

 そうミューイ続けていて言った。涙を浮かべながら…。


「この場でお伝えするのも少しためらいましたが、ミューイは両親と弟さんが生きておられ、グリゼアのお兄さんとデルクロイさんも息子さん達、オーヴェンス隊長の妹君とレイーヌのお姉さんは生きていらっしゃいますよ?」

 リズリーのこの一言で、会場はバッと雰囲気が明るくなった。


「な!ドルーガとガインツが生きているのか!?いや、戦争も早期終結し、50年ならば、ドルーガが64、ガインツが62…年齢的に生きていてもおかしくないな…」

 そう言ったデルクロイの目は輝いていた。


「もちろん、会いに行く事も予定していますが、それはスレード隊全員が揃ってからとなります」

 と、リズリーは言った。


「あ、会いに行けるのか?」

 グリゼアが恐る恐る聞くと、


「えぇ。既に宇宙連邦政府とリール連邦政府には許可を取っています。出発は1週間後の予定ですわぁ」

「一週間?トリットやモリガンはもう見つけているのか?」

 俺がそう聞くと、


「はい、トリットやモリガンは私やパルクスと同様に、転生した瞬間から宇宙連邦や地球の特殊機関から監視を受けていました。私達は運が良かったと思いますわぁ」

 うわぁ。なんか嫌な響きだな…。生まれた瞬間から監視対象かよ…。本人が運が良かったと言っているからいいけどさ。


「もちろん、記憶が戻った事を確認してから極秘裏にコンタクトをとっていますので、騒ぎにはなりませんでした」

 あぁ。俺達監視対象外のメンバーのような記憶に悩まされる苦労は無かったわけね…。


「ちょっとお待ちください。そうなると、既にトリットさんとモリガンさんは記憶を?」

「えぇ、取り戻していますわぁ」

 と、レイーヌの疑問にリズリーは答えた。

 そうか。二人とももう見つかっているし、記憶もあるのか。なら一週間後でも良いのか。

 夏休みもまだあるし、グリゼアの仕事もまだ始まっていないしな。


「あっはっは。なら話が早いな!今日にでもトリットとモリガンに会ってこようではないか!」

 元気になったデルクロイが立ち上がって言った。

 そうだな。それがいい。これからお昼を食べて、それから行こう!


「すみません…。それがちょっと問題がありまして、少し覚悟が必要になるかと思いますわぁ…」

 リズリーは浮かない顔で言った。

 もしかして、二人とも日本には居なく、遠くにいるのか?いや、覚悟が必要ってどういうことだ??


「では…ご説明しますわぁ…」

 随分勿体つけるなリズリー。そんなに言いにくいのか?

 皆背筋を伸ばしながら聞いている。


「トリットは、精神病院へ入院しています。モリガンは現在殺し屋として活動をしていますわぁ」


「「「「「!?」」」」」


 あまりの衝撃に声が出なかった。



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