第10話 前世の仲間のお悩み解決!
俺はミューイと打ち合わせを終え、達也の部屋の扉をノックした。
「…おぉ!終わったか!?」
達也はそう言って出迎えた。
「春香。さっきよりも顔色よさそうだな。悩みは吹っ飛んだか?」
隆が優しくそう言うと、
「うん…」
と、ミューイは小さく呟いた。
「それで…その…原因はなんだったんだ?」
と、隆が聞いてきた。
そうだよな。それが一番気になるよな…。
いよいよ壮大なオーヴェンス・ゼルパ・スレード作の物語を披露する時が来た。
始まりは一週間ほど前だったらしい。
夢だというのははっきりとしていた。
不思議な夢だと思ったらしい。
最初はいつも暗い空間から始まるらしい。
辺りは暗いのになぜか自分の手足を見ることはでき、平気で歩いている。
やがて暗い空間から外に出ることはできた。
一安心しているが、辺りは来たことも無い場所である。しかもうす暗い。
ここにきて一気に恐怖が感情を支配する。
なんだか分からない。だが、無性に恐怖を感じる。
気付くと線路が目の前にあった。
一台のトロッコがゆっくりと近づいてくる。
そこで最初は目が覚めたらしい。
だが、次の日、また次の日…。同じく暗い空間から始まり最後はトロッコが近づいてくる。前日と違うのはトロッコの距離。だんだんと近づいてくるのだ。
春香は逃げた。
だがなぜか足はものすごく遅い。歩いているんではないかという位遅い。
つい一昨日、授業でうたた寝をしていたら、ついにトロッコに追いつかれていまった。
普段はうたた寝なんてしない(嘘)だけど連日の夢の影響でまともに寝ることができなかった。だからその日はたまたまうたた寝なんてしてしまった。
春香に追いついたトロッコは動くことを止め、代わりに中から真っ黒い人物が出てきた。
真っ黒い人はいきなり春香に襲いかかった!
真っ黒い人は春香を蹴った!
次は首を絞めてくる!だが、そこで目が覚める!
次に寝たら私は殺される!
そう思ったが、睡魔には勝てず、昨日の夜は寝てしまった。
夢の続きを見た!
最初はやはり位場所からスタートしたが、最後には黒い人が春香の首を絞めようとしてきた。
もう助からない。そう春香は思った。
だが、そこに誰かが助けに入った!
白い人?いや、光から誰かが出てきた!
見たことが無い人だった。
この人は誰?
知らない人は黒い人を倒した。
知らない人にお礼を言った。
知らない人に名前を尋ねると、笑いながら「スイードです。隊長をしています」と言った。
あ"あ"あ"あ"あ"!!!
自分で作っておいて恥ずかしい!
そう。これは作り話である。
隆と達也は口を開いていた。驚いているのだろうか。
隆にいたっては顔を青くしている。
話し終わってから20秒程経った後、最初に口を開いたのは隆だった。
「なんだ夢かよ…と、言おうとしたけど、その夢なんかヤバくね?」
そうだね、こんな夢を見たら呪いとかよくない事を想像してしまうよね。ん?この世界は魔術は無いけど呪いはあるのか?
「それで、夢の中で助けに入ったのが竜生だったのか?」
次に達也が質問をしてきた。
「あぁ。そのようだが、もちろんそのことは俺は知らないし、俺は隊長なんて春香ちゃんに名乗ったことはないよ」
俺がそう答える。
「春香。変な夢はもう見ていないのか?」
と、達也が春香に質問をすると、
「うぅん。同じ夢を見ていたのは昨日までだったから…、今日また寝てみないとどうなるかわからない…」
と、春香は答えた。
「聞いてみたらいじめは関係なかったから、もしかしたら知らず知らずに何かストレスを抱えていたのかもしれない。面識が無い俺が夢に出てきたのは、最近テレビやネットでヒーローのように扱われているからかもしれないな」
ものすごい適当な解釈を俺はした。というか、適当も何も夢の話は全て作り話だけどね。
「そうか…。春香、もし何か困っていることがあったら俺達に言えよ!ちゃんと話し合ってストレスを溜め込まないようにしなきゃな」
と、達也が春香の目を見て言った。
しっかりお兄さんをしているな達也は。少しうらやましいな。今世では竜生の兄は俺に厳しいし、前世では俺にも妹が居たが、俺が死んだ後どうなったのだろうか…。
そんなことで、達也の悩み事は解決した。
俺も仲間が増えてうれしく思う。
達也にはあの後感謝され、隆と一緒に帰宅した。
次の日、達也に再度感謝をされて、再びクラスの何人かと一緒に俺の歓迎会が開かれることになった。
追加情報として、ミューイは悪夢を見なくなったようで、今日は元気に学校へ行ったらしい。当然だ。悪夢なんて元々見ていないのだから…。
ちょっと心配なのは学校での立ち回り方だが、どうやら昨日ミューイと少し話したが、ミューイは俺とは違い前世と今世の記憶の両方を全て持っているようであった。
なので、学校の部屋周りを春香が知っている限りミューイも知っている。そういう状況らしい。
そしてどうやら春香はミューイと性格が殆ど一緒だったらしい。なので、ミューイとしての記憶が現れた現在も特段行動の変化が無いらしい。
そう考えるとミューイは恵まれているかもしれないな。兄と自分。
だが、俺のように「オーヴェンス」と「竜生」という二つの人格があったことによって助かる事があるだろう。
俺は前田 竜生という相談する相手が近くに居た。ミューイは居ない。
居なかったがため、更にはミューイのあの性格だと混乱してしまうだろう。
どちらがいいとは言えないが、そう考えると俺とミューイはそれぞれ本当に運が良かった。
後の7人。どうか無事でいてほしい。
それはそうと、現在は歓迎会会場である。
隆の知り合いが経営しているというファミレスにて俺、隆、達也、他にもクラスメイトの男女4人、そしてミューイが居た。
ミューイは上級生からかわいい!などといわれてもみくちゃにされていた。
「昨日はありがとな。竜生のおかげでまた元気な姿の春香が見れてよかった」
俺の隣に座っていた達也が改めて御礼を言ってきた。
「いやいや、いいって。俺実際何もしていないぞ?夢に出てきたのは俺だけど、ここに居る俺が何かしたわけじゃないし」
「それでも、竜生が俺の家に来てくれたおかげでこれだけ早く解決することができたんだ。俺はこんなにも早く春香に笑顔が戻るとは思っていなかった。ハハッおかしいよな。たった二日様子がおかしかっただけなのに、もう春香は下に戻らないと思っていたんだ」
達也の予想は正しいかもしれない。
あのまま俺が現れなかった場合、ミューイの心は壊れてしまった可能性は高い。
「そうか…。妹思いなんだな達也は」
「いやいや、普段はこんなに心配しないぞ!だけど、今回は明らかに様子がおかしかったからな。心配して当然だろう」
「はは、そうだな。当然だよな」
本当にいい兄だよ。達也は。
ミューイの方を見ると料理を大量に頬張っていた。主賓の俺よりも食べているんじゃないか?
と、いうかミューイは確かに良く食べる子であった。ある時レイーヌがそんなに食べて太らないのか?と聞いたことがあるぐらいだ。
だが、当の本人は、
「これでも軍に入ってから食べる量を制限しているんですけど…」
と、言い放ちやがった。
体質なのだろうか…?そしてその体質は今世でも通用するのだろうか…。
試しに達也に、
「結構食べてるようだけど、大丈夫なのか?」
と、聞いてみたが、
「いつものことだ」
と返された。
そうか、前世でも今世でも変わらないんだな…。
運ばれてくる料理は母が普段作ってくれる料理と色形あらゆる点で違っていた。
しかし、やはり大衆食堂であるから味はおいしい。
殆どがオーヴェンスの記憶である俺にとって料理がおいしいと思えるとは。この国はなかなかと侮れん…。
なんなんだこのピザとは!
薄いパンの上にいろいろな具材が乗っている!?チーズがトロットロ!この赤いソースも旨い!
なんだと…!?肉というのはこんなに味わい深くやわらかいものだったのか!?この国のステーキは素敵だな!
寿司ってなんだ?握り寿司?生魚!?ご飯がすっぱい!?え?これ腐ってないの?こういう食べ物なの??
デザート旨いな!甘いものは苦手であったが、甘さ控えめの生クリームケーキがあるとは…。
おっと、いかんいかん。ミューイでも無いのに年甲斐もなく貪るように沢山食べてしまった…。
竜生の母の手料理もおいしいが、たまにはこういう料理も悪くないだろう。
と、言うか、今度メニューを覚えて母に作ってもらうのも手だな。ん?俺が作ればだって?前世では料理は落第級であった俺がこれほど手が込んだ料理が作れるとは思えない…。
そして歓迎会はお開きとなり、それぞれ帰宅をした。
ミューイは帰る前に慌てて俺の所に来て携帯のアドレス交換を要求した。
携帯のネット検索や電話は使えたが、アドレス交換のやり方が良くわからなかったので、ミューイにやってもらった。流石ミューイ。今世の記憶を持っているだけあるな。そういえば元々こういう機械操作は得意だったな。もっとも魔導機械の方だが。
とにかく料理の名前は覚えた!帰ったら母にメニューを伝えて…。
「よぉ!竜生。暗くなっちまったし、あんまり来たこと無い土地だったようだから、俺が送ってってやるよ!」
と、隆に声をかけられた。
「あぁ!ありがとう。助かるよ」
俺は素直に礼を言い、隆に家まで送ってもらった。
その帰り道、俺は気になることがあった。
隆の様子がおかしい。
そう感じた。
出会って数日だが、考え込んでいるようで難しい顔をしている。
もしかして何か俺に話があって一緒に帰ろうと誘ったのか?
考えているよりも聞いてしまった方が早いな。
「隆」
俺がそう呼びかけると、隆はビクッと反応した。そんなに驚くとは思わなかった。
「お、おう!なんだ?」
「いや、隆こそどうしたんだ?今度は隆が悩んでいるようだったけど…」
「え?俺が?いや~…バレた?」
「あぁ…すごくわかりやすかった…」
やはり隆は何か俺に相談したいようであった。
「はぁ、せっかく竜生がきっかけを作ってくれたことだし、ちょっと聞いてもいいか?」
「あぁ、もちろん」
さて、どんな話かな?
「春香のことなんだけど…」
「うん」
「どう思う?」
どう思うってどういうことだ?まさか様子がおかしいと勘付いたのか!?まずいな、今回はどういう誤魔化しをしようか…。
「う~ん。春香ちゃんの以前までの状態を俺は知らないが、状態は安定してそうだったぞ。夢の話も一晩だけだったら笑い話にもなったが、連続するとな…。心配だったら…こういうものは信じないかもしれないが、教会とかそういう施設に相談を…」
「あ、いや、悪い。言い方が悪かった。そういうことじゃねぇんだ」
ん?違うのか?では何の相談だろうか?
「あ~。そのな?春香を女性として見てどう思う?」
ん?ミューイが女性として不自然な点などあっただろうか。
別に転生する前と後で性別は変わっていない。
隆が言うどう。というのは他の女性と比べてということだろうか?
「良く食べる女性だな…」
おっと、隆がコケてしまった。何も無いところなのに!大丈夫か?
「うん…。もうはっきりというぞ?春香に対して恋愛感情があるのか?無いのか?」
「いや、無い」
即答した。
「なぜそう思った?」
今度は俺から聞いた。
俺はこの世界の常識に疎い。もしかしたら、この世界の常識ではミューイに求愛のサインを知らないうちに送っていたかもしれない。
「いや、妙に春香が始めて知り合った竜生に対して慣れなれしいというか、まるで昔から知っている奴のような風で話しかけたり話したりしていたからな…。気になったんだ」
なんということでしょう。
俺は無意識にミューイと昔ながらの友人のように接してしまっていたのか…。友人というか部下だけどな!
「そうだったのか…。だが安心して欲しい。俺が好きな人は別に居る」
「そ、そうなのか!?」
「あぁ、隆が春香ちゃんを好きでいる限り、君の恋敵にはならないよ…」
「…え!?はぇえ!?」
どうしたというんだ。いきなり奇声を上げて…。びっくりするじ?ゃないか。
「ちょっと待って、なんで俺が春香を好きって話になってるんだ!?」
「あれ?違ったかな?いきなり春香ちゃんのことを聞いてくるなんて、隆が春香ちゃんを好きだったから心配だったんじゃないのかい?」
「いやいや、違うよ…。俺はただ…俺も兄貴分だからさ。それだけだ!」
「そうか…」
嘘だな。絶っっっ対嘘だ。目が泳いでいるもん。
「だが、隆の妹分であり達也の妹である春香ちゃんが困っているようであれば助けるのは当然だ。俺達、友達だろ?」
「りゅ…竜生!」
隆は感動したのか今度は目をうるうるさせている。
その後隆から思い出したかのように俺が好きな人は誰か?という質問攻めにあい、適当に返事をしながら帰宅をした。




