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ROUTE  作者: 真紘
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本日連続更新、四話目。

誤字脱字ありましたらご一報くださいませ。

『タケル! 頼む、返事をしてくれ! レイダーがおかしくなってるんだ、早く脱出しないと、お前もヤマトもやばい!』


 イサの必死の言葉を聞いて、頭を抱えたままのタケルは、うっすらと目を開いて後ろを振り返る。

 自分と同じように、黄色の光に包まれたヤマトのレイダーがあった。


「ヤ……マト」

『ねぇヤマト。俺はタケルが大嫌いなんだ。あいつがいなければ、俺はもっと早くヤマトに会えたんだよ。だからさ、邪魔者は消すね』

「やめ、ろ……」

『だめだよ。もう決めたもの。タケルはいらない』


 ヤマトの乗るレイダーを包んでいた光が消え、機能を停止した彼のレイダーは、重力に引かれてゆるゆると落下していく。

 いくら重力が少ないとはいえ、このまま墜ちればまず助からないだろう。

 タケルは助けようと、操縦桿へと手を伸ばす。


『ムダだよ、ヤマト。このレイダーは俺の手の内だ。逃げられない。これから君は、俺のところまで運んでいく。おとなしくしてて』

「う……ああぁっ!」


 耳鳴りと頭痛がさらにひどくなり、タケルは操縦桿を握ることができない。

 次第に、気が遠くなってきた。


『これからはずっと一緒。もう俺は、ひとりじゃないんだ。たくさんたくさん、遊ぼうね、ヤマト』


 頭を押さえていた手がだらりと落ちる。

 黒く塗りつぶされる意識の中で、あの声だけが響き続ける。


『おいで、ヤマト。やっと君を見つけたんだ』


 何度も何度も、ヤマトと呼ぶ。


 本当の名前で、八年前まで呼ばれ続けていた名前で――



『私の声が聞こえるのね。あなたのお名前は?』



 暗闇の中、彼女の声が聞こえる。

 とても寂しそうな、それでいて、どうしようもなく優しい存在。


 タケルは彼女の声が聞こえたから、だから、その手に触れた。


『ヤマト……あなたまでこんな事……あいつのせいであの人は離れていったのよ! それなのに、どうしてあいつに触れてしまったの!』


 母は泣きじゃくってタケルを抱きしめる。

 母が暴力をふるうことはなかったが、お前のせいだと嘆き続けていた。


『ヤマトは私が連れて行く』


 父が引き取ると言い出したのも、全ては、彼女の声が聞こえたからだ。

 子を思う情からではないと、タケルもヤマトも分かっている。


 だから――



『おれが、ヤマトになる。兄ちゃんは、タケルになって』



 タケルははっと意識を取り戻す。

 相変わらずひどい耳鳴りと頭痛がする中、『ヤマト』と無邪気に呼ぶ声が響く。


「僕は……もう、ヤマトじゃないっ……俺は、タケルだ!!」


 身体にまとわりつく気配を振り払うように叫び、操縦桿を握りしめる。

 レイダーを包んでいた光ははじけ飛び、低下していたエンジン出力も全て回復した。

 タケルはスロットルを上げて機体を安定させると、そのまま急降下する。

 その視線の先にあるのは、頭から落下するヤマトのレイダー。


『タケル、大丈夫かっ?』

「大丈夫だ。ヤマトのレイダーはどうなってる?」

『さっきまでのお前と一緒。操作不能になってる。応答もない』


 徐々に近づくヤマトのレイダーを目を懲らして確認する。ヤマトは未だ、気を失っていた。


「……くそっ! こうなったら、やるしかない」

『やるってなにを!?』

「レイダーの墜落を防ぐんだよ! それ以外にあるか!」

『墜落を防ぐって……お前、どうするんだよ!』

「いいからお前らは救助を呼んでこい! 正直、自信なんてないぞ。一か八かだ」

『お、おいおいおいっ、お前変なこと考えてるだろ! いいからお前だけでも着陸して……』

「ふざけた事言うな! ヤマトは俺の片割れなんだよ! こんな事で、失ってたまるか!」

『でも、タケル……』

「邪魔だ! 通信を切る!」


 タケルは通信回路のスイッチを切った。頭に響く声ももう聞こえない。

 無音の世界の中で、タケルは地面へ急降下しながら徐々にヤマトのレイダーへと追いついていく。

 地面へ向けて頭から墜ちるヤマトのレイダーの腹部に、平行するようにタケルは回り込んだ。


「うまくいってくれよ……」


 ヤマトのレイダーと速度を同じにすると、スラスターを使って距離を詰め、自分のレイダーのキャノピーと、ヤマトのレイダーの胴体を接触させた。

 慎重に操縦桿を引き、機体を水平状態に持っていく。

 タケルのレイダーに押し上げられて、ヤマトのレイダーも水平状態になっていく。

 タケルはヤマトのレイダーを自分のレイダーの胴体と翼の連結部部に載せ、レイダーを抱えるという形で飛び始めた。

 少しでも押し上げる力が強ければヤマトのレイダーは飛んでいってしまうだろうし、高度を下げて着陸するにも、降下角度をうまく合わせなければ、ヤマトのレイダーがまた離れていってしまう。

 バラブレトの重力と限りなく同じ速度で、タケルは地面へと降下しなくてはならない。


 タケルはモニターの高度計を確認し、着陸用の車輪をスタンバイさせる。

 水平状態に保たなければならないのに、ヤマトのレイダーが乗っかっているために重心がずれてバランスがとりづらい。

 タケルは操縦桿とフットペダルで微妙なバランスをとりながら、地面へと近づいていく。

 モニターで高度を確認しながらスロットルを操作し、機首を上げる。主輪がまず地面を捉え、タケルの全身に地面の感触が伝わった。前輪も無事着地すると、エンジンの推力を逆流させるスラスト・リバーサーを作動させて減速し、十分減速したところで、ブレーキをかけた。


 機体が完全に停止すると、ヤマトのレイダーが滑り落ちた。

 片方の翼が地面に突き刺さり、もう一方の翼をタケルの機体に引っかけるというとても不安定な状態で止まる。

 どこからも煙は出ていないが、万が一という事もあるので、タケルはすぐに脱出することにした。

 キャノピーを開き、コックピットから出てヤマトの様子を確認する。彼は相変わらず気を失っていて、キャノピーを叩いて呼びかけても返事はない。

 仕方なく、一旦自分のコックピットに戻ると、そこからコードを引っ張りだして、胴体にある接続部分に挿した。

 自分のコックピットからキャノピーを開く指示を出し、ヤマトのキャノピーを開くと、気を失ったままのヤマトを肩に担いでその場から離脱した。


 重なった二機のレイダーと充分な距離をとると、タケルはヤマトをその場に寝かせた。

 見る分には怪我はしていないようだが、もしかしたら、骨が折れているということがあるかもしれない。

 動かしてはだめだろうと、タケルは呼びかけることもやめてその場に座り込んだ。

 救助が来るまで、そんなに時間はかからないはずだ。

 ヘルメットの中で反響する自分の呼吸を聞きながら、星を見上げる。他の施設が遠いせいで、いつも以上に星の数が多いように感じ、ほんの少し、得したような気分になった。


「さっきまであんなに緊迫していたのに、難が過ぎると、以外とのんきになるものなんだな」


 つぶやき、もう一度二機のレイダーを見る。

 そのとき、二機のレイダーよりずっとずっと奥、遠い遠い地平線の上を漂う、一隻の戦艦を見つけた。

 遠くからでもはっきり分かる、黄色の船体は、今朝と同じ戦艦だろう。


『ヤマトは、俺を拒絶したの?』


 頭の中に声が響く。

 胸が苦しくなるような、とても寂しげな声が、


「……あぁ。俺はもう、タケルだよ」


 タケルの答えに、返事はない。

 遠くに見える戦艦は静かに方向を変えて、地平線の向こうへ消えていく。


「一緒にいられなくて、ごめんな」


 その後ろ姿に、タケルは小さく謝った。






 その後、救助に駆けつけた隊員たちによって、タケルとヤマト、そして二人が乗っていたレイダーは収容された。

 施設に戻ってからもヤマトの意識は戻らなかったが、タケルと一緒に検査をした結果、二人ともとくに異常は見つからず、しばらく休めば目を覚ますだろうという事だった。


「で、結局何かあったんだ?」


 検査から自由になったタケルへ、合流したイサが早速事情を聞いてくる。

 結局、今回の事故でレイダーコースの演習は終了。

 精神的ショックを考慮し、それぞれ部屋で休むようにとお達しがあった。


「よく分からないんだよ。突然ひどい頭痛と耳鳴りがしてさ。一瞬気を失いかけたんだけど、ぎりぎりのところで、何とか戻ってこれた」


 二人はリラクゼーションフロアのソファに腰掛け、ジュースを飲みながら話していた。

 今朝爆発したジューサーは片付けられ、いまは新しいジューサーが置いてある。


「レイダーが操作不能になったことに関して、何か説明は?」


 イサの質問にうなずいて、タケルはジュースを一口飲む。


「今朝、軍の新艦がテスト飛行していたの、憶えてるか?」

「あの、黄色の派手な奴?」


 イサらしい憶え方だったので、思わずタケルは笑ってしまった。


「その戦艦には、特殊な装置がついていてさ、ブリッジから遠くを飛ぶレイダーに指示を送れるらしいんだよ。その装置が暴走したらしいんだ」

「オペレーターが補助するとかじゃなくて、無人機としてレイダーを動かせるってこと?」


「そういうことらしい」とうなずくと、イサは「俺たちの仕事がなくなる」と顔をしかめた。


「まだまだ研究段階らしいけど、最終的には戦艦のありとあらゆる機能を掌握できるようにするみたい」

「連邦軍も、人件費を削減しようと必死ってことか? 俺たちの就職口がなくなっちまうぜ」


 冗談交じりに嘆くイサを、タケルは笑った。


「それにしても、よくそこまで詳しく教えてもらえたな。ふつう、機密事項なんじゃないの?」


 当然の問いに、タケルは苦々しい表情で肩をすくませた。


「実はさ……その研究をしている研究所の最高責任者が、俺の父さんなんだよね」

「……ぇぇええええっ!!?」


 あまりに大げさに驚くので、タケルは「そこまで驚くか?」と聞いてしまった。

 イサは「驚くよ!」と、身を乗り出す。


「父親の話を聞いたのはこれが初めてなんだ。いきなりすぎるだろ」


 ごもっともな意見だったので、タケルは苦笑するしかなかった。

 タケルとしても、なるべく話したくないことではある。

 けれど、イサになら話してもいい。そう思ったのだ。


「向こうとしては、どうして俺たちのレイダーに影響が出たのか、俺たち自身を調べたいみたいだったんだけど、何とか逃げた」

「何とかって、どうやって? だってここ、軍の施設だぞ?」

「うん……集会で表彰されるから、合宿を抜けることはできないって……」


 タケルの答えに、イサは「表彰?」と首をかしげる。

 しばらくそのまま固まっていたが、はっと、あることに気づいてタケルを指さした。


「……って、もしかして、最優秀生徒賞っ!?」


 タケルは苦笑いしながらうなずいた。


「まっじかよ! だって、最優秀生徒賞って、この三日間で一番優秀だった生徒に贈られる賞だろ? それが、どうしてもうお前に内定してんだよ!」

「ヤマトを助けただろ? 人命救助以上に優秀な働きはないって、決定したみたいなんだ」

「お前が……最優秀生徒賞……お前が……」


 よっぽどショックだったのか、イサはタケルを呆然と指さしたままぼそぼそと話している。

 さすがにタケルも心配になって、視線の先で手を振りながら声をかけると、「ぶふっ」と噴き出した。


「お前が……あはははははっ、最優しゅ……ぐ、ははははははは! ちょーおもしれー!」


 イサは腹を抱えて大笑いし、ソファの背もたれに顔を埋めて何度もソファを殴った。

 あまりにひどい反応だが、タケル自身、笑い話にしか思えない。


 いままでタケルは成績首位の座を明け渡したことはない。自衛隊の合宿でも、優秀な成績を残している。

 だが、それ以上に素行が悪いので、結局すべて帳消しにされ、表彰されるということはなかった。

 そんな彼が、連邦軍の合宿で表彰されるだなんて、へたな冗談だと思う。


「おまっ……よく受けたな。生徒たちの前で表彰されるなんて」


 笑いはまだ止まっていないが、にじむ涙をぬぐいつつ、イサは顔を上げて言った。


「俺だって断りたかったさ。でも、断ったら父さんの研究所に連れて行かれるから……それは絶対、いやだったんだ」


 タケルは長い長いため息をついて、うつむく。


「父さんには、会いたくない」


 とても暗い声で、タケルはつぶやいた。

 それを見たイサは、笑うことをやめ、タケルの肩をぽんと叩く。


「まぁ、なんにしてもさ。とりあえずおめでとう」


 タケルは顔を上げる。いつもと同じように朗らかに笑うイサを見て、一緒に笑顔になる。


「ありがと」


 素直に、喜ぶことができた。






 長い眠りからヤマトが目を覚ますと、そこは今朝エルを迎えに行った医務室ではなく、独房のような狭い部屋の中だった。

 ベッドのすぐ隣の椅子に見知らぬ白衣の男が座っていて、ヤマトが目を覚ましたと分かるなり、今回の事故の原因と、ここが父――ハヤセの研究施設であること、そして、彼の研究にまた協力しなければならないことを告げた。


「今朝あなた方の滞在する施設のそばを通ったのですが、何か感じませんでしたか?」

「……頭痛がしました」

「それだけですか? 何か、リヒトの方からあなたにコンタクトをとるということは?」

「ありません」


 男はヤマトにいくつか質問したあと、彼を部屋から連れ出した。

 部屋を出た瞬間、ヤマトはここがどこか確信した。

 一部鉄筋がむき出した、暖かみのない無機質で狭い廊下。

 ここは、戦艦の中だ。そして、ここまでの会話から考えるに、『リヒト』を乗せた新型戦艦なのだろう。


 迷路のように入り組んだ、細い管のような廊下を歩き続け、ヤマトはある部屋に通される。

 照明のついていない真っ暗な部屋の中で、中央にひとつの明かりが揺らいでいる。

 その光は巨大なガラスの筒の中に閉じ込められていて、筒の上下はたくさんの管で塞いであり、直接船に繋がっていた。

 ホルマリン漬けの標本のようだが、その光に実体はないし、大きく瞬いている様子から、いまも活動を続けていることは確かだった。


「入りなさい」


 男はヤマトの背中を押して入室させると、自分は部屋の外に出て、扉を閉めてしまった。

 扉が閉まり、廊下の光さえ消えてなくなると、ヤマトはあることに気付いた。

 ガラスの光の瞬きに合わせ、床や壁に光の波が拡がっては消えていた。


『ヤマト』


 天井から、ハヤセの低く神経質な声が響いてくる。


『リヒトと交信してみなさい。補助装置は、リヒトの足下に置いてある』


 リヒトと呼ばれたガラスの中の光が、彼を包む装置のそばに転がるヘルメットを照らしていた。

 ヘルメットにはたくさんのアンテナや管が生え、リヒトを包む装置と繋がっている。

 これはハヤセがリヒトを作り出したとき、彼と意思疎通をするために開発した装置だ。これを介すれば、誰でもリヒトに命令を下すことができる。

 だが、それは結局一方的なもので、リヒトからの意思表示を受け取ることはできない。


 リヒトとは、人間が作ったプログラム人格などではなく、正真正銘の、エネルギー生命体だ。

 この光は意思を持ってヤマトたち人間に語りかけ、行動する。

 そのひとつが、今回ヤマトたちを襲ったあの事故だ。


『お前がそばにいると知ったリヒトが、勝手にお前のレイダーへ干渉した。お前は唯一ルーチェと交信ができたからな、リヒトもお前の存在を気にしているのだろう。交信してみなさい』

「……はい」


 ヤマトは管だらけのヘルメットを被る。

 深呼吸をして自分を落ち着けてから目を閉じ、ただ、リヒトに語りかけることだけに集中する。

 リヒトと会話をするのに、声を出す必要は無い。この装置は頭の中で思い浮かべた言葉を、電気信号にしてリヒトへ伝えるものなのだから。


 ヤマトは、リヒトへ向け挨拶をした。

 久しぶり、と。

 何年ぶりだろうか、と。

 

 けれど結局、返事はないのだ。

 こんな事があったとか、思いつく限り語りかけてみても、リヒトから返事が来ることはない。

 そうして、ハヤセが諦めのため息をこぼし、全ては終了する。



 はずだった。



『……違う…』


 ふいに、頭の奥深くで、聞いたことのない声が響いた。


「え?」


 ヤマトは思わず声をもらして、目を開ける。

 ガラスの中のリヒトが、強い光を発した。


『違うっ、違う! お前じゃない! お前はヤマトじゃない!』


 光はすぐそばに座り込むヤマトを照らし、そしてヤマトは、全身になにかねっとりとしたものがまとわりつくような不思議な感覚に包まれた。


『お前なんかいらない! お前のせいでヤマトはいなくなった。お前なんか、いなくなればいい。消えろ!』

「あ……あああああああっ!!」


 ヤマトは激しい頭痛と耳鳴りに襲われ、ヘルメットを被っていることができずに脱いだ。

 それでも頭痛や耳鳴りは治まらず。それだけでなく、何かが全身を包むようないやな感覚もずっと続いていた。

 なにも見えないのに、何か大きな手のようなものが、ヤマトを握りつぶそうとしているような、そんな息苦しさが全身を襲って、ヤマトはその場に倒れ、もだえ苦しんだ。


 外で様子を見ていた研究員が部屋に入ってきて、動けなくなったヤマトを肩に担いで外に出る。

 部屋の扉が閉まるとき、ヤマトはかすむ視界の中で、ひときわ強く瞬くリヒトを見た。


 そして、聞いた。


『お前は、いらない』


 頭の中に直接響く、リヒトの、強い拒絶を。




 無事保護されたヤマトは、廊下に出たとたんに嘔吐した。

 助け出してくれた男がヤマトの背中をさすってくれていたが、その手が止まる。

 そして、うつむくヤマトの視界に、誰かの靴が映り、苦しいのを必死に我慢して顔を上げた。


 目の前に立っていたのは、父、ハヤセだった。

 何年ぶりかに会ったハヤセは、なんの関心も感じられない無感情な目で、ヤマトを見下ろしていた。


「やはりお前は、リヒトとまともに交信すらできん役立たずなのだな。ミコトにくれてやればよかった」


 それだけ言い捨て、ハヤセはきびすを返して去っていく。


「タケルはどうしたのだ? 一応、あいつのデータもとりたかったのだが……」

「タケル様は表彰があるとかで……合宿を抜けることはできないそうです」

「……そうか」


 ハヤセは助手の男とタケルについて話している。

 その後ろ姿を見つめながら、取り残されたヤマトは拳を握りしめた。


「どうして……あいつばっかり選ばれるんだっ」


 背中をさすっている男にも聞こえない、小さな小さな声で、ヤマトはつぶやいた。


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