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第八話 見下す者達

スヒアを覆う天球は透明度が高く、外部からでも中に造りこまれた美しい街並みを見ることが出来る。だがそれは巨大な島の一部でしかない、上半分を市街地に充てた分、下半分は一般人立ち入り禁止の区画が並ぶ要塞である。

その中枢司令室に玉座を思わせる構造の一角があった。その椅子に座るのは常にニュース等で採り上げられ、今や世界にその名を知らぬ者はいないとまで称された天才 《ニルヴァーラ・クルストイン》

側近の女性がニルヴァーラに話しかける。

「UNFの大艦隊が上空より接近しているとの報告が入りました。如何致しましょう?」

「ほう、いいさ、反撃の準備だけ整えておけばね、どのくらいの部隊だい?」

「はい、UNF旗艦バリシンスハイトを中心に大型空母、揚陸艦、巡洋艦、駆逐艦が後方に構え、百機近いPAF部隊の先頭に正体不明機が一機、さらにその左にユニオンが派遣したと思われる新型機動戦艦の姿もあります。ですがこれは戦力外でしょう」

最後に付け足された側近の言葉に、ニルヴァーラは笑みを含んで、答えた。

「・・・戦力外か・・・どうかな?・・・彼らの狙いは我々の離陸阻止、つまりスヒアの奪還だ、それともし情報が漏れていればメサイアシリーズの接収も目的の内に入っているだろう、どちらも受け入れるわけにはいかない、各部署に迎撃準備を急がせろ」

「承知いたしました・・・その、どこまでご存知なのですか?」

「うん?」

肘掛に置いた腕で頬杖をつき、側近を見上げた。

「いえ、UNFや新国連上層部、アルクス、どこまでご存知なのかと・・・」

司令室中央の空間に投影された立体地図を操作していたオペレーターもそれに続いて問う。

「あなたを信用しないわけではない、だが我々構成メンバーの幹部にすら説明が成されていない項目が多々ある。それを明確にしていただきたい、さもなければ今後の士気にも関わるでしょう・・・」

「・・・ふむ、君達には話しておいたほうがいいかもしれないな」

ニルヴァーラはそれから数秒顔を俯いて目を閉じ、ゆっくりと元の姿勢に戻って間を置き、語り出した。

「トレイムという私の友人がいた、彼は実に優秀な学者だったよ、あるとき人類進化の種子を作り出そうという計画を発足し、そのために必要なメサイアを建造した、だが研究が進むにつれてプログラムだけではなく人の心による制御が必要だと判断されてな、何名か生まれた子供をそのコアにしようと試みた。もしメサイアが完全覚醒状態にならなかった場合に備えて後から建造したのが、君達も乗船時に見たであろう、予備コンテナの代物二つだ。

そして今まで存在すら怪しかった集団、アルクス、その活動目的は一切不明の団体だが、その会員は世界中に数百万人とも言われ、彼らの発祥は中世ヨーロッパに存在した教会の騎士団だという情報がある。シンボルマークは石橋のアーチと弓。なるほど、アルクスは弓を意味する言葉か・・・読み方によってはアーチにもなる、なかなか洒落ているね。そして人類の歴史を影から操ってきたというのもまた事実。先の合衆国大統領も会員だったかな。

そのアルクスと新国連幹部の数名はおそらく接触しているだろう、我々の中に潜んでいるアルクスの会員が情報を漏らし、それと繋がった委員が情報を受け取っているはずだ。

アルクスの目的は世界を支配すること、だとすれば戦争を仕掛けることになる。新国連を敵に回してね。情報を売ってUNFから兵器を譲り受けていると考えるのが妥当だ。先日大西洋で起こったPAF輸送中の事故も故意だろう、新国連側はPAFを全て失ったと主張したがあれは嘘、全てアルクスが回収しているよ。

対する新国連の委員会側の人間もANBC兵器を保有し、食糧問題、領土問題などを抱える韓華に頭を悩ませている。アルクスに襲撃を行ってもらおうとでも思っているのさ。一気に国力を低下させろとな。そうすれば平和よりも軍需産業で儲けが出る。

対するアルクスは利用されるだけではすまない、準備が整い次第、世界の中心といっても過言ではない、オクスゾンを襲撃し、そこに帝国を築こうと画策。

コア・ナンバー01はメサイアシリーズが完成するまでは近くにいさせないと完成しないため、地下基地に幽閉または監禁しておけというアルクスの情報で、一部幹部はその作戦に合意、我々に新型を作らせ、自分達が奪おうとしている。

こんなとこだろう、あと数時間も経たないうちにここも、下も戦場になる。そして誰にも利益が出ない戦いが始まる・・・」

司令室は静まり返った。そこでニルヴァーラは全員に聞こえるように続ける。

「今のは私の勝手な推測、独り言だと思ってくれて構わんよ、ただ今有る情報をできるだけ自然にまとめただけさ」

その言葉を聞いて、ひとり、またひとりと各員が持ち場に戻っていく。脱帽している者もいれば笑みを浮かべる者もいた。そのとき島全体が強い衝撃に襲われる。

「こ、これは!?ユニオンと思われる機動戦艦からの砲撃です!!下部メインフロートユニットに直撃!!飛行機能の35%を消失しました!!」

「落ち着け、即座に迎撃を開始しろ、防衛システムを最大稼動状態に、フェルロ・ブローン隊を緊急発進、フェルロ・セランとフェルロ・キュイブルの部隊は後方で待機し、二次攻撃に備えろ

、全てのサブフロートユニットを起動させ、離陸準備に入れ」

ニルヴァーラの冷静な指示が通り、人が慌ただしく動き出す。この島に集められた人間は皆彼から類稀な才能を認められてスカウトされた者ばかり、その才覚を持ち併せた剛の者達を圧倒的なカリスマ性で束ね上げるこの男の辞書に屈服や敗北といった類の言葉は記されていない。

「なっ!?緊急事態発生!!先程の砲撃で損傷したメインフロートユニットから誘爆、XA-メサイアが格納庫ごと落下しました!!」

「・・・慌てるな、問題は無い、あの機体は通常兵器での破壊は不可能だ、そして動かせる人間もいない・・・」

流石の大天才も一瞬慌てるような素振りを見せ、その場にいた人間と自分に言い聞かせるように言葉を吐き捨てた。


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