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第11話 再び仲間の手がかり発見

 帰宅した後、風呂は先に兄が入っていた為、兄が出てくるまでお茶を飲みながらテレビを見ていた。


 このテレビという魔具。かなり便利な道具である。


 その日あった情報を映像付きで見ることができるのだ。


 掲示板や新聞とは違い、緊迫した現場を見ることができる。


 そういうものはインターネットでも見ることができるのだが、どこが区切りなのだろう。


 まぁ、起動するためのスイッチを入れてからパスワードを入れる等という面倒な手順をテレビはしなくてもいいので、楽と言えば楽だ。


 何気なくテレビを見る。


 この世界のそんな何気ない習慣が身に付きそうになってきた今日この頃、俺は一つの情報番組を見ていた。


 テレビでは解説の女性が事件の内容を淡々と説明していた。

「この事件の家族、一家3人の家庭でアパート暮らしだったようですが…。この家の夫という存在がかなり厄介な存在だったらしいんです」

 なんと場所が俺が住んでいる市内で起きた事件のようだ。

「夫は毎日のように妻や子供へDVを行い、妻は必死に子供をまもっていたようなんです」


 痛ましいことだな。

 ん?DVってなんだっけ?あぁ、家庭内暴力か…。いやだなぁ。


「しかし、ある日突然妻が覚醒して夫を逆に暴行したのです!」


 すごいなぁ。そんな最低夫ならばボコボコにしても問題ないだろう。

 テレビの向こうでは、解説の女性以外の出演者が、

「すごいですねぇ~」

「マジですか!?」

 などと言っている。


「ですが!夫は妻に復讐をしようとします。夫は友人3人を引き連れ、部屋に上がりこみます!」

 女性の解説に、

「うわぁ~」

「ひでぇなぁ」

 と、出演者は口をそろえて言っていた。

「ですが、ななななんと!妻のA子さんは撃退してしまいました!」

「「「な、なんだってぇぇぇ」」」


 本当にすごいなA子さん。


「殺人までは犯さなかったものの、過剰防衛ではないかと捜査当局がA子さんの身柄を確保され、今日まで裁判をしていましたが、なんと本日無罪が言い渡されました!」


 おぉ。それは良かった。

 テレビの中の出演者もワーワー喜んでいるようだ。


「ですが、彼女、少々精神的疲れてしまっているようで、本日裁判所にて『私は”グリゼア・テューリー”と呼ばれていた』言ってみたり、『もしこの名前を知る者で、私も知っている者が居たら会いに来て欲しい』と言っていたりするんですよね。なんの意味があるんでしょう」


 俺は思わずお茶を噴出してしまった。

 母は慌ててテーブルを拭いて

「どうしたの?」

 と聞いてきたが、俺はそれどころではなかった。




 まさかこんなにも短期間に見つけることができるとは思わなかった…。


 まさかスレード隊副隊長グリゼア・テューリーの名前をテレビから聞けるとは思わなかった…。



 兄の後に風呂に入った後、早速自室のインターネットで調べた。


 えぇっと…、事件が起きたのは3ヶ月前で…。


・名前は『君山きみやま 佳奈美かなみ


・年齢26歳


性別女性あたりまえか…


・既に結婚をして子供が一人。男児が生まれている


・住んでいる場所は…ここから約5km程離れた場所かな?


 細かい住所は書いていなかったが、事件の現場の画像やネットの情報である程度の場所はわかった。

 後はどうやって探すか。だ。

 幸いにも明日は休日であり、夏休みも間近である。

 土日で探すことはできなくても、夏休みで探すことはできる。


 早速ある程度の予測をしておき、ミューイに携帯電話で連絡をする。


 ミューイは自分も行くと言っていた。

 昨日隆に恋愛感情は無いと言った手前、二人で行動しては再度いらぬ誤解を与えてしまうのではないだろうか。

 俺には好きな人が他に居るとも言ってしまったので、間違いなく不信感を与えてしまうだろう。

 隠密に行動しなくてはいけない。


 そんな話をミューイにしたところ、

「そんなことをしたら私もレイーヌさんに殺されてしまいますぅ~!」

 と、声を上げていた。


 ははは。レイーヌはそんなことはしないぞ。

 任務のための恋人のふりなんてしても怒らないはずだ。


 ただ、婚約関係になっていると知っているはずなのに俺の家と関係を持ちたいと思った中流階級の貴族が、その家の娘を使って無理やり俺に迫ってきた時にレイーヌはBWに乗り込んで相手の家を物理的に潰そうとしたことはあるが…。

 止めるのが大変だったけど、レイーヌの必死な感じが可愛かったなぁ~。


 今ではいい思い出だ…。


 と、まぁその話を知っているミューイにとってはレイーヌが勘違いしたら顔面蒼白の事態になると考えたのだろう。


 レイーヌには俺からちゃんと説明すれば問題ない話しだし、というか、レイーヌは今居ないし…。


 おっと、いかんいかん。話がそれた。


 結局のところミューイが自分を助けてくれたお礼をしたいから俺に昼食を奢りたい。という名目でグリゼアの捜索をすることとなった。


 だが、一日で見つけることはできないと思うぞ…。

 何せ手がかりは大まかな地域とニュースや新聞でモザイクが入ったアパートの画像くらいだ。

 俺に奢るという名目で何日もミューイを連れまわしていると今度は隆と達也に白い目で見られてしまう。

 だが、それでも一人で探し回るよりは二人で探した方が効率はいい。という話になり、明日はグリゼア捜索をする事となった。






 次の日、グリゼア・テューリー。今世の名前でいうと君山 佳奈美の捜索が始まった。


 ミューイと駅前で合流し、5km離れた住宅街へと移動する。

 この住宅街には俺やミューイは行った事がなかった。


 実は昨晩夢の中で竜生にも聞いてみたが竜生も行った事がなかったので手伝うことはできないらしい。


 仕方がない。地道に探すか…。


 まずはニュースの画像を携帯にコピーしていたので、ミューイにデータを渡す。

 その後、ミューイと分かれて捜索をするため、互いの捜索範囲を決めることにした。付け加えて、今は夏なので、水分補給をしっかり行うように。とも伝えておいた。


 捜索終了後は電話にて連絡。


 これを今日または明日も同様に行う。


 そんな感じだ。


 グリゼアが引っ越してしまった可能性はあるが、同じアパートの住人に聞いてみればもしかしたらわかるかもしれない。


 そもそもグリゼアは前世の名前をテレビカメラの前で言ったのだ。明らかに俺達スレード隊に向けてのメッセージだろう。わざわざ自分の住む場所がわからなくなるようなことはしないはずだ。


 そんなわけで俺は今一人でグリゼアが住んでいると思われるアパートの捜索中だ。

 とにかく今はしらみつぶしに探していくしかない。


 大変なことかもしれないがこれはかなり運がいい出来事だと俺は考えている。


 何せもしスレード隊のメンバーが生きていたとしてもこれから先何年かけて捜索すればいいのかわからない話だったからだ。

 下手をすれば一生互いを発見できないまま終わるかもしれない。

 この世界は前世の世界よりも人口が多く、言葉の種類も多くある。

 70億人ってなんだよ…。言葉も前世世界では多少の方言で話し辛い地域もあったが、それでも5種類だったぞ…。

 とにかくグリゼアが同じ市内に居てくれたことに感謝しなくてはならないな。


 そんな事を捜索中に考えていたところ、大きな公園を見つけた。捜索開始から30分後のことだった。


 確かグリゼアは今世では結婚していて子供もいたな…。もしかしたら子供を散歩させているかもしれない。


 俺は持っていた携帯の画像をモザイクが入ったアパートの画像から今世のグリゼアと思われる女性の画像に変える。この顔もモザイクが目の所に入っている。


 髪は前世と同じ長い髪を後ろで縛り上げ、まとめている。

 黒髪という点は同じであるが、顔のパーツはやはり東方人種のものであった。


 公園を捜索していく。


 公園内には子連れの奥様方が複数存在していた。


 いちいち顔を覗き込んで確認するわけにはいかないので、チラッと横目で見ながら手元の携帯画像を確認する。


 う~ん。居ないな。やはり素直にアパート探しに戻った方が早いだろうか…。


 すると、ブランコにて座る一人のスーツ姿の男性が目に入った。


 一瞬知り合いに会ったという感覚になったが、すぐに俺は目と顔を逸らした。

 ん?なんだ。この感覚。知ってる人ならばあの人にアパートの画像を見せて知っている情報を聞き出せば良いのではないだろうか?

 だが、そう思ってもなぜか自分の体…というか、脳内のどこかが目の前の男性との接触を拒否している。

 その証拠に目立たないように俺はブランコから離れていっているのだ。


 いったい誰なんだ?あの人物は…。俺ではなく竜生の記憶が彼を拒否しているのだろうか?


 スーツ姿ではいるが、髭が数日間剃っていないような感じでスーツもヨレヨレ。表情は疲れきっていた。


 何処かで見たことはある。

 ただしそれはこの体の主導権が竜生だった時の知り合いなのだろうか…。


 大体俺が記憶を取り戻して…。前世の記憶は取り戻すという表現でいいのかわからないが、まぁ取り戻す出いいだろう。記憶を取り戻してから成人男性自体あまり知り合った人数は居ない。


 竜生の父…は絶対違う。

 父が紹介してくれた弁護士はもう少し歳だった気がした。

 いじめ撲滅を目的とする非営利団体の人でもなかった…。

 新聞記者かな?いや、そうだとしたらこんなに竜生の体が拒否反応を出すことはないと思う。

 前の学校の教師!?じゃないな…。

 後は…。小岸議員…。


 …。

 ……。

 あ…。

 あの人小岸議員だ。

 いや、元議員だ!


 うん。近付かなくて正解だったな!俺の体。

 よく拒否反応をしてくれた!すごいぞ俺の体!

 なぜあの公園に居たかは分からないが、大方彼の家がこの近くなのだろう。

 議会を追放され、職を失い、他に行き場所が無いので呆然とただ抜け殻のようにあそこで過ごしているのだろう。

 次の職場を探そうにもあれだけテレビやネットで実名と顔写真が出てしまえば再就職先もなかなか見つからないのかもしれない。

 今回のことは彼にとって自業自得だ。

 だが、俺の姿を見た瞬間逆恨みで襲ってきても面倒だ。

 触らぬゴミに祟りなし。ちょっと違うが昔の日本人もよくこんな名言を考えたものだ。まさにこの状況だ。




 俺は既に公園から出て辺りの捜索に専念した。

 急ぎ足で公園からどんどんと離れる。


 今日中にこのエリアを探し終えないと、明日も小岸元議員に偶然会ってしまうかもしれない。

 そんな時、向こうが気付いてくれなければ良いのだが、もし俺に気付いた時俺はなんと言えばいいのやら…。


「やっほー。娘さん元気?」


 うん。この発言はまずいな。


 と、言うか、変なことを考えていないで、さっさとグリゼアの家を探さなくては。


 そんな決心をしていると、ズボンのポケットに入れてあった俺の携帯が鳴った。

 取り出して見るとそこにはミューイの名前が表示されていた。

 ん?もしかしてミューイはグリゼアを見つけたのか!?

 そう思って電話に出て、

「ミューイか?どうだ。見つかったか?」

 と言う。

 すると、


「<スレード隊長?オーヴェンス坊ちゃんですか!?>」


 と、野太い声が聞こえた。

 どう聞いても男の声である。


 え…ミューイ!?どうしちゃったの??


 俺が数秒携帯を持ったまま固まっていると、


「<ワシです!デルクロイですよ。『デルクロイ・ダージンバー』です!>」


 と、俺に使える頼りになる大男の騎士の名前が電話先で伝えられた。


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