表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/81

第18話 ワイバーン?前田邸へ襲来!

 デルクロイへのお礼を渡した後、雑談をしてから俺の為の一般常識の授業が開かれていた。


 合計4時間。


 ただひたすらこの世界の常識を叩きこまれた。


 皆優しいな。こんなことも分からないのか。という目を向けてはこない。多分そういう目をされたら俺は耐えきれないと思う…。


 おっと、いかんいかん。弱気になってはダメだよな。


「あら?迎えが来たそうです」

 レイーヌはそう言って自身の携帯を見た。

 もうそんな時間か。またレイーヌや皆と離れ離れか…。

 ちょっと寂しい。


「それじゃぁ、そろそろ帰るか…。ミューイを送っていくよ」

 と、俺が言うと、

「!?だったら私の車でスレード隊長と共にお送りします!グリゼア副隊長もいかがですか?」

 と、レイーヌが言った。

 なんか慌てた様子だったけどなんだろう?

「本当か?それはありがたい」

 貧乏学生は電車賃も厳しいのだ。

「ありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きます」

 グリゼアもニッコリとしながら言った。

「それじゃ、今日はお開きですかねぇ」

 デルクロイはそう言って背伸びをする。


チリリリリン!チリリリリン!


「ん?」

 俺は自分の携帯が鳴っていることに気が付いた。

 表示には兄竜也の名前があった。なんだろう?

「ちょっと失礼」

 そう言って俺は電話に出ると、

「<竜生!お、お前今どこに居る!?>」

 と、兄竜也の切羽詰った声が聞こえた。

「え?井野口さんの所だけど…」

「<井野口さんって…あぁ、一昨日のお前の従者とか言ってた人か?そんな事はどうでもいい、すぐに帰って来い!>」

「何があったんだ?兄さん」

「<何がって俺が聞きてぇよ!いきなり知らない連中が家に乗り込んできて竜生を出せって言ってるんだ!お前、いったいどれだけ面倒を持ち込めば…>」

 途中で竜也の声が切れる。

「おい、兄さん?兄さん!おい竜也!」

 なんだかまずい状況ではないか?いきなり乗り込んできた?家に!?竜也や母さん、父さんは人質にとられているのか?

「<おう、竜生。そんなに騒ぐなや>」

 と、今度は電話先で竜也と違った声が聞こえた。

「誰だ?」

「<あ?俺だよ!泉だよ!>」

 泉?あぁ、俺を虐めて退学になった奴か。なるほど、復讐に来たけど俺が居なかったってパターンか。

 恐れていた事態が起きてしまったな。

 まさかまだ明るい時間に乗り込んでくるとは思わなかったぞ。

「<テメェが昨日公園に来なかったから悪いんだぞ?テメェが素直に公園に来ればお前だけで済んだんだ>」

 ん?昨日??

 あ!

「昨日の夜の電話お前だったのか!?ってか、公園ってどこのだよ!」

「<あ?テメェ、なめた事言ってんじゃねぇぞ!>」

 と、泉は怒鳴っていた。なんだか無茶苦茶な言い分だな。

「何が目的だ?」

 とりあえず冷静になれ。こちらも慌てちゃまずい。

「<あ?そんなの決まってんだろ!お前今から帰って来い。そうすればテメェの家族全員助けてやるよ>」

「分かった。すぐに帰る…」

「<30分以内に帰って来い>」

 泉はそう言って電話を切った。

「…」

 まさかの脅迫電話であった。

「坊ちゃん?」

「坊ちゃま?」

「隊長…」

「オーヴェンス…」

 皆心配そうに俺を見ていた。

「いや、なんか俺の家に不良少年達が乗り込んできたらしい…。家族を人質にとられた…」

「「「え!?」」」

「ふ、不良少年ですか!?」

 ミューイが目を点にさせて言った。

「あぁ、俺をいじめていた奴だ。退学になった復讐にでも来たんだろう…」


「「「………」」」


 少しの間沈黙が部屋を支配した。


 そして、座っていたデルクロイがパチンと膝を叩いて、

「よし、グリゼアとミューイはレイーヌに送ってもらって帰れ。俺は坊ちゃんと一緒に行く」

 と言った。

「ちょ!ちょっと待って。それなら私も!」

 レイーヌはそう言ったが、

「転生してから鍛えてもないお嬢様のレイーヌ様に何ができる?」

 と、デルクロイは少し冷たい言い方をした。

「魔法が使えます!焼き殺して見せましょう!」

 レイーヌがそう言うと、

「私も坊ちゃまの騎士!共に行くぞ!剣の…いや、包丁の錆にしてやる!」

 と、グリゼアも言い出した。

 それを見てデルクロイは大きくため息をつき、


「はぁ~。どうやら今世の記憶があるお前達にも常識を教えなきゃいけねぇようだな!」


 と、言った。

「レイーヌ。今オーヴェンス坊ちゃんの家は良くない状況だ。お前が行ったら当然今迎えんに来たレイーヌの従者も来る可能性があるし、探る可能性だってある。そうなればせっかく結ばれた縁談が破談になるぞ!」

「そ、そんな!」

 レイーヌはデルクロイに言われたことがショックだったようで、固まる。

 まぁ、その通りだろう。

「グリゼアは息子をどうするつもりだ?その子をこの場においていく気か?だいたい、もし戦闘になったらお前今度は警察はかばってくれないかもしれないんだぞ?」

 確かにグリゼアは元旦那とその愉快な仲間達をボコボコにした事がある。

 前回は正当防衛で許されたが、今回再び警察も見逃してくれるか分からない。

「とにかく、俺と坊ちゃんで行く。いいな?」

 デルクロイはそう言って皆に言い聞かせた。

「いや、レイーヌ、グリゼア。なにもお前達が嫌いだから言っているわけじゃないぞ?レイーヌには坊ちゃんと幸せな結婚生活をして欲しいだけだし、グリゼアもまた問題になって仕事がなくなっては困るだろ?ワシは別に働かなくてもいいし」

 デルクロイがそう言うと、二人は小さく頷いた。

「デルクロイ…その…すまない」

 俺がそう言って頭を下げる。本来であれば俺が説得して二人を止めなくてはいけなかった。隊長失格である。

「あっはっは。坊ちゃん、そういうのはいいっこ無しですぜ」

 と、デルクロイは言って笑っていた。




 前田邸に着くと、そこはヤンキーの巣窟だった。

 あれ?ヤンキーってなんだっけ?

「…マジか」

 俺は思わず声に出してしまった。泉の仲間だろうか。ガラの悪い連中が俺の家の玄関先にたむろしている。

 家の駐車場は連中の車やバイクで使えなかったため、近くにある有料駐車場に停めて再び戻ってきた。


「泉!来てやったぞ!」

 そう俺は家の前で叫んだ。


「おい!大声出すんじゃねぇ!中に入れ!」

 泉ではない少年が玄関の扉を開けて俺を中へと誘導する。

 デルクロイも中に入ろうとしたが、

「ちょっと待て、テメェ誰だ?」

 当然そう聞かれる。

「家族だ。家族が家に入るのは当たり前だろう」

「う…」

 そう筋骨隆々の大男に睨まれながら言ったら返す言葉も無いだろう。

 デルクロイは俺の後に続きズカズカと土足で家に入っていった。ちなみに俺も土足である。いざという時すばやく 動けたほうがいいだろうからな。

 というか、予想以上に敵は大人数だ。入り口や庭に3人。部屋の中、リビングへ来ただけでも5人。計8人か…。泉も当然いた。

 父、母、竜也はそれぞれ口を布でふさがれ、手足は縛られているようであった。


「よう、泉。来たぜ」

 俺はリビングに突っ立っていた泉をそう言って睨んだ。

「あ?テメェ一人で来いって言っただろ!」

 泉も睨みながら言う。

「ハッ!それは昨日の公園での事だろ?今日家に来る時はそんな事一言も言われて無いが?」

 俺は泉の言葉を鼻で笑って返してそう言った。

「んなの今日もそうするのが当たりめーだろーが!」

「お前はいつも肝心な一言が足りないよな?昨日も一人でどこかの公園で待っていたのか?ん?」

「テメェ…。家族がどうなってもいいようだな…」

「ん?そういえば、家族を開放してくれんだろ?早くしろよ。ノロマだな」

 俺のこの一言で泉はキレて殴りかかってきたが、俺はそれを受け止める。身体強化の魔法って便利だよね。

「ぐ!?」

 泉は驚いているが、こいつは学校であった事を忘れているんではないだろうか?このぐらいの速度の拳であれば俺は簡単に掴むことができる。


「おい」


 と、ソファーに座っていた男が俺達を呼んだようだ。

「ん?誰だ?」

 偉そうな男である。年齢は20代前半だろうか。若いようだがロン毛のヒゲ面で野球帽をかぶっている。

「ま、前田!藤さんになんて態度とってんだ!」

「泉の友達?」

「ちげぇよ!俺達が1年だった頃の3年だった先輩だろ!」

 そんな事言われても分からない。1ヶ月以上前の記憶が無いのだから。

 何てことも言えず、俺は藤という男の正面にあるソファーに座って、

「藤さんですか?いったいここまでの事をしでかして、俺に何の用なんです?」

 と、聞いた。

「ははっ。お前、俺がかわいがっていた泉と朝川をかわいがってくれたそうじゃねぇか?」

「自業自得ってやつですよ」

 俺がそう言って横目で泉を見る。

 泉は顔を真っ赤にしていた。

「ふん。肝が据わっている奴だな…。そうは言っても、俺達はこのまま引き下がるわけにはいかないんだわ」

「と、いいますと?」

「あぁ~。簡単に言えば慰謝料をもらいたいんだよ。君、彼に暴力を振るったらしいじゃん?」

 もうこの時点で話し合いごっこは面倒になってきた。

 ようはどういう理由であれ金を巻き上げに来たのだ。

 どうしようかな。この茶番もう少し続けて見ようかな。俺から怒って手を出したら後々問題になるかもしれないし 。

「ではこういうのはどうでしょう。今日この状況について流石に我が家も慰謝料を欲しいところ。今まで泉や朝川が行ってきた事の慰謝料と差し引きでどうですか?」

「…」

 藤という先輩は黙った。

 スッと目の前に拳が迫った。

 藤の拳だ。

 あらかじめ身体強化の魔術を使っていたため、難なくそれを受け止める。

「え!?」

 泉は驚いて声を出した。

 藤も一瞬固まった。特に藤には魔術をかけていない。単純に驚いて固まったんだろう。

「どういうつもりですか?」

 にやりと笑って俺が言うと、

「おい!テメェらこいつの家族を人質に…」

 とらせるわけが無い。

 すばやく横にあったガラスの灰皿で藤の横顔を殴り、父、母、竜也の近くでナイフを出した藤の部下と思われる男に向かって灰皿を投げる。

 上手くナイフを出した男の手に当たり、ナイフは床へと落ちた。

 デルクロイも既に動いており、俺の家族の近くに居た不良共を殴り飛ばし、先ほど藤の部下が落としたナイフを拾い上げ、すばやく縄を切る。

 軍に居た頃には人質救出訓練など受けていないが、これはなかなかいい得点を取れるのではないだろうか。

 そうのん気に思っていると、藤が攻撃を仕掛けてきた。

 単純に殴ってきただけだが、身体強化をしている俺にとっては何の障害も無かった。

 このくらいであれば『オーヴェンス』の体であれば何の問題も無いが、この体は竜生の体である。

 魔術を使えても体力が無いのである。これは鍛え直さなくてはならないな…。

 そんな事を考えているうちに既に藤は唸りをあげて倒れていた。

 右腕は折れてしまっている。

 騒ぎを聞きつけた他の藤の部下達が乗り込んできたが、デルクロイと俺で順番に無力化させていく。

 そんな事をしていると、サイレンが聞こえてきた。

「ハッ!前田!お前警察呼んだのか!?」

 泉は俺とデルクロイの戦闘を呆然と見ていたが、サイレンの音に気が付き声をだした。

「ん?呼んだけど、駄目だった?呼んじゃ駄目とは言われていないけど…」

 俺の答えに顔を青くする泉。


「また伝え忘れかな?」


 泉は逃げたが俺はあえて追わなかった。

 玄関先で怒鳴り声が聞こえる。

 警官と鉢合わせたのだろう。


 少し経つと警察が数人家の中に上がってきた。





 警官を呼んだのはデルクロイの判断であった。

 前田邸へ向かっている最中デルクロイが、

「俺は家族って事にしておきましょう。そうすれば余計な奴を呼んだ!といった時に言い訳ができますぜ」

 と、言ってきた。

「ん?別に誰も呼ぶなとは言われなかったが…」

 俺がそう返すと、

「え?じゃぁ、警察にも連絡するなとか言われなかったんですかい?」

「いや、言われなかった。というか警察ってなんだっけ??」

「…坊ちゃん。まだ常識学習は始まったばっかりなので気を落とさないでくださいね」

 なんだかデルクロイが俺を可哀想な奴を見る目になっていた。


 その目やめて!!


 こんな事も分からないのかと呆れられる目は嫌だけど、その目も嫌だぁ!



 そこから警察がどういうものか教えてもらい、前田邸に着く少し前に警察に通報を終えていた。


 結局警察は20人以上が前田邸に集結した。

 統率が取れ、その動きは素早かった。

 警察という組織はよく知らなかったが、憲兵のようなものとデルクロイから聞いていた。

 今は俺を含めた前田家の面々とデルクロイは警察の方々に事情聴取を受けていた。

 警察署に来て欲しいとの事だったので、快く承諾し、向かう事にした。

 その前に前田家の面々に俺から頭を下げ、今回の経緯を簡単に説明し、迷惑をかけたと謝罪した。もちろんデルクロイにも礼と謝罪をした。


 父からは、

「お前が謝ることではない」

 という言葉をいただいた。

 母からも同様の言葉をいただいたが、兄竜也は終始不機嫌であった。

 デルクロイは、

「当然のことをしたまでです。お褒めに預かり光栄です」

 と、言っていた。




 そんなわけで現在警察署である。

 デルクロイには、

「取調室に行けばカツ丼もらえるかもしれませんね」

 と言われていた。カツ丼ってなんだ?


「どうも、前田さん。私、刑事の佐々ささきと申します」

 人が良さそうなおじさんが出てきた。この人も警察の人間らしい。

「こんにちは。私前田家次男の前田 竜生と申します」

 俺は立ち上がって挨拶をした。

「はっはっは。丁寧な自己紹介ありがとね。あ、座って座って。では、早速なんだけど、今日の竜生君の家であった こと教えてくれるかな?」

 佐々木さんが軽い感じの言い方で俺に聞いてきた。

「かしこまりました。始まりは昨日の電話からでして…」


 俺は昨日の泉からの電話から今日の警察が前田邸に突入してくるまでの出来事を話した。




「なるほどなるほど。そうなると本当に前田家の皆さんは不運…というか相当理不尽な状況になってしまいましたね ぇ」

 と、佐々木さんは労いの言葉を俺にくれた。

「しかし、あの大男さん。井野口さんでしたか?まさかあの人と知り合いとは…」

 デルクロイの存在は俺と居るとやはり皆異質に感じるらしい。

 ってか、デルクロイ有名だな!

 やっぱり金持ちは違うのかな?


 まぁ、その辺も含めて再度説明をした。

 従者という事は伏せて。


「それでは、今日のところはこんな感じで…」

 と、佐々木さんは話の締めくくりに入る。

「しっかし、こんな事言ってしまってはなんですが、今回のおかげで藤を捕まえる事ができました。いやぁありがたやありがたやですよ」

「え?今まで捕まえられなかったってことはなにかしら今までやっていたんですか?」

「そりゃぁもう。奴ら『羽射刃暗わいばあん』ってグループを名乗っていましてね。恐喝、強盗、暴行。奴は今 まで直接やらずに部下にやらせていたみたいでしてねぇ。逮捕できたとしても奴の部下だけだったんですわ。なので 、今回藤の奴が前田さんの家に来てくれてこちらとしては都合が良かったんですよ。ははは」

 ワイバーン?なるほど。そういうことがあったのか…。

 俺が不思議そうにしていると、

「漢字で書くとこんな感じです」

 と、佐々木さんは羽射刃暗の文字をメモで書いてくれた。

 これでワイバーンと読むのか?

「まぁ、今後いろいろとお話を伺いに行く事が度々あるかと思いますんで、これからもよろしくお願いしたしますよ」

 あ、そうだ。思い出した。


「そうだ。最後に一ついいですか?」

「はい?何でしょう竜生さん」



「カツ丼って出ないんですか?」


「…」


 この後盛大に佐々木さんに笑われてしまった。くそぅ、デルクロイめぇぇ!



ようやくスレード隊が活躍し勝利するシーンを出せました。


隊長と部下の二人だけですが…。

不良相手ですが…。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ