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第9話 新しい学校で人助け


 そんなこんなで時は流れた。


 夏真っ盛りなこの時期、本日俺は私立高校に入学することになった。新たな門出だ。


 夏休みに突入するであろうこの時期にである。



 今回の事件を知り、この私立高校から是非我が校へ入学して欲しいと俺へ連絡があったのだ。


 一種の宣伝だろう。虐められていた可哀想な生徒を受け入れる。または虐めから真っ向から立ち向かった生徒を入学させ、我が校にはこれだけ素晴らしい人材が居ると宣伝し、次年度からの入学希望者を募ろうというのかもしれない。


 自分で素晴らしい人材と言ってしまったのは自意識過剰だが、要はそういうことかもしれない。



 学校に到着したが、勿論入学式などあるわけがなく、事務的に校長室に呼ばれて前居た学校の事について労いのお言葉を頂き、担任となる先生から学校でのルール等の説明を受けた。


 新しい制服や教科書を用意しなくてはならなかったが、なぜか市の教育委員会のほうで全て準備してくれた。

 お詫びのつもりなのだろうか?


 教室での転入の挨拶は上手くいき、僅かな期間であるが友人はできるだろうか。と、心を躍らす。


 早速話しかけてきた生徒は沢山いた。

 その話の内容の殆どが前の学校の事件の事だった。


 特に隠すようなことではなかったし、誰にも言うなとも言われていなかったので、俺はペラペラと事件の発端から終末まで話した。


 話の内容にはショックなことが多かったらしく、顔を青くしている生徒もいたが、わりと仲良く話せたと思う。

 ここで俺は一つの確信を得る。

 あぁ、ここで気分を悪くしている学生が居るということは、よっぽど前の学校の環境は悪かったんだな。と。


 話をしたメンバーの中で川口かわぐち たかしと、森澤もりさわ 達也たつやという男子生徒が一番話を聞いていた。


 性格が明るいようでどんどんと話を聞いてくる隆と、のほほんと話を聞いているのかいないのかわからない反応をする達也だ。二人とも自分の下の名前で呼んでいいというので、気兼ねなく呼び捨てで呼ぶことにした。

 なんだかんだで出だしはいい生徒に恵まれたと思う。


 前の学校ではどこの教室に行くにしても覚えていないことが大半だったため、教室を移動する際には周囲の教師や生徒に確認をしなくてはならなかった。

 聞く度に訝しげな顔をされるのは辛いものがあった…。


 転校をしたことでそんな心配をすることが無くなり、校舎のことで何かを聞くにしても快く答えてくれた。

 また、どこの学校にもありそうな目立ったいじめはこのクラスには無いようだ。

 しばらくは平和に暮らすことができるだろう。


 さて、今日は一日いい思い出となった。

 竜生の精神も喜んでいるだろうか。

 この後隆と達也の他数名が俺の歓迎会を開いてくれるらしい。


 なんだろう…。前の学校とはかなり待遇が違うので戸惑ってしまうが、これが普通のことなのだろうか…。


 前の学校が普通とは思いたくない。むしろ今の環境の方がリール連邦の学校と近いような気がする。


「おーい、達也。行くぞぉ」

 隆が達也に声をかけた。

 すると、

「いや…。すまん。俺、今日は帰るわ…ゴメン…」

 授業が終わるとそそくさと帰り支度を始める達也。


「何かあったのか?」


 俺はそう聞いた。思えば達也は今日一日無理をして話しかけてきていたような気がした。話題を振ってきてはいるが話を途中から聞いていないような感じがした。そういう事が多く見られたので、気を使って話しかけてきているだけなのか?と、考えていた。

「そうだな。今日のお前、話を竜生にふっていたくせに話聞いていなかったもんな」

 隆はそう言った。

 やっぱりそうなのか…。どこか上の空だったもんな。

 どうやらいつもの達也と違う反応とは違うらしい。

「ちょっと妹の調子が悪くてな…。本人は心配するなと強く言ってたが、やっぱり不安でな…。今日一日気にしないようにしていたが、やっぱり駄目だ。心配だ」

 深刻な顔をして達也は俺と隆へ言った。

「珍しいな。お前が春香はるかの心配なんて…。そんなに調子が悪いのか?」

 隆が驚いたようにそう言った。春香というのは達也の妹さんの名前だろう。

「言動が…おかしくてな…。昨日早退したらしい…」

 と、辛そうに達也は言った。達也の妹さんは精神を病んでしまったのだろうか…。

「学校の教室内で、急に体中の痛みを訴えてな…。体調…体調…と、体調不良を訴えていたらしい。何だか敵が来る!蹴られた!とも強く言っていたな…。病院の検査では体は何も問題なかったよ。ただ、異常に車に乗ることに怯えていたらしいな…。しばらくすると車も普通に乗っていたから一時的なものだったのかもしれないが、精神的なものか…今後も続くのか…わからないんだ」

 そう説明した達也は再び帰る準備をした。

「と、言う訳ですまない。今日は早めに帰って妹の様子を見ることにするよ!もし、妹がいつもの調子に戻っていたら明日、個人的に竜生にはお祝いさせてもらうよ」

 そう言って達也は鞄を持って教室から出て行こうとする。

「待て待て、そういうことなら俺も心配だから行ってもいいか?」

 と、隆は言った。

「な…。主催者が居なくてどうやって歓迎会するんだよ。お前以外場を盛り上げる奴いるか?」

 と、驚きつつきつい一言を言って周りを見回す達也。

「いやいや、春香の様子がおかしいなら、何で俺に相談しないんだ?俺達春香も含めて幼馴染だろ!心配だから俺も行く!」

 と、隆は言うと俺に向かって、

「と、いう訳ですまん!今日俺は歓迎会できない。ってか、もし竜生や皆がよければまた別の日でいいか?」

 そう言って隆は俺や他の歓迎会参加メンバーに確認をとった。

「そういうことなら俺は全然問題ないけど…なぁ」

 と、俺以外の参加メンバーは問題ないと言って俺の方を見た。

「俺も問題ない。早く妹さんのところへ行った方がいい」

 俺がそう言うと、周りはホッとした空気になる。

「あぁ!ありがとな、竜生!お前みたいないい奴が前の学校で教師達にも嫌がらせされてたなんてやっぱり信じられねぇよ」

 と、隆は言った。

「いい奴すぎると正直すぎて嫌われるものさ…」

 などというと、周りで「それ、自分で言うのかよ!」

 と、笑いが起きた。

「それはそうと、提案なんだが、俺も行ってもいいか?」

 と、俺は提案をした。

「え?いや、ど、どうして??」

 隆はそう言って不思議そうな顔をした。達也も同じく不思議そうな顔をしていた。

「理由は二つ。もし学校で虐め等の問題で精神的な負荷がかかっていた場合、相談役なら経験がある俺が話せば少しは解決に繋がるのではないかと考えた。もう一つは、今まで一人だった俺の友達になってくれた奴が困っているんだ。少しでも協力したい」

 少しくさいセリフだったか?これで納得してくれただろうか…。

 すると、眼前に居る達也が涙を流し始めた。ちょっと焦る。

「あ…あぁああ…ありがとな…竜生ぃぃ。お前ほんっとうに、いい奴だな…そういうことならばお願いしてもいいかぁぁ…?」

 感動しているのか?達也はそう言ってプルプル震えている。

「お前、すげぇいい奴だな!お前そんなにいい奴だから前の学校で不当なことを許せなかったんだな!」

 隆も俺の手を握り熱い視線を浴びせる。


 周りの視線が痛い。




 そんなわけで、俺は急きょ達也の家、森澤邸に行くことになった。

 隆と達也には悪いが、俺には別の目的がある。

 確証は得られないが、達也の妹『春香』は俺と同じく転生しているのではないだろうか。

 単純に精神がおかしくなってしまったのであれば可哀想であるが俺にできることは無い。

 だが、俺と同じ状態なのであれば、仲間の可能性がある。


 何せ、

・『隊長』

・『敵に蹴られた』

・『車に怯える』

 という達也から伝えられたキーワードだ。


 これは『あの二人の内のどちらか』である可能性が大きい。と、俺は考えていた。


 そして俺、隆、達也の三人は森澤邸へ着いた。


 達也の母親に挨拶をした後、早速達也の部屋へと行った。


 達也の妹春香ちゃんは本日自室に引きこもっているみたいで、トイレ以外では部屋から出てきていないらしい。

 達也の部屋は妹の部屋と物置を挟んで隣である。

 今は妹の春香ちゃんの件で作戦会議をしている最中であった。


「作戦会議って何をするんだ?」

 隆がそう聞いてきた。ちなみに作戦会議をしようと提案したのは俺である。

「まず、達也に俺が話に来た。と、相談をして欲しい。そして、俺はこのノートから切り取った紙をドアの隙間に入れ込む」

 と、俺は説明した。

「その紙に何を書くんだ?」

 そう達也が聞いてきたが、

「内容は、あなたはいじめられていますか?などを文に書いたものだ。言いにくいことがあるのであれば紙に書いた質問に対して『はい』か『いいえ』で答えればいい。何せいじめられている人間の心理としては家族に話して迷惑をかけたくない。という感情があったりするからな。無関係な俺が話を聞き、なおかついじめ問題を解決した俺に相談する。もし本当に虐めであれば少しは心を開いてくれるかもしれない」

 俺はもっともらしい理由をつけて切り取ったノートの1ページに下敷きをして書き始めた。

「どう書くんだ?」

 と、達也が聞いてきたが、

「一応秘密だ。家族が質問に対して混乱して余計な心配をしないためにな。質問の内容には番号を付けて書く」

「「なるほどな~」」

 俺の回答に二人は納得しているようだ。すまんな二人とも…。だが、半分は本当に助けようとしている行為だから許してくれ。


 1ページに簡単な俺の自己紹介と質問内容を書き終え、半分に折りたたんだ。

「よし、準備はできたぞ。達也、最初俺の紹介とか頼めるか?」

「あぁ。もちろんだ」

 達也はそう言って立ち上がった。達也の瞳の奥に炎が見えそうだ。春香ちゃんは大切にされているんだな…。竜生の兄も達也のようであれば俺が何とかする必要もなかったかもな…。そもそも達也は今日一日の会話ではわからなかったが、本来熱い男なのかもしれない。


「春香。居るか?」

 春香の部屋の扉をノックした後、達也は春香に問いかけた。


「…」


 返事は無い。


「あ~。今日一日休んでどうだった?少しは落ち着いたか?」

 達也は続けてそう言ったが、春香ちゃんからはやはり返事は無い。本当に部屋に居るのか不安になってきたな…。


「えーと、あのな?今日新しく俺のクラスに転校生が来たんだ。早速友達になったんだ。それでな?春香の様子を聞いてその転校生…竜生っていうんだけど、心配してくれて来てくれたんだ。ほら、『前田 竜生』ってしってるか?今ちょっとした有名人だぞ!あの虐め事件の被害者であり、悪い奴らを倒して勝利したつい最近ニュースにもなっていた奴なんだ!ネットで名前が上がっていただろ?」

 そう達也が言う通り、そういえば俺の名前もインターネットに出てきてしまっていたな。まぁ、被害者の名前として出ていただけなので問題無いとは思うが…。

 達也が次に何を言おうかと迷っていると、扉の奥から反応があった。


「余計なことしないで…。私虐められて無いから大丈夫」


 と、扉の向こうから声が聞こえた。もしかしなくても春香ちゃんだろう。

 俺は達也の肩をちょんちょんとつつき、

「じゃぁ、俺が…」

 と達也に小声で言って合図を送る。


 俺は春香ちゃんの部屋の扉の前に立ち、

「どうも、こんにちは春香ちゃん。先ほど達也君から紹介があった『前田 竜生』と申します。今達也君が聞いた通り、僕に何か相談できるようであれば相談に乗るよ。まぁ、必要なければそのまま帰る。ただ、君もご家族に言い辛い事もあるかもしれない。もし何か悩んでいるようであれば今からドアの隙間から渡す紙を見て欲しい。そこに書いてある内容に今、言葉で返す必要は無い。質問に対して扉をノックするだけでいいんだ。じゃぁ、渡すね…」

 返事を聞かないうちに俺は扉に紙を挟んだ。奥まで移動させるとスッ紙を引かれた。春香ちゃんが手に取ったらしい。


「では、質問をしてもいいかな?」


 俺が質問を開始しようとした途端、春香ちゃんの扉が激しく揺れ、鍵を開ける音が聞こえた。


「「「うお!?」」」


 俺と竜也、隆はその異変に驚く。


 そのまま扉が突然開かれ、長い髪がボサボサとなり、泣き続け疲れたのか、目が腫れ赤くなり、隈ができた少女が姿を現した。この子が春香ちゃんかな?

「どうも、前田 竜生です」

 俺がそう言うと、顔をくちゃくちゃにして春香ちゃんはワッと泣き出して俺の胸に飛び込んできた。

「だいじょー!だいじょぉぉおお!」

 と、言いながら。

 隆と達也は目を丸くして俺を見ていた。それに気付いた俺は二人にハハっと苦笑いを浮かべた。




 それから春香ちゃんが落ち着きを取り戻すまでたっぷり10分かかった。

 終いには嗚咽を漏らし始めたので、慌てて背中を擦って落ち着かせた。

 春香ちゃんは終始鼻水たらして「だいじょー、だいじょー」と言っていたが、今では静かに鼻をすすっている。


 隆と達也は達也の部屋に行ってもらった。

 隆と達也には、とりあえず春香ちゃんは俺だけに相談したいという事と、後で話せるような内容であれば二人にも話すとして、しぶしぶ了承してもらった。

 そして現在は春香ちゃんの部屋の中に俺は居る。

 春香ちゃんは俺をジッと見ていた。


 少し気まずい…。


 さて、春香ちゃんは俺が書いた手紙のいったいどの項目を見たのだろか。

 ちなみに俺が書いた項目は、


①私は前田 竜生と申します。『スレード』と呼ばれていたことがありました。


②あなたは以前の記憶はありますか?私はあります。


③あなたはいじめ問題にかかわっていますか?私なら手助けできますが、どうでしょう?


 以上である。かなり漠然とした内容ではあるが、わかる人にはわかるだろう。というか、先ほどまでの春香ちゃんの様子を見るからに答えは決まっているが…。問題は俺が考えている人物の「どちらか」だということだ。いや、それも彼女の様子を見るからにわかってしまう。


「あの…スレード隊長ですよね…?」

 オドオドと口を開いた春香ちゃん。

「そうだよ。君はミューイかい?」

 俺がそう言うと、パァっと春香ちゃんの顔は笑顔になって、

「はい!」

 と、うれしそうに言った。

「やっぱり!まさかこんなに早く再会できるとは思わなかった」

 俺はそう言うと、体の力が抜けた。

 この世界に来てからこんなに肩の力が抜けたことは無い。同郷の者が居て安心したのだ。

「隊長…その、私達どうしちゃったんでしょうか?」

「ふぅむ。どこから話そうか…」

 しまった。仲間に会った際に何を話せばいいかなんて考えていなかった!だが、とりあえず状況整理だけしておくか…。


「ミューイ。落ち着いて聞いて欲しい。どうやら俺達はあの時死んでしまい、この日本という国に転生したらしい。この国がどういう国かの説明はいるかい?」

「あ。いえ、それは大丈夫です。この国…この世界の常識は頭の中にあります…。森澤 春香としての記憶があるので、ある程度は大丈夫です」

 なるほど、春香は既にこの世界の常識を身につけているのか…。なら話す内容は少なそうだな。

「うん。ある程度整理が付いているようでよかった。俺は今回の現象をおそらく転生だと考えている。俺達はあの場所で死んだ後、この国の人間として命を授かったんだ」

「へぁ~」

 春香ちゃん…というかミューイはなんとも気の抜けた声を出して目を丸くしている。

「転生…ですか…。隊長も私も別人になってしまったんですね…」

「そうだな…」

「私達、これからどうすればいいんでしょうか…」

「まぁ、今世の記憶がなくなっているわけではないことは幸いだったな。今後どうすればいいかだが、どうだろう。このまま『森澤 春香』になってしまえばいいのではないか?」

 俺の言葉にミューイは少し間をおいて、

「『森澤 春香』になる…ですか?」

 と、不思議そうな顔をして首をかしげていた。

「あぁ、そうだ。森澤 春香としての人格はミューイにはあるんだろ?」

「はい。いえ、両方かな?」

「なら、今後はミューイとしてではなく『森澤 春香』として生きていけばいいのではないか?ミューイとしての記憶は昔話的な感覚でいいんじゃないか?割り切れないかもしれないが、今は生まれ変わったことを喜ぼう。もし駄目そうであれば俺も相談にのるよ」

 今俺がそう言った言葉は俺自信にも言い聞かせるための言葉…。決意だ。

「ほへぇ~」

 だらしなく口をあけているミューイ。こいつは俺の言った言葉を理解しているのだろうか?

「だが、ちょっとだけ希望を持てた。もしかしたら再びレイーヌと出会えるかもしれない」

「レイーヌさんも転生しているんですか!?どういうことでしょう。だんだんよくわからなくなってきました!」

 う~ん。やはりミューイは理解しているのか怪しくなってきたな…。

「かもしれない、だ。どちらかというとミューイと一緒に指揮車に乗っていた副隊長の方が可能性が高い」

「そうかぁ~。そうですよね!またスレード隊結成できますよね!」

「あぁ。そのために頑張ってみようか」

 まぁ、実際スレード隊が再結成してもどうするんだ。って話だが。

「はい!」

 ミューイは元気になったようだった。


 だが、ミューイの次の言葉で俺は衝撃を受け固まってしまった。



「レイーヌさん、かわいくてきれいだったから、もしかしてかわいくてきれいな猫さんになってるかもしれませんね~」



 このミューイの一言で目の前が暗くなった。


 そうだ!その通りだ!なぜ今まで気が付かなかったのだろうか。転生したからといって必ずしも人間に生まれ変わるとは限らない。

 というか、何百何千という種類の生命体がいる中で、再び人間として生を受けたことは限りなく奇跡に近いことなのではないだろうか!?

 そうなると、昨日食べた魚…。一昨日食べた牛肉…。いや、植物だって生命体だ!!

「隊長?」

 気が付くと、ミューイが心配そうに俺を覗き込んでいた。

「泣いてるんですか…?」

 ふと手で頬を触って見る。あぁ、これは涙か…。愛しの人を食べてしまったのではないかという恐怖。頬を触った手を見ると震えている…。

「も、もしかして私がレイーヌさんが猫さんになったらとか言ったからですか??」

 まぁ、きっかけはそうだが、別にミューイが悪いわけではない。

「だ、大丈夫ですよ!だってこの世界にも動物は沢山居ますけど、私達ちゃんと人間になれたじゃないですか!しかも私はちゃんと女になって、隊長も男になってますし…その、きっとレイーヌさんや皆も人間になってますよ!」

 そうだな…。そうかもしれない。確かによくよく考えて見ると、人種は違うがミューイや俺は人間に生まれ変わり、なおかつ性別も一緒。更に同じ日本に生まれるという共通点だ。

 これは他のメンバーも、もし生まれ変わっていたとしたら俺達と同じ状況名のではないだろうか。今回のことがもし偶然なのだとしたらそれは宝くじに当たるよりも難しい。そうなると、何か誰かしらの意図を感じずにはいられない…。


 誰かがこの状況を作った…?


 いや、それは今考えるのはよそう。ミューイにも相談したところで彼女を余計混乱させてしまいそうだ。

 それよりも『宝くじ』ってなんだっけ?


「隊長?」


 再び俺はミューイの声で我に返る。

「あ、あぁ。うん、大丈夫だ。大丈夫。そうだミューイ。お兄さん達にこの状況の説明どうしようか…?」

「あ~。う~ん、どうしましょう。私達が転生したー。なんていっても信じてくれませんよね…?」

「あぁ…おそらく…」

 どうしようか…。

 ミューイは死んだ時の事を口走ってしまっていたようだし…。これをどう上手く話を作って切り抜けるか…。

 本当の事なんて言ったら病院に連れて行かれるかもしれない。

 作り話と思われて怒られるかもしれない…。


 ん?作り話?


 …そうだ!


「ミューイ。いい考えがある」

「え!?なんですか?流石隊長です!」

「うん、まだなにも説明して無いから流石ではないよ」

「こんなにすぐに解決策を思いつくから流石なんですよぉ」

 クッ。相変わらずペースを崩す奴だな。

「そうか…。まぁいい、作戦はだな…」


 一通りミューイに説明した後、隆と達也に今回の事件の説明(嘘)をするため、二人が待機している達也の部屋へとミューイと移動をした。


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