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ROUTE  作者: 真紘
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本日連続更新最後です。

誤字脱字ありましたらご一報くださいませ!

滞りなく閉会式を終え、合宿日程は全て終了した。生徒たちは家路へつくため、シャトルに乗り込む。ここから最寄りの宇宙ステーションまで移動し、そこから、それぞれの惑星へ向かう定期便に乗り換えるのだ。

タケルたちアグリスの面々は、振り分けの結果、最終のシャトルに乗ることになった。宇宙ステーションまでは他の惑星の生徒たちも一緒に移動する。その中に、エルたちゴンドラの生徒もいた。

 タケルたちが乗るシャトルがスタンバイしたと連絡が来たので、ロビーから格納庫へ繋がるエレベーターに乗り込む。

「疲れてるってのに、ここからまた移動かぁ」

面倒臭そうにぼやくイサに、サキやラーゼもうなずく。その隣で、タケルは大きなあくびをした。

「お前が一番疲れただろうな。なんてったって、表彰されちまうんだもん」

 イサは意地の悪い笑みを浮かべ、タケルのカバンの中から顔を出す、表彰状の入った筒を指さした。タケルは「黒歴史だ、忘れろ」と眉をひそめた。

「でもさ、すっごいじゃんタケル! 小さい頃からずっと、いつかヤマトを負かしてやるって言ってたでしょ? これって、そういうことじゃないの?」

自分のことのように目を輝かせて喜ぶエルに、タケルは苦笑するしかできなかった。そんな彼を見たラーゼは、目を細めてタケルをまじまじと見つめる。

「ふぅん、我が校きっての秀才も、兄貴にはコンプレックスを持ってるってことか? 思いのほか人間くさくて親近感が湧くね」

またうっとうしいことを言い出したと思い、タケルは頭を抱えてため息をこぼす。すると、ラーゼは楽しそうに顔をしかめた。

「なんだよ。別に悪いことは言っていないぜ? なぁ、サキ」

 突然話を振られたサキは、少し考え込みながら、うなずく。

「確かに、そうね。タケルくんを見ていると、時々、必死に努力している自分が虚しくなるもの。でも、あなたも越えられない壁に苦しんでいるのなら、私たちと変わらないんだって、安心するわ」

「はぁ……光栄です」

タケルは適当に相づちし、顔をそらす。ふと、イサの足下、エレベーターの隅にちょこんと観葉植物がおいてあることに気づいた。しばらく水をあげていないのか土が乾き、植物自体も元気がない。タケルの視線に気付いたイサも、同じように足下を見た。

「へぇ、こんなところに観葉植物って、なんか以外だな」

 イサの一言でラーゼたちも観葉植物に気付き、視線を送った。

「でも土がからからになってるね。合宿とかで忙しかったんだろうけど、このままだと枯れてしまうかも」

ラーゼがしみじみと言うと、タケルはカバンの中から水筒を出した。無重力空間でも飲めるストロー式のものだが、キャップの根本からひねれば、中身を開けることが出来る。中にあらかじめ入れてあった水を、タケルは植物に全て注いだ。

「いいのか? これから長い長い移動だぜ?」

 心配するイサに、タケルは笑顔でうなずく。

「シャトルの中で飲み物が出るし、最悪、宇宙ステーションの自販機で何か買うよ。俺はいくらでも自己対応できるけど、この植物は俺たちが気付かない限りこのままだ」

「なんつーか、お前らしいな」

イサが肩をすくませると、エルが「そうなの?」と首をかしげた。

「タケルって、小さな頃植物とか小動物とか大嫌いだったじゃない。こういう鉢植えとか見ると、踏みつぶして壊してた」

エルの昔話を聞いて、エレベーター内にいる全員が顔をゆがめた。

「お前……どれだけゆがんだ子供だったんだよ」

ラーゼの率直な意見に全員がうなずき、タケルはばつが悪そうに顔をしかめた。

「子供の頃の話だよ! 小さな頃は善悪の区別とかあんまりついていないだろ? だからそういう残酷なことをやっちゃうの! いまはもうしていないんだからいいじゃねぇか。エルも、昔のことをほじくり返さない!」

注意すると、エルはいたずらっぽく笑って舌をぺろりと見せた。反省の色なしと判断したタケルは、エルの額を人差し指で小突いた。

ふいに、もう片方の手にユウイが自分の手を絡めた。タケルは驚いて、彼女へ振り向く。

「どうした?」

ユウイは「いいえ、別に」と答え、タケルの腕に頬を寄せた。

相変わらず人目を気にせずいちゃつく二人を、ラーゼは口笛を吹いて冷やかす。

「いいねぇ、青春って感じ。俺も彼女ほしくなってくるよ。サキはそう思わない?」

ラーゼは意味深に笑いながら、サキへと詰め寄った。

「思わないわね。私たちは今年で卒業なのよ。恋愛にうつつを抜かしている場合じゃないわ」

サキらしいまじめな意見に、イサが「そうそう」とうなずき、馴れ馴れしく彼女に近づいてくるラーゼを押しのけた。

「ねーちゃんは優秀だから心配ないけど、あんたは難しいんじゃないの?」

「なんでだよっ、俺だって今回の合宿でミスはしていないぞ!」

「後輩からの人望がない」

びしっと指さし付きで指摘され、ラーゼはぐっと口ごもる。大慌てでタケルやユウイを見るが、二人は無言でそっぽを向いた。

「それに比べてねーちゃんは、後輩からの人望も厚いし、演習中のタケルの補佐もばっちりだったじゃん。月とすっぽんだねぇ」

「確かに、サキさんの指示は的確で、ラーゼみたいな無駄話もなくてとてもよかったよ」

「ちょっと待て、タケル! あれは無駄話じゃなくて、長い待機時間を持て余しているだろうお前たちを気遣ってだな……」

「うわ、恩着せがましぃ~」

「そういうところが人望がないって言うんだよ」

タケルとイサは「なぁ~」と顔を見合わせた。ラーゼは言い返そうとしたが、エレベーターが停止し、赤い照明がエレベーター内を照らす。重力が切り替わるのだと気づき、全員が身構えた。

『重力制御、解除します』

スピーカーからの声が聞こえ、ランプが消えて通常の照明に戻る。とくに何かが変わったという感覚はないが、いま地面を蹴れば、天井にぶつかってしまうだろう。

エレベーターの扉が開くと、既に格納庫でスタンバイするシャトルの姿があった。入り口に立つ生徒から順にエレベーターを降りていく。タケルたちも流れに沿って移動しようとしたが、それをユウイが止めた。

「タケル、バラブレトの重力には慣れていないの。だから、つかまっていてもいいかしら?」

「別に構わないよ」

タケルが手を差し出すと、彼女はその手をつかまず、ぐっと身を寄せて腕にしがみついた。積極的な彼女に、タケルは顔をしかめた。

「なぁ、こんなに近づくとむしろ動きにくくないか?」

「そう? 私はほっとするわ」

ユウイに離れるつもりはないようなので、タケルは諦めて前へと進むことにした。無重力ではなく、バラブレト独特のとても軽い重力に包まれているので、水の中を漂っているような、鈍い動きになる。腕にしがみつくユウイと共に、うまくバランスをとりながらシャトルの乗船口へと歩いた。

エレベーターからシャトルまで細い橋が架かっていて、手すりはついているが腰の位置より低く、少しバランスを崩せば下に落ちてしまいそうだ。落ちたところでゆるゆると降下するだけなので、怪我をするということはないだろうが、危なくないといえば嘘になる。

「サキ、危ないから手をつなぐ?」

ラーゼが振り向き、サキへと手を伸ばした。それを、彼女の後ろに立っていたイサが弾き、彼女を隠すように前に出る。そのとき、軽く後ろへ押しやられたサキは、弱い重力の中ゆえにバランスを崩し、さらに後ろのエルへとぶつかってしまった。ユウイはエルにぶつかったことで身体を起こすことができたが、エルは衝撃で後ろに身体を傾け、低い手すりを超えて端から落ちてしまった。

「エル!」

タケルは腕にしがみつくユウイをふりほどいて、手すりを飛び越えて格納庫の床へと降りる。手すりを蹴って勢いをつけたので、ゆっくり落ちていくエルより先に地面に着地し、頭から落ちてくる彼女をうまく受け止めた。

「た、タケル……ありがとう」

 タケルに抱きつくような形でしがみつく彼女は、申し訳なさそうに笑った。

「メカニックが重力変動にうまく対応できなくてどうするんだよ」

「あ、あはは……。いつもはヤマトに手を引いてもらってたから」

「そういや、あいつはまだ戻ってきていないんだな」

「うん。でも、こっちに向かってるって、さっき連絡があったよ。次のエレベーターに乗ってくるんじゃないかな」

「そうか。じゃ、あいつが来るまでは、俺にしがみついてろ」

エルに軽く曲げた腕を差し出し、つかまることを促す。彼女がその腕に手を回し、しっかりと腕を組んでから、タケルは辺りを見渡した。格納庫は広い箱状の部屋で、壁際には細い通路が何重にも作ってある。そのうちのひとつがエレベーターに通じており、各階ははしごで繋がっていた。

「無重力なら直接シャトルの入り口に飛んでいけるのにな」

タケルはエルを連れて、はしごへ向けてゆっくり移動しはじめた。彼の腕にしがみつくエルは、しゅんと背を丸める。

「えと……ごめんね、タケル」

「どうして謝るんだ?」

「だって……彼女がいるのに、私なんかがこうやってしがみついてたら、迷惑でしょ?」

「別に、構わないんじゃないか? 困ったときはお互い様だろ。それに、俺とエルは幼なじみだ」

タケルの言葉に、エルは「そうだけどさ……」と難しい表情を浮かべる。

「それでもやっぱり、ユウイちゃんは面白くないってきっと思ってるよ」

「そうか? 俺はあいつがこんな事ぐらいでヤキモチを妬くようには思えない」

「こ、こんな事ぐらいじゃないよっ」

声を強めるエルへ、タケルは振り返る。

「こんな事だろ。だって、俺とエルはただの幼なじみだ」

当然とばかりにさらりというと、エルは目を見開いて凍り付き、その後、視線を落とした。

「……そっか。そうだね」

少し寂しげに笑ってうなずくと、タケルの腕から手を離して、やっと辿り着いたはしごにしがみついた。

「私が先に登るけど、上を見ちゃだめだからね!」

「スカートでもないくせに、なに言ってんだよ。つーか、お前のパンツなんかガキのところさんざん見びゃ……」

 タケルの顔に、エルのかかとがめり込む。

「上を見ちゃだめっていってるでしょ!」

「……はいはい」

タケルは蹴られた部分を手でさすってから、はしごを登りはじめる。エルはスカートではないが短パンをはいている。間違っても上を見ることはしなかった。


無事タケルとエルもシャトルに乗り込み、席に着く。無事に戻ってきた二人へ、イサとサキが何度も謝り、ラーゼはラーゼで、この機会を逃さないとばかりに正論でイサとサキを叱った。

「恋人である私を放ってエルちゃんを助けるだなんて、ちょっと妬けちゃうわ」

隣の席に座ったタケルへ、窓の外を見つめたままのユウイが、二人だけに聞こえる声で責める。タケルは意外そうにユウイを見たものの、謝ることもなく、さらりと言った。

「ヤキモチを妬くほど愛されていたなんて、知らなかったよ」

ユウイはタケルへと振り返り、不愉快そうに彼をにらんだ。

「……そうね、気の迷いだわ」

「安心した」

ユウイはひくりと眉をひそめ、無言で窓へと顔を向けた。

そんな二人の様子を、通路を挟んだ隣の席から見ていたイサは、タケルへと声をかける。

「なんだよ喧嘩か?」

「いや、別に。いつもの痴話喧嘩」

「ふーん……おっ、ヤマトが来たみたいだぞ」

イサが指をさしたので、タケルは振り返り、ユウイがのぞく窓の向こうへと視線をやる。開いたエレベーターから、ヤマトが降りてきた。

「俺たちは十数人でぎゅうぎゅう詰めだったってのに、あいつは優雅にひとり乗りかよ」

エレベーターの中に他に誰も乗っていないのを見て、イサはぼやく。タケルも「みたいだな」と笑った。

エレベーターから降りたヤマトは、シャトルの窓から自分へと手を振るエルに気付き、優しい笑顔で手を振った。

「あなたと違って、ヤマトくんは恋人に優しいのね」

 ユウイの嫌味に、タケルは小さくため息をついた。

「あの二人は付き合ってないって聞いたけど?」

「そういう意味じゃないわ。それとも、あなたたち二人は、お姫様に従順ということかしら?」

「……俺は、ユウイにも十分優しく触れているつもりだけど?」

タケルはそう言って、ユウイの鎖骨の辺りに手を触れる。一昨日の夜、キスマークをつけた場所だ。勢いよく振り返ったユウイは、口をきゅっとすぼめて不機嫌な顔を作りながら、しかし、目は明らかに喜んでいた。

「帰ったら、憶えてなさい」

ぷいっとまた顔をそらしながら、さりげなく、彼女はタケルの手を握りしめた。

二人がそんなやりとりをしている間にも、ヤマトがシャトルに乗り込んでくる。タケルのふたつ前の席に座るエルが大きく手を振り、彼を呼んだ。ヤマトは穏やかな様子でエルと話し、彼女の隣の席に座る。いつもと様子の変わらないヤマトを見て、タケルは密かに胸をなで下ろした。

だが、このときタケルは気付かなかった。エレベーターの中に設置してある鉢植えが、無残に踏みつぶされ、粉々に壊されていたことなど。


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