第14話 海での再会
そして終業式が終わり、夏休みが始まった。
あれからグリゼアのところには相変わらずスレード隊のメンバーは集まっておらず、デルクロイも把握していないそうだった。
そして、今回遊びに集まったのは俺、隆、達也、ミューイ、美菜、彩、グリゼア、グリゼアの息子一之である。
俺とミューイ以外ではグリゼア親子を知らないので、俺の親戚で今回の引率という事にしておいた。
「初めまして!私は外岡美菜っていいまーす!呼ぶ時は美菜でいいですよ!」
美菜は元気がいいタイプだ。髪は短くスポーツをやっている感じだ。と思ったらやはり運動部に所属しているらしく、陸上部らしい。
「どうも…。花田彩といいます。彩でいいです」
彩は手芸部所属のメガネ女子であった。髪は肩位の長さで、大人しそうな印象である。
「先輩が春香を助けたっていう人?」
と、彩が俺に近寄り話しかけてきた。俺をジロジロと見ている。
「へぇ、春香はああいうのが好みなんだ」
美菜がミューイを肘でつつき、ニヤつきながら言った。
「ちょっ、違うって!そんな事言ってたら殺される!!」
「え…。優しそうな人に見えるんだけど…」
「竜生さんにじゃないよぉぉ…」
殺されるという発言で美菜は驚いていた。ミューイ、殺されるって誰にだい?レイーヌかい?レイーヌはそんなおフザケの会話で怒ったりしないと思うよ。
…。
…多分!
そういうわけでそれぞれ海で遊びを満喫した。
他にもこのビーチに遊びに来ている者は沢山居て、様々なイベントも催されている。
グリゼア親子は子供とビーチパラソルの下で砂のお城作りをしている。
グリゼアはあくまで直前まで護衛をしようとしていたが、俺がやんわりと断っている。
息子の一之も楽しそうである。
無理も無い。今まで辛い目に遭ってきたのだろう。たまにはお母さんと思いっきり遊んで、これから楽しい思い出を作っていけばいい。
そして俺はというと、隆、達也及び女子達と「びーちばれー」というのをやっていた。
チーム分けは、
・俺と美菜と彩。
そして、
隆、達也とミューイ。
公平にじゃんけんで決まった。
おや?隆がこちらを恨めしそうにみているぞ。おかしいな。戦力的にはそちらの方が有利なのに…。ん?俺を見ているのか?
「女子二人に囲まれやがって…」
隆が何か言った…。なるほど、それが羨ましいというのか…。確かに美菜と彩は美女だからなぁ。だが、安心して欲しい俺はレイーヌを諦めたわけではない。したがって後ろの二人にやましい思いは一切ないのだ。
と、いうかお前はミューイの事が好きなんじゃないのか!?
「チッ。涼しい顔しやがって!」
隆が暴言を吐いてくる。なんなんだよ。
「よっろしくぅ~」
「よろしくお願いします。先輩」
と、美菜と彩が挨拶をしてくる。
「あぁ。こっちこそよろしくお願いするよ。美菜ちゃんと彩ちゃん」
俺がそう挨拶を返すと、隆が地団太を踏んでいた。
おーい、隆。後ろでミューイと達也がお前を白い目で見ているぞ。
組み分け終了後、俺達はそれぞれコートに移動して試合開始の合図を待つ。
俺をにらみつけている隆の瞳には炎が宿っている。なんでだよ。公平にじゃんけんだっただろ?
そして試合開始になった。
審判など居ないため、先行となった達也チームがサーブを打つ。
俺がそれを止めて高く打ち上げる。
俺が高く上げたボールを美菜が強烈な打撃を加え…ってあれ?俺そういえばこのスポーツのルール知らない…。
え?ただ飛んできたボールを落とさないように高く上げたんだけど大丈夫なの?
そんな事を思っているうちに隆が美菜のボールを打ち上げ、ミューイがそれを再度やさしく打ち上げ、達也が強烈な一撃を俺に向けて放つ!
か、体が勝手に動く!?
俺は達也のボールをブロックした。
おぉ。ボールは相手のコート内でバウンドし、隆が悔しそうにしている。
これで一点入ったのか?
知らないスポーツのルールをなぜか体が覚えている…。というか、記憶の片隅にあるようだ。
やはり竜生が言っていた通り、竜生の意識が混ざりつつあるのだろう。
足りない知識は多々あるが、それでも最近この世界のルールについて分かってきた事はある。
夢の中の竜生や犬のレイーヌはこれからどうなるのだろう。
そんな事を考えながら俺は隆が打ってきたボールを打ち返す。
「先輩すごい!」
という声が美菜から発せられた。その声で再び隆の顔が険しくなる。
え?もしかしてこの競技を続けるとずっと隆からあの視線を浴びせ続けられるのか?
勘弁してほしい…。
そんな事で、「びーちばれー」なるスポーツは終了した。
なるほど、ビーチで行うバレーだからビーチバレー。
では海の中で別の客がやっている海の中でやっているバレーっぽいものはウォーターバレーかシーバレーだろうか。
俺達はバレーが終わった後海へ入って泳ぎ、今は砂浜へ戻って食料調達に動いている。
女性グループはビーチパラソルの中で休憩中だ。
ちなみにビーチパラソルはレンタルだ。こんな大きい傘がレンタルショップに大量に置いてあったのには驚いた。レンタルと言えばこのビーチへ来た移動手段もレンタカーである。
運転はグリゼアだ。流石というべきか、前世では指揮車を運転していただけはある。
この世界の中型の車を簡単に扱っている。
と、思っていたら、今世の君山 佳奈美は免許を取っていたらしい。その感覚がグリゼアにあるのだという。
話は戻って現在は食糧調達をしているわけであり、達也はどうしてもたこ焼きが食べたいとのことで、たこ焼き屋の列に並んでいる。
さて、俺と隆はそれぞれ何を買うか…。飲み物はクーラーボックスに入れてあるからいいとして…。
「お好み焼き、焼きそば、フランクフルト。牛串…」
と、一人でブツブツ料理名を言っている隆。
「氷…。氷!?」
俺は一つの旗を見つける。
なんと、この熱い最中に氷を売っているとでも言うのか!?
そもそも魔法が無い世界でどうやって氷を作り出し維持するというのだろう。
「おいおい、かき氷は飯じゃないぞ。食べたい気持ちは分かるけどさぁ」
と、すっかりビーチバレーからの機嫌が直った隆は呆れ顔をしながら俺に言った。
「んじゃ、俺ここの牛串のところに並ぶわ。竜生は別の屋台に行ってきてくれ。買ってくるものは竜生のセンスに任せる!」
なるほど、任されたのはいいが、この世界で好まれる食べ物とはなんなんだろうな…。
う~む。とうもろこし、イカ焼き、ラムネ…。ラムネは食べ物では無い気がする。
お!焼きそばというものがあった。確か隆が呟いていた中にあった料理名だ。うむ。あそこに並ぼう。
そうして俺は焼きそばの屋台に並んだ。
幸い並んでいた人数が少なかった為、早く手に入りそうだ。
「ん?」
俺の背中が誰かにぶつかった。
ふつかったというよりかは俺は止まっていたので誰かがぶつかってきたのだが…。
「あぁ…!ごめんなさい」
と、後ろに居た水着に白い上着、麦藁帽子という格好をした俺と同じ年位の女性がいた。
顔が上がったので見ると、かなりの美人であった。いや、レイーヌの事が一番だよ?目の前の美人にうつつを抜かしてなんかいないよ?でもすごい美人だぁ。
「お嬢様ぁ~」
後ろから声が聞こえる。
「ま、まずい!すみません。匿って下さい!」
と、突如見知らぬ美人から助けを求められた。
「今捕まりたくないのです。もう少しここで遊びたくて…」
うぅん。見るからに御屋敷を飛び出してきたお嬢様って感じか…。助けるか?うぅん。
「お、お願いします!」
そう言われてもねぇ…。
とりあえず目の前の美人さんがかぶっていた麦わら帽子をひょいっと持ち上げ、俺の頭に被せる。そして、
「パーカーの下、水着だよね?だったらそれ脱げばバレないんじゃない?」
と言ってみた。
「な、なるほど!」
そう言ってパーカーを脱いで目の前で畳んで声がする方を後ろにして涼しい顔をする。
俺はその子の後ろに立って見えないようにする。すると、
「まったく、どこへ行ったんだ?お嬢様ぁぁー」
と、この子を探しているのだろう。ラフな格好の若い男性は通り過ぎて行った。
「…」
「…」
「ふぅ。行ったようですね…」
その女性は一息つきそう言った。
「ありがとうございます」
グー
女性のお腹はお礼と共に鳴った。
「あの…何か食べます?」
ひとまずそう言って俺は恥ずかしそうに顔を真っ赤にして俯いている女性の分の焼きそばも買ってあげた。
「あの、ありがとうございます。お食事まで頂いて…」
と、申し訳なさそうに言った女性。
「あ、私…『神埼 麗華』と申します」
「ん?あぁ。俺の名前は…『前田 竜生』といいます」
「あら、竜がお名前の中にあるんですね?かっこいいですねぇ」
「そ、そうか?」
まさか美女にそんなことを言われるとは思わなかった。
今は俺達は落ち着いて食事ができるように皆が待っている場所へと向かっていた。
「ほら、あそこですよ」
俺がそう言って指差す方向には既に全員集合していて女子達が手を振っている。
ん?隆がなにか驚いた表情で俺を見ているぞ?いや、全員か?
近づいてみると、
「お、おい竜生!な、ナンパしてたんか??」
と、隆が変な顔で俺に言った。
「いやいや、ナンパなんてしてないぞ」
「う、嘘つけ!ってかあんな美人どこから…」
おぉう。隆怖いよ?
「違います!私はこちらの方に助けて頂いただけなんです」
と、麗華が俺をフォローしてくれる。
「あ~そうなんですかぁ~。いや~女性を助けるのは男として当然ですからねぇ。ぐへへ」
隆はなんでそんなにいやらしい顔を浮かべるんだい?
皆にどういう状況で神埼 麗華を助けたのか。という話をしたところなんともいえない表情をしていた。
うん。まぁ、そういう反応になるよね…。俺も本当に助けても良かったか分からないもん。
炎天下の中、あの若い従者は今頃浜辺で必死になって麗華さんを探しているんだろうな…。
「まったく、酷いんですよ!私は嫌だというのに会ったことも無い人を婚約者として勝手に決めて紹介させようだなんて…。今日は海に行こうなんて珍しく父が言ったのですが、こういう魂胆があっただなんて…。まったくもう!」
と、麗華はかわいらしく頬を膨らませて怒っていた。いや、レイーヌこれは違う。一般的にみてかわいいという意味な!と、俺はその場に居ない人物に対して必死に言い訳をする。
「でも、会った事無いんでしょ?」
と、美菜が言った。女性陣は恋話に夢中である。
「それはそうですけど…。会ったことが無い人を突然お前の婚約者だ!なんて嫌ではありません?」
麗華が言う事は少し分かるかもしれない。不安なのだろう。
俺とレイーヌの場合は幼いころから一緒に過ごし、互いの父親同士が俺達が仲良くしている姿をみて婚約者にして問題無い。と決めたらしいからな。
「それに私はちゃーんと好きな人がいるんです。私はその人ともう会えないと決まったわけでは無いんですからね!」
おぉ。麗華はどうやら同士らしい。
「会えないっていう事は、外国にいるの?その好きな人」
と、今度は彩が聞いてきた。
「そうですね…外国…に居ます。遠い、遠い国です…」
うわぁ。すっごく気持ちが分かる。
「応援するよ!その恋!」
と、俺は思わず言ってしまった。皆が一斉に俺の方を向く。え?なに?
「おぉぉ。前から熱い男だとは思ったが、ここまで熱いとは…」
そう言って達也は驚いている。
「ってか、竜生。お前麗華さんを応援したとしても麗華さんがお前のこと好きになるわけじゃないんだぞ!虚しいだけだぞ!」
と、隆は小声で俺に言ってきた。
「いやいや具体的に何をするって分けじゃないけどさ。その気持ち俺にもわかるし。ってか、俺にはちゃんと好きな人がいるんだぞ!」
と、弁解しておく。
「この前もそれ言ってたけど、誰なんだよ。前の学校の人ってわけじゃ無さそうなんだよなぁ」
隆はこの前俺と二人で話した事を覚えていたらしい。頭をひねって考えている。ってか、知ってどうすんだよ。
「嘘じゃないぞ!俺にはちゃんと婚約者が居るんだ!」
と、俺はついついそんな事を言ってしまった。
「ブホッ!婚約者!?」
達也が飲んでいたジュースを吹きこぼしながら驚いていた。隆も唖然とした表情をしている。
何だよ!居ちゃ悪いかよ!と、思っていると、ミューイとグリゼアがアチャーと顔をしていた。え?なに?言っちゃ駄目だったなの?
ミューイは溜息をつきつつお茶を飲み始めた。
え~。何なんだよぉ…。俺が不安になっていると、
「あら?あなたも婚約者と離れ離れになってしまったのですか?」
と、麗華が聞いてきた。
あれ?今麗華は変なこと言わなかったか?
「ブホッ?ちょっと待って麗華さん!?婚約者居るのに別の婚約者紹介されようとしているの!?」
春香が思わず飲んでいたお茶を吹き出しかけながら言った。兄妹揃って何やってんだか…。
「あら?しまった。うぅん。今言った事は忘れてほしいんですが、つまりはそういうことです」
麗華がそう言って肯定した。とんでもないな日本の婚約文化。複数の婚約が有りなのか。
「まぁ、父は悪くは無いんですけどね…はぁ…」
麗華が肩を落としてしまった。
「その…最初のと言っていいのかわからないけど、婚約者さんってどんな人なの?」
と、美菜の発言で恋話が再開した。
「うふふ。かっこいい人ですよ!文武両道、成績優秀。剣の腕もなかなか。知性あふれて最新鋭の兵器も扱える人ですよ」
「へ、兵器?海外の人はやっぱ違うな…」
何を落ち込んでいるんだ隆。軍に入れば兵器を扱う事なんて当たり前だぞ?
「へー最新鋭の兵器って何?」
そういう事に興味があるのか、今度は達也が聞いてきた。
「ふっふっふ。どこの国とは言いませんが、ロボットです!」
「「「ロボット!?」」」
まぁ、一般人は驚くよな。リール連邦でもBWが浸透してきても一般人にはかなり驚かれたからな。
「あぁ…かっこよかったなぁ。あの方の勇士。もう一度この目で見たい…」
麗華が思い出にふけってしまった。ロボットか…。この世界にもあるんだな。
「その人の名前ってなあに?もしかしたらそんなにすごい人ならばネットに載っているかもしれないよ」
と、彩が携帯を取り出して言った。
「ふふ。私も調べてみました…。ですが出ませんでした…。しかし、もしかしたら私の探し方がヘタクソだったのかも知れましれませんね。名前は…」
麗華はそう言って一呼吸して、
「『オーヴェンス・ゼルパ・スレード』といいます」
と言った。
「「「ブッホ!?」」」
今度は俺とミューイ、グリゼアの三人がそれぞれ口の中の物を吹きかけた。
他の者は何してんだこいつら。という目を向ける。
しかし、ただ一人、
「し、知っているのですか!?オーヴェンスを!?」
と、麗華は必死に俺とミューイ、グリゼアを見ながら言った。
その必死な様子をみて思い出す。話し方、仕草。あぁ…どれもあてはまるものばかりだ!
「レイーヌ…か…?」
俺は恐る恐るその名を口にする。
「え…」
一瞬麗華が固まる。そして瞳に涙を浮かべながら指を俺に差す。
「うん。わかんなかっただろうけど、『オーヴェンス』です」
「…」
「…」
俺と麗華はしばらく見つめ合う。
しばらく見つめ合ったあと、麗華の瞳から一筋の涙がこぼれた。
「う…うわぁぁぁん!」
麗華…いやレイーヌは泣きながら俺に抱きついた。水着の状態で!




