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第17話 デートと中二病

 次の日、俺はスレード隊のメンバーにメールを送った。

 内容はレイーヌも加わった事だし、改めて話し合いをしないか。という内容だ。


 全員からの返答はもちろんYES。日程については早い方が良いのでは?ということになった。


 それならば明日はどうだろう?という提案をしてみたところ、皆から了承を得た。

 これでデルクロイにお礼を早めに渡す事ができる。



 そして、レイーヌとの待ち合わせの場所と時刻。

 レイーヌは高級そうな車に乗ってきた。もちろん運転手は彼女の家の執事の一人だろう。あれ?なぜ俺はあの乗り物を高そうだと判断できたのだろうか…。車についてなんて知識は全く無いのだが…。

 まぁ、それはいいとして、車から降りた人物は運転手とレイーヌ。運転手はなんとあの浜辺に居た間島だった。今日はスーツ姿である。


「前田様。本日は麗華お嬢様をよろしくお願いいたします」

 と、間島は俺に頭を下げながら言った。


 この人が俺の事をどこかの馬の骨と言った事は忘れない。


…。


 冗談である。



 と、いうかついて来ないのか。

 前世の感覚で言うと、執事はついて来そうなものなんだけどな。

 この世界ではそういう常識も違うのだろう。


「はい。責任を持ってお預かりいたします」

 俺がそう言うと間島は再び深々と頭を下げた。

「では、18時にまたここへ迎えに来ます」

 間島はそう言うと、車に乗り込み去っていった。


 そして、俺は今百貨店に居た。

 俺の小遣いではあまり高そうなものは買えない。だが、レイーヌはそれなりに懐は暖かいようであった。

 女性に出させるのは申し訳ないと思ったが、一応共同でお礼を買う事にしたので通常の半額の値段を出すと言ってくれた。

 それでいいのか?俺。

 ダメな気がする…。


 その前にカフェで休憩しながら考えようと俺が提案し、近くのカフェへと入った。



「その…改めてお久しぶりでございます。オーヴェンス」

 前世では2人の時には互いを呼び捨てにしていた。改めて目の前の人物がレイーヌだということを認識する。う~ん。人の目があるから本当はその名前を使わない方がいいかもしれないが…。今日ぐらいはいいかな。

 周りには人は居ないよな?よし、大丈夫そうだ。


「あぁ。レイーヌ本当に久しぶり…」

 俺の体感期間でいうと3週間程。レイーヌはどうだったのだろうか。

「レイーヌはその…。いつぐらいに記憶が?」

 この言葉だけで意味は通じるだろうか…。

「あ、はい。私は1年ほど前からです。朝起きたと同時に記憶が戻りました」

 やはりミューイの事を照らし合わせると、何かのショックで記憶が戻るというわけではなさそうだ。

 いや、共通点はあるのか。

 ミューイとレイーヌは眠りから目覚めたときに。

 俺とグリゼアとデルクロイは何かの身体的なショックで。

 デルクロイのショックというのは予想だが2年前に起きた発作というのが関係していそうだ。

「俺は3週間ほど前、倒された拍子に頭をぶつけた時だな」

 俺がそう言って学校での出来事を少し話す。すると、レイーヌは非常に怒っていた。無論泉や朝川にである。

 レイーヌは記憶が戻ってから少々言動が不安定になったらしい。

 それで父から少しおかしな子と思われてしまったのだとか…。

 特に苦労もなく、戦争もなかったので戦闘訓練など殆どしなかったらしい。


 殆ど。である。たまにしていたらしい。


 俺の方の話をすると、涙ながらに聞いていた。

 やはり通常の女性の感覚でも小岸 愛理の言動はおかしいらしい。

 まぁ、小岸 愛理の場合は単に俺を見下していたから俺への非難がしやすかったのだろう。


 そして、お互い思い出したくないだろうが、自然とあの日の事を俺は口に出してしまった。


「レイーヌ。その…、前世でのあの時、ガリオニア公国でのことは…守ってやる事ができずに申し訳ない…」

 俺がそう言うと、

「私こそ。隊長であるオーヴェンスを守る事ができませんでした…。申し訳ありません…」

 と、悔しそうにしていた。

 やはりレイーヌはあの場で敵機の持っていた剣によってコックピットを貫かれ体が上半身と下半身が分かれて死んでしまったらしい。

 その報告に少々暗くなりつつ、今生きる俺達に感謝をした。



 気分が落ち着いてきたところで、俺達はプレゼントを選ぶ事にした。

 何を渡せば喜ぶか…。鎧、剣、魔宝石…。


 そんなものはこの百貨店に売っていない。


 ぎりぎり宝石はあるが、財政的にも厳しい。そもそもこの世界の宝石は魔力を増幅させたり貯めたりすることはできるのだろうか?できなければ使用用途が無い。


 菓子や飲み物の詰め合わせなど無難な物でよいのだろうか…?


 あ、一個思い出した。


 あれは俺達が死ぬ事となる前日。

 野営地にて俺達スレード隊は多数の部隊と共にBWの整備をしていた。


 スレード隊の機体は既に仕上がっており、いつでも出撃できる状態であった。


 だが、別の隊のデルクロイの知り合いが整備に手間どっており、デルクロイは手伝ってあげる事にした。

 その時の格好が不運だった。たまたま各隊長が作戦会議をするために、野営地の作戦会議本部へ副隊長のグリゼア と護衛で居たデルクロイは礼装に身を包んでいた。

 これは作戦の指揮官が王族であったことのための配慮だった。

 ちなみに礼装といっても帽子やマント、勲章を追加した程度のものだった。


 今回問題となってくるのはこのマントである。


 デルクロイは整備(といっても駆動部へ魔力注入テストだけだったが、これを怠るといざ駆動部が魔力反応しなければ戦場の真ん中で動かなくなり一大事だ)をするため、マントが邪魔になり、近くにあった大きなボックスへ置いた。


 これがいけなかった。


 ボックスの下には台車があり、事情を知らない整備兵が持っていってしまった。


 そこからもって行った先で事故があり、マントと共に地面にボックスごと倒れた。


 整備兵は慌てて拾おうとしてマントが破れてしまったのだ。


 整備兵は悪くない。悪いのは変なところに置いた自分が悪い。

 そう言って必死に謝罪をする整備兵を慰めていたデルクロイ。


 その後、デルクロイは俺に謝りにきた。


「せっかく坊ちゃんに誕生祝でいただいたマント…。ボロボロにしてしまいました…」


 デルクロイは見るからに落ち込んでいた。


 俺は別に怒る事でもないと判断し、また新しいのを用意してあげる。と、約束した。


 約束したがお互いに死んでしまった。


 そんな話をレイーヌにした。レイーヌもそのことは良く覚えており、懐かしいと言っていた。

 俺からすればたった三週間ちょっと前の話である。


 そして、いいマントがないか探したが、これまたマントというもの自体が売っていない。


 もしかして、この国はマントを着ける習慣がないのだろうか…。

 レイーヌもそこに気が付いたようで、オズオズとそのことを伝えてきた。


 そもそも夏場にマントは置いていない…。


 夏らしい着るもの。と、言えば浴衣だとレイーヌは言っていた。


 浴衣…浴衣…ん?甚平?


 これなら買えない値段ではない。


 デルクロイも一応今はこの国の民であるため、この国の民族衣装でいいだろう。

 そんな安直な考えでデルクロイへのお礼は決まった。浴衣コーナーにある甚平だ。



 その後、昼食を食べ、映画を見て、レイーヌに何かプレゼントと思ったが、金があんまりなかったので、小さな髪飾りを買ってあげた。


 しかし、映画というものはすごかったな。

 要は記録してある劇。映像で鑑賞することができたが、中で行われている爆発はCGという作り物を駆使したものらしい。

 巨大ロボットものの実写映画。レイーヌが見たいと言っていた。

 記憶が戻る前のレイーヌはこういうものに興味はなかったが、記憶が戻った後、興味を持ち出したらしい。


 あの巨大ロボットは空想の物らしいが、映画の中での兵士が持っていた銃についてはこの世界にもあるようだった 。


 文明レベルが高いと思ったが、あれほど強力な重火器を保有しているとは…。この世界もなかなか侮れない。


 約束の時間の18時。そこには間島が既に待機していた。


 くぅぅ…。楽しい時間は短いものだ。


 俺達は名残惜しみつつそこで別れてそれぞれの帰路へとついた。




 そして、俺は家について夕食、風呂等済ませた後、自分のベッドに腰をかけていた。


 今世のレイーヌも可愛かったなぁ…。


 おっと、いかんいかん明日はスレード隊の5人で作戦会議だ。早く休むとしよう…。


チリリリリリリン!チリリリリリリン!


 ん?携帯がなっている。

 なんだろう。ここ最近就寝前に連絡が来る事が多い。


 携帯の表示には、非通知のみで名前が表記されていなかった。


 誰だろう?


 鳴り続けているので、一応出て見る。


「はい。もしもし、竜生ですが…」

「<おい、今すぐ学校近くの公園まで一人でこい!>」

 と、電話の向こうでいきなり命令してきた。


 どこのだよ!ってかお前誰だよ!


「<30分後な!>」


 そう言うと、一方的に切られてしまった。

 いったい何なんだよ…。


 非通知なので再度電話をかけようにもできない…。

 どちらにせよ誰だかわからないが非常識すぎるだろ…。




 俺は寝る事にした。





 そして次の日、レイーヌを加えての今後のスレード隊の方針を決める打ち合わせの日となった。


 それぞれが指定されたデルクロイの住所へと足を運んだ。


 ミューイはこの会議に参加するため、デルクロイに海へ行ったとき、ホテルを用意してくれたお礼をする。という 名目で来るらしい。

 あまり大人数で行っても仕方が無いので、ミューイが代表で行く。と隆、達也、美菜、彩の4人に言ったらしい。

 これから会議を定期的に行いたいのだが、毎回ミューイは一人で行く理由を考えなくてはならないのだろうか…。


 そして、たまたま今日話し合いが行われる場がある建物の前で会ったミューイとグリゼアとグリゼアの息子一之と一緒にデルクロイが用意した部屋へと向かった。


 廊下を歩いていると、部屋から出てきた中学生位の男女が、会話をしながらこちらへ歩いてきた。


 別に聞き耳を立てていたわけではない。

 だが、その単語が耳に入ってしまった。


「やはり最高位の闇の魔術は習得できぬか…」

 と、男の子がすれ違いざまにそう言った。

「失敗してもそれなりのリスクがある。無理に習得せず、対抗できる光の魔術を覚えていけばいいだろう」

 と、今度は女の子が言っていた。


 魔術?魔術だと!?この世界で魔術というのはお伽噺ではなかったのか?

「魔術!?」

 ミューイが言葉に出してしまった。

 はっとした表情で、ミューイは両手で口元を押さえる。

 中学生位の男女はピタッと止まってこちらを振り返って見る。


 その場に不思議な重圧感が生まれた。


「我々の会話を聞かれてしまったようだな…」

 と、男の子の方が言った。いやいや、あなた方俺達が前から来るの気づいていなったんですか?

「仕方が無い…実験途中の忘却の魔術でも使わせてもらおうか…」

 なんだと!?宮廷魔術士級の術だぞそれは!それほどの逸材がこんなところにいたとは!

「こ、こら!お前達何をやってんだ!」

 と、後ろからデルクロイの声が聞こえた。

「おぉ、デル…井野口さん、すみません…」

 危うくデルクロイと言いそうになった。

「いえいえ、竜生さんに言ったわけではなく、そこのガキ共ですよ」

 ん?そこに居る中学生か?中学生と思われる男女を指を差してみるとデルクロイは頷いた。

「こいつらは俺の息子と娘です。ほら挨拶をするんだ!」

 なんだデルクロイの子供達だったのか。

 デルクロイの子供達は訝しげな目をしながら俺達に、

「客人だったか…。我の名前は『ギルバート・フォン・ラインハルツ』であグエ!」

「「「!!??」」」

 デルクロイが俺の横をすばやく通り過ぎてギルバートという名の息子の頭を殴った。

 急にデルクロイが息子の頭を殴った事に対して驚いたが、俺はその息子の名前についても驚いた。

 聞いたことは無かったが、日本人顔にしては変わった名前だ。もしかして転生者?

 俺がそう思っていると、

「いえ、竜生さんが思っていることと多分違いますから!」

 と、デルクロイは慌てていた。

 え?転生者じゃないの?

「クゥっ!何をする!」

 ギルバートが殴られた箇所を擦りながらデルクロイに文句を言うと、更にデルクロイの拳がギルバートの頭部に降りかかった。

「グエ!」

 ほら。ギルバートから出ちゃいけない声が出ているよ。

 ってか、別に態度とか気にしていないよ?俺、前田 竜生は今世の人たちから見たら貴族じゃないから…。

 グリゼアもそうだが、自分の子供達の道を俺に仕えさせようと決めようとしている気がする。

 ちょっとこれは後の議題にしなくてはならないな…。

「ふざけてないでちゃんと名乗れ!」

「うぅ…」

 ギルバートは改めて、

「『井野口いのぐち 啓太けいた』です…」

 と、名乗った。え?ギルバートじゃないの!?

 なんだか混乱してきたぞ!なんで偽名を使う必要があるんだ!?


「ほら、お前も」

 と、デルクロイは次に娘を急かす。

「常闇のプリンセスに名前などという概念は…」

 娘の頭の上に拳を作るデルクロイ。

「ひぃ!『瑠奈るな』って名前!!」

 娘の方も自分の名前を名乗った。

「まったく、こいつらは…」

 デルクロイは頭を抱えため息をついていた。偽名や名を名乗りたくないというのは何かよっぽどの事情があるのだろうか。

 今世のデルクロイ家の闇は深いのか…?


「まぁまぁデルクロイ、そのへんで…。申し遅れたね俺の名前は前田 竜生だ」


 こうして一通り自己紹介を終えた頃にはレイーヌも合流していた。

 レイーヌにはミューイが現状を伝えている。


「井野口さんには普段からお世話になっていてね…。今日はそのお礼に伺ったんだが、いい事を知った」

「ん?なんの事です竜生坊ちゃん?」

 俺の言葉に?マークを頭に浮かべるデルクロイ。

「いやぁ、魔術を使える人材を育てていたとは…。驚いたぞ!この世界には魔術は空想のものと思われているらしいからな…」

「ちょっと!坊ちゃん!?」

 デルクロイは慌てて口元に人差し指を立て、シーシーと言っている。

 ん?どうしたんだ。あれ?レイーヌやミューイ、グリゼアも難しい顔をしているぞ。

「なんと!まさかお主も魔法を使えるのか!?」

 と、ギルバート…ではなく、啓太が言った。

「あぁ、あんまり得意ではないがね。ほら」

 そう言って俺は手のひらに炎を出した。


 その瞬間。その場の空気が凍りついた。


 あれ?俺、氷系の魔術使ってないし、時間操作系の魔術は使えないぞ?

 啓太となんとかのプリンセス瑠奈は口をパクパクしている。

 あれれ?デルクロイが頭を抱えてしまった。

 おや?一之が目をキラキラさせて俺を見ているぞ?大丈夫、お父さんもこのぐらいできるはずだから後で見せてもらえばいいよ。


 あれ?なんだこの空気。なぜ皆しゃべらない…。






 俺は今デルクロイが用意した部屋に居る。


 メンバーは俺、レイーヌ、デルクロイ、ミューイ、グリゼア、グリゼアの息子一之、デルクロイの息子と娘の啓太 と瑠奈だ。


 やっちまったぁぁぁぁあああ!


 やってしまった!俺は重大なミスをしてしまった。


 指摘されるまでミスに気が付かなかった。


 あの後すぐにデルクロイに俺とデルクロイの子供達を引き離され、デルクロイにいろいろ情報をもらった。


 デルクロイの子供だからといって無条件に信用してしまった!


 いや、俺が悪いんだ…。デルクロイの子供達は何も悪くない。


 結論から言おう。

 デルクロイの子供達は魔術なんて使えない。この世界の一般的な常識の中に生きている普通の子供らしい。

 ………。いや、違う。デルクロイの子供達は普通とはちょっと違うみたいだ。


 どうやら最初に息子の啓太が中学生になったあたりから言動がおかしくなり始め、自分は魔法を使えるやら自分の名前はギルバートなんちゃらとか言い始めたらしい。

 次に娘が同じ中学に入学した。

 最初のうちはよかったのだが、だんだんと言動が兄に似てきたらしい。そして今では立派な兄と同類に…。


 最初デルクロイも自分と同じ転生者と思ったらしい。

 自分も転生者ということは隠しつつ、それとなく聞いてみた。


 だが、息子と娘は支離滅裂な事を言うばかり。大した情報はなかった。


 学校でも同じような言動をしているらしかったので、他の家の親御さんにも相談して見たが、ここで驚愕の事実が発覚する。

 息子や娘だけではなく、デルクロイが通っている中学校でこのような言動が流行しているらしい。


 最初にそれを聞いたときはもしかしたら俺もその中に混じっているのではないか。もしくは自分と同じ境遇の人間が居るのではないか。と思ったが、他の家の親御さんに話を詳しく聞くうちにその希望は無駄なものだと悟った。


 どうやら子供達がやっていることは『遊び』だったようだ。


 最初親の一部から『中二病』という言葉を聞いた時は重い病なのかと心配したが、どうもそういうものではないらしい。

 精神疾患とかという類でもないらしい。

 デルクロイには到底理解できない領域であった。

 何せ自分の前世にも今世にもこういった類の遊びは無かったのだ。


 そりゃ前世で幼い頃は騎士ごっこをした。今世ではヒーローごっこをした。

 そういう記憶はある。だが、13からこのような遊びをする子供達に驚きを隠せなかった。

 いくらごっことはいえ、年齢も重ね知識もそれなりにもっているので、彼らの一つ一つのセリフがよく考えられている。

 しかし、一般では殆ど使用しない言葉や話し方のため、それが遊びであることはすぐに理解できた。

 息子と娘のその言動はまるでテレビに出てきたキャラクターのようであった。


 と、まぁデルクロイはそのような苦労をしながら子育てをしているという話だった。

 問題は先ほどの俺の行為である。彼ら中二病患者が一応妄想の中で楽しんでいた魔術を本当に使ってしまった。


 完全に彼らの中二病を悪化させる原因となった。


 最初は目の前の出来事を信じられなくただ呆けていた二人は一転、尊敬の眼差しを俺に向けて詰め寄ってきていた


 そんなわけでこんな状況、人目についたらまずいので、ひとまず俺達はデルクロイが用意した部屋に集まっていた。


「どうやったんですか!?師匠!」

 おいおい啓太君。いつ俺があなたの師匠になったんだい?

「マスター。魔術の使い方の伝授を!」

 誰がマスターだ!瑠奈ちゃんも何を言い出すんだ!

「こら!お前達、あんなのマジックに決まってるだろう!お前達とちょっと遊んでやっただけだ!竜生さんに感謝するのはいいが、迷惑かけるんじゃない!」

 デルクロイの一言でしぶしぶ部屋から出て行く二人。肩を落として出て行く姿をみると何か可哀想だ。


「坊ちゃま。うかつすぎますよ…」

 啓太と瑠奈が去った後、グリゼアからお叱りを受けてしまった。

「まぁ、最初は俺も混乱しちまいましたからねぇ。人のこと言えないというかなんというか…」

 デルクロイはそう言いつつため息をついた。本当に申し訳ない。

「うぅん。でも、隊長の今世の記憶と前世の記憶が切り離されているってかなり問題だって今気がつきました」

 と、ミューイは言った。

 確かにミューイの言うとおりである。

 実は既に全員には俺の特殊な記憶状態の事は伝えてある。


 竜生とオーヴェンス人格が微妙に分かれているという点。その結果知っている情報に偏りがあるということ。


 他のスレード隊メンバーはこんな状態ではない。ちゃんと一つの人格だ。


 認識の齟齬により、俺はこの国、この世界は魔法を使える者が使えても使える事を秘匿している世界と思っている。

 なぜならば、俺自身が今世の体でも使用できるからだ。

 魔力の枯渇を感じる事も無い。完全に使った分は時間が経つにつれ回復をしている。


 つまりこの体は、魔法を使う事に何の問題が無いのだ。

 しまった。オーヴェンスの意識になる前に竜生は魔術を使用できていたか聞いた事がなかった。

 今まで人間関係や人探しでいっぱいいっぱいだったからなぁ。

 俺の中でようやくほんの少しだけ余裕が出てきた感じだ。

「このような事、あまり提案したくはないのですが、隊長にはこの世界の常識を学んでいただく。のはどうでしょう?」

 レイーヌからきつい提案をいただく。

 今の俺、周りから言わせれば常識知らずだな。

 上級貴族であり優秀なBW部隊スレード隊の隊長として情けない。もうプライドはズタズタだ。

「そうだな…。そうしてもらえると助かる」

「「「……」」」

 あぁ、皆目を伏せてしまった。きっと俺の表情見たからだろう。俺、今にも泣きそうな顔していると思う。



「あ!それより、デルクロイに渡すものがあるのでした」

 と、レイーヌはそう言って手を叩いて俺を見た。

「そ、そうだった。一昨日の件でデルクロイに礼をと思ってな…これ」

 そう言って俺は持ってきた紙袋から浴衣が入った箱を取り出す。

 必死に声を絞り出したぞ!もう涙が出てきそうだ。


「え?えぇ!?そんな!坊ちゃんいいのに!」


 デルクロイは慌てて首を振っている。

 よし、話題を変えることに成功!


「いやいや、ここに来る前、デルクロイは俺が送ったマントを駄目にして結構気にしていたようだし、今回はレイー ヌと一緒に選んで買ったものだが、受け取って欲しい。マントではないがな」

「そんな…!うぅ…大事にします!」

 デルクロイは泣きながら受け取ってくれた。


 その後、時間の許す限り今後の予定と俺に対する常識学習をした。


 もう竜生と記憶を統合したい…。



 今後の予定は特に変更は無い。デルクロイとグリゼアにスレード隊ホイホイをしてもらうのだ。

 後4人。後4人を見つけるため、今後各自で案を出し合っていこう。そういう話になり、本日は終了した。


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