第12話 いきなり二人も発見
「デルクロイ?デルクロイ・ダージンバーか!?あぁ、俺だ!オーヴェンスだ!え?なんで!?」
俺の感情はうれしさと興奮が入り混じっていた。
あれ?ミューイはグリゼアを探しに行ってデルクロイを見つけたのか?すごいなミューイ。
「<とにかく会いましょう!坊ちゃんとミューイと分かれた場所に行きます!グリゼアは子守があるので話だけしておいてアパートに待ってもらいますから!>」
デルクロイがそう提案してきたので、俺は了承し、早速駆け足で指定された場所へ向かった。
え?グリゼアがいる場所も知っているのか!?
慌てて集合場所へと行くと、既にミューイと一緒に見知らぬ中年大男が居た。
誰だとは言わない。目の前の中年大男こそデルクロイだ。
子供の頃俺に剣術や魔術を教えてくれた師匠でもあり遊び相手であった大柄中年デルクロイ・ダージンバーだ!
体格が一緒であったため判断が付きやすい。今世でも筋骨隆々の大男だ。
「オーヴェンス坊ちゃん!」
中年大男はそう大声を上げると俺のところへ駆け寄ってきて両手を俺の背中に回して抱き締めた。
懐かしいな…、この感じ…。この貧弱な体にとってはとっても痛いよデルクロイ…。
「あぁあ…!もう二度と会えないと思っていましたぞ!坊ちゃん!」
あぁ…そしてもうさようならかもしれない…。
「このデルクロイ・ダージンバー。前世の記憶に気付いてから坊ちゃんの事を忘れたことは一時もありませぬ!」
あぁ…。俺も毎日気にかけていたよ…。そしてさようなら…。
「デルクロイさん!デルクロイさん!隊長死んじゃいます!」
「お?おっと、まずい。すいません坊ちゃん」
ミューイのおかげで俺は生き延びることができた。ミューイには感謝だな。そしてデルクロイは満面の笑みだ。俺を殺しかけたというのに随分うれしそうじゃないか。え?デルクロイ。
「へへっ。すいません、久々すぎて力の加減が分かりませんでした」
「ゴホッゴホッ!う、うん…大丈夫…。お、お互い元気な姿が見えてよかった。と、いうかよくミューイを発見できたな?もしかしてデルクロイも昨日のニュースを見て?」
「いやいや、グリゼアがお茶の間の皆さんに前世の本名伝える前から俺は彼女のことしってましたよ」
「なんだと!?」
「あっはっは。まぁ、こんな所でこの話は止めときましょう。ひとまず、グリゼアの家へ行ってからお話しするってことでどうでしょう?」
「うむ…。それもそうだな」
確かに天下の往来で転生やら前世の話をしていたらこの世界の住人に通報されてしまうだろう。
グリゼアの家へ行く途中、デルクロイとは今世で自分の身に起きた話をいろいろした。
まず彼は、俺があのいじめ問題でいじめられていた側の人間であり、解決した人物ということに驚いていた。そしてブチギレていた。
「そいつら絶対殺す!」
とか言っています。
グリゼアの家に着いてからこの話をするべきだったと今は反省している。
その後、デルクロイを落ち着かせ当たり障りの無い雑談をしているうちにグリゼアが住むというアパートへ俺達は着いた。
携帯電話に保存してあるモザイクがかかっている画像と見比べてみると、全然違う場所だった。
インターネットにあった画像は二階建て木造アパート。今目の前にあるアパートは三階建て。どちらかといえば近代的な作りでおそらく鉄筋コンクリートだ。
引越しをしたのだろうか…。
デルクロイに案内され、俺達は2階の部屋へと移動した。
デルクロイがインターホンを鳴らす。
緊張する。
デルクロイの時は突然だったため、緊張する暇はなかったが、こうして相手の正体というか前世が分かっている状態で会うのは初めてである。
ガチャ。
ドアノブを回す音がした。
扉が押し開かれ、徐々に住人の顔が見えてきた。
「はい…!もしかして…!オーヴェンスさ…ま…?」
既に目には涙を浮かばせている女性がそこに居た。
「そうだよ、グリゼア。久しぶりだね」
俺がそうはにかみながら答えると、
「坊ちゃま!」
と、グリゼアはデルクロイと全く同じ反応で俺を抱き締めた。
だが、デルクロイとは違い殺人的なパワーではない。
俺は優しくグリゼアの頭を撫でた。
さて、そういうわけでここはグリゼアとグリゼアの息子が住む部屋の中である。
部屋数は5部屋と多く、物置部屋もある。
物件的にはかなりいい方だろう。月額を聞くのが怖い。
「ままー。このひとたちだぁれ?」
トトトと、俺に近寄ってきて指を差してくる男の子。この子が今世のグリゼアの子か。
「こ、こら!坊ちゃまを指差すんじゃありません!この方はオーヴェンス・ゼルパ・スレード。我ら一族が命に代えてお守りする主ですよ!」
ちょっと待って、その紹介はまずいんじゃないかな?
「グリゼア殿、今世の者にそう言っても無理があるのではないか?」
と、デルクロイが言った。
「む?し、しかし!」
「グリゼア。魂はオーヴェンスだが、この体は今世の者。今俺は『前田 竜生』という名前がついている」
と、俺も言った。
「あ、私『森澤 春香』って名前になっています!」
ミューイも続けて言った。
「む…むむぅ…」
うん。混乱してしまうよね…。仕方が無いよ。
「し、しかし。私は坊ちゃまにお仕えすると魂まで忠誠を誓った身。オーヴェンス様が記憶を取り戻していないならばまだしも、前世の記憶があるのであれば…」
う~ん、確かに難しいな。こういう場合はどうすればいいのだろう?チラッとデルクロイを見ると、
「私も坊ちゃまに忠誠を誓った身。私は坊ちゃまに仕えるつもりですぞ?」
と、俺の考えがわかったのかそう言ってくる。
あれ?今世も忠誠を誓うのか??
それでいいのか分からないが…うん。せっかく出会ったのに不安な気持ちにさせてしまうのも忍びない。
「分かった。負担にならないように仕えてくれればいい。ただ、前世とは状況が違うからよそ様の前でそういう態度は止めような?」
「は、はい!坊ちゃま!」
と、うれしそうにグリゼアは言った。
「では、我々が現在置かれている状況と、ちょっとした身の上話から話していくか…」
俺はそう言って、最初に俺が前田 竜生の体でオーヴェンスの記憶を取り戻した時から話していく。
「な、なんという不届き者!」
と、グリゼアは怒っていた。
デルクロイも今度は静かに怒っているようだった。
続いてミューイの話。ミューイも前世の記憶を取り戻してからまだ日が浅い。比較的平和に過ごしていたこともあり、あまり話すことはなかった。
続いてデルクロイの話である。
驚いたことにデルクロイが覚醒したのは2年前であった。
ミューイと同様に二つの記憶がある状態からスタートして、数日混乱していたが何とか自力で立ち直ったらしい。
デルクロイの今世の名前は『井野口 正嗣』というらしい。
15歳になる息子と14歳の娘が居るらしい。
なんとこの井野口 正嗣という人物。かなりの資産家であり、貸し物件をこのアパートを含め5つもっており、近くの工場や大手ショッピングセンターへ土地も貸している。
つまり不労所得が大量に入り込んでくるのだ。
続いてグリゼア。
グリゼアは4ヶ月半前に覚醒した。
きっかけは元旦那からの暴力らしい。
頭を殴られたところで前世の記憶が蘇り、そのままもう一発殴られそうになったところを軽く受け流して返り討ちにした。
妻がいきなり豹変したことに驚いた旦那は一目散でアパートを飛び出したとのこと。
グリゼアはやはり当初現在の記憶と過去の記憶の両方に悩まされたらしい。
ってか、俺みたいに今世と前世で人格をそれぞれ持っていることの方が異常なのか?
まぁ、とにかくグリゼアの方は3日で精神を平常状態まで回復させた。
当初子育てに心配していたグリゼアだったが、ここは君山 佳奈美の記憶が役立ち、子供を保育園へ送り迎え、料理、洗濯等の家事は全てそつなくこなせた。
家事の間。君山 佳奈美の夫(当時)であった『君山 一樹』が再度襲撃に来た際、対抗できるように体を鍛えたらしい。
短期間でかなりの体力をつけるために特訓をしたとのことだ。君山 一樹という存在がいかに佳奈美の体に恐怖を植えつけていたのか分かったとグリゼアは言っていた。
こうして見ると人格はグリゼアの方が勝ったらしい。ミューイが前世と今世の性格が殆ど変わらないところを見ると、こういう情報は新鮮だ。
話は戻り、佳奈美が体力をつけるために特訓を開始してから1ヵ月半。どこからかき集めたか君山 一樹は複数の男を連れ、佳奈美に復讐に来た。
だが、佳奈美も以前とは違い実力も上がった。伊達に1ヵ月半戦闘訓練をしていたわけではない。
しかも軍隊形式の戦闘訓練だ。
結果は男女の違いや人数の違いも会ったが、グリゼアが圧勝してしまった。
狭いアパートの通路で戦闘が行われたため、基本一対一で戦闘が可能だった点や、男達が喧嘩だけ強いただの一般人だったことが幸いだったとされる。
ただし、グリゼアもかなり派手に暴れたらしく、同じアパートの住人に通報され、あえなく男連中と一緒に警察まで連れて行かれた。
しかし、グリゼアはこういうことを予期していなかったわけではなく、記憶を取り戻してから旦那が出て行き自分自身で整理がついた後、病院へ行き、DVの証拠として体中の打撲痕を診察してもらってあった。
その時の診断書があったため、警察は扱いが一変し、4人の男を負傷させた怪力女からDVを受けていた妻という扱いになったらしい。
その後、見事離婚もできたらしい。
そして、グリゼア自身無傷とはいかなかったみたいで、病院へ数日間入院したらしい。
その入院先の病院でデルクロイとグリゼアは会ったらしい。
当時グリゼアが住んでいた木造アパート(俺が調べたグリゼアの前の住居)の管理人がこれまた井野口 正嗣であった。デルクロイはちょっと気になって見に行ったようなのだ。
井野口 正嗣すなわちデルクロイが君山 佳奈美を労いと同時に壊れたアパートについて確認確認をするため病院へ行った時、衝撃的な出会いをしてしまう。
その時たまたまグリゼアと一緒に居たグリゼアの息子『君山 一之』とグリゼアの会話でデルクロイが『君山 佳奈美』=『グリゼア・テューリー』であると分かり、早速自分はデルクロイ・ダージンバーと名乗り出た。
ちなみにグリゼアと息子の一之の会話だが、一之をしばらく佳奈美の両親に預けようとしたが、一之がそれを嫌がったらしい。
その時にグリゼアは一之に一言、
「いいか、一之。テューリー家の血を引くもの。いかなる状況でも主を守るため剣を握り前を見据えなければならない。今のお前にそれができるか?泣いていてばかりではお前の使命でもあるスウェード家守護は遂行できるか?」
などと、テューリー家の血も繋がっていない年端の行かぬ男の子にとんちんかんな事を言っていたらしい。
「その時はまだ混乱していたのかねぇ…」
その話を聞いて俺は横目でちらりとグリゼアを見る。
グリゼアはスッと俺から目を逸らした。
再び話は戻り、互いに状況を理解しあったデルクロイとグリゼア両名はこれからどうするかを話し合った。
話し合いの結果、グリゼアが起こした事件を利用しようと考えたのだ。
暴力に耐えかねた妻が子供を守るために覚醒し、男4人を成敗!
この事件は世間に衝撃を与えた。
マスコミはグリゼアに群がった。
病院、自宅、実家、職場。君山 佳奈美に関係があるあらゆる場所にマスコミは現れた。
裁判の判決の日までそれは我慢した。
判決はほぼ決まっていたがグリゼアは『無罪』。弁護士の費用等は全てデルクロイが出したらしい。
そしてテレビカメラに向かってあの一言。
「私はグリゼア・テューリーと呼ばれていた」
だ…。
あのおかげで精神鑑定を再度受けるかどうかのところまでいったらしい。まったく無茶をする。
この件はデルクロイにとって予期しない事態だったため、デルクロイは慌てたらしい。
結果、有名になってしまったグリゼアを匿うため、デルクロイは自分が所有アパートから別のアパートへグリゼアを移し、
「グリゼア・テューリーを知っていまーす」
という人が来れば対応しているらしい。
ミューイが来るまでいたずら目的の人物しか来ていなかったとの事。ちなみにミューイが来るまでに来たいたずら目的の奴らは、皆不審者として警察に通報させてもらったそうだ。
「まったく無茶をするな…」
と、俺は言ってため息をついた。下手をすれば病院から出られなかったかもしれないんだぞ?
「はっはっは。ですが、収穫は意外と早かったですぞ?坊ちゃん」
デルクロイはそう言って俺とミューイを見た。
まぁ、それはそうだけど。
「これは今後の収穫も期待できそうだなぁ?グリゼア」
「あぁ。感謝しているぞ!デルクロイ」
あーらまー調子に乗っちゃってるよ…。まぁ、でもこうして仲間が揃うのもうれしい。俺も二人に感謝だな。
「ありがとう。よくやってくれたな。二人とも」
俺がそう言うと、デルクロイとグリゼアは涙を流し、
「もったいないお言葉を…」
と言っていた。
なんか久しぶりに会えたので皆テンションがおかしくなっていないか?
スウェード隊は残り5人。皆無事でいてくれ…。




